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公爵権限ください!

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 夕飯を食べた後、私とジョージアは、まだ向かい合っている。

 うーんと唸っている私は、ポンと手を叩く。



「はい!では……こうしましょう!
 ジョージア様に愛されなかった可哀想な私は、たまたま筆頭執事に用があって本宅に
 きていたジョージア様を見つけ、脅してジョージア様の髪をナイフでいきなりバッサリ
 切ってしまい、それに頬ずりしていました。
 ジョージア様の髪を持ち、ジョージア様の側に少しでもいたいと恍惚としていたと。
 気の狂ってしまった私に睡眠薬を無理やり飲まされ、今まで本宅で眠ってしまっていた。
 気が付いたジョージア様は、私を突き飛ばし、逃げるように別宅へ帰って行きました。
 という感じで、ソフィアに説明したらいいんじゃないですか?
 毒には毒をです」



 ソフィアに対する言い訳を何故、妻である私が考えているのだろう。
 とても腑に落ちないが……これも、それも、領主代行権のため!と思い考える。



「ついでなので、お願いが……ジョージア様、私、領地を改革したく思っているの。
 だから、ジョージア様は、嫉妬に狂った私を恥ずかしく思い、病気療養という名目で
 私を公爵領にて療養させることにしました。
 ってことで、私を領地に引越しさせてください!どうですか?
 これなら、すんなり領地に行っても誰も勘ぐりませんよね?」


 ジョージアの隣に座り直し、どうですか?と覗き込むと苦笑いされてしまった。



「アンナの頭の中は、一体どうなっているのだろうな……?
 それでは、アンナの悪評が、また立つではないか?」
「今更、悪評なんて、1つ2つ3つ増えたくらいで、たいしたことないですよ!
 これでも、悪い噂にも慣れっこなので!
 それより、私は、領地でやりたいことがこんなにたっくさんたくさんあるのです!」


 小さな子供が、体を使って大きく大きく円を描くように、私も体全体を使って大きな円を宙に描く。
 にっこり笑いかけると、ジョージアが抱きしめてくれた。



「ジョージア様?」
「アンナ……今まで、すまなかった……」



 そんなことですか?と、私は笑うしかない。
 ジョージアを責めても、今更時間は戻ってこないのだから仕方がない。



「ジョージア様、この前、私からの条件は、無条件にって言いましたよね?」
「あぁ、言った。
 アンナを手放すくらいなら、なんでも差し出すさ」



 私は、ジョージアを見て、大きくため息をつく。



「そんな簡単に何でもなんて、他所では言っちゃダメですよ?
 私みたいな悪い女に騙されますから……?」



 よしよしとジョージアの頭を撫でて、意地悪く笑う私をみて、ジョージアは微笑む。



「アンナにだけ、だから……いいさ。
 欲しいものは、なんだ?領主代行権か?」



 ずっと、欲しかったものを提示され、私は思わず笑みがこぼれる。
 そして、悩むふりをして……もっと、欲しいものを思いついたので、もったいぶることにした。



「そうですね……領主代行権は、欲しいですね。
 ジョージア様からのたっくさんの愛情も欲しいですし……」



 今、思いついた!という風に、パンっと手を叩き、ジョージアに優しく微笑む。



「今、一番欲しいのは、公爵権限です!」
「公爵権限……?
 公爵を変えるのか……?」



 にっこり笑って頷くと、ジョージアは目を見開いている。
 それもそうだろう……ジョージアの公爵権限を私に移譲するよう可愛らしくお願いしている最中なのだから……



「私にください!
 アンバー公爵領の領主になりたいです!」
「アンナは、俺から公爵権限を奪うのか?」
「いいえ、ジョージア様は、筆頭公爵家の公爵様でいいじゃありませんか。
 領地と領主、公爵権限を私に移譲してくださればいいのです!
 あ……でも、そうすると、私が公爵になるのですかね?
 でも、アンバー公爵家は、アンバーの瞳の者が領主ですかね……」



 私は、ブツブツと言っているが、隣に座るジョージアは、私の提案に驚いている。
 悩んだのだ……領地改革をするくらいなら、領主代行権でも、かまわなかった。
 ただ、ジョーと新しく生まれてくる子を守るためにするべきことは、代行権ではできない。



「どうやって、公爵権限を委譲させるのだ?」
「そこは、公世子様に尋ねてみます。
 多分、公に願い出ればできるはずなので……あと、とっておきがありますから大丈夫ですよ!」
「それなら、公世子様のところには、俺が行く」
「どうしてです?」



 こてんと頭をジョージアの肩に預けて尋ねると、返事が返ってこなかった。
 もう一度聞こうと思い、ジョージアの方を見ると、なんだか怒っている。
 どうしたのだろう?と思い、ジョージアの頬に手をやり、私の方へ目を向けさせた。
 その瞳には、怒りのような寂しいような、ジョージアの心情をありありと語っている。



「ジョージア様は、公世子様から私が公妃にと望まれていることはご存じなのですね?」
「あぁ、知っている。
 公世子様から、アンナを大事にしないのであれば、側に置きたいと言われている」
「それで、ジョージア様はなんと?」
「最初は、いつもの冗談だと思っていたから、俺の妻だからダメだと言った。
 でも、本当に望んでいるんだと言われたときに、言葉に詰まったよ……情けない話だ。
 ただ、アンナは、俺の妻だから絶対手放さないと言うだけのことだったのに……」



 私は、この前の夜会でのことを思い出す。
 微かに聞こえた、声を荒げた公世子。
 私に嫁ぎ直さないかと言った真摯な言葉を。



 ジョージアは、俯いている。



「私、断りましたよ。
 ジョージア様でないと、ダメなのですと……」
「それは、いつものでなく……?」
「はい、公世子様自身が真心こめて言ってくれました。
 でも、丁重に断りました」



 へらっと笑うと、ジョージアも笑ってくれた。
 なんだか、苦しそうだったので、ギュっと抱きしめる。



「生きている限り、側にいますから!」
「ありがとう……」



 抱きしめ返してくれる、ジョージアは優しかった。
 また、一つ未来が変わったわよ!
 10歳の私に、今の私は胸を張って言ってやりたい。
 あなた、この道を選んで大正解だったわよ!と……



「ジョージア様、改めて言わせていただきますね……?」
「あぁ……」
「公爵権限を私にください!
 公爵領地を、公国1番の領地に変えてみせますから!」
「……わかった、手続きをしよう。
 ただし、手続きに必要な印章や諸々は、全て別宅にある。
 それらをこちらに持ってこないといけないのだが……」
「えぇ、私も別宅についていって差し上げますから、取りに行きましょうか!
 ジョージア様の執務室は、こちらにありますからね!」



 私は、すっくと立ち上がって、ジョージアに手を差し伸べると、それは、俺の仕事だと手を取りエスコートをしてくれる。

 廊下に出ると、ディルがちょうどこちらに来るところだった。



「ディル、別宅に向かいます!
 馬車の準備と、あと向こうにあるジョージア様の荷物、全部持ってくるから、用意してくれる?」



 ディルは、一瞬驚いたが、かしこまりましたと微笑んでくれる。



「準備が整うまで、子どもを見たい……な?」
「いいですよ!行きましょう!」



 私達は、ディルの準備が整うまで、子ども部屋へ足を運ぶのである。
 二人で入るのは、初めてだった。
 いつも来る侍従でもないし、大好きなウィルでなかったことにジョーは残念そうに泣き叫ぶ。



「ジョージア様、嫌われていますね?」
「いや、そんなことはないはずだ……」
「でも、ジョーが泣いてますよ?」


 ジョージアに抱かれ、泣いて嫌々としているジョーは私に助けを求める。
 あまりに泣くので可哀想になり、ジョージアから奪い取るとピタッと泣き止む。



「あんまりだよ……」



 落ち込むジョージアがおもしろくて、笑うと、ジョーまで笑いだし、エマもクスクス笑っている。
 こんな穏やかな家族の時間は、初めてで、とても嬉しく、ずっと続くことを願うばかりだった。
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