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モスグリーン
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ジョーが寝たので、侍女にお願いしてこっそり執務室へ移動する。
ジョージアが主に使っていたが、もう使われなくなって3日がたった。
「おかえり、カルア」
私を下から見上げてくるのは、屋敷の侍女であったカルアだ。
デリアに頼んで私の出産に合わせていなくなるであろうカルアを見張ってもらっていた。
「アンナリーゼ様……」
力なく私の名前を呼ぶカルアは、ここで働いていたときよりずっと老けて見えた。
私は何も言わずただカルアを見下ろしている。
すると、見知った顔を見て安堵からなのかカルアがポロポロと泣き始める。
それもそうだろう。
自宅に帰ったら、荒らされた室内とどこにもいない家族。
さらに、自分も命を狙われたのだ。
満身創痍という言葉がぴったりだった。
それでも、私は可哀そうだとは思えない。
「カルア、これ何かわかる?」
目の前にちらつかせたのは、ソフィアやダドリー男爵からの手紙だった。
ハッとするカルア。
カバンをチラッと見たということは、きっと、そこに私が写した手紙があるのだろう。
「こっちが本物」
「どうして……?」
「うん、応えはすごく簡単。
カルアは、この指示の通り、私に毒を盛ったでしょ?」
さっきまで、涙をこぼしていたカルアの目は、驚いて大きく見開いていた。
「すでにあのとき、誰が毒を盛ったのかわかっていたの。
敢えて何もしなかったけど、カルアだってことは明白だった。
あなたが私に給仕していたのだから。
他の人を送られるが面倒だったから、気づかないふりをしてただけよ」
私の言葉を理解できたのか、カルアは、泣き崩れていく。
その中でも、思い出したかのように私に縋ってくる。
「家族は……家族は、どこですか?」
「家族は……」
チラッとデリアを見たら、はぁ……と、ため息をついてデリアが答えるようだ。
「カルア、あなたの家族は無事よ。
アンナ様が、保護してる」
私のドレスの裾を握っていたが、さらにその握り方がきつくなった。
「家族は……許してください。
こんなことをしでかしたことは知りません……
私は、どうなっても構いません。
どうか……どうか……アンナリーゼ様……」
デリアは、実のところ、カルアの家族を救うのも反対だった。
カルアの自業自得だということで……
ただ、一緒に働いてきたということで、少し寂しそうな顔をしていたのも本当だ。
センスでカルアの顔を上げて私に向ける。
また、涙がハラハラと流れている。
カルアの実家は、農家だ。
両親と兄妹がいる。
「えぇ、そうね。
あなたの家族は、助けてもいいわ……」
「アンナ様!」
「デリアだって、1度は救ってあげたでしょ?」
身に覚えのあるデリアは、唇を噛み、それから一言も話さなくなる。
「洗いざらい話なさい。
それによって、家族を助ける」
項垂れたカルアは、イロイロと話していく。
家族が助かるなら、何でも話してくれるようだ。
まず、1番初めの服毒に始まり、侍女やメイドの化粧品、部屋に飾る花など、次から次へと出てくる。
私とデリアが気を付けて、取り除いてきたものばかりで正直驚いている。
しかも、実行犯は、カルアだけなのだ。
毒の提供をしている方も、一人に任せるだなんて信頼しているものね……
その話をデリアが紙に書きおこしている。
そして、それを私に見せ、カルアに見せる。
今日の日付を入れ、カルアにサインをさせ、私も名前を連ねる。
これ……証拠になるかなぁ?
割り印をして、同じものを二つ作った。
でも、生き証人を殺すわけにもいかないので……カルアにも生きていてもらわないといけない。
さて、どうしようか……?
このまま、この屋敷で囲うことは、難しいだろう。
名前を変えたとしてもバレる。
かといって、私の家族の元に送るもの心配だし、エレーナにはまだこんな重荷を任せるべきではない。
領地……に引き込まらせるのも、心配は心配だ。
「カルアは、何ができるかしら?」
「なんでもします!
家族を許していただけるなら……!!!」
エレーナもカルアもとても家族を大切にしている。
それはいいのだが……私、これでも、毒を盛られて殺されかけたのよね……
許してもいいのだろうか?
でも、今後、証人として必要になることもある。
「デリア」
「はい、アンナ様」
「あなたの育てているエマは、口は堅いかしら?」
「そのように育てていますので……私は、そのように思っております」
その言葉に私は、頷く。
「決まりね。
エマにまず、髪の染料を買ってこさせて!
何色がいいかしら?」
カルアの瞳を覗き込む私。
「モスグリーン……?」
「かしこまりました。
そのようにエマに伝えてきます」
「あっ!待って!
ディルもここに来てくれるよう伝えてくれる?」
デリアは頷いて執務室を出て行った。
「あの……アンナリーゼ様……」
「しばらく、黙っていて」
私は、義母に手紙を書き始める。
『 お義母 さま
お元気にされていらっしゃいますか?
お便りが、遅くなってしまってすみません……
先日、ジョージア様との子供が生まれました!
ジョージア様、そっくりの可愛らしい女の子ですよ!
是非、お義父様とお義母様にも見ていただきたいです。
こちらに来られるときは、ぜひ寄ってくださいね!
お願いがあってお手紙を書かせていただきました。
侍女のカルアですが、私の毒殺に関する重要な事柄を知ってしまい
命を狙われています。
お手数をかけてしまいますが、匿っていただくことはできないでしょうか?
お返事をお待ちしております。
アンナリーゼ 』
書き終えたころに、ディルが執務室に入ってくる。
縛り上げられているカルアを見て、ギョッとしていた。
「アンナリーゼ様、これはいったい……?」
「私の毒殺に関する証人ですよ!」
「カルアがですか?」
「そうです。毒を盛った本人です」
ディルも薄々は気づいていたのか、頷くだけだった。
「今後の方針なんだけど……」
「どうなさるつもりですか?
公爵夫人の暗殺未遂です。
警邏に突き出しますか?」
「いいえ、お義母が許してくれるなら、そちらで預かってもらうつもりなの。
いずれ、証人として必要になるでしょう……
で、これが、お義母様に宛てた手紙。
送ってくれる?」
「それは、構いませんが……
よろしいのですか?」
「うん。大丈夫。
人質は、取ってあるからそうそうなことはできないよ!」
私の言葉を聞き、続きを促してくるディル。
「あとは、その手紙の返事待ちで私とデリアの部屋に軟禁します」
「は?」
「軟禁です。
その方が安全だから……」
「アンナ様が、安全ではありませんよ?」
「そうかしら?」
私は、腕を組んで唸りはじめる。
出産後まだ幾日も経ってないので体力もほとんどないが、カルアくらいならなんとでもできると思う。
油断……してるのかなぁ?
「ディルも護衛つけてくれるでしょ?
そしたら、何にも問題ないわ!」
「それは、過信しすぎではないですか?」
「私もそう思ったけど、大丈夫よ!
デリアもいるし!
ハニーローズに手をかけるようなことになったら、私は躊躇わないから!」
ディルの後ろにいるカルアを見据えて言葉をいうと、ディルからは深い深いため息が漏れる。
「アンナリーゼ様は、甘すぎます」
「そうかもね……
でも、人は、殺さず、生かして、活かすのが私の最適だから……
苦労かけるけど、お願い聞いてくれる?」
頭を下げる私に、ディルは、とんでもない!と言って、私の頭を上げさせる。
「それで、どうするのですか?」
「まずは、髪を染めるわ!
カルアだってバレるとまずいから……
名前も変えましょう……」
また、名付けか……そう思うと、私はげんなりする。
適当でいいかしら?と思いながら名前を考えていく。
スーザンなんてどう?と思いついた名前を提案することにした。
「カルア、今から、スーザンって名前ね?
どうかしら?」
状況を飲み込めないカルア。
そこにデリアが、執務室に戻ってくる。
「デリア、今から、スーザンだから、よろしくね?」
「かしこまりました。
服はどうしますか?」
「私のでよくない?
体型も似ているし……」
私は、そっとカルアの胸を見る。
うん、変わらないわと、ホッ胸をなでおろす。
そのあとは、デリアが、どんどん話を進めてくれるのでありがたい。
ディルも奥様への手紙を送ってくるといって部屋を出て行った。
それからは、イロイロと準備をすすめカルアの髪をモスグリーンに染めた。
瞳の色と同じ色になったので、見慣れなくて落ち着かなかったが、それでも、テキパキとデリアとエマによって進めてもらったおかげで数時間後には、私の友人という体になった。
「これなら、大丈夫そうね!」
どこからどう見ても別人のように見える。
このまま、義母からの許可が下りるまでの1ヶ月、同じ部屋で女四人仲良く過ごすのであった。
ジョージアが主に使っていたが、もう使われなくなって3日がたった。
「おかえり、カルア」
私を下から見上げてくるのは、屋敷の侍女であったカルアだ。
デリアに頼んで私の出産に合わせていなくなるであろうカルアを見張ってもらっていた。
「アンナリーゼ様……」
力なく私の名前を呼ぶカルアは、ここで働いていたときよりずっと老けて見えた。
私は何も言わずただカルアを見下ろしている。
すると、見知った顔を見て安堵からなのかカルアがポロポロと泣き始める。
それもそうだろう。
自宅に帰ったら、荒らされた室内とどこにもいない家族。
さらに、自分も命を狙われたのだ。
満身創痍という言葉がぴったりだった。
それでも、私は可哀そうだとは思えない。
「カルア、これ何かわかる?」
目の前にちらつかせたのは、ソフィアやダドリー男爵からの手紙だった。
ハッとするカルア。
カバンをチラッと見たということは、きっと、そこに私が写した手紙があるのだろう。
「こっちが本物」
「どうして……?」
「うん、応えはすごく簡単。
カルアは、この指示の通り、私に毒を盛ったでしょ?」
さっきまで、涙をこぼしていたカルアの目は、驚いて大きく見開いていた。
「すでにあのとき、誰が毒を盛ったのかわかっていたの。
敢えて何もしなかったけど、カルアだってことは明白だった。
あなたが私に給仕していたのだから。
他の人を送られるが面倒だったから、気づかないふりをしてただけよ」
私の言葉を理解できたのか、カルアは、泣き崩れていく。
その中でも、思い出したかのように私に縋ってくる。
「家族は……家族は、どこですか?」
「家族は……」
チラッとデリアを見たら、はぁ……と、ため息をついてデリアが答えるようだ。
「カルア、あなたの家族は無事よ。
アンナ様が、保護してる」
私のドレスの裾を握っていたが、さらにその握り方がきつくなった。
「家族は……許してください。
こんなことをしでかしたことは知りません……
私は、どうなっても構いません。
どうか……どうか……アンナリーゼ様……」
デリアは、実のところ、カルアの家族を救うのも反対だった。
カルアの自業自得だということで……
ただ、一緒に働いてきたということで、少し寂しそうな顔をしていたのも本当だ。
センスでカルアの顔を上げて私に向ける。
また、涙がハラハラと流れている。
カルアの実家は、農家だ。
両親と兄妹がいる。
「えぇ、そうね。
あなたの家族は、助けてもいいわ……」
「アンナ様!」
「デリアだって、1度は救ってあげたでしょ?」
身に覚えのあるデリアは、唇を噛み、それから一言も話さなくなる。
「洗いざらい話なさい。
それによって、家族を助ける」
項垂れたカルアは、イロイロと話していく。
家族が助かるなら、何でも話してくれるようだ。
まず、1番初めの服毒に始まり、侍女やメイドの化粧品、部屋に飾る花など、次から次へと出てくる。
私とデリアが気を付けて、取り除いてきたものばかりで正直驚いている。
しかも、実行犯は、カルアだけなのだ。
毒の提供をしている方も、一人に任せるだなんて信頼しているものね……
その話をデリアが紙に書きおこしている。
そして、それを私に見せ、カルアに見せる。
今日の日付を入れ、カルアにサインをさせ、私も名前を連ねる。
これ……証拠になるかなぁ?
割り印をして、同じものを二つ作った。
でも、生き証人を殺すわけにもいかないので……カルアにも生きていてもらわないといけない。
さて、どうしようか……?
このまま、この屋敷で囲うことは、難しいだろう。
名前を変えたとしてもバレる。
かといって、私の家族の元に送るもの心配だし、エレーナにはまだこんな重荷を任せるべきではない。
領地……に引き込まらせるのも、心配は心配だ。
「カルアは、何ができるかしら?」
「なんでもします!
家族を許していただけるなら……!!!」
エレーナもカルアもとても家族を大切にしている。
それはいいのだが……私、これでも、毒を盛られて殺されかけたのよね……
許してもいいのだろうか?
でも、今後、証人として必要になることもある。
「デリア」
「はい、アンナ様」
「あなたの育てているエマは、口は堅いかしら?」
「そのように育てていますので……私は、そのように思っております」
その言葉に私は、頷く。
「決まりね。
エマにまず、髪の染料を買ってこさせて!
何色がいいかしら?」
カルアの瞳を覗き込む私。
「モスグリーン……?」
「かしこまりました。
そのようにエマに伝えてきます」
「あっ!待って!
ディルもここに来てくれるよう伝えてくれる?」
デリアは頷いて執務室を出て行った。
「あの……アンナリーゼ様……」
「しばらく、黙っていて」
私は、義母に手紙を書き始める。
『 お義母 さま
お元気にされていらっしゃいますか?
お便りが、遅くなってしまってすみません……
先日、ジョージア様との子供が生まれました!
ジョージア様、そっくりの可愛らしい女の子ですよ!
是非、お義父様とお義母様にも見ていただきたいです。
こちらに来られるときは、ぜひ寄ってくださいね!
お願いがあってお手紙を書かせていただきました。
侍女のカルアですが、私の毒殺に関する重要な事柄を知ってしまい
命を狙われています。
お手数をかけてしまいますが、匿っていただくことはできないでしょうか?
お返事をお待ちしております。
アンナリーゼ 』
書き終えたころに、ディルが執務室に入ってくる。
縛り上げられているカルアを見て、ギョッとしていた。
「アンナリーゼ様、これはいったい……?」
「私の毒殺に関する証人ですよ!」
「カルアがですか?」
「そうです。毒を盛った本人です」
ディルも薄々は気づいていたのか、頷くだけだった。
「今後の方針なんだけど……」
「どうなさるつもりですか?
公爵夫人の暗殺未遂です。
警邏に突き出しますか?」
「いいえ、お義母が許してくれるなら、そちらで預かってもらうつもりなの。
いずれ、証人として必要になるでしょう……
で、これが、お義母様に宛てた手紙。
送ってくれる?」
「それは、構いませんが……
よろしいのですか?」
「うん。大丈夫。
人質は、取ってあるからそうそうなことはできないよ!」
私の言葉を聞き、続きを促してくるディル。
「あとは、その手紙の返事待ちで私とデリアの部屋に軟禁します」
「は?」
「軟禁です。
その方が安全だから……」
「アンナ様が、安全ではありませんよ?」
「そうかしら?」
私は、腕を組んで唸りはじめる。
出産後まだ幾日も経ってないので体力もほとんどないが、カルアくらいならなんとでもできると思う。
油断……してるのかなぁ?
「ディルも護衛つけてくれるでしょ?
そしたら、何にも問題ないわ!」
「それは、過信しすぎではないですか?」
「私もそう思ったけど、大丈夫よ!
デリアもいるし!
ハニーローズに手をかけるようなことになったら、私は躊躇わないから!」
ディルの後ろにいるカルアを見据えて言葉をいうと、ディルからは深い深いため息が漏れる。
「アンナリーゼ様は、甘すぎます」
「そうかもね……
でも、人は、殺さず、生かして、活かすのが私の最適だから……
苦労かけるけど、お願い聞いてくれる?」
頭を下げる私に、ディルは、とんでもない!と言って、私の頭を上げさせる。
「それで、どうするのですか?」
「まずは、髪を染めるわ!
カルアだってバレるとまずいから……
名前も変えましょう……」
また、名付けか……そう思うと、私はげんなりする。
適当でいいかしら?と思いながら名前を考えていく。
スーザンなんてどう?と思いついた名前を提案することにした。
「カルア、今から、スーザンって名前ね?
どうかしら?」
状況を飲み込めないカルア。
そこにデリアが、執務室に戻ってくる。
「デリア、今から、スーザンだから、よろしくね?」
「かしこまりました。
服はどうしますか?」
「私のでよくない?
体型も似ているし……」
私は、そっとカルアの胸を見る。
うん、変わらないわと、ホッ胸をなでおろす。
そのあとは、デリアが、どんどん話を進めてくれるのでありがたい。
ディルも奥様への手紙を送ってくるといって部屋を出て行った。
それからは、イロイロと準備をすすめカルアの髪をモスグリーンに染めた。
瞳の色と同じ色になったので、見慣れなくて落ち着かなかったが、それでも、テキパキとデリアとエマによって進めてもらったおかげで数時間後には、私の友人という体になった。
「これなら、大丈夫そうね!」
どこからどう見ても別人のように見える。
このまま、義母からの許可が下りるまでの1ヶ月、同じ部屋で女四人仲良く過ごすのであった。
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