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帰り道

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 ノクトから砂糖について、いい返事をもらったおかげで、私は嬉しくてしかたなかった。
 その前にやりとりしたことの方が、あまりにも突拍子すぎて、受け入れがたくて夢であってくれたらと思ったが、そういうわけにもいかず、それを差し引いてもいい交渉ができたと自分に甘い評価を下しておく。
 ただ、悪い面ばかりでないこともわかったので、受け入れることにした。


 公都の屋敷に帰るために、ノクトへ挨拶をしに行くとご機嫌なおじさんが、嬉しそうに従者へ話しかけていた。



「ノクト、今回、会えてよかったわ」
「あんなの方は、よかったって顔ではないがな!
 俺は、ウィル達がいっていた通りのアンナと会えてよかったよ!
 これからも、末永くよろしく頼む!」



 よほどアンバー領で住むことになったのが嬉しいのか……豪快に笑っている。
 羨ましい。私は、全く笑える気分ではなかったというのにだ。




「アンナ、砂糖の件に関しては、こちらに任せておけ!
 十分に揃えてやるからな!」



 その言葉に頷き、私達は、ノクトの屋敷を出ることになった。



 来たときと同じように、男装の私とウィルが馬に揺られ、ジョーとセバス、ナタリーが馬車の中で揺られ、ニコライが御者台に座る。
 ちらちらと目の端に見えるホクホク顔のニコライが私は、憎くて仕方がない……



「姫さん、あんまり、ニコライを睨むなよ。
 ニコライは、いい伝手ができて喜んでるんだからさ!
 大体、無理難題をニコライに言っているのは、姫さんなんだから、
 たまにはニコライの要望もいい加減受け入れたら?」
「受け入れてるし、ニコライを睨んでるつもりはないわよ!
 ホクホクしてるの羨ましいなって思ってるだけだもん!」
「かわい子ぶっちゃって……
 それより、手に入りそうでよかったな?」
「そうね……これで、ヨハン教授にたっぷり働いてもらうわよ!」



 ノクトのことは、頭の隅の方へ追いやっておくことにした。
 私は、ヨハンへの手紙の内容を考えていく。


 まずは、砂糖の原料となる植物が手に入りそうなことを誇らしげに書こうと思った。
 なんせ、ヨハンは、手に入るわけがないとちょっとバカにしてたからだ。
 私にかかれば、手に入らないものはないのだと言ってやりたい。

 次に、それを育てるための農家も少し融通利かせてくれるということ、その植物を育てるのにどんなものがいるのか、アンバー領用に改良してほしいことを明記しよう。
 植物や農耕に詳しい人間を、フレイゼンの学都から呼び寄せることにしているので、誰かアンバーに呼び寄せてほしい人間がいないかも確認しよう。



 うんうん、なかなか、ヨハンへの手紙の内容が精査できてきている。



 私がそんな考え事をしていると、ニコライから声がかかった。



「アンナリーゼ様、あの……」
「何かしら?」
「ノクト将軍の住むための家が、アンバーでは用意できないと思うのですけど……」
「そうね……いいの、別に。
 あの人たち、インゼロ帝国の将軍・軍師・公爵としてアンバー領へ来るんじゃ
 なくて、私の配下として領地に住むのだから……
 家なんて、どんなものでもいいのよ!
 それに、欲しけりゃ、自分で建てるでしょ?お金持ちなんだから!
 しばらくの仮住まいは、領主の屋敷にするわ。
 私も、そっちに移る予定だし、見張るのも見張られるのもちょうどいいのよね!」
「なるほど……でも、いいんですかね?」
「いいのよ!
 公爵として扱ってくれって一言も言われてないもの。
 ただのやかま……気さくなおじさんです!」



 しれっと私は、『ただのおじさん』と言うと、隣で聞いていたウィルはおかしそうに笑う。
 でも、本当のことなので、仕方ない。


「ある程度のものは、揃えないといけないと思うから、ニコライ、手配してくれる
 かしら?
 あの、廃品回収のでいいわ。
 お掃除隊に言って、綺麗にしてもらいましょう!」
「姫さん、おっさんの扱い雑だなぁ……
 よっぽど、化かしあいに負けたのが悔しかったのか……?」
「うるさいな!
 2対1は、卑怯だし、たぶん、ウィルたちと話した小競り合いのときから、
 狙っていたんじゃないかしら?
 あそこまで、芝居がからずに提案できるって、相当な役者か、練習を積まないと
 無理よ!
 あぁ、今思い出しても腹が立つけど……ウィルを取られなかったことだけは、
 ちゃんと褒めてよね!」
「あぁ、褒めてしんぜよう!」



 ウィルと話しているとだんだんバカらしくなってきた。
 でも、きっと、それでいいのだ。
 難しいことは、私、考えられないし……
 ウィルが、ローズディアの友人たちに刃を向けることなくすんだことだけは、本当によかったと思っているのだから……
 ウィルを含め、友人たちが苦しむ姿は、できるだけ避けたいのだ。
 だから、これは、良かったのだと受け入れることにした。
 今回の交渉は、反省するところはたくさんあったけど、後悔はしなくていい。



「あと、領地の真ん中に大きな公爵家の別荘があるでしょ?
 ニコライ、知ってる?」
「はい、知ってます。
 あそこって、学校に変えたいのだけど……改装費ってどれくらいかかるかしら?
 宿舎も欲しいし、研究所みたいなのも欲しいんだけど……」
「そうですね……入ったことがないので、わかりませんが……
 手直しするようなところは、ないと思いますよ!
 あとは、黒板とかなら……別備えとかのを使えばいいですし……」
「これも、領主代行権が……必要な案件ね。
 あぁーもぉーどこに行ってもぶち当たるわね!領主代行権!!」
「まぁ、そういわず、頑張ってくれ!
 ジョージア様から、しっかり勝ち取ってくるように!
 こればっかりは、俺たちでは、援護できなからなぁ……」



 本当にそうなのだ……まだ、援護をお願いできるとしたら、ディルだけど……
 やっぱり、そこは自分で何とかしたい。



 目下の目標である、領主代行権は、私が取るべき案件なので、早くとらないとみんなに迷惑がかかる。



「頑張るわ!
 とりあえず、明後日の夜会で、大暴れしましょう!
 傷心のアンナリーゼご乱心ってなったりして……」
「それ笑えないジョーク!」
「本当ですよ!
 アンナリーゼ様、無理はしないでください!
 貴族の悪意って無駄にしつこいですからね!!」
「ニコライ……ありがとう!」
「えっ!?姫さん、ニコライだけ?俺は?」
「何?どこにお礼言うような言葉ってあった?」
「あぁ……ないな。
 でも、本当、無理だけはするなよ?」



 わかってるわと私はお散歩気分でご機嫌のレナーテの鬣を撫でる。



 私、夜会で、ジョージア様とソフィアに会っても……平然としていられるかしら?
 領地繁栄の広告塔として頑張ろうしているところなのだ。
 それに、もうすでに動き始めてくれている領民たちがいるのだ。
 私の胸の奥で、ジョージア様に対して、ジクジクとするこの感情に目を向けず、そっと蓋をすることにした。
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