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久しぶりのきらびやか世界へ

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 2年近く参加していないローズディアの夜会。
 流行りのドレスも髪結いもさっぱりわからないままである。



「アンナリーゼ様、遅くなってすみません。
 こちら、ご注文いただきましたドレスになります」
「わぁ!素敵なドレスね!
 ラベンダー色だなて、デビュタントのときを思い出すわ!」



 ニコライがお昼過ぎに届けてくれたドレスは、ラベンダー色のとても豪奢なドレスであった。
 それは、初めて社交界に出た日を思い出すようなドレスで、思わず微笑んでしまう。

 私、社交界へ久々に帰るのだものね。
 ハリーとデビューした日を思い出して、クスクスっと笑ってしまう。
 13歳だったのだ、幼かった。
 ハリーと手を繋いで、ダンスホールに行き踊ったダンスは、今でも鮮明に思い出せる。
 そして、白薔薇の称号のラストダンス……

 社交界へ出るときは、いつもハリーが側にいてくれた。
 ローズディアに来てからは、ジョージア様が。


 でも、今回は、二人は側にいないけど、頼りになる友人たちが側にいるのだと思うと心強い。



「あと、これは、ティアからです。
 是非つけていってくれませんか?」



 妻となったティアが作ったものだと言われ、私は喜んで!とニコライから小箱を受け取る。
 中を見ると、とても素敵な髪飾りである。



「ナタリー、この髪飾り青薔薇の下につけられるかしら?」
「どれですか?
 素敵な髪飾りですね!アメジストとタンザナイトですか?」
「さすが、ナタリー様ですね。そうです。
 タンザナイトには、困難なとき、問題解決の糸口になるとか将来の可能性を広げる
 という意味を持ちます。
 今、アンナリーゼ様に必要な気がするって、ティアからの応援も込めています。
 時期的にもタンザナイトの月ですし、今日のドレスにもあいますから!」
「それと、広告塔ね!
 ティアの宝飾品が売れるように大いに目立ってくるわ!
 それにしても、いつ見ても素晴らしい意匠ね。
 ありがとうと言っておいて!」
「こちらこそ、ありがとうございます!」



 ニコライは、ティアも髪飾りもドレスも褒められたことを嬉しく思うと素直に言う。
 そういうのは、商人と顧客の間で語る話ではないのだけど、私達は内部事情も知っていて信頼度が違うということなのだろう。




「そろそろ、アンナリーゼ様を飾り立てないといけないので……
 これでお暇してもらってもいいかしら?」



 ナタリーによって追い出されるも、もちろんですと、笑ってニコライは帰っていくのである。




 それからは、忙しかった……
 いつも一緒にいるデリアがいないのである。
 ナタリーを始め、本宅の侍女メイドが私を磨き上げていく。
 デリアを完ぺきとするなら、一歩及ばないわなんてナタリーは言うけど……十分、磨かれたのである。


 ドレスに着替え鏡台の前に座らせられる。
 ナタリーも準備をしないといけないのだが……侍女に支持を出しながら自分も着飾っていく。

 なんとも言えない速度で、素早くよそ行きナタリーの出来上がりだ。
 化粧も流行を取り入れているけど、自分らしさを少し取り入れた感じになっている。
 私のドレスの邪魔しないように少し色を抑えたようなグリーンのドレスがとても似合っていた。
 髪飾りは、アメジストの薔薇をモチーフにしたものであった。
 あれは……自前よね……?だって、私……指輪をあげたのだもの。
 毎日つけてくれているから……きっと傷も増えたんじゃないだろうか?
 お礼のつもりで渡したものだから、そんなに高価なものではなかったのだ。


 いつもお世話になってる3人には、ちゃんとしたアメジストを送り直そうかな?
 私の本当に支えになってくれているものね。


 私は、ナタリーの左薬指に嵌っている指をそっと見つめる。
 うんと一つ頷く。



「アンナリーゼ様、動かないでください!!」



 ナタリーに叱られながら、公爵夫人アンナリーゼが作られていく。



「できましたわ!」
「ナタリー様、完璧ですわ!」
「アンナリーゼ様、とっても素敵!」



 とっても素敵……いつも素敵じゃないみたいじゃない……と口からでそうになったけど、飲み込んでおく。
 いつも素敵ではあるけど、今日はさらに素敵になったということだろうと自動変換した。



 ささっと立たされ、最後にアンバーの秘宝であるブローチのつける位置を考える。
 いつもこれは悩まされる。
 アンバーの秘宝を付けてこその、公爵夫人なのだから……



 全体のバランスを見ていたナタリーにより胸元に付けることを提案されたので、私は頷く。




「どうされますか?」



 遠慮がちに侍女が持ってきたものは、領地に行っている間、外していた結婚指輪であった。
 私は、指輪を見つめる。
 ティアが私を想い作ってくれ、ニコライが私とジョージアにと提案してくれたものだ。
 何より、ジョージアとの思い出の品物でもある。


 うんと、頷くと侍女が持っている小箱に手を伸ばす。
 左の薬指に嵌めると、待っていましたと言わんばかりに落ち着いた。
 ティアから宝石には、ちゃんと意志があると教えてもらったことがある。
 いつもつけている真紅の薔薇のチェーンピアスに嫉妬をする青薔薇たちや、未来と過去を繋げるアンバーのように、持ち主とコミュニケーションを取りたがっているのだと。
 確かに、結婚指輪を付けた瞬間に、語りかけられたような気がしたのは、気のせいですませられないだろう。


 ごめんね、お待たせ!


 心の中で、宝飾品たちに詫びると、私は労いを込めナタリー達にニッコリ笑いかける。




 準備はできた。




 ちょうど、そのときに馬車が着いたような音がする。
 ディルが入ってきて、後ろにウィルとセバスが続く。


 ウィルは、中隊長の正装制服を着ていた。
 セバスは、通常通りである。



「準備終わってる?」
「えぇ、終わったところ!」



 私とナタリーを見て、二人は頷く。



「さて、姫さん」
「何かしら?」
「覚悟は、いいか?」
「よくないけど、行くわ!
 あなた達がいてくれれば、大丈夫よ!」



 そうかとウィルは、呟く。



「じゃあ、行こうか!」



 ウィルから差し出された手を取り、私は、自室を出る。



 ディルを始め本宅の侍従たちが玄関前に並び、馬車に乗る私を見送ってくれる。
 ジョーは、今日はお留守番なので、侍女に抱かれて手を振ってくれていた。



「行ってらっしゃいませ、アンナリーゼ様」
「行ってくるわ!留守を頼みます」



 いつもはジョージアがいう挨拶も、主人である私が告げなければならない。
 頭を下げた侍従を後に、馬車は公城へと向かうのであった。
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