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答え

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 朝起きたら隣に寝ていたジョージアの顔を3日振りに見たが、とても疲れていた。
 ジョージアにとって、離婚の決断は決して軽いものではないだろう。
 さらに、離婚の後に控えていることを考えれば、尚更に気の重くなる話ではないだろうか?

 そんな決断をさせることに、申し訳なさを感じつつも揺るがせるつもりはない私。

 ジョージア様にとって私は、死神か悪魔なのではないだろうか。
 そんな私の手をこれからも握ってくれるか……不安になる。
 これから、血に染まる自分の手を眺めながら、小さくため息をついた。



 今日は、起きてから目まぐるしく1日が過ぎた。
 朝から小さな訪問者があったので、そちらにかかりっきりで寝坊すけジョージアと顔を合わせないまま夜になっていた。


「アンナ、今、いいかな?」


 私を探してくれていたのか、サロンでぼうっとしていたところにやってきたジョージア。
 席を進め、私はお茶の用意をする。

 今は、サロンで一人、息抜きをしているところだった。

 ジョージアに花茶を私は温くなったハーブティを用意する。
 元気がないときは決まって、花茶を飲んでいたので侍女が用意してくれたのだが、先日の『予知夢』のこともあり控えていた。


「ジョージア様には、花茶です。
 お花が開いたら、見せてくださいね!」
「アンナは、花茶じゃないの?」
「先日の『予知夢』のこともあるので、今日は、控えました。
 熱すぎるのも飲めないので……」


 ハーブティを見せると、いい香りだねとふわっと香るハーブの匂いを楽しんでいる様子をじっくり見つめる。


「そろそろ、いい頃合いかな?」


 蓋を開けるとパッと花が咲いている。
 それだけで、場が華やぐようで、目で見て楽しみ香りも楽しむ。


「いい香りですね!」
「あぁ、とても落ち着くな」


 しばらく、花茶の匂いを二人で楽しむと、不意にジョージアの視線が花に向かう。
 いよいよ何かしらの心の整理がついたのだろうと思い、私は居住まいを正す。


「アンナ、先日の話なのだけど……」
「はい、お伺いします」
「まず、公爵委譲について、異議を唱えるつもりはない。
 実際、アンナは、『公爵に見捨てられた領地』と言われているアンバー領を
 見事に掬い上げてくれた。
 俺や父上では、出来なかったことだ。
 アンナに任せたほうがいいと判断した」


 アンバー領地は、広大である。
 筆頭公爵というだけあって、領地面積だけは1番なのだ。
 友人たちと領地運営はしていくつもりだったが、ジョージアも加わってくれるのであれば、鬼に金棒、これ以上のブレーンはいない。
 アンバー領地の知識で言えば、ニコライと同じかそれ以上のだろうと私は踏んでいる。
 私の『予知夢』では、ジョージアの存在は領地改革に置いて手伝ってもらえる状況ではなかった。
 なので、これで、私の頭脳と言えるセバスとニコライへのサポートは、十分行きわたるだろう。


「ジョージア様に前も申しましたが、私は友人たちが手伝ってくれて今の現状があります。
 もし、ジョージア様がこれからもアンバー領の発展につながる様手伝ってくれるなら、
 さらに繁栄することでしょうから、私と一緒に頑張ってみませんか?」


 その誘いに少し驚き、頷いてくれる。
 ジョージアもアンバー領を発展させたかった一人なのだ。
 だから、領地運営については、たくさん勉強しているに決まっている。
 私の比ではないはずなので、加わってくれるなら今考えているより革新的にな発想も生まれるだろうし、何より私が心強い。
 ジョージアが加わることで、現在の運営方法と今後試していきたいことの比較もこれで容易にできるようになるだろう。


「ソフィアとの離婚は、進める。
 その後の断罪も……受け入れるよ」


 辛そうにしているジョージアに、かける言葉はなかった。
 まだ、何もしていない私の今の手で、机の上で握られたジョージアの手に添える。


「よくご決断くださりました。
 手続きと裁可は、私が行います。
 ジョージア様の決断に感謝します」


 それを伝えると、やはり辛そうだ。
 立ち上がりジョージアを抱きしめる。


「泣いてもいいですよ?」
「あぁ、でも、泣かない。
 もっと、ソフィアに手を差し伸べる方法が、あったのではないか……
 こうすればよかった、ああすればよかったと次から次にでてくるけど、どれ一つ
 してあげれてない自分を情けなく思うよ……」
「私と結婚しなければ、よかったですね!」
「それは!……そうかもしれない。
 でも、そうじゃないんだ。
 アンナとの結婚以前に、もっとソフィアと対等に向き合っていればよかったんだ。
 知っているだろう?アンナのことだから」
「何をです?」


 意地悪な私は、知らないふりをする。
 答えは、わかっている。
 揶揄されている噂のことなど、わざわざ私から言わなくてもいいことだろう。


「ソフィアのおもちゃって言われてたこと、知らないとは言わせないよ?」
「そのことですか……ジョージア様、大人しいですからね……
 たまに大胆になるけど、とても優しいですから、身近な人のいうことは何でも
 聞いちゃうんですよ。
 そういうところも好きですけど、負けるな!と思うこともありますよ!
 ソフィアには、何も言えないでしょ?」
「よくわかるね……」
「初めてソフィアと対峙したとき、あぁ、逆らえないのから?と思いましたもの」


 ふふっと笑うと、お腹あたりから苦笑いしてるのか振動が伝わる。


「ジョージのことなんだけど……」
「はい、ジョージのことですね」
「引き取っていいかな……?
 俺の子どもじゃないってこと、聞いたときは相当ショックは受けたんだけどさ、でも、
 愛情を傾けたのは本当で、可愛いんだ……」


 ジョージアの髪を撫で、考えるふりをする。
 しばしの沈黙。
 私の中では、すでに答えは出ていた。


「私は、いいと思います。ジョーと一緒に育てましょう!」
「ありがとう……」
「それにしても……ややこしい名前ですね!
 ジョージア、ジョー、ジョージ!ごっちゃになりそうです……」
「アンナは、俺のことも名前で呼んでくれるからね。
 ジョーとは呼ばず、アンジェラと呼べばいいだろう?
 ダドリー男爵のことが終われば、そう呼んでも、問題ないだろう。
 ジョージは……そうだな……ミドルがクランだから……」
「わかりました、ことが終わりましたら、アンジェラと呼びましょう!
 それに、ジョージでかまいませんよ!
 可愛いじゃないですか!ジョージ。
 ジョージア様の子どもって感じがしていいですよね?」


 少し離れて笑いかけると、悲し気ではあるが微笑んでくれる。


「領地に一緒に連れて行きましょう!
 ジョーとジョージアと、領地でのびのび育てればいいですから!
 時期が来れば、公都のお屋敷できちんとした教育をすればいいですしね!」
「アンナは、すごいな?
 もう、そんなことまで考えられるのか?」
「元々、考えていたのです。
 ジョージは、引き取るんじゃないかなぁ?って……
 だから、どんな風に育てたらいいかって考えていました」


 そうか……と呟く。
 ジョージアが悩んでいた3日間、私も執務をしながら考えていた。
 たくさん考えた結果、引き取るのではないかという答えに達したのだ。
 ソフィアの代わりにはなれないけど、私なりに愛情をジョージに注ぎたい。
 できることなら、アンジェラと分け隔てなくと思うけど……そこは、実際問題、感情がついて行くのかどうかという問題があるのだが、それでも大切にすることはできると思う。
 ソフィアには、さんざんな目にあわされたのだけど、ジョージには何の罪もないのだ。
 寧ろ、母親を奪う立場になる私が、抱いてもいいのか不安があった。


「アンナ……ごめん。
 不安もあるだろうけど……ジョージにもアンジェラと同じように愛情を注いで
 あげてほしい。
 もちろん、俺もアンジェラもジョージも同じだけ大切にするつもりだよ。
 それと、二人には、今回のこと、デビュタントを迎えたら、俺からきちんと話をするよ。
 これは、俺の責任だから……
 ……苦しめることになるかもしれないけど、ごめん、アンナ」


 私は、ふるふると首を横に振る。


「一緒に乗り越えていきましょう。
 私、デビュタントには、生きているはずですから!」


 これからのことを考えて、私が不安になっていることは感じているのだろう。
 でも、ジョージアがいれば、乗り越えられるそんな気がする。


 小さい頃にみた『予知夢』と、現在とでどんどん変わっていっている。
 まさか、ジョージを引き取ることなんて夢にも思っていなかった程だ。

 また、どんな未来に変化するか、わからないけど……、子どもたちが幸せに暮らせる未来を掴んでいこうと決意を新たにする。
 例え、自分の手が、どんなに血に染まったとしても……
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