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まったりと過ごす休日もどき

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 ジョージアをベッドに押し込んで、私も一緒に眠ることにする。
 ジョージアの腕の中は、若干締め付けが苦しくて、もぞもぞ動いていたが、ふと気付くと寝付いたのか規則正しい寝息が聞こえてくる。
 私は、抱きしめていた腕を緩めてジョージアを観察する。


 よっぽど疲れていたのだろうか。
 一瞬で眠りについてしまった。
 ジョージアは、今、領地運営がうまくいっていないようで、頭を抱えているとディルの報告により聞き及んでいる。
 あと、あの本宅の図書館での管理簿の内容、領地への視察で分かったこと、公爵家の収支のバランスが悪いことが資料からもそれは感じ取ることはできた。
 私がその分補えば、きっと楽になるだろうと先日より話しを持ちかけようとしている。
 もともと二人で知恵を絞っていたのだから、ジョージア一人では限界がきてもおかしくない。


 ジョージアが起きてから、領地のこれからのことを話し合おうと思う。
 何せ昨日までは、別宅に住んでいたから取り付く島もなかったのだから……

 さらに「愛していない」と私はジョージアに対して言った。
 それを考えても、今の状況は当然おかしい……のだが、旦那様の健康管理も妻の務めと思えば、何もおかしいことはないのかと眠るジョージアの顔を見つめる。


 さっき、私がナイフで切った髪が不揃いで、顔にかかっている髪をどけようと手を伸ばすとジョージアが布団の中にもぐっていき、ちょうど頭が私の胸の位置にきた。
 頭を優しく撫で、あとでちゃんと切りそろえないとなぁ……と考えていたが、私も昨夜は同じだけ起きて廊下で話を聞いていたため眠くなってしまい重たい瞼を閉じることにした。



 目が覚めたのは、日がだいぶ高くなってからである。
 まだ、ジョージアは、ぐっすり眠っていて胸のあたりから規則正しい寝息が聞こえてくる。夜着が若干はだけているのは、私の寝相なのか……はたまた……って感じである。
 何より未だにガッチリ抱きつかれているので、ちょっと苦しいのだけど……
 サイドテーブルに手を伸ばし、ベルを鳴らす。
 するとしばらくして、ディルが部屋に入ってきてくれた。



「ディル、そろそろ起きたいのだけど、ガッチリ腕を回されていて……」



 その様子を見て、失礼しますと一言、ディルによってジョージアを剥がしてくれた。
 そのままゆっくり体を起こし伸びをする。
 同じ体制で寝ていたため、体中が、痛い。


 未だ眠るジョージアの髪をそっと撫でてからベッドを離れる。



「まだ、もう少し寝かせてあげましょう。
 あまり寝られていなかったようなので……寝られるときに寝かせてあげて。
 少し子どもの顔を見に行くので、ジョージア様の様子見ていてくれるかしら?」



 ディルが承ってくれる。



「少しお腹が空いたから、軽食の用意もお願いできる?
 ジョージア様の分もこちらに用意して。帰ってきたら二人で食べるわ。
 あまり大きな音はさせないであげてね。
 あと、ハサミをお願い。髪を整えるわ!」



 要件だけディルに伝えると、ジョージア様のおでこにキスをし、子どもの元へ向かうため部屋を出て行く。



 子どもの部屋に行くまでに侍女が、ガウンを着せてくれる。



「ジョー様は今、エマと一緒に遊んでいますよ。
 あのおもちゃは、文字積木と言うのですか?
 夢中で遊んでいらっしゃいますよ!」
「よかったわ。
 お母様が、私の子どものときに使ってよかったと言っていたので取り寄せてみたの。
 私が好きだったなら、好きになってくれるかな?と思って。
 あれは、文字を覚えるだけでなく、積み重ねたりして遊ぶのも目的としてあるのよ。
 なるべく小さいうちは、手に触れる物がいいみたいね。
 ブロックになっている積木も使ってね。
 今ならなんでも、経験として吸収するらしいから」



 侍女が私の話を聞いて感心している。
 まだ、独身のこの侍女は、子どもの教育というのには疎いらしい。
 私も母に相談しながら色々な教材を使って興味を持たせ遊ばせながら勉強させているのでそれほど詳しいわけではない。

 年の大きいエマが手本となって遊んでいるらしい。
 デリアにエマを育ててもらってよかった。

 子ども部屋に入ると、夢中で遊んでいる我が子は、私が入ってきたことにも気づいていないらしい。
 侍女長が見ていてくれたらしく、私を視認して挨拶にくる。



「おはようございます、アンナリーゼ様。
 その様子ですと、また、お戻りになられますか?」



 夜着にガウンをはおっただけの私を見て察してくれる。



「そうなると思います。
 ジョージア様が、寝室でよく眠っていますからね。
 その後は……ね。わからないけど、それも務めですから。お話もありますし」



 侍女長は、今日一日こちらに詰めてくれると約束してくれる。
 侍女長と話した後は、もちろん我が子を構いたい。



「おはよう、ジョー。ご機嫌で積木しているのね?」



 ジョーの銀髪を撫でる。
 あぁ、ホント親子そっくりの質感……と、さっきまでジョージアを撫でていたので、感慨深くなってしまう。


「あい」



 小さな手で握り締めた積木を私に渡してくる。



「ありがとう。ちょっとやってみようかな……」


 ジョーやエマと一緒に地べたに座り、積木を家の形に積み重ねて行く。
 それを見ていた二人が喜んでいる。



「アンナリーゼ様、すごいです!」



 エマは、私が作った家を見て喜んで、すごいすごいと言っている。
 私は、エマと一緒に出掛けたりもしているが、こんなに感情を出して笑っているを始めてみた。
 領地でお手伝いしてくれていたときも、少しづつ周りが話しかけていてほんのり笑っているのを見たことはあったけど、これは、いい傾向だと思った。



「エマは、とても笑うようになったね! その方が、素敵だよ!」



 私は、エマに笑いかけると、照れたのか俯いてしまった。
 エマと話をしているうちに、興奮したジョーは、作った積み木の家を触りにきて、そのままバッシャンっと倒してしまう。

 まだ、ジョーは、うまく力加減がわからないようだ。
 目がうるうるしてきた上に、息を吸う量が多くなる。
 倒してしまったことで、今にも大粒の涙をを流しながら泣きそうだ。
 私は、素早く同じ高さまで積み重ねていくと、今にもこぼれそうだったジョーの涙は引っ込んだ。



「次は、これを練習しましょうね!」



 ジョーを私の前に座らせて後ろから軽く手を持って、積ませていく。
 一段できたところで、また興奮気味に喜んでいる。



 手を叩いて喜びを表しているのだろう。
 とってもご機嫌なのだ。



「すごいね!できたね。じゃあ、もう一段積もっか」


 二段目もジョーに手を貸して積み上げるが、なかなかうまく積み上げられない。
 だんだんぐずってきているのがわかる。



「ジョー、なかなか、うまくいかないね。
 でもね、あきらめちゃダメだよ。
 できるまで、頑張って積もうね!」



 なだめるように言うと、落ち着いたようで、また、一生懸命積み始める。
 その姿が可愛らしく、愛おしくて仕方がない。



「あとちょっとだね……もう一回する?」



 何回やっても6つ目ところで崩れてしまう。
 なので、頭を振って嫌々し始めた。
 仕方ない、やり方を変えよう。



「じゃあ、よく見てて」



 じーっと私の手元を見ている我が子は、可愛くて仕方がない。
 コの字に並べた積木の上に一枚置くと、安定感が出る。
 さらに同じような作業をして4枚の積木を積み重ねると2段になった。
 もう、わくわくに目を光らせている。
 見よう見まねで積み重ね始めた。
 1段目は上手に積め、2段目も上手に積めた。
 エマがジョーのを見て、できた!と喜んでいる。



「よくできました!また、色々と積んでみなさい。
 エマにも教えてもらいなさいね!」


 ジョーの髪をくしゃっとする。
 私の方を向いて、満面の笑みで答えてくれる。



「また、来るからね!」



 去る私にジョーは、手を振ってくれる。
 今は、私と一緒より、エマと一緒に遊ぶことに夢中のようだ。
 手を振られる私の方が、少しだけ寂しい。

 立って侍女長のところに向かって、あとのことを頼んでジョージアの眠る部屋に戻ることにした。
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