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お昼の運動

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 ジョーも生後3ヶ月になり、なんとなく落ち着いてきた感じがする。
 体も生まれたときに比べ倍以上になり、私の顔を見れば喜んで少し笑ったり、嫌だったらぬいぐるみをぽいっとしたりと、できることが多くなってきている。


「あぁ、可愛いわね……大変なんだけど、この顔を見ると何でも許しちゃうわ!」


 今は、ご機嫌できゃはきゃはっと声っぽいものを出して喜んでいる。
 クマのぬいぐるみをなんとなく抱き寄せてみたりしているのだ。
 仕草が可愛くて仕方がない……


「アンナ様、そろそろおくい初めの時期じゃないですか?」
「もぅ?ヨハン教授に相談しましょうか?」


 デリアは、私の代わりにヨハンへ相談しに行ってくれたようだ。
 部屋に残った私とスーザンは、ジョーをめいっぱい構う。
 そのうち、眠くなったのかあくびをし始めるジョー。

 抱きかかえてほしいのか、私を見てあくびを何度も何度もする。
 仕方ないなぁ……と、抱いてゆらゆらと体を揺さぶると、寝つきのいいことですぅーっと寝ていった。
 しばらくゆらゆらとしながら抱いてあげることにする。


「スーザンは、そろそろ向こうに出立かしら?」
「はい、奥様からお許しがでたのとジョー様もだいぶ手がかからなくなったので、
 そろそろお暇させていただこうと思っております」
「そう……寂しくなるわね。もう少しの間、よろしくね!」


 もちろんでごさいますとスーザンは、笑いかけてくれる。


 デリアがヨハンを伴って部屋に帰ってきた。
 相談の話と一緒に私とジョーの健康診断もするそうだ。


「ん……特に何もないな。二人とも健康そのものだ。
 さっきの話だけど、そろそろ始めるか?
 歯は、まだみたいだけど、気を付けながら食べさせるといい」


 ヨハンのお墨付きがついたところで、さっそく明日から始めることになった。
 厨房では、どんなものを出すのがいいのかと前々から話し合われていたようで特に慌てた話にはなっていないようだった。


 私達も昼食をとってから、城の訓練所に食後の運動に出かけることにした。


「レナンテを連れてくるから、先に向かってくれる?」


 ジョーとエマとスーザンが馬車に乗り込み城の訓練場に向かう。
 私は、レナンテを迎えに行き、ご機嫌のレナンテに跨り訓練場へ向かう。


「ウィル!きたよぉー!」
「姫さん……もう、日課だな……」


 毎日通っていたけど、忙しいウィルには、全然会えていなかったので久しぶりにあったのだが、私が通い詰めなのは、知っていたようだ。
 見ない間にウィルは、さらに逞しくかっこいい中隊長となっている。
 これは、ご令嬢たちがほっておかないだろう。


「適当に募集かけて、適当に転がしておいて!
 姫さんのおかげで、うちの隊は、うなぎ上りで強くなってるよ……姫さん様様だよ、本当に!」


 苦笑いをしているウィル。
 普段の訓練だけで何故強くなれないのか、姫さん一人にいつまで負け続けているのか。
 公や公世子を守る近衛としては、問題ありではあるのだが、今はとにかく強くなっている隊員が多いので私の訓練にも付き合ってくれているのだろう。


「今日、エリックは空いてる?そろそろ、対戦したいわ!」
「エリックな……言えば来ると思うけど……ビックリするくらい強くなってるぞ?
 俺も最近、負けそう……」
「じゃーウィルと対戦してからエリックの方がいい?」
「!!!!!!」


 目をクワっと見開いて、ちょっと怒ったようなウィルのアイスブルーの瞳が光っている。


「そこは、俺、たててほしいところ!俺の方が、まだ、強い!!」


 ぷんすか怒って、ウィルは執務室へ入っていってしまった。

 あら、怒らせちゃった……そうよね……ウィルは、強いものね!!
 対戦できるのを楽しみにしておこう!
 ウィルの後姿を見送る。


 訓練場の真ん中へ、私はとことこと歩いていく。
 訓練場の端にあるベンチで、ジョーはスーザンの膝の上に座らされ私の方を見て手を伸ばし、きゃっきゃっと喜んでいる。


 訓練場の真ん中で、パンパンっと手を打ち鳴らすと、隊員たちが私の方へ集まってきた。


 毎日来ているので、すでに今日の100人は選抜されているらしい。
 今日も今日とて……近衛隊員たちを私はぶちのめしていく!


 体も動くようになってきたことで、呼吸も上手に扱えるようになり100人相手にしても息切れがなく楽に戦えるようになってきた。


「アンナリーゼ様、行きますよ!」


 100人の死屍累々の真ん中で突っ立っていると、エリックが模擬剣をもって駆けてくる。


 駆け込みからの上段一撃目にものすごい衝撃を受ける。
 その攻撃の重さに手がビリビリと痺れた。


 これ、相当強くってレベルじゃないよ!


 痺れる手を隠しながら、エリックを見据える。
 エリックも一撃目を受けられたことにショックのようであった。
 つばぜり合いをしているが、やはり力では負けるので、一瞬力を抜いて左に流すようにして、膝でエリックの腹に蹴りを入れ離れる。


 ふぅ……と、一息いれるとエリックは生意気に不敵に笑っている。
 きっと、今ので私の力量が分かったのだろう。


 なんだか、あの笑顔がむかつくわ!


 勝つための算段をフル回転でイメージしていく私。


 確かに、エリックは、強くなった。
 でも、まだ、私の方が上よ!!


 さっきどこかで聞いたなと既視感を感じながら……エリックに向け突っ込んでいくことにした。
 下に転がっている近衛たちが邪魔で仕方がないが、実際の戦場もこんなもんだと思い、足場を確保しながらエリックに近づく。
 エリックも私の動きを補足しているのか、駆け始めた。


 体も大きくなったため、手足の長さも変わって断然有利のエリック。
 一層体を低くして下から切り上げた。
 もちろん、警戒はしていたので避けられる。


 むぅっと私はしたが、頭は、スッキリ冷えているで次の作戦へ移行する。


 避けられたとこから、そのまま反転してヒールの踵で脹脛をめいっぱい踏んでやる。
 幸い私は体勢を低く保っていたため、踏みやすいところにエリックの脹脛があった。
 エリックは、うめきながら私に追随して横に一閃する。
 が、それを受けると私は、身動きできなくなるので、躱すように3歩下がり、空を切った模擬剣の根本が疎かになった隙をつきエリックの無防備になっている模擬剣を握る手を上から叩き切り模擬剣を地面に落とさせ、私は自分の模擬剣をスッとエリックの喉元へ切っ先を向ける。


「はーい、そこまで!」


 私達の試合を見ていたのだろう、ウィルがパチパチと手を叩いて私たちの方へ歩いてくる。


「姫さん、相当鍛え直したんだな……?エリックも相手ご苦労さん!
 あと少しで、姫さん撃退できたのにな!実に惜しかった……」


 ウィルは笑いながらエリックの左肩を叩く。


 私とエリックは、荒い息を整えながら余裕をかましているウィルを二人で睨む。


「「むかつく」」


 二人同時に、ウィルに言い放つ。
 すると、さらにウィルはニヤッと笑う。


「俺とエリックより、姫さんとエリックの方が相性よさそうだな?
 それにしたって、姫さんとこのジョーは……二人見てめっちゃ喜んでいるんだけど……?
 姫さんのじゃじゃ馬素質あるな……?ジョージア様に似なくて、とても残念だ……」


 ジョーのことも観察していたのか、ウィルがじゃじゃ馬になるなって揶揄してくる。


「どういうことよ!容姿は、ジョージア様そっくりになるわよ!」
「わお!絶世の美女じゃん!この公国、傾国すんじゃね?」


 人の子供で遊ばないでほしい……


「まぁ、中身は姫さんに似た方が、生きやすいと思うから推奨するけどよ!」
「そうですね……僕は、あの子の指南役になるのですか?
 ちょっとやそっとの強さじゃダメですね……まだ、アンナリーゼ様にすら勝てませんから……」
「姫さん、うちの副官の自信削っていかないでくれる?」
「いいじゃない!まだまだ、エリックは伸びるわよ!伸びしろ無限大よ!」


 ニコニコとエリックを覗き込むと、顔をほんのり染めてそっぽを向かれてしまった。


「あの……姫さん?」
「何、ウィル?」
「うちの初心なエリックを誑し込まないでくれる?」
「えっ?」


 はぁ……自覚なしか……と、ウィルは明後日の方をむいて呟いている。


「むやみやたらと、人を誑し込むのは禁止!」
「むやみやたらと、人を誑し込んでなんていないわよ!」
「姫さん自体がもう、そういうものだから……早く気づいて……!!」


 気付くことなんて……どこにもないんだけど……?
 そんなことをを思いながら、ぶぅーっとぽっぺたを膨らませる。


 そろそろ私がぶちのめした近衛たちが、動き始めた。
 周りからいててて……と顔をしかめながら起きあがってくる。


 私は、起き上がってくる周りをみながらニッコリ笑う。


「また、明日、遊んでね!」


 その一言を周りに向かって微笑むと、はーいっと良い返事が返ってくるのであった。
 しかし、私にこんなにぶちのめされていていいのだろうか?


 疑問に思ってウィルを見たが、何も言うなというアイスブルーの瞳から無言の圧力がくる。
 次の瞬間には、私から模擬剣を奪って中央へと歩いていく。


「てめーら、今から、俺とも遊んでくれるよな?」


 苦笑いをし始め逃げ出そうとする周りの近衛を片っ端からウィルもぶちのめしていく。
 それは、まるで鬼の様であって……さすがに、背中に冷たいものが流れる。


 私は、それを見ながら、やっぱり、ウィルって強いんだなぁーっと改めて実感させられる。
 次、ウィルと手合わせしたらもう勝てないかもしれないな、それが素直な感想であった。
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