上 下
156 / 1,480

可愛らしい一面

しおりを挟む
「で?
 姫さんの方は、順調そうだな?」



 撫でているお腹を見ながら、ウィルは近況を聞いてくる。
 しばらく、こちらにいなかったからか、最後にあった私と違うからか不思議そうだ。



「うん。
 子供もね、おかげさまで授かったの。
 悪阻もそろそろ終わるだろうって……」
「悪阻っていう割に、さっきからパクパク食べてるよな……」



 やっぱり、一般的に悪阻と言えば……
『食べ物を見ただけで、うっ……ってなって食べられない』をイメージするようだ。



「アンナリーゼ様は、食べ悪阻?」
「よくわかったね?セバス」
「そんなのあるのか?姫さんには、もってこいの悪阻だな……」



 どういう意味だとウィルを私は睨む。
 この悪阻もかなりつらいのだ……
 食べられるから、辛そうに思えないだろうけど……
 それに、丸くなった私を見れば、全く辛そうに見えないでしょうけど!!



「ウィル、食べ悪阻は、辛いものなんだよ……
 うちの母親がそうだったんだ。
 一番下の妹を身ごもったときにね。
 今までは、食べられない方の悪阻だったからどうしていいかわからなかったし……
 ずっと、食べ物を求めているんだよ……」
「へぇーそれは、やっぱり、男の俺には、わからない話だな。
 そう考えると、お母様様だな……
 大事にしてやらねぇーと……」



 ウィルとセバスは、それぞれ、兄妹の中でも下の方になる。
 だから、私の姿をみて、自分の母親に思いを飛ばしているようだ。



「ホントだよ!
 大変なんだから!
 でも、育ってるって感じもするから、愛おしいよね……不思議と。
 二人とも、お母様を大事にするのよ?
 あと、将来のお嫁さんもね!!」
「はーい!」


 この二人なら、心配いらないだろう……
 友人である私やナタリーも大事にしてくれるのだ。
 きっと、未来の奥さんも大切にされるに違いない!



「なぁ、そろそろシルキー様の結婚式だよな?
 姫さんは、何かしたの?」
「私は、アメジストが欲しいって言われたから、それを贈ったの……
 でも、内緒ね……」
「外聞よろしくないですからねぇ……」
「どうせ、殿下にもついでにーとか言って、同じもの渡したんだろ?」


 ウィルには、ドキッとさせられる。
 まさに、贈ったからだ……
 言わないでおこうかな……
 でも、なんか、言っておいた方がいいのかなぁ……?


「ウィルって、なんでもお見通しなのね……?
 私、監視されてる?」
「いや、してねぇー
 したら、そこの侍女に抹殺されそうじゃん!俺」
「アンナ様のご友人にそんなことしません!」
「ホント……?
 でも、監視はしてないよ!いつも、勘!」



 ふーんと私は、あいまいに頷いておく。



「で、何贈ったのですか?」
「シルキー様には、アメジストでできたキキョウの髪飾りと
 殿下には、同じキキョウのカフスボタン」
「へぇー手の込んだものだな……」



 国のトップに立つ人に、下手なものは……贈れないじゃない……
 最高級のアメジストで作られたティアの作品だ。



「みんな、私から、アメジストが欲しいっていうの!」
「俺たちがもらったからじゃないか?」
「そう、それなのよ!
 私は、ただのお礼であなたたち3人に渡したのに……」
「他に誰がもっているのです?」



 指折り名前を言ってく。



「まずは、殿下とシルキー様。
 お兄様とエリザベス。
 私からじゃないけど、お兄様の子供2人ともアメジストを持つはず。
 あとは、エレーナかなぁ……?」
「皆さま、アメジストと申されると……」
「これ!」



 ウィルは、ピアスを指し、セバスはネックレスを服の中から出してきた。



「デリアは……?」
「私は……ただの侍従ですから……」



 寂しそうにしているデリアを見つめる。
 うん、ニコライにお願いしてアメジストのピアスを追加注文ね!と、心に決める。
 ニコライも欲しいとか……言わないよね……?と、考える。
 欲しいって言ってくれるなら……もう、いっそ私の味方ってことで配ってしまうのもありなのかもしれない。
 ただし、人選は必要だと思う。
 デリアにニコライは、信用していいので、もちろん渡す。
 配下になりたいとか言ってたパルマは……いるだろうか……?
 もう少し、保留だなぁ……と、頭の隅においやった。



「アメジストの話は、そこまで!
 あんまり私のデリアをいじめないでくれない?」
「アンナ様……」



『私のデリア』に感動してくれたのか、少し涙が浮かんでいる。
 言葉のあやでもなんでもない。
 私の本心からの言葉だ。
 今は、たくさんサポートしてくれているのでデリアあっての、私なのだ!
 感謝はしてもしきれない。




「そういやさ、ジョージア様の結婚式ももうそろそろじゃなかった?」



 ふいにウィルが発した質問だったが、デリアはキッと睨み、セバスはあちゃーっとおでこを押さえてる。



「気にしなくていいのよ!セバス。
 本当のことだから……
 もうすぐ、ソフィアとの結婚式よ!
 日取りがいいから殿下たちと同じ日なのよ!」
「大丈夫か……?」
「えぇ、特に問題はないわ!
 デリアもディルもいるし、子供も一緒だから!」



 そうはいっても、寂しい気持ちももちろんある。
 いつも一緒にいるのに、ジョージアがいない日があるのかと思うと寂しい。



「この前のジョージア様無断外泊のときは、かなりあれてたからなぁ……
 まぁ、そういうものだと思って、諦めろ!」
「大丈夫よ!前もってわかってれば、ぬいぐるみ抱いて寝るから!」
「姫さんにも、そんな可愛らしい一面もあるんだな!」



 ケラケラ笑われるが、同情されるようりは、ずっといい!



「どういう意味か分かりませんけど、可愛いんですよ!
 クマのぬいぐるみ!」



 無駄にニコニコ笑っておくと、ウィルは、何か覚悟をしたような顔つきになっていた。



 そうそう、動けるようになったら、おぼえてらっしゃい!
 心の中では、メラメラと私は燃えるのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

悲恋を気取った侯爵夫人の末路

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。 順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。 悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──? カクヨムにも公開してます。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...