ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

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ユービスのいる町

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 私は、ワンダに案内してもらった石切の町を後にして、一人でユービスのいる町へほてほてと歩いているところだ。

 どこもかしこものどかな風景が続き、奥の方に町の壁が見える。
 向かうのは、あの町だ。
 アンバー領では、3番目に大きな町である。


 町に入ると、この前の報告のときよりは片付いたような気がするが、まだまだ、片付いていない印象の町である。
 そこに、お掃除隊の面々が、テキパキと働いているのを見かけ、私は嬉しくなった。


 お掃除隊とも、町や村への行き帰りや食事のときなど話をするのだが、腐っていた時期が恥ずかしいという人が多い。
 町や村で人々にありがとうと言葉をかけてもらうと嬉しくて、そんな気持ちをずっと忘れていたのだとか……いう。


 きっと、これで、あの飲んだくれどもは、立ち直れるだろう。


 ただし、まだ、山のように仕事はあるので、当分手放せない!
 手放せる頃になると……なんだか、土木工事が得意な隊になりそうだ。
 まぁ、屈強な隊になりそうなので、それはそれでありがたい。
 もちろん、こちらの仕事が終えて警備隊員に戻りたいと言えば、戻すつもりではあるし、そのまま違う仕事に就きたいと言えば、後押しする予定ではある。



「ユービス!」
「アンナリーゼ様!
 お掃除隊が来たので、お越しになると思っていました!
 お迎えに行こうと思っておりましたが、お一人で大丈夫でしたか?
 それに、お恥ずかしい、まだ、全然終わっていなくて……」
「いいのよ!
 大きな町程、時間はかかるもの!
 それに、今日は、予定より早く終わったからお手伝いにきたわ!
 あと、明日なんだけど、例の酒蔵に行こうと思っているの。
 お掃除隊を預かってほしいのと、一緒に酒蔵へ行ってほしいのだけど……」



 私は、ユービスにお願いすると、もちろんですと二つ返事だった。
 今晩、泊るところの確保しないといけなのだが、どうしようかと悩んでいると、ここら辺でも家が確保できなかったということだったので、お掃除隊には町はずれにある教会を使ってもらうことになった。
 そちらの手配もしてくれるようだ。



「アンナリーゼ様は、狭いですが、我が家にお泊りいただいてもよろしいでしょうか?」
「私は、どこでもいいわよ!寝られる場所があれば!」
「すみません、笑われても仕方のない本当にお恥ずかしい家であるんですけど……」
「そんなことないでしょ!ユービスやその家族のものだもの。笑ったりしないわよ!」



 ユービスに案内してもらって、さっそく町を見ることにした。
 前回も見て回ったのだが、それほどじっくり見る時間が取れなかったので、今回は見せてもらうことにした。
 確かにほかの町や村に比べると大きな町で、1周回ると結構な距離だ。


 歩いている途中で、服を売っている店や雑貨、食事処、食料品売り場などもあり、中をこそっと見たり、ユービスから説明を聞きながら歩く。
 やはり、公都より物価が高めだった。



「ユービス、ここら辺のものは、公都に比べると少し値段が高めね?」
「そうですね。
 地産地消の物が少ないから、よそから仕入れているものが多いのです。
 領地で食べ物がもっと生産できるようになると、もう少し下がると思うのですが、
 生産者はいても、生産するための田畑が疲弊していて、売れるようないいものが
 取れないと聞いています。
 なので、作物を作る人が減っていると……」
「なるほどね……
 作物の作り手はいるのね?」
「いますよ!」
「なら、田畑の改良が必要ってことね……メルおばさんも同じこと言ってたわ!」



 私が唸っていると、隣でユービスが笑う。



「どうかして?」
「いえ、アンナリーゼ様は、本当に貴族なのか、公爵夫人なのか、
 たまに疑いたくなりますね……?」
「どういうこと?」
「発想が、庶民的というか……私達の生活をよくご存じのような口ぶりで」
「まぁ、欲望のまま、したいように動くと大体、みんなが調整してくれて
 思い通りになってるのが現状ね!
 庶民的って言われたのは、初めてだけど……
 領民の生活に役に立つようなことなら、他の領地で試していることとか成功例とかは、
 どんどん取り入れていきたいわね!」



 驚き半分苦笑半分というところだろう。



「どうして、そこまでされるのですか?
 ご存じの通り、見捨てられた領地だというのに……」
「ジョージア様は、決して見捨てたわけじゃないわよ。
 ただ、一人で領地運営をしようとして、うまくできていないだけなんだと思う」



 ユービスが私を訝しんで見ている。



「ヨハンって知ってる?」
「はい、もちろんです!
 あの方のおかげで、何人も人が助かってますから!」
「そう、そういうのは知らないのだけど……また、それは聞かせて!
 で、そのヨハンがいうにはね……私達フレイゼン侯爵家の人間は、とても変わっている
 のですって!
 興味があれば、どんな人間にでも頭を垂れ教えを乞う。
 そして、最善策を講じるらしいのよ。
 自覚なんて全くないから、私はさっぱりだけど……
 貴族には、それが出来ない人が多いから、躓くと立ち直りが難しいんだって」



 私は確かに身をもって感じている。
 義父もジョージアも誰にも頼ろうとせずに、領地運営をしようとしていた。
 わからないことがあれば、自分で調べていると、確か、ジョージアは言っていたはずだ。



 私は、一度ならず何度もジョージアには、提言したはずだった。
『わからないことがあれば、知っている人に聞けばいいのですよ』と。
 でも、それができていないから、改善されず、領民からも他領からも、領主に見捨てられた領地と言われているのだろう。

 それも、歯がゆかった。

 ジョージアが、頑張っている姿を知っているからこそ、この現状が悔しいような悲しいような何とも言い表せない気持ちに私はなる。



「私、アンバーにお嫁に来てから、ずっと領地運営には関わってこなかったの。
 でも、これからは、ちゃんと、関わることにするわ。
 必ず、この地を盛り返してみせるから……!」
「ありがとうございます。
 アンナリーゼ様は、お強い方ですね。
 私どもは、公都での噂も聞き及んでいます。
 なので、正直、今回のことは、驚くばかりでした。
 あなた様が、この地にいらしてくれたこと、神に感謝してもしきれません」



 私は、大仰にいうユービスを笑う。



「まだ、私は、何一つできてないわ!
 これから、一つ一つ積み上げていかないといけないのよ!
 あと9年の間に、私は、ローズディアで1番素敵な領地を目指します!」
「あと9年ですか?
 その期間には、何かあるので……?」



 曖昧に私は笑う。
 私の寿命までの時間だからだ。



「何もないわ!
 でも、ジョーが10歳になるまでには、誇れるアンバー領にしたいのよ!」



 にっこり笑いかけると、ユービスもそうですかと笑い返してくれる。



 アンバー領の人が、少しでも幸せに暮らせるように、それが今の私の願いである。
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