上 下
205 / 1,480

明日までに

しおりを挟む
「アンナリーゼ様、お話は伺いました。
 本日、屋敷に戻り旦那様に直接お話してきます。
 表向きは、私の預かるところとしてでいいでしょうか?」



 ディルの申出は、私とジョージアの微妙な関係性を考えてくれているのだろう。



「えぇ、お願い。
 それで、ジョージア様が納得してくれるなら、なんでもいいわ!
 それと、デリアをこちらによこしてほしいのよ!
 そのときにナタリーの囲っている女性を連れてきてくれると助かるのだけど……」
「かしこまりました。
 では、早速、公都へ戻ります!」
「待って!
 掃除って……何がいる?
 私、したことがないのよ……」



 どこか不安げに、ディルに掃除の仕方を聞く私の姿は、どうしても変だ。
 貴族なのだから、それも、公爵夫人なのだから……掃除なんてする必要もないのだ。



「まさか、アンナリーゼ様がお掃除されるのですか?」
「えっ……?
 ち……違うわよ!お掃除隊に何を与えたらいいのか……と思って。
 道具も必要でしょ?」
「あぁ、そうですね!すっかり忘れていました」



 ここには、アンバー領の大店の店主が揃っている。



「僭越ながら……
 まず、ゴミ拾いをするところから始めるので、手袋、ゴミ袋が必要になります。
 そのあと、一旦履き掃除になりますから、箒、塵取りですね。
 次に、デッキブラシというもので水を撒いて石畳を洗いますから、デッキブラシと
 バケツが必要です。
 そのあと、他のところも拭き掃除も必要になる可能性がありますから、雑巾。
 すべて、終わりましたら、今度は、その辺で転がっている人たちにお風呂を
 用意するべきです。
 汚いから、汚いままでいいと思っていては、いつまでたっても汚いままですから!
 そのあと、皆さんも働かれているので、お風呂は入りたいと思いますので、
 お湯は、多めにご準備ください。
 そして、体をふくバスタオルに新しい着替えですね。
 汚い服を着直すのであれば、意味がありませんから……
 古着でいいので、準備してあげてください」



 ディルの必要なものリストを報告書に商人たち4人は、スラスラっと書いていく。



「では、私は、これにて失礼いたします。
 明日には、デリアとエマをこちらに来させますので、アンナリーゼ様は
 くれっぐれも、無茶はしないようお願い申し上げます」



 恭しく礼をして、ビルの家から出ていくディルの背中を黙って見送るだけであった。
 だって、ものすごく、余計なことはするなって釘を打たれてしまった。
 何をするか……バレているということだ。



「ディルって何でもお見通しなのかしら……?」
「さぁ、わかんないけど、只者ではないことはわかる」
「だよね?」



 私の質問にウィルは、頷いて答えてくれた。



「では、さっきディル様に言われたものの在庫を確認しないと……」
「服とバスタオルなんだけど……
 領民たちにもらえないかしら……もう、着られないとか、捨てる予定の服とか」
「どうでしょうな……
 明日、同時に募集してみましょうか?」
「いらない服をください!って集めてみましょうか……?」
「明日と言わず、今からしてくるよ!
 下行ってくる!」


 ニコライは、階下の店の前に立ち服やバスタオル、古いタオルなど回収について、叫び始める。
 ついでに、古くなった箒やデッキブラシがないかとも。



「ビル、あんたの息子は、相当アンナリーゼ様に鍛えてもらったんだな?
 行動力に発想が、ずば抜けている!」



 ニコライをテクトに褒められ、ビルは微笑んで喜んでいる。
 それほど、ニコライの成長は如実なのだ。



「私、そんなに、無理難題は言ってないわよ!」
「そうですね……
 あの子が、アンナリーゼ様のいかなることにも応えられるよう求められること
 以上に動き回ってます。
 無駄足になることもあると言ってましたが、決して、そんなことはないと
 私は、常々思っていますよ!
 それに、ニコライが私の子供の中では、1番成長していると感じています。
 ニコライは、素晴らしい人と出会えたと、私は誇りに思っておるしだいです」



 ビルにそんな風に言われるとなんだか照れるが、私もニコライの頑張りは知っている。
 領地で生まれ育った、そのニコライの願いでもあるのだ。
 私もその想いに応えられるようになりたいと思う。



「我々も帰って準備をしなくては……
 ニコライに負けていられませんからな!」
「そうです!
 アンナリーゼ様のお掃除隊にも道具は必要でしょうしね!」
「私、口だけで、何もできなくて……ごめんね」
「そんなことないですよ!
 あなた様がいたからこそ、私達も領地を復活させたいと願えるのです!」
「うん、テクト。ありがとう!
 一緒に、頑張ろうね!!」



 私に応えるよう頷き2人の商人は、それぞれの町へ帰っていく。



「アンナリーゼ様、そこそこ集まってきたよ!」



 1時間程、店の前で回収作業をしていたニコライ。
 結構な量の服やタオルを持って部屋に帰ってくる。



「道具は、さすがに集まらなかったけど、服は結構集まった。
 まだ、足りないかな……?」
「うぅん、ありがとう!
 ニコライは、本当に成長したわね!」
「えっ?そうかな?」



 私は、ニコライに微笑んで頷く。
 とても、嬉しそうにしてくれる。



「明日は、私も出るから……
 私に合いそうな服ってあるかな?
 2着、欲しいわ!」



 そういうと、服を選んでいく。



「アンナリーゼ様!」



 パルマに叱られそうだが、そんなのお構いなくだ!



「ニコライ、僕もお願いしていいかな?
 1日だけしかできないけど、お手伝いしていくよ!」
「んじゃ、俺も!
 姫さんの後くっついていくわ!」



 ウィルとセバスもお掃除隊に参加するようだ。
 自然と、パルマも手を出している。



「みんな、ありがとう……
 がんばろうね!」


 私達は、明日を思い、今日は帰って休むことにしたのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

悲恋を気取った侯爵夫人の末路

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。 順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。 悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──? カクヨムにも公開してます。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

婚約破棄の場に相手がいなかった件について

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵令息であるアダルベルトは、とある夜会で婚約者の伯爵令嬢クラウディアとの婚約破棄を宣言する。しかし、その夜会にクラウディアの姿はなかった。 断罪イベントの夜会に婚約者を迎えに来ないというパターンがあるので、では行かなければいいと思って書いたら、人徳あふれるヒロイン(不在)が誕生しました。 カクヨムにも公開しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

処理中です...