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アンナリーゼ
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いつもの朝がきた。
昨日、夜中にジョージアが帰ってきて、泣いていた私をずっと大丈夫だとさとしてくれていたのを思い出す。
私が眠るまで、ずっとだ。
明け方近くまで起きていたのではないだろうか?
本来なら、今朝、私の隣で眠っていることは、おかしい。
ソフィアとの結婚式の翌日だというのに……
疲れてもいるだろうとゆっくり寝かせてあげることにする。
ジョージア思いだからじゃなく、私がゆっくり、ジョージアを見ていたかったからだ。
銀髪に薄日が当たりキラキラとしている。
肌も白くキメの細かく柔らかそうだ。
ジョージアの肌は、実際、柔らかいのだが、特に手入れをされているわけでもなく、素でこれなのだから困る。
目を閉じていると、お人形さんのように整った顔立ちは、中性的ではあるが、どちらかと言えば女性的であった。
「う……ん……」
何かいい夢でも見ているのだろうか?
ほんの少し、口角が上がっている。
私は、思わずふふっと笑ってしまう。
昨夜一緒に私と寝ていたクマのぬいぐるみは、寂しそうにベッドの隅に転がっている。
そのクマのぬいぐるみを読み聞かせるかのように私は抱いて、枕元に置いてある『王配の手記』に手を伸ばす。
お腹の前にいるクマのぬいぐるみが、『王配の手記』を一緒に覗き込む。
小さい子のように見え、可愛らしい。
そっと、頭を撫で、私は朝の日課となっている『王配の手記』を読み始めた。
『 ハニーローズが、今朝は変なことを言い始めた。
それを聞いて、すごく驚いたものだ。
ハニーローズには、『過去見』という能力がある。
読んで字のごとく、過去を見る能力だ。
しかし、今日は、「未来から可愛らしいお客様がきた!」のだと
とても喜んでいる。
一体、昨晩、私が眠ったあと、何が起こったのだろうか?
アンナリーゼという名の、ストロベリーピンクのふわふわした髪で
アメジストのような紫の瞳の女の子が、未来からやってきたのだと
いうのだ。
そのアンナリーゼには、『予知夢』という能力があるらしい。
その女の子は「私と同じ瞳のジョージアという子と結婚した」という。
私達の血縁の子らしいわ!
私達よりずっとずっと未来の子が、目の前に現れて、イロイロ話をしたのよ!
なんて、言うのだ……
最近塞ぎがちだったのに、目を輝かせて喜んでいる。
いくら、ハニーローズの言うことだったとしても、私は信じられなかった。
彼女なりに推考は、したらしい。
自分の持つ『過去見』とアンナリーゼの持つ『予知夢』が、
アンバーの宝石によってつながったのではないかと。
アンナリーゼも、結婚式でアンバーの宝石を付けたと言っていたらしい。
そんな魔法のようなものは、この宝石にはないはずだ……
あるとしたら……ハニーローズから、漏れ出たものを蓄えたのか。
わからない。
しかし、子孫に、ハニーローズの瞳を受け継ぐ子がいるのなら、
それは、喜ばしいことだ。
愛しいハニーローズと、また、いつの日かその子と未来でも会えるといい。
アンナリーゼ、ふさぎこんでいたハニーローズに希望を与えてくれて
ありがとう。
君に出会えたことで、子を生む決心をしてくれたようだ。
僕たちの希望だ。
子供の名前、決まったようだよ。
この手記は、いつの日か『アンナリーゼ』は、読むのだろうか?
もし、読む機会があるのなら……
君に最大限の感謝を……
ジョージアが、アンナリーゼを選んだことを誇りに思うよ。 』
いつもは、1枚に何日分かが書かれている手記が、この日に限り何ページにも及ぶ。
この話は、きっと、結婚式の日に夢見た私とハニーローズとの会話を王配であるウイリアムが聞き記したのであろう。
ハニーローズは、子供を生むことを躊躇っていたの……?
私には、そうは見えなかった。
少しの間しか、話していないからだろうか。
それほど年の変わらない彼女は、威厳たっぷりでそれでいて艶やかで
美しい人であった。
とても、塞ぎぎみのようではなく、快活でまるで私自身を見ているような女性であったのだ。
今となっては、わからない。
あの出会いすらも、神様の悪戯くらいのものだったのではないかと思っている。
確かに、あの日、私は、女王オリエンティスに会ったのだ。
それが、このような手記として残っていることが、不思議でなんだかくすぐったいような気がする。
子供の名前……もしかして、アンナリーゼだったりするの?
なんて、同じところを何回も読み返している。
それだったら嬉しいかも!
にやにやと笑っていると、視線を感じた。
「おはよう!
子供に読み聞かせの練習かな?」
ジョージアが起きて、私の恰好を見て微笑んでいる。
「そう見えますか?
そんな優しい母親になれるといいなぁー」
「アンナなら、なれるよ。
でも、かなり強いお母様!って感じだよね!
男の子だったら……剣もってしごかれそうだし、
女の子でも、お転婆まっしぐらだよね!」
「それって……私みたいになるってことですか?」
クスクス笑うジョージア。
「そう!
でも、そんな子供が、俺はいいな!
可愛いじゃん!アンナがもう一人いるってことでしょ?」
「…………そうですか?
私は、ジョージア様に似た、綺麗な子がいいですね!」
「アンナみたいな可愛い子に限るって!」
言い合いを始めた頃、デリアが朝の支度にと部屋に入ってくる。
「旦那様?」
「あっ!
おはよう、デリア」
「おはようございます……」
神妙な面持ちで私達二人を見つめるデリア。
あえて何も言わないでくれたが、ジョージアがここにいて、私が笑っている姿を見たら、デリアは、涙が出てきたようだ。
「デリア、どうしたの?」
私がベッドからデリアの側へ寄ると、すみません……と謝る。
「いいのよ、私のために泣いてくれたのね。
優しい子ね。
ありがとう」
そういって私は、デリアをギュっと抱きしめる。
それをジョージアは、微笑んで見守ってくれていた。
今朝は、秋も深まってきて肌寒いが、心はぽかぽかとあたたかな朝を迎えられたのではないだろうか。
昨日、夜中にジョージアが帰ってきて、泣いていた私をずっと大丈夫だとさとしてくれていたのを思い出す。
私が眠るまで、ずっとだ。
明け方近くまで起きていたのではないだろうか?
本来なら、今朝、私の隣で眠っていることは、おかしい。
ソフィアとの結婚式の翌日だというのに……
疲れてもいるだろうとゆっくり寝かせてあげることにする。
ジョージア思いだからじゃなく、私がゆっくり、ジョージアを見ていたかったからだ。
銀髪に薄日が当たりキラキラとしている。
肌も白くキメの細かく柔らかそうだ。
ジョージアの肌は、実際、柔らかいのだが、特に手入れをされているわけでもなく、素でこれなのだから困る。
目を閉じていると、お人形さんのように整った顔立ちは、中性的ではあるが、どちらかと言えば女性的であった。
「う……ん……」
何かいい夢でも見ているのだろうか?
ほんの少し、口角が上がっている。
私は、思わずふふっと笑ってしまう。
昨夜一緒に私と寝ていたクマのぬいぐるみは、寂しそうにベッドの隅に転がっている。
そのクマのぬいぐるみを読み聞かせるかのように私は抱いて、枕元に置いてある『王配の手記』に手を伸ばす。
お腹の前にいるクマのぬいぐるみが、『王配の手記』を一緒に覗き込む。
小さい子のように見え、可愛らしい。
そっと、頭を撫で、私は朝の日課となっている『王配の手記』を読み始めた。
『 ハニーローズが、今朝は変なことを言い始めた。
それを聞いて、すごく驚いたものだ。
ハニーローズには、『過去見』という能力がある。
読んで字のごとく、過去を見る能力だ。
しかし、今日は、「未来から可愛らしいお客様がきた!」のだと
とても喜んでいる。
一体、昨晩、私が眠ったあと、何が起こったのだろうか?
アンナリーゼという名の、ストロベリーピンクのふわふわした髪で
アメジストのような紫の瞳の女の子が、未来からやってきたのだと
いうのだ。
そのアンナリーゼには、『予知夢』という能力があるらしい。
その女の子は「私と同じ瞳のジョージアという子と結婚した」という。
私達の血縁の子らしいわ!
私達よりずっとずっと未来の子が、目の前に現れて、イロイロ話をしたのよ!
なんて、言うのだ……
最近塞ぎがちだったのに、目を輝かせて喜んでいる。
いくら、ハニーローズの言うことだったとしても、私は信じられなかった。
彼女なりに推考は、したらしい。
自分の持つ『過去見』とアンナリーゼの持つ『予知夢』が、
アンバーの宝石によってつながったのではないかと。
アンナリーゼも、結婚式でアンバーの宝石を付けたと言っていたらしい。
そんな魔法のようなものは、この宝石にはないはずだ……
あるとしたら……ハニーローズから、漏れ出たものを蓄えたのか。
わからない。
しかし、子孫に、ハニーローズの瞳を受け継ぐ子がいるのなら、
それは、喜ばしいことだ。
愛しいハニーローズと、また、いつの日かその子と未来でも会えるといい。
アンナリーゼ、ふさぎこんでいたハニーローズに希望を与えてくれて
ありがとう。
君に出会えたことで、子を生む決心をしてくれたようだ。
僕たちの希望だ。
子供の名前、決まったようだよ。
この手記は、いつの日か『アンナリーゼ』は、読むのだろうか?
もし、読む機会があるのなら……
君に最大限の感謝を……
ジョージアが、アンナリーゼを選んだことを誇りに思うよ。 』
いつもは、1枚に何日分かが書かれている手記が、この日に限り何ページにも及ぶ。
この話は、きっと、結婚式の日に夢見た私とハニーローズとの会話を王配であるウイリアムが聞き記したのであろう。
ハニーローズは、子供を生むことを躊躇っていたの……?
私には、そうは見えなかった。
少しの間しか、話していないからだろうか。
それほど年の変わらない彼女は、威厳たっぷりでそれでいて艶やかで
美しい人であった。
とても、塞ぎぎみのようではなく、快活でまるで私自身を見ているような女性であったのだ。
今となっては、わからない。
あの出会いすらも、神様の悪戯くらいのものだったのではないかと思っている。
確かに、あの日、私は、女王オリエンティスに会ったのだ。
それが、このような手記として残っていることが、不思議でなんだかくすぐったいような気がする。
子供の名前……もしかして、アンナリーゼだったりするの?
なんて、同じところを何回も読み返している。
それだったら嬉しいかも!
にやにやと笑っていると、視線を感じた。
「おはよう!
子供に読み聞かせの練習かな?」
ジョージアが起きて、私の恰好を見て微笑んでいる。
「そう見えますか?
そんな優しい母親になれるといいなぁー」
「アンナなら、なれるよ。
でも、かなり強いお母様!って感じだよね!
男の子だったら……剣もってしごかれそうだし、
女の子でも、お転婆まっしぐらだよね!」
「それって……私みたいになるってことですか?」
クスクス笑うジョージア。
「そう!
でも、そんな子供が、俺はいいな!
可愛いじゃん!アンナがもう一人いるってことでしょ?」
「…………そうですか?
私は、ジョージア様に似た、綺麗な子がいいですね!」
「アンナみたいな可愛い子に限るって!」
言い合いを始めた頃、デリアが朝の支度にと部屋に入ってくる。
「旦那様?」
「あっ!
おはよう、デリア」
「おはようございます……」
神妙な面持ちで私達二人を見つめるデリア。
あえて何も言わないでくれたが、ジョージアがここにいて、私が笑っている姿を見たら、デリアは、涙が出てきたようだ。
「デリア、どうしたの?」
私がベッドからデリアの側へ寄ると、すみません……と謝る。
「いいのよ、私のために泣いてくれたのね。
優しい子ね。
ありがとう」
そういって私は、デリアをギュっと抱きしめる。
それをジョージアは、微笑んで見守ってくれていた。
今朝は、秋も深まってきて肌寒いが、心はぽかぽかとあたたかな朝を迎えられたのではないだろうか。
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