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急なお茶会

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 私は、ナタリーに連絡をしたら次の日には来てくれた。
 そして、何故か、にこやかに微笑むカレンがいるので驚いている。


「カレンは、何故……?」
「今日、たまたまお茶の約束していたのです。
 内容を確認したところ、相談して一緒に来ていただいたのですけど……」


 ナタリーの説明に私は、どうしたものかと悩んだ。
 でも、ウィルがいうに、カレンとダドリー男爵家とは何か因縁があるのだということだ。
 これは、何か、私にもいい話になるのではないかと踏んで、同席を許可する。


 ナタリーとだけのお茶会だったため、それように準備していなかった私は、普段着でとても公爵夫人には見えない……きちんと整えて来ているナタリーとカレンに見劣りしてしまう。
 夜会でも思ったが、カレンは、とても美しく妖艶な女性である。
 そんな彼女を前にして、ちゃんと整えて公爵夫人になった状態で出迎えればよかったと後悔をする。


 これで、公世子がきたら、絶対からからかわれてしまうと思う。
 来ないのをいいことに、準備不足の私自身を笑うことにした。


「それで、なんですか?
 ダドリー男爵と第三夫人を離婚させたいというお話だそうですけど?」
「そうなの?
 ダドリー男爵って……アンナリーゼ様にとって……」
「……みんな、言うわね。
 ダドリー男爵とソフィアは、私にとって毒ですけど、第三夫人とその子どもは、
 私の手元に置きたいの!」
「それは……例のあれですか?」


 ナタリーの問いに私は頷く。
 例のあれとは、『予知夢』のことだ。
 カレンがいる手前、例のあれと濁してくれたようでとても助かる。
 不思議そうに私達のやり取りを見ていたカレンだったが、少し悲しそうに視線を下げる。
 それだけで絵になってしまいそうなカレンには申し訳なく思う。


「私は、まだ、アンナリーゼ様のご友人ではありませんものね……」
「そんなことはないわ!
 カレン、私は、あなたとこれからも親交を深めたいと思っていますよ!」
「ただ、今回はってことですのね!
 子供ではありませんから、アンナリーゼ様とこうして会える機会にまず感謝ですわね!」


 ナタリーと頷きあって、話を進めることにする。
 カレンは、大人しくそれを聞いていてくれるようだ。


「……離婚の仕方ですよね?
 手続きは簡単ですから、今すぐしてしまいましょうか?
 あぁ、でも、ご本人がいないと、できませんわね……」


 ナタリーが悩ましいと、頬に手を当てて唸っている。
 が、特に問題ない。
 何故なら、本人がここにいるのだから……


「ここにいるわよ!
 ナタリー、本人を呼んだらいいかしら?」
「アンナリーゼ様……あなたは、本当に何をなさっているのですか?
 一応、よそ様の第三夫人ですよね?」
「そうね……ジョージア様に変な噂がつきますよ?」
「あぁ、そういわれればそうかも。
 でも、今更じゃない?
 ジョージア様って、ソフィアのおもちゃだし……ダドリー男爵の言いなりだし……
 女の人一人男爵から……それも第三夫人を横取りしたくらい大したことないわよ!
 でも、そっか、身分が低いってとこには、相当ケチがつくのね」


 私は、空を見ながら考えると、ナタリーとカレンがため息をつく。


「確かに今更ですよね……
 ジョージア様のことなんて、考えなくていいですわ!
 こんな素敵な女性を置いて、別宅に引篭もっている方なんて!」


 ナタリーの厳しい意見を聞きながら……ジョージア様可哀想にと思う。
 カレンは、わけありげに微笑んでいる。
 一応、ジョージアは本宅に帰ってきたんだけど……ちょっとだけ、ジョージアのことをフォローしようと口を開くことにした。


「あのね……言いにくいのだけど……」


 歯切れの悪い私に、ナタリーは目を細める。
 うん、ナタリー怖い。
 ジョージア様、嫌われてしまってたのね、仕方ないと納得するしかない。


「うん、あのね、本宅に帰ってきたの……その、ジョージア様……がね?」


 ナタリーは目を見開き、カレンはまぁ!とほんのり頬を染めている。


 二人ともあの夜会での出来事を見ている。
 ジョージアを見て倒れた私とソフィアと一緒にあらわれたジョージア。
 その後、公世子に追い出されたジョージアもだ。
 なので、屋敷の中で、何か変化があったことに驚く二人。


「何があったのですか……?」
「何か……わからないわ。
 私たちが領地から帰ってから、ジョージア様単独で領地に向かわれたようでそこでの
 出来事で心を入れ替えたのかな?
 真相は……まだ聞いていないのよね……」


 領地で過ごした1ヶ月間のことを思い出しているのだろうナタリーは、頷いている。
 1ヶ月の間にどれほど領地の見栄えが変わったかは、一目瞭然で、別の領地だと言われても信じることができる。


「それで、ジョージア様が帰ってきたから……アンナリーゼ様は、また、何かを始めると
 いうわけですか?
 そういえば、領主代行権はどうなりました?」
「そう!まさにそれの話もあるのだけど……
 まだ、公世子様に根回ししてもらっているところなのだけど……私、領主代行権では
 なく、公爵移譲を求めているところ!」
「公爵移譲ですか?
 そんなこと、アンナリーゼ様に可能なのです?
 確か、ローズディア出身ではありませんよね?
 それに、爵位も……」
「そう、侯爵位よ!
 でも、それが可能な切り札は、何枚か持っているから公爵移譲は可能なのよ!」


 カレンは、知らない切り札。
 それに思い至ったナタリーは、大きくため息をついた。
 きっと、たどり着いたのは、ノクトのことだ。

 国の根幹を揺るがす存在を、私は侍らすことになっているというか、現にもう、領地にいるのだ。
 そっちも早急に会わないといけないので、今はとにかく時間が全然足りない!
 領地の方は、デリアに任せてあるので、私の出番はないはずだけど。
 私思うに、デリアさえいれば、たいてい回ってしまう公爵家は、何が何でもデリアを大事にした方がいいと思う。
 あと、ディルね……
 この二人がいてこその、アンバー公爵家だ。
 公爵家では、私もジョージアもお飾りなのだ。

 領地運営をしっかりしてこその『公爵』として『領主』として、私達がいきるのだから、今後の私達にも期待はしたい。


「それで、その第三夫人は、ここにいるのですよね?」
「呼ぶね!」


 お茶会をするにあたって、秘密の話もあると気を使ってくれたのか、ただ本当にみんなが忙しいからか侍女が誰一人この部屋にはいない。
 なので、手近にあるベルを鳴らすと、ディルが来てくれる。


「お呼びでしょうか?アンナリーゼ様」
「うん、リアンを呼んできてくれるかしら?」


 畏まりましたとディルは部屋を出ていき、入れ替わりにリアンが部屋に入ってくる。


「アンナリーゼ様、お呼びでしょうか?」
「うん、あなたの離婚について、話してたのだけど、そうだ……!
 ジョージア様も呼んでこなきゃ……」
「それなら、私が呼んできます。他に必要なものはありますか?」


 ナタリーに視線を向けると、紙と書くもの、そして領主の印を持ってくるように言われる。
 指示に従って、リアンは執務室へ行き、ジョージアと必要な書類を持って帰ってくる。


「アンナ、何か……?」


 部屋に入った瞬間、ナタリーの視線に怯んだのであろうジョージア。
 言葉がそれ以上出てこなかった。


「ナタリー、そんなに虐めてあげないで……ジョージア様がちょっと可哀想よ?」
「私は何も。
 ジョージア様、おかえりなさいませ!」



 ナタリーの含みのある笑顔がとても怖い。
 そして、それをとてもおもしろそうに眺めているカレン。


「あの、カレン?」
「えぇ、どこにも漏らしませんわ!
 どこでもあるお話ですからね……私の家でもあることですから!」
「あんなに仲がいいのにですか?」
「そう、見えていたなら夫婦仲の修復は、少しずつできていることでしょう?」


 どこもかしこも色々な事情があるのだと伺える話ぶりだった。


「あの……」
「あぁ、ごめんなさい。
 リアンは、そこに座って頂戴、ジョージア様はここね」


 スツールを指してリアンに席をすすめ、私の隣をポンポン叩いてジョージアを座らせる。


「それで、離婚の話を進めるにあたって、こちら、経験者のナタリー!
 今から、手続きをするから、本人を呼んだの。
 で、ついでにジョージア様も心が決まったようだから……一緒にやろうと思って!」


 私の言葉にナタリーとカレンはとても驚いた。
 そして、言葉を無くしたのは、リアンだ。


「あの……ジョージア様、離婚なさるのですか?」
「アンナリーゼ様とではないでしょうね?」



 突き刺さるようなナタリーの視線に、今度は真っ向から視線を合わせているジョージアの瞳には、迷いはなかった。
 ナタリーに向かってニコッと笑う。


「あぁ、ソフィアとの離婚を考えている。
 今後、アンナの改革に差し支えがあるなら……アンナやアンジェラの命が守れるなら
 離婚もその後の断罪も受け入れるつもりでいる。
 領地の変わりようには、正直、とても驚いた。
 私が、アンナを支え領地をあるべき姿に戻すときが来ているのだ思ったんだ」


 ナタリーは納得のいく答えをもらえたと笑う。
 カレンは、元より驚くことばかりですわねと微笑んでいる。
 リアンは、自分の離婚だけでなかったことに戸惑っている。


 4者4様の思うことがあるだろうが、私達は、離婚の話を進め書類の手続きをしていく。
 それぞれ申し立てを書き、書類を作成する。
 アンバー領主の印章を押し、これで手続きの書類はできた。


「ここの領主名だけど……俺、書こうか?」


 ジョージアが私に話しかけてくるが、私は首を振る。


「ここは、私に書かせてください。
 公爵移譲が済むまでは、無理ですけど……ジョージア様が背負わなくてもいいですよ!」


 私の言葉に反応したのは、カレンだった。


「アンナリーゼ様?
 ここは、ジョージア様に追わせてしまってもいいのではないですか?」
「いいえ、私が、全て背負うことにしたのです。
 特にそれで問題ないですから、カレンのいうことはもちろんなのですけど、
 この先を考えても、私が裁可した方がいいのです」
「ダドリー男爵家を潰すつもりなのですか?」
「そうね、私は、そのつもり。
 カレンは、何か問題があるかしら?」
「いいえ、私は、アンナリーゼ様を支持しますわ!」


 ニコッと笑うカレンは、何をしても艶やかだ。
 ふぅっと小さく息を吐いてから、私もカレンに微笑む。


「うちの旦那様にちょっかいかけてきたこと、思い知らさせてあげますわ!」


 うん……別の意味でもえてますけど……これは、何があったか聞こうかしら。
 罪を上乗せできる話なら、公へ提出する書類は少しでも多い方がいい。


 なんせ、アンバー公爵家のお金を使って、ローズディアの中を結構浸食しているのだから……
 大きな勢力を叩くには、分厚い書類だけでは、太刀打ちできないこともあるのだ。


 私は、カレンに思いの丈を存分に話してもらうことにした。
 お茶会って、こういう話も聞けるから、いいわよね!なんて暢気なこといってほくそ笑むのであった。
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