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アンナリーゼ杯からさらにひと月。
私は、ウィルの中隊と一緒にアンバー領へ向かう街道を馬に乗って進んでいる。
ウィルたちは、アンバー領手前にあるコールディア領の草原で演習をするらしく、アンバー領へ向かう私もそれに同行することになった。
護衛も兼ねてくれるので、とても楽だ。
ちなみに、今日からの遠出に、ジョーは置いてこようとしたのだが、1週間も帰って来ないって話したら、ディルからの要望で連れてきたのだ。
ただ、小さな体には、堪えるだろうという配慮から、軍行といえど、ゆっくり移動してくれる。
軍の中間に馬車をつけているので時間がかかる。
往復で10日の旅となる予定となった。
「姫さん、大丈夫か?」
「えぇ、私は大丈夫。
ジョー達も大丈夫かしら?」
後ろを振り向き確認をするとエリックが、手を振ってくれる。
私はというと今現在は、先頭で、ウィルと並びながらパカパカと歩くレナンテの背に揺られているところだ。
ちなみにこのレナンテを見て隊員たちの反応は大きく2通りあった。
まずは、レナンテのことを知っていて、相手にされなかった人たちだ。
大人しく私の指示に従っている姿に驚いていたり羨ましがったりしている。
隣にいるウィルもそのうちの1人だと言うから笑ってしまった。
あとは、レナンテを知らない隊員たちだ。
牝馬であるにもかかわらず馬格もよく、立ち姿も美しい。
丸みのあるお尻は牝馬特有であるが、胸筋やらどこかしこの筋肉は程よくついているのに柔らかそうに見える。
一言で言えば、かなり美しい女の子なのだ。
最初、私は、隊の真ん中あたりに、ジョーたちが乗っている馬車の横をレナンテに揺られ歩いていたのだ。
そうすると、レナンテを意識しているのか、前を歩く牡馬たちが全く歩かなくなってしまった……
レナンテは、知ってか知らずか、しっぽをご機嫌に振って歩いている。
「罪作りなレナンテ……」
呟いていると、1番前にいたウィルに先頭に来てくれと頼まれたのである。
代わりにエリックが馬車の横についてくれ、様子を伝えてくれる。
牝馬たちは、きっと牡馬たちに向かって悪態をついていることだろう……
レナンテが先頭で歩き始めると、急に進行が早くなったからだ。
みんな、美人が好きなのね……
でも、この子は、この隊には好みの子はいないみたい。
ツンツンしながら、気品に満ちた歩みをしていく。
「姫さんの馬、姫さんそっくりだな!
そいつもじゃじゃ馬だろ?」
「失礼ね!って言いたいところだけど、その通りのじゃじゃ馬よ!
私の方が上手らしいのだけど……!」
訳知り顔で笑うウィル。
ウィルは、学園のときの話をし始める。
「姫さんと仲良くなりたい奴、いっぱいいたなぁ!
まぁ、ハリーくんが片っ端からお断りしてたけど、まさにこんな感じ!」
なんて、ウィルは、後ろの馬達を指さしコロコロ笑い始める。
私は、思い出しながら、ウィルと一緒に笑う。
「そういえば、ウィルはアンバー領へ行ったことあるの?」
「アンバー領はないなぁ。
姫さんと回れるの結構楽しみなんだよな!」
「そうなの?
でも、隊はどうするの?
ウィルがいないと困るでしょ?」
「あぁ、うん、一応、俺が中隊長ってことになっているんだけどね、
この前、姫さんが公世子様に杯の優勝景品に俺の名前出しただろ?」
「うん、それで、中隊長外されたの?」
「いや、姫さんのお呼びがかかるまでは、中隊長。
でも、引継ぎうんぬんもあるからセシリアが小隊長と兼任で副官になったんだ。
エリックも、今日はこっちにいるけど公世子様のほうに呼ばれることもあるからさ」
公世子のはからいで、ウィルの今後のためにイロイロ動いてくれているようだ。
なんだか、申し訳ない気がするけど……
でも、これでいつでも準備万端だとウィルは嬉しそうにしてくれる。
2日の旅で、やっとアンバー領地にあるお屋敷につく。
初めて来たので、私もさすがに緊張した。
「こんばんはー!」
門前で叫ぶと中から侍女らしい人が出てくる。
少し、丸いその人は私を見ていぶかしむ。
普通、玄関での取次は、執事や侍女が行うものなのだ。
なのに、男装した私がドアの前で立っている。
さらにその後ろには、軽く装備をつけたウィルとちょっと神経質ぽいセバス、ジョーを抱いたナタリー、あとは僕が対応すればよかったと頭を抱えるパルマがいるのだ。
「あの……どちら様ですか?」
「アンナリーゼ・トロン・アンバーです!」
自己紹介をして、アンバー公爵家の家紋を見せる。
アンバー公爵家の家紋は、領地のものなら誰でも使えるので、公爵家のみ真ん中にアンバーが入っている紋章を持っている。
「えっ?
お……奥様ですか?」
「はい、奥様ですよ!」
そういうと、後ろで笑いをこらえていたのかウィルが笑い始めた。
クハハハ……
ちょっと!と、ウィルを睨んだし、セバスも袖を引っ張ってくれていたが、笑いが止まらないようだ。
「後ろのは、気にしないで!
ディルから手紙がいっているはずだけど……?」
私はおかしいわね?と頬に手を当て首を少しかしげる。
「ディル様からは、伺っています!
どうぞどうぞ!」
「ありがとう!」
にっこり笑って屋敷に入れてもらう。
まずは、応接室に入れてもらい、領地屋敷の執事が大慌てで挨拶に来た。
「奥様、ご挨拶遅れ、大変申し訳ございません!」
震えながら、私に平謝りだ。
「いいのよ!
気にしないで!
ところで、お名前を聞いても?」
私達の目の前にいるのは、2人の男性と1人の女性だ。
「私は、執事のホルンです。
こっちは、私の妻で奥様の滞在期間侍女をさせていただきますヒラリーで
こっちは、領地管理をしているトーマスです」
「そう、短い間だけど、よろしくね!」
「はい、こちらこそよろしくお願いいたします。
早速ですが、お食事になさいますか?」
私は、左右を見渡すと頷いているので、そうすることにした。
「悪いのだけど、銀の食器ってある?」
「銀ですか?」
「そう。
銀の食器で食事の用意してほしいのよ!」
「あぁ、そうでした……
ディル様から伺っております。
では、準備いたしますので、それまでごゆるりとお休みください!」
3人は、出ていった。
私は、気になった人がいる。
ウィルにチラっと視線を送ると、頷いている。
何か感じたのだろう。
「今回は、何もしないわよ!
視察だけね!」
それだけ言うと、皆が頷く。
「明日からなんだけど、ナタリーは基本屋敷でジョーを見ていてほしいの。
残りは、代わり交代で私に付き添って!」
それぞれが頷いてくれる。
でも、護衛を考えると、常にウィルがここにいる方がありがたいのだがなぁ……と思っていると、明日の朝からエリックも合流するとのことだ。
では、ナタリーとエリックをここに残し、後は、入れ替わりで町や農村など行くことにした。
お食事の用意ができましたとヒラリーが私たちを呼びに来てくれる。
そこに並んだのは、とても豪勢な晩餐だった。
どれもこれもとてもおいしかった。
「ヒラリー、今日は、歓迎してくれてありがとう!
明日からは、質素なもので大丈夫よ!
あなたたちと同じものを出してくれる?」
「奥様、そういうわけには……」
「大丈夫、私達、軍行についてきたのだから、もっと粗悪なものしか食べていないわ!」
「一応、ホルンに相談させていただきます!」
「うん、よろしくね!」
ヒラリーは、困り顔で食堂から出ていった。
私達は、楽しく晩餐をいただくのであった。
私は、ウィルの中隊と一緒にアンバー領へ向かう街道を馬に乗って進んでいる。
ウィルたちは、アンバー領手前にあるコールディア領の草原で演習をするらしく、アンバー領へ向かう私もそれに同行することになった。
護衛も兼ねてくれるので、とても楽だ。
ちなみに、今日からの遠出に、ジョーは置いてこようとしたのだが、1週間も帰って来ないって話したら、ディルからの要望で連れてきたのだ。
ただ、小さな体には、堪えるだろうという配慮から、軍行といえど、ゆっくり移動してくれる。
軍の中間に馬車をつけているので時間がかかる。
往復で10日の旅となる予定となった。
「姫さん、大丈夫か?」
「えぇ、私は大丈夫。
ジョー達も大丈夫かしら?」
後ろを振り向き確認をするとエリックが、手を振ってくれる。
私はというと今現在は、先頭で、ウィルと並びながらパカパカと歩くレナンテの背に揺られているところだ。
ちなみにこのレナンテを見て隊員たちの反応は大きく2通りあった。
まずは、レナンテのことを知っていて、相手にされなかった人たちだ。
大人しく私の指示に従っている姿に驚いていたり羨ましがったりしている。
隣にいるウィルもそのうちの1人だと言うから笑ってしまった。
あとは、レナンテを知らない隊員たちだ。
牝馬であるにもかかわらず馬格もよく、立ち姿も美しい。
丸みのあるお尻は牝馬特有であるが、胸筋やらどこかしこの筋肉は程よくついているのに柔らかそうに見える。
一言で言えば、かなり美しい女の子なのだ。
最初、私は、隊の真ん中あたりに、ジョーたちが乗っている馬車の横をレナンテに揺られ歩いていたのだ。
そうすると、レナンテを意識しているのか、前を歩く牡馬たちが全く歩かなくなってしまった……
レナンテは、知ってか知らずか、しっぽをご機嫌に振って歩いている。
「罪作りなレナンテ……」
呟いていると、1番前にいたウィルに先頭に来てくれと頼まれたのである。
代わりにエリックが馬車の横についてくれ、様子を伝えてくれる。
牝馬たちは、きっと牡馬たちに向かって悪態をついていることだろう……
レナンテが先頭で歩き始めると、急に進行が早くなったからだ。
みんな、美人が好きなのね……
でも、この子は、この隊には好みの子はいないみたい。
ツンツンしながら、気品に満ちた歩みをしていく。
「姫さんの馬、姫さんそっくりだな!
そいつもじゃじゃ馬だろ?」
「失礼ね!って言いたいところだけど、その通りのじゃじゃ馬よ!
私の方が上手らしいのだけど……!」
訳知り顔で笑うウィル。
ウィルは、学園のときの話をし始める。
「姫さんと仲良くなりたい奴、いっぱいいたなぁ!
まぁ、ハリーくんが片っ端からお断りしてたけど、まさにこんな感じ!」
なんて、ウィルは、後ろの馬達を指さしコロコロ笑い始める。
私は、思い出しながら、ウィルと一緒に笑う。
「そういえば、ウィルはアンバー領へ行ったことあるの?」
「アンバー領はないなぁ。
姫さんと回れるの結構楽しみなんだよな!」
「そうなの?
でも、隊はどうするの?
ウィルがいないと困るでしょ?」
「あぁ、うん、一応、俺が中隊長ってことになっているんだけどね、
この前、姫さんが公世子様に杯の優勝景品に俺の名前出しただろ?」
「うん、それで、中隊長外されたの?」
「いや、姫さんのお呼びがかかるまでは、中隊長。
でも、引継ぎうんぬんもあるからセシリアが小隊長と兼任で副官になったんだ。
エリックも、今日はこっちにいるけど公世子様のほうに呼ばれることもあるからさ」
公世子のはからいで、ウィルの今後のためにイロイロ動いてくれているようだ。
なんだか、申し訳ない気がするけど……
でも、これでいつでも準備万端だとウィルは嬉しそうにしてくれる。
2日の旅で、やっとアンバー領地にあるお屋敷につく。
初めて来たので、私もさすがに緊張した。
「こんばんはー!」
門前で叫ぶと中から侍女らしい人が出てくる。
少し、丸いその人は私を見ていぶかしむ。
普通、玄関での取次は、執事や侍女が行うものなのだ。
なのに、男装した私がドアの前で立っている。
さらにその後ろには、軽く装備をつけたウィルとちょっと神経質ぽいセバス、ジョーを抱いたナタリー、あとは僕が対応すればよかったと頭を抱えるパルマがいるのだ。
「あの……どちら様ですか?」
「アンナリーゼ・トロン・アンバーです!」
自己紹介をして、アンバー公爵家の家紋を見せる。
アンバー公爵家の家紋は、領地のものなら誰でも使えるので、公爵家のみ真ん中にアンバーが入っている紋章を持っている。
「えっ?
お……奥様ですか?」
「はい、奥様ですよ!」
そういうと、後ろで笑いをこらえていたのかウィルが笑い始めた。
クハハハ……
ちょっと!と、ウィルを睨んだし、セバスも袖を引っ張ってくれていたが、笑いが止まらないようだ。
「後ろのは、気にしないで!
ディルから手紙がいっているはずだけど……?」
私はおかしいわね?と頬に手を当て首を少しかしげる。
「ディル様からは、伺っています!
どうぞどうぞ!」
「ありがとう!」
にっこり笑って屋敷に入れてもらう。
まずは、応接室に入れてもらい、領地屋敷の執事が大慌てで挨拶に来た。
「奥様、ご挨拶遅れ、大変申し訳ございません!」
震えながら、私に平謝りだ。
「いいのよ!
気にしないで!
ところで、お名前を聞いても?」
私達の目の前にいるのは、2人の男性と1人の女性だ。
「私は、執事のホルンです。
こっちは、私の妻で奥様の滞在期間侍女をさせていただきますヒラリーで
こっちは、領地管理をしているトーマスです」
「そう、短い間だけど、よろしくね!」
「はい、こちらこそよろしくお願いいたします。
早速ですが、お食事になさいますか?」
私は、左右を見渡すと頷いているので、そうすることにした。
「悪いのだけど、銀の食器ってある?」
「銀ですか?」
「そう。
銀の食器で食事の用意してほしいのよ!」
「あぁ、そうでした……
ディル様から伺っております。
では、準備いたしますので、それまでごゆるりとお休みください!」
3人は、出ていった。
私は、気になった人がいる。
ウィルにチラっと視線を送ると、頷いている。
何か感じたのだろう。
「今回は、何もしないわよ!
視察だけね!」
それだけ言うと、皆が頷く。
「明日からなんだけど、ナタリーは基本屋敷でジョーを見ていてほしいの。
残りは、代わり交代で私に付き添って!」
それぞれが頷いてくれる。
でも、護衛を考えると、常にウィルがここにいる方がありがたいのだがなぁ……と思っていると、明日の朝からエリックも合流するとのことだ。
では、ナタリーとエリックをここに残し、後は、入れ替わりで町や農村など行くことにした。
お食事の用意ができましたとヒラリーが私たちを呼びに来てくれる。
そこに並んだのは、とても豪勢な晩餐だった。
どれもこれもとてもおいしかった。
「ヒラリー、今日は、歓迎してくれてありがとう!
明日からは、質素なもので大丈夫よ!
あなたたちと同じものを出してくれる?」
「奥様、そういうわけには……」
「大丈夫、私達、軍行についてきたのだから、もっと粗悪なものしか食べていないわ!」
「一応、ホルンに相談させていただきます!」
「うん、よろしくね!」
ヒラリーは、困り顔で食堂から出ていった。
私達は、楽しく晩餐をいただくのであった。
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