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因縁があるは、私だけでなかったのね。

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「ジョージア様がいる前でなんですけど、うちも第二夫人としてダドリー男爵から
 送りこまれてきた子がいましたの!
 丁重におかえり願いましたけどね!!
 旦那様を締め上げて差し上げたら、可愛い女の子だというじゃないですか?
 年を考えなさい!とその場で叱り飛ばして差し上げましたわ!」


 私は、思う。
 こんなに妖艶かつ見るものを虜にしてしまうような美貌の持ち主であるカレンを娶ってもなお、違う人を求めたのかと……男の人って不思議ねと隣に座るジョージアを盗み見る。
 視線を感じたからだろうか、この場の女性陣にいたたまれなかったからなのか、こちらを見て苦笑いをしている。


「それで、その後はどうなったの?」
「アンナリーゼ様、聞いてくださいよ!
 その後も何回か、別の女の子が第二夫人の座を狙ってくるわけよ!
 どうなってるの!ってさすがに思って調べたら……ダドリー男爵って女系家系なのね」
「女系家系?」



 私は、意図することがわからず考えたが、答えはすぐ横からもたらされる。



「ダドリー男爵の子は、女性が多いのです。
 男爵家に男児として生まれたのは、前の奥様の子である嫡男と私が生んだレオだけです。
 他は……私が知る限り女の子ばかりが生まれています」
「前の奥様って……?」



 私は、ローズディアの情報は、意外と疎かったりする。
 今現在、勉強中なのだが、いかんせんジョージア様が情報収集能力の乏しいので独自で調べているところだ。
 なので、なかなか集まらない情報も多かったりする。



「確か、庶民の方でしたわね?
 商人か何かの娘で、男爵はとても愛情を注いでいたと噂はありましたわね!
 その方が亡くなってから、あっちこっちと女性との浮名が出ていたと記憶してますわ!」
「カレン様のいうことは、本当です。
 私が、男爵家に入った頃は、旦那様も穏やかでとても奥様を慈しんでいました。
 子ども心に、あんなふうに愛されれば、幸せだろうと思っていたのも確かです。
 ソフィア様が生まれしばらくしてから、奥様は亡くなったのです」


 内部事情は、噂話で流れることはあれど、ここまではっきりしたものは耳元に届くことはない。
 リアンの情報は、かなり重宝されるのではないだろうか?


「それから、他の男爵家より今の奥様がいらっしゃいました。
 男爵位からの輿入れだったので、そのままお二人を今の奥様の子どもとしています。
 ソフィア様の母親は、継母なのです」
「ジョージア様は、ご存じでしたか?」
「いや、そんな話は聞いたことがなかった……
 父上は、もしかしたら、知っていたのかもしれないな?」


 私は、頷くと続きをリアンに促す。


「今、夫人と呼ばれるのは、私を含めて三人いますが、外には7人程囲ってらっしゃる
 方々がいらっしゃいます。
 商家の娘であったり、農家の娘であったり……
 買い物のときに何度かお見かけしましたが、とても美しい人でした」
「10人も関係があるってこと……?
 私もそこまでは、調べられませんでしたけど……」
「いえ、たぶん9人だと思います。
 奥様だけには、社交で必要なとき以外、指一本触れたことがないと、男爵家では
 有名な話でした」
「それは、何故ですの?」


 ナタリーは単純な興味で聞いたのだろう。
 私も興味が引かれたので、先に聞いてくれたナタリーに感謝だ。


「これは、あくまで男爵家の中での話で、私も幼かったので詳しくは知りませんが、
 奥様が、前の奥様を殺したのではないかと言われています」
「よくある話ね。
 身分の低いものは、踏みつけてでもって話。
 夫人の出所は、たしか……オレジナ男爵かしら?
 それなら、そういう育ち方をしても、仕方がないわね」
「オレジア男爵って……?私、聞いたことがないわ!」


 聞きなじみのない男爵家に私は首をかしげる。
 ジョージアもナタリーもリアンも訳知り顔になった。
 知らない私にカレンが教えてくれる。


「オレジア男爵家は、今は没落した男爵家です。
 何をしたか……毒をもって当時公世子妃だった今の公妃を亡き者にしようとしたのです。
 確か、公世子だった当時の公に嫁いでらっしゃった方がいらして、嫉妬のあまりって
 話ですけど、その方に男の子が生まれるとかなんとかで同時期に妊娠されていた公妃が
 邪魔だったようですよ。
 男の子が生まれれば、後の公世子となることも可能ですからね!
 公妃と公妃から生まれてくる子の命を狙ったということで、取り潰しになりました。
 確か、毒に関することは、この国1だったと記憶していますわ!」
「毒に関すること……?」
「えぇ、当時もインゼロとの小競り合いがありましたから、そういうときに役にたつ
 のです」
「うん、私も嗜み程度に剣を振っているからわかるけど……毒ね。
 どんな毒を使ったの?」
「さすがにそこまでは、わかりませんわ。
 でも、その毒はオレジア男爵が考えたと言われていますわね。
 まだ、試作段階だったのか、異臭に気づいた公妃様が気付いたようで大事になら
 なかったと当時噂にあったのを覚えています」


 私は、考える。
 毒のスペシャリストが、ダドリー男爵夫人の出所だとしたら……ソフィアが毒を扱えるのは、然程不自然ではない。
 寧ろ、理にかなっている。
 一般的な毒は、多少なり味が変わったり臭いが鼻につく場合もあるが、私が最初に煽ったものは……無味無臭で遅効性の毒であった。
 気付くのが遅くなればなるほど、毒に対処できず死ぬ確率が上がる。
 幸い、私にも毒のスペシャリストがついていたことで事なきを得ているが……
 今までの毒に関するものを思えば、何かソフィアとオレジア男爵とが繋がった気がする。
 ただ、ソフィアは、私より残念な頭だ。
 どれだけ訓練したとしても……知識を詰め込むことはできないだろう。
 それすら、計算のうちであればたいしたものだが、私の見込みに間違いはないだろう。
 寧ろ、あの甘ったるい香水に毒を仕込んでおけば、臭いで死ねるのではないか……なんてふざけたことも考え始める。
 実際に、香などの匂いに毒を含ませることもあることはあるので……気を付けておくべきだ。


「それで、単純に興味なんだけど……
 ダドリー男爵って、一体何人子供がいるのかしら?」


 私の質問に、笑顔でみんな固まっている。
 気になるところだ……あちこちに娘を送りつけているのだから。


「えっと……私が把握しているのは……私の子を入れて18人です」
「18人……?……単純に9人の女の人を囲っているとして……」
「いえ、たぶん、他にも私の知らない女性はいらっしゃいますよ。
 嫡男が現在28歳ですから……3人目の子どもも確か……アンナリーゼ様くらいだと
 記憶しております」
「第二夫人の子どもは、まだ10歳くらいよね?
 リアンの子どももレオが5歳くらいでしょ?」


 私達は、空笑いとため息を思い思いにつく。


「カレンの旦那様のところに来た子は?」
「3番目から順番に来ましたよ!
 多分、他所の公爵家や侯爵家、伯爵家などの上位のところには送りこんでるん
 じゃないですかね?
 うまくしたなぁーっていうのは、公世子様の第三妃ですけどね!」
「あぁ、髪の色も目の色も黒くない子だよね!
 公世子様がこの前、レオとミアを見て驚いてた。
 カレン、一つ聞いていいかしら?」
「なんです?私に答えられることなら……」
「ダドリー男爵って、何を目指しているの?」


 実のところ、私達は、ダドリー男爵の行きつきたい場所というものを知らなかった。
 知らなくてもいいと言えばいいのだけど……手広く娘をあちこちに送っている手前、何かあるのか気になった。


「ジョージア様は知っていて?」


 ジョージアはもちろん知らないだろう。
 情報収集はあまりしないから……でも、一応、尋ねることにするが、予想道理、首を横に振るだけである。


「摂政じゃないですか?」
「摂政?って……かなり壮大な話になるわよ?
 第三妃が男の子を生むところから始まるのよ?
 公世子様もまだ若いし、まだ、公にもなっていない。
 それに第一妃にも第二妃にも男の子がいるわ!」
「それほどに、野心に溢れているってことじゃないですかね?
 ダドリー男爵家って、他と違って、割と長生きだから、夢見ることで叶うはずです」
「戦争を起こせば……公家を一網打尽にできる。
 第三妃が生んだ子供だけ守れば……摂政は50代そこそこで可能になるわね」
「アンナ!滅多なことは言うもんじゃない!」
「可能性の話です」
「それなら、よけい、潰す必要がありますわね!」


 目の前の女性陣が恍惚とした表情の上に嬉々としているのは、何故なんだろう……
 隣のジョージアは、震えているというのに。


「1つアンナリーゼ様に言うのを忘れていましたわ!」
「何かしら?」
「ダドリー男爵が上位貴族と縁組を狙っているのは、資金を集めるためらしいです。
 私は、いち早くそれを知ることができたので、旦那様を締め上げたのですけどね。
 領民のことを考えなさい!と」
「それをもっと早く知れていれば、よかったわね?
 ねぇ?ジョージア様!」
「あ……あぁ……そうだな、アンナさん」


 ニコッと笑うと、逃げ腰になるジョージアのズボンをギュっと握る。


「もしかして……?」
「その、もしかしてよ!
 最近まで知らなかったのだけど、領地のお金を丸々持ってかれていたわ……
 今度の第三妃擁立のお金になっているのよ!」
「因縁があるのは、私だけでなかったのね」


 カレンの一言は、私とジョージアに重くのしかかるのであった。
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