上 下
185 / 1,508

第1回アンナリーゼ杯Ⅳ

しおりを挟む
「ウィル?」
「何?姫さん!
 ………………何か聞いたの?」



 私は、満面の笑みをウィルに向ける。



「いや、それ、俺の提案じゃなくて……
 あの、ほら、公世子様がね……って、聞いてる?」



 さらにニコニコと口角が上がっていく。



「だぁ!!!
 だから、景品にしない方がいいって言ったのに!」
「そこに座りなさい!」


 私の一喝で、地べたに正座させられるウィル。
 中隊長となったのに何をやらされているんだと皆の興味をそそったようだ。



「どういうことか、説明なさい!」



 私は、高圧的にウィルに説明をすよう要求する。



「いや、だから!
 元は、もっと身内的な試合だったんだ。
 うちの中隊員からも要望があったし、姫さん、この訓練場では人気ものだしさ!
 それで、近衛団長に試合形式で大会をしたいって相談に行ったんだ」



 腕を組み、仁王立ちをしながら正座したウィルを見下ろして、胡乱な目を向けながら頷く。
 ウィルは、逆に、怯えたような顔で、私を覗き込んでいる。



「それから?」
「近衛団長も姫さんに興味があると言い始めて、どうせなら、近衛全体の
 研鑽のために大会を開こうじゃないかって話になったわけよ?」



 そこまでは、納得できる。
 何故、景品が私なのだろう?



「で、そこで優秀な成績を収めたものには、公世子様の近衛になることにすると
 公世子様に進言したらしい。
 そしたら、元々アンナリーゼと試合をするための大会なら、いっそ景品に
 してしまった方が、士気も上がるし、よりよい人材も集まるんじゃないかって
 公世子様と近衛団長との話になっていったわけだよ!」



 俺、悪いとこなくない?とブツブツ呟やいている。
 確かに今のを聞くと、どこもウィルは、悪くないような気がする。




「俺が、優勝するからさ、許してよ!」
「なんで、ウィルが優勝するわけ?
 優勝は、私でしょ!?」



 素っ頓狂な声で驚く周り。


 うん、必ず優勝してみせる!
 だって、私の冠杯だもの!



「ねぇ?私が優勝したら、何もらえるの?」
「それは、しらないなぁ……」
「そう……」



 私は、正座しているウィルに手を差し伸べて立たせると、また、ニッコリする。



「私が勝ったら、ウィルとセバスをいただくことにするわ!」
「はっ?」
「元々、引き抜きしたかったのよね!
 お手伝いじゃなくて……あなたが、欲しいの!」



 人差し指で、ウィルの胸を突くと、ウィルは、顔を真っ赤にしていた。


 大丈夫?と、私はウィルを覗き込む。



「いや……熱烈な……」



 周りからは、何故か冷やかされ、さらにウィルは熟れたトマトのようだ。
 それ以上は、言葉にならなかった。



 4試合目のコールがされ、ウィルの出番となったが、ふらふらと試合会場に行ってしまった。
 本当に大丈夫だろうか?



「アンナリーゼ様……」
「エリック、どうしたの?」
「いえ……何故、ウィル様だけを?」
「正確には、ウィルとセバスよ!
 エリックは、浮かない顔しているけど……」



 エリックは、首を横にぶんぶんと振っている。



「アンナリーゼ様、僕も一緒にとは……ダメでしょうか?」
「それは、私に引き抜かれたいってこと?」



 エリックは、これでもかってぐらい、上下にコクンコクンと頷いている。



「ダメじゃないわよ?
 ただ、ここにも誰か信用のおける人がいてほしいと思うわ!」
「信用のおける人に、僕はなれますか?」
「しているわよ!
 あなたを一目見たときから、きっと、ウィルがそういう風に育ててくれるって
 確信してたから!」



 私の言葉に驚いているエリック。
 そんなに驚くほどのことではない。
 本当に、エリックを見たとき、感じるものがあったのだ。



「エリック、あなたは庶民からの叩き上げだけど、今では、ウィルの立派な副官だわ!
 若いのによく気が付くし、人を動かすのも、事務仕事もどれをおいても
 とても優秀だって聞いてる!
 どうせなら、頂きを目指しなさい。
 あなたなら、できる気がするの!
 ウィルも相当苦労しているみたいだから、決して、楽じゃないでしょうけどね!
 期待している!
 なんたって、ジョーの指南役になってくれるのでしょ?」



 私は、エリックにニッコリ笑いかける。



「覚えてくれていたのですか?
 笑い話の一つだと思っていました……」
「えぇ、覚えていてよ!
 私が見込んだあなたの腕を、子供にも伝えてあげてほしいの。
 だから、今後は、絶対、剣を握ったら、相手を見下さない、舐めない、
 手を抜かない、いつでも全力で叩き潰しなさい!
 その姿をみて、後ろからついてくる人もいるのだから!」
「わかりました!
 昨日は、どうかしていましたね……
 アンナリーゼ様が言われることは、もっともだと思います」



 私は、背伸びをしてエリックの頭を撫でる。
 嬉しそうにはにかんでいる姿が、まだ子供だなぁと思いながら、きっとエリックなら大丈夫だろうと思った。




 今日は、先にエリックの試合の方が先にコールされる。
 私は、取り残されてしまった。



「アンナリーゼ様は、ああやって人を誑し込んでいくんですね!」



 振り返るとパルマが、訳知り顔で頷いていた。
 その耳には、アメジストのピアスが光っている。



「誑し込むだなんて……
 私は、いつでも思ったことしか言ってませんよ?」
「そうなのでしょうけど、エリックは、きっと欲しかった言葉をもらえたはずです」
「そうかしら?
 そうだと、嬉しいわね!」



 パルマに向かって笑いかける。


「僕も、何故、アンナリーゼ様と同級生に生まれなかったのか……
 残念に思ったこともありますが、僕は、きっと年下に生まれて、
 あなたの側で勉強して、あなたの思うような文官になれるよう努力するため
 だったのではないかと最近考えています。
 アンナリーゼ様って、いつも変なことを言い始めるから……
 おもしろくて、たまりませんね!」
「おもしろいって、失礼ね!
 私はいつでも、本気だし、大真面目なんですけど!」



 私は、パルマに向かって、むぅっと怒っているのですよ頬を膨らませる。





「やっと勝てた……」



 そこにウィルが、帰ってきた。



「遅かったわね?」
「誰のせいだよ!
 俺、危うく負けるとこだった……」
「私のせいじゃないわよ!
 負けそうになったのは、ウィルが集中しなかったせいでしょ?」
「そりゃそうだ!」



 ウィルは、当たり前のことを言われたといい笑い始める。
 そこにエリックも帰ってきた。
 ホコホコ顔ってことは、勝ったのだろう。




 次は、私の番のようだ。
 試合会場から、コールが聞こえる。



「じゃあ、行ってくる!!」


 ウィルたちに手を振って、私は試合会場へ駆けていくのであった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

死神と乙女のファンタジア

川上桃園
恋愛
 貴族の名家に生まれながら、庶子として不遇な扱いを受けてきたヴィオレッタ。  彼女は、異母妹カルロッタの身代わりとして何年もの間投獄されていた。数少ない慰めが、レースを編むことと時々訪問する死神《アンクー》と話すことだった。  だが牢獄で出会った老婆から自分が本当のラヴァン家の嫡子だと知り、数年ぶりに会った異母妹から「おまえは一生、わたくしの身代わりなのよ」と蔑まれ、復讐を決意した。 ――カルロッタは私の大切なものをすべて奪ってきた。ならば今度は、私がすべてを奪ってやりたい。  ヴィオレッタは幼い頃に出会った死神《アンクー》と契約することで、類まれなる幸運と素晴らしい才能を授かる。彼女は見目麗しい青年の姿となった死神《アンクー》とともに故郷を出る。  その五年後。ヴィオレッタは北の公国を治める大公の公的な愛妾としての地位を築いていた。女嫌いの大公だが、彼女のことは気に入り、信頼できる相談相手として傍に置いたのだ。死神《アンクー》は愛妾のしきたりに従い、彼女の夫を名乗って彼女を支えている。  そこへ敗戦国となった故郷からの使者としてラヴァンの当主夫妻……そしてカルロッタもやってくる。  かくして、死神と乙女の復讐の舞台の幕が上がる。  異母妹と家族へのざまあ要素あり。  復讐のため死神と契約した乙女×彼女を心配する古なじみの死神×ひそかに乙女に執着する北の大国の大公の三角関係要素あります。   エブリスタ・なろうでも連載中。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

さよなら私の愛しい人

ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。 ※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます! ※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

「あなたの好きなひとを盗るつもりなんてなかった。どうか許して」と親友に謝られたけど、その男性は私の好きなひとではありません。まあいっか。

石河 翠
恋愛
真面目が取り柄のハリエットには、同い年の従姉妹エミリーがいる。母親同士の仲が悪く、二人は何かにつけ比較されてきた。 ある日招待されたお茶会にて、ハリエットは突然エミリーから謝られる。なんとエミリーは、ハリエットの好きなひとを盗ってしまったのだという。エミリーの母親は、ハリエットを出し抜けてご機嫌の様子。 ところが、紹介された男性はハリエットの好きなひととは全くの別人。しかもエミリーは勘違いしているわけではないらしい。そこでハリエットは伯母の誤解を解かないまま、エミリーの結婚式への出席を希望し……。 母親の束縛から逃れて初恋を叶えるしたたかなヒロインと恋人を溺愛する腹黒ヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:23852097)をお借りしております。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

処理中です...