ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

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第1回アンナリーゼ杯Ⅲ

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 私のお遊びの延長、ウィルの提案で開催が決まったこの冠杯。
 今日は、予選2日目だった。



「おはよう!」
「はよ!
 姫さん、今日はいきなり中隊長?」



 そうなのだ。
 私、今日、1試合目から強い人とあたるのである。
 緊張?はないけど、ワクワクしすぎて、寝不足だ。



「そうなの!
 第3中隊長ディーノって、どんな人?」
「あぁ、俺はあんまり知らない。
 中隊長っていっても、こんだけの中で7人しかいないし……
 ずっと、インゼロとの境目にいた人だから……」
「へぇーそうなんだ?
 じゃあ、かなり、強そうね?
 どうして今日は参加なのかしら?」
「なんか知らないけど、こっちに帰ってきてたらしい。
 報告か何かじゃない?」



 ふぅーんと、興味なさげに1試合目へ向けて、私は、体をほぐし始める。




「ウィル、引っ張って!」



 腕を軽く引っ張ってもらって、絶賛ストレッチ中だ。



「いたたたたたた……
 引っ張りすぎ!!」




 2人で体をほぐしていると、エリックものそのそと歩いてくる。



「おはようございます……」
「おはよー寝不足?」
「はい……
 夕べは、ちょっと連れ回されて……」



 エリックが、ウィルの方を軽く睨んでいると言うことは、ウィルを筆頭に100人斬りメンバーと飲み歩いたのだろう。
 ただ、エリックは、まだ飲めない歳だから、飲んだくれたウィルたちの介抱に勤しんだ結果だと思うとなんだか気の毒だ。



「ウィル!」
「はい!」
「エリックに謝りなさい!
 昨日、連れ回したのでしょ?」
「……なんで、わかんだよ……
 エリック、悪かった……」
「いえ……」



 ふあぁ……とあくびをして、とても眠そうなエリックも今日の予選は、強敵揃いだ。



「今日は、強い人多いんでしょ?
 そんなので大丈夫?」
「大丈夫じゃないです。
 アンナリーゼ様、僕を抱きしめてください」
「はぁあ?
 姫さんに抱きしめてって……
 エリック、ちょっと調子乗りすぎ!」



 ウィルは、不機嫌そうにエリックに詰め寄っているが、別に構わない。




「エリック!」



 はい、おいで!と両腕を広げてぴょんぴょんと跳ねる私。




「……アンナリーゼ様……!!」



 半べそかきながら、私に抱きついてくる。
 もちろん、ウィルを押しのけて私に近づいてきた。
 私より大きいエリックは、さながら大きな子供みたいだ。
 よしよしと撫でると、はぁ……とため息が聞こえてくる。




「ありがとうございました!
 これで、頑張れそうです!!」



 さっきの眠そうな顔は、なんだか、スッキリしている。



「あの……姫さん?」
「ん?何?
 あぁあ……!!」



 次は、ウィルの方を向いて同じようにする。
 すると、ちょっと恥ずかしそうにしながら、近寄ってくる。



「えっ?
 俺もいいの?
 ホントに?」
「早くしないと、ハグしてあげないよ?」
「あっ!じゃあ、僕もう一回……!」



 エリックが、また、寄ってこようとしたところ、スッと私に抱きついてきたウィル。
 よしよしと背中を撫でてあげる。



「俺、いい大人なんだけど……
 これは、落ち着くな……」
「でしょ?
 早く彼女作るなり、奥さん作りなさいよ!」
「まぁ、そのうちね」



 なんだかんだと、ウィルは、甘えたように抱きついてくる。



「ウィル様、ちょっと、長いですよ!」



 エリックに言われ、渋々って感じで私から離れていくウィル。
 周りをみてギョッとしていた。

 まぁ、こんな大人数のところで抱きついてたら、よろしくはないよね……




「中隊長、ボコられてこい!」
「いや、無理っす……!
 姫さんと、決勝で踊るんっすから!」



 将軍に肩を叩かれたウィルは、はにかむように返答している。
 踊ると言われてピンとくるのは、私のダンス講義を聞いた人たちだけだろう。



「ウィル様だけ、アンナリーゼ様と踊るわけにはいかないよ!
 僕たちも、アンナリーゼ様と踊りたい!」



 そうだそうだ!と、周りから言われる。



「その前に、私と試合です。
 お手柔らかにお願いしますね!アンナリーゼ様」



 目の目にあらわれたのは、第3中隊長ディーノである。



「こちらこそ、よろしくね!」



 試合会場の方へ二人で歩いていく。



「姫さん、またあとでな!」
「頑張ってね!」
「おう!負けんなよ!」



 手を振って、ウィルも試合会場へ向かってしまった。


 今日は、ジョーを連れてきていない。
 1日中あるこの予選は、正直ジョーには、まだ長すぎる。
 屋敷で、デリアとスーザンが面倒をみてくれているのだ。
 そして、今日のお供は、パルマだった。

 パルマは、執事風に私の後ろ黙って歩いている。
 さっきまでは、訓練場の中を一人歩いていたようだ。




「昨日の試合を見せていただきましたが、アンナリーゼ様はお強いのですね?」
「そうかしら?
 私なんてまだまだ……」
「いえ、ご謙遜を!」



 社交辞令で会話をしていく。
 私達に共通の話はないからだ。
 そういう時間は、結構苦痛である。



「そういえば、この冠杯ですけど、景品って何かご存じですか?」
「景品なんてあるの?」



 私は、何かしら?と首をかしげる。



「あなたとの1日デートらしいですよ!」
「私と?」
「はい、ですから……
 みんな躍起になっているようですね。
 かくいう、私も、アンナリーゼ様とお茶など楽しめれば……と思い、
 参加しましたが、まさか、本人と剣を交えることとなるとは……
 楽しみでなりません!」



 ディーノは、夢見がちに喜んでくれているのだが……


 私が景品とは……聞いていなかった。
 ウィルめ。
 後で、覚えてらっしゃい!

 私の心の中は、燃え盛る炎のようにメラメラと燃えるのであった。


 下手に負けられない理由ができた。
 景品が私なら、私自身で取りにいかないと!
 優勝することを誓うのであった。




「アンナリーゼ様、ディーノ様。
 ちょうどいいところに!
 今から、試合が始まりますのでどうぞ試合会場に!」
「では、ここからは、敵ですね!
 お手柔らかにお願いします!」



 ニコニコと笑いながら、自陣へ歩いていくディーノの背中を眺めながら、私も自陣で準備をする。
 模擬剣を握って、ぐぅーっと伸びをする。



 相対しているディーノを見つめる。
 背は高く、細身だ。
 でも、そこそこ筋肉もしっかりついてる。



「では、試合を始めます!」



 私の耳には、歓声が聞こえてくる。



「始めっ!」



 審判の声が響くと、一瞬で静まり返る。
 さてさてと、読みあいが始まる。



 どこから攻める?
 どこから攻められる?
 癖は、何かしら?


 初めて相対するディーノの観察はするが、隠すのが上手なようだ。
 難しい……
 人間なのだから、癖の一つや二つあってもいいのに、何も見えてこない。


 こないなら、私から行くわ!


 まず、視線で下方に誘導する。
 昨日の試合を見ていたというだけあって、一瞬下に下がる。
 走ったとしても、無駄だろうな……
 そうは思っても、仕掛けない限り進まないなら、攻め立てるっていうのもありなのだ。


 昨日とはうって変わって、攻撃特化する。


 近づくとやっと、ディーノは動き出す。
 罠を張って待ち構えるのが得意なのか……体の向きで攻める側を決められてしまった。
 しまった!と思ったけど、急には止まれない!!
 左を軸足に反転し、背中合わせになった。


 背の高いディーノの方が、圧倒的に有利なように思うが、こういうときは、小さい方がいい場合もある。
 別に剣だけで戦わないといけないというルールは、ないのだ。
 右足でディーノの左足をひっかけてやる。
 まさか、真後ろからそんなことをされると思っていなかったのか、体制が崩れた。


 罠かもしれない!
 でも、ここしかないよね!


 クルっと回ろうとしたが、左手首を引っ張られ、危うく私が転びそうになる。


 やられた……


 次だ!
 たぶん、次で決着をつけてくるだろう。


 力任せに前に回されれたため、途中で踏ん張り腕の下から脇腹にめいっぱい打ち込んだ。
 かろうじで当たったようで、一瞬ディーノが引いてくれたと思ったのに手首を離してくれない。
 勢いを保ったまま、模擬剣に模擬剣を巻いていく。


 よし!
 落とせる!


 最後のひねりでディーノの腕をひねり上げ模擬剣を落とさせた。



 落とした模擬剣は、もちろん私が後ろへと蹴り飛ばし、首に模擬剣を添わせる。



 私が勝ったはずなのに、コールのされない試合。







「…………勝者、アンナリーゼ様!!」



 やっと、勝者コールをされたころには、割れんばかりの歓声が響く。
 なんだか、嬉しい。



「やっぱり、お強いですね!」


 負けたはずのディーノは、ホクホクとした顔で私に握手を求めてくる。
 それに応えてディーノの手を握る。



「ありがとう!」
「こちらこそ、勉強になりました!
 まだ、出産されて時間もそれほど立っていないので、少し勝てるかもと
 希望を持っていたのですけどね……」
「私のこと知っているの?」
「もちろんです!
 『ウィルの姫さん』でしょ?
 こんな素敵な方に、好かれるなんて、ウィル殿が羨ましい限りだ」




 私は、空笑いで応えておく。



「また、試合しましょうね!」
「もちろんです!
 アンナリーゼ様の全力を私も感じ取ってみたいものです!」



 いえいえ……私、これでも全力で頑張ったんですけど……
 ニッコリ笑って、私はウィルとエリック、パルマのいる方へ駆けていく。


「おかえり!
 激闘だったな!」
「うん……強かったよ!
 負けるかと思った……」


 私は、大きくため息をついて、へたり込むのであった。
 おつかれさまですと、エリックとパルマが声をかけてくれたのが嬉しくて、覗き込む二人ににへらっと笑うのである。


 でも、こんなに強い人たちと試合できるのは、本当に楽しいわ!
 心の底から思うのである。
 ウィルに感謝ね!

 あっ!そうだ……
 忘れないうちに、ウィルに声をかけたのである。
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