ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

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お屋敷に帰ると

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「よっ!遅かったな!」



 ビルの家から、領地のお屋敷に帰って自室に入ると、我が物顔でウィルがジョーをあやしていた。
 デリアは、今晩ウィルが泊る客間を用意しに行ってくれたらしい。



「え……えぇ……ビルとニコライに話があったから、ちょっと遅くなったのだけど、
 ウィルは、何故ここに?」



 ご機嫌のジョーを相手に、ウィルは不敵に笑う。



「公都の情報欲しいって言ってたじゃん!
 明日非番だから、来たのに!」
「そうなの?ありがとう……」



 非番なら、なおさら夜会に行ってほしい気はするのだけど……情報なら、手紙で十分だ。



「特に情報らしい情報は、ないんだけど……
 公世子様が3週間後に大規模な夜会を開くってよ!
 そこには、例の貴族も来るはずだっていう話。
 あと、これは……言っていいのかわかんないけど……」
「何?もったいぶられると余計気になるわ!」
「一昨日の夜会にジョージア様とソフィアが出席してたよ。
 ますます、姫さんに悪い噂が立ってる。
 それでも、姫さんは、夜会に行くのか?」



 心配してくれるウィルの優しさはありがたいが、私は、そんな一個人の感情で動く立場じゃないと思っている。
 それは、この数週間、アンバーで領民たちと少ない時間でも一緒にいたからだ。
 ここの領民のためになるなら、ジョージア様とだって対峙できると……思いたい。
 一人の女性としては、今の話はショックで膝を抱えて丸くなって泣いていたい気分だった。



「当たり前じゃない!
 どんなことがあっても、私が頑張らないといけない気がするもの!
 どんとこいよ!」
「そっか……」



 ウィルは、私の決意を汲んでくれたのか、ただ、強がりだとわかったのかわからない曖昧な顔で私を見つめる。



「じゃあ、その日は、俺とセバス、ナタリーも参加するよ!
 できるだけ、豪華に見栄えするようにしないとな!
 悪女は、悪女らしく男でも侍らしてやったらどうだ?」



 なんて、笑い話になっていく。



「それなら、私がアンナリーゼ様の隣を確保したいところだわ!」



 振り返るとナタリーが勇ましく部屋に入ってくる。



「夜会に行かれるのですね!
 何があっても私達は味方ですから、大丈夫ですよ!」



 ナタリーの言葉は、とても心強い。
 弱虫な私の心をクルっと包んでくれ、前向きになれる。
 ナタリーの強さは、私も見習わなければならない。



「他には、情報はないんですか?
 それだけのために来たの?」
「まぁ、そうだな……他にはない!」
「それなら、ウィルにお願いしたいことが2つあるんだけど、いいかしら?」
「まぁた、なんか企んでる!」



 失礼ね!と私は、頬を膨らませるし、ウィルはそれを見て笑う。
 その何気ない会話に変えてくれることが、何よりありがたかった。



「で、何をご所望ですか?お姫様は」
「1つは、これをエリックに渡してほしいの。
 夜会の1週間前には、必ず公世子様に面会したいのよ!」



 了解っと公世子宛の面会予約の手紙をウィルに渡す。
 面会の日に例の葡萄酒を持参して売り込む予定だ。
 葡萄酒の広告塔第1号は、ローズディアの公世子様である。
 社交的な公世子は、こういうときにはもってこいの人物でなのだ。
 こちらから葡萄酒を紹介だけしたら、後は勝手に宣伝してくれるだろう。



「デリア、いいところに来てくれた!」



 部屋にちょうど入ってきたデリア。



「おかえりなさいませ、アンナ様!」
「ただいま!
 それでね、私、明後日に1度公都に戻ろうと思っているの」



 さっしのいいデリアは、頷く。



「こちらに私は残ればいいのですね?
 ネズミ狩りは、もう少し後になりそうですからね!」
「そうね、お願いできるかしら?」
「仰せのままに!」
「ナタリーには、悪いんだけど、もうしばらくジョーをお願いしたいの。
 一緒に公都に戻ってくれるかしら?」
「わかりましたわ!
 夜会の日は、どうしますか?」
「信頼できる侍女は、公都の屋敷にはいるから大丈夫。
 ディルにもそこはお願いするつもりよ!
 それに、誰も私が一人寂しく公世子様の夜会に参加するなんて思ってもいないでしょ?
 突然行ってビックリさせたいから、参加するっていう噂は一切出さないでね!」



 アンナリーゼ杯という非公式な冠杯以外、実のところ、私はどこにも行っていないことになっている。
 噂や悪評を気にして、部屋に閉じこもっていることになっているのだ。



「で、2つ目のお願いってなんだ?」



 私達の話に割り込んできたウィル。
 確かに、ウィルと話せる時間はそれほど多くない。



「インゼロ帝国の将軍に会いたい」
「はぁあ?姫さん、正気か?
 てか、あのおっさんに会いたいってどういう風の吹き回し?」
「そう、会いたい!
 試したいことがあるのよ!」



 頭をガシガシっとかきながら、ウィルは大きくため息をつく。



「インゼロ帝国っていうと、アンナリーゼ様、敵対国ですよね?
 そのようなこと……できるのですか?」
「ウィルとセバスなら、できるでしょ?
 なんせ、小競り合いの功労者ですから!」
「まぁな……ただし、それにはちょっと時間をくれ……
 さすがに、インゼロとなるとこっちも慎重に動かないといけないしな」
「わかったわ!
 のんびりはしてられないけど……ウィルにお願いしておけば、安心ね!」



 私の暢気な話にウィルとナタリーは若干目をむく。



「で、おっさんに何を頼むんだ?
 ある程度、目的も知っておきたい」
「砂糖の原料となる植物の種か苗が欲しいのよ!
 確か、国外持ち出し禁止物ではなかったはずよ!
 インゼロの決まった地域でしか育たないから、わざわざ禁止にする意味がないのよね!」
「確かに、砂糖をみて高い高いとぼやいてたもんな。 
 姫さんにとって、砂糖がないのは死活問題だしな……
 それはそうと、そんな代物、アンバーで育つのかよ?」
「ふっふっふっ!
 そこは、ヨハン教授に言質を取ったわ!
 苗か種を手に入れたら、なんとかしてくれるって!
 まぁ、まさか手に入れるだなんて思ってないからこその約束なんでしょうけどね!
 私を舐めてもらっては困るわ!」



 ヨハンさん、ご愁傷様とウィルの声が部屋に響くのであった。
 無理なことは、承知の上だ。
 アンバーの特産品になり得そうなものは、なんでも取り入れたい。
 特に砂糖は、インゼロ帝国から、どこかの国を経由してしか入ってこない輸入品。
 元々が高い上に経由国で関税も上乗せされさらに高い。
 アンバーに来る頃には、さらに高くなるのだ……

 安くできれば、これほどうまい話はないのである。
 砂糖を使ったお菓子の販売もしてもいいだろうし、公都に喫茶店をするのもいいだろう。
 やりたいこともやれることも広がるのだ。

 それに、ニコライが興す商会で、上手に売ればいいのだ。
 それで、領地が潤うなら、問題なんて何もないのだし!
 ほくそ笑むとウィルとナタリー、デリアは、大きなため息をついているのであった。
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