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いりません!

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「お腹、触ってもいいですか?」
「いいわよ!デリア」


 日に日に大きくなっていくような気がするけど、まだまだ大きくなるって話だ。
 どこまで、大きくなるだろう?と毎朝、思う。


「もう服では隠せなくなってきましたね……
 服や下着は、きつくありませんか?
 なるべく緩いものを選んでいるのですけど……」
「えぇ、特になんとも……
 気を使ってくれて、ありがとう!」


 デリアに微笑むと、デリアも微笑み返してくれる。


「あの、アンナ様」
「なぁに?」
「乳母のことですけど……
 いかがなさいますか?
 そろそろ、採用しないといけないのですけど……?」



 私は、乳母の存在をすっかり忘れていた。
 と、いうより乳母を雇うということすら頭に無かったのだ。
 私の母は、母乳を与え、作ってもらった離乳食を食べさせ自分で育てた。
 兄と私を。



「乳母って、雇わないといけないかしら……?」
「雇われないのですか?
 普通、貴族の夫人は、母乳で育てるとご自身の体の形が悪くなると
 皆さん雇ってらっしゃいますよ?」
「そうなの……?」



 その辺りは、あんまり興味がなかったので、情報を集めて来なかったのだが、世の貴族の夫人たちは、そうなのかと考えてしまう。
 できることなら、私も母と同じように自分の手で育てたいと思う。



「ジョージア様にも聞いてみるね!」
「はい、準備等もありますから……」



 デリアは、私の心配をしてくれていろいろと考えてくれているようだ。




 執務室へ向かう。
 今日も今日とて、ジョージアに領地運営の話を聞くのだ。
 私の毎日の日課である。



「ジョージア様は、乳母を雇うことは、どう思われますか?」



 執務の休憩中、ジョージアへ質問する。
 どんなふうに思っているのだろうか?


「そうだね、そろそろ考えないといけないなぁ……
 乳母は、美人さんがいいよねー」


 ジョージアを私は軽く睨む。
 乳母って美人じゃないといけないってどういうこと?と疑問だ。


「別に美人じゃなくてもいいんじゃないですか?
 ジョージア様は、何をお求めか知りませんけどね!」
「あ……いや、その……
 アンナさん?」
「なんですか?」
「怒ってるの?」
「怒ってませんけど、なんか、やらしいこと考えてませんでしたか?」
「いえ、全然。
 アンナさんがいれば、別に……」
「アンナさんは、ジョージア様の今の発言にがっかりしただけです!」



 むぅっと頬を膨らませる。



「それを怒っているっていうと思うんだけどなぁ……
 俺、愛されてるってことでいいのかなぁ……?」



 ジョージアは、小声でブツブツ言っているが、地獄耳なので、私は全部聞こえているんですよーって顔でジョージアを見つめている。


「あの……アンナさんは、その……どうしたい?」
「私ですか?
 私は……できれば、自分で育てたいです!
 乳母を雇うのは、貴族では当たり前ってことみたいですけど……
 私も母の母乳で育ってますので……母乳……でるかな……」



 ちょっと自信はなくなってきて、尻つぼみになっていく。



「多分、母乳に関しては、大丈夫じゃない?
 アンナが、そうしたいなら、自分で育てるといい!
 できる限り、俺も手伝うし!」



 私は、ジトっとジョージアを見る。
 この人、絶対口だけな気がする……
 て、いうか、生まれた日から、私と私の子供には見向きもしない未来なのだけど……
 今は、甘やかされているが……そのことも考えていかないと!



「えっと、アンナさん……まだ、何か怒ってらっしゃいますか?」
「いえ、怒っていません。
 では、乳母はいりません!」
「うん、わかった。
 じゃあ、屋敷のものも含めて準備をしよう!」



 ジョージアが近づいてくる。
 お腹を撫でて、何事かしゃべっているのだが、今度は聞こえない……
 何を話しているのだろう……気になった。



「何話していたんですか?」
「いや、たいしたことないよ!」




 執務机に戻ったジョージアは、休憩は終わりと仕事を始める。



 私も、仕事を始めるとにした。
 この屋敷での収支を今日は、見ているところだ。
 だんだん、侍従たちが私のやり方に馴染んできてくれているおかげで、報告書も読みやすい。



 まずは、私なりに屋敷改革をしようとして、現在進行形でイロイロと改善中である。
 例えば、イロイロな形であがってきていた報告書をそろえるところから始めた。
 最初は、屋敷の侍従たちは戸惑っていたが、慣れてしまえば、報告もしやすく他の人からも見やすいとかなり好評であった。
 今では、何故、報告書を統一しなかったのか……?と疑問があったくらいだ。



 他にも、報告会を開くことにしている。
 部門別でまず話を聞き、総括してディルに話を聞く。


 他にも、給金の支給方法も少しだけ変えてある。
 真面目に働けば、その分だけお給金が上がるようにしたので、働く意欲が変わったように思う。
 それでも、財源は際限なくあるわけではないので、上限は決めさせてもらったし半年に1回の評価によっては、上がったり下がったとしている侍従もあるとか……


 やる気のない人が、いなくなったので少数精鋭でかなり仕事の質が上がった気がする。
 ただ、少なすぎると休む日もなくなるので、雇い入れも往々にしているところだ。




「アンナが、主人になってからひっきりなしに文句が上がってきていたけど……
 最近、見かけないね?」
「そうなんですか?
 文句があるなら、直接、私に言うようにってしていたのですけどね……
 ジョージア様のところに行ってましたか……?」



 私はすまないことをしたなぁ……と、ジョージアに謝る。



「アンナリーゼ様の改革は、とても、画期的でしたよ?
 私どもは、今回の改革で、ずいぶん意識を変えてもらえました」
「ディルがそういうなら……
 そうなんだろうね?
 確かに、最近、侍従たちの動きが洗練されている気がするよ!」



 ふふっとディルが笑う。



「アンナリーゼ様が、2週間に1回程、報告会をしてくれています。
 なので、困ったこと、対処してほしいことに対して、
 とても、早く、対応ができているんですよ!」
「身重でそんなことをしているのか?
 大丈夫なのか?」



 ジョージアは、心配そうに私を見てくれる。



「大丈夫ですよ!
 そんなに苦でもありませんし、皆気遣ってくれるので!」
「それにしたって、心配なんだけど……」
「それは、こちらでも細心の注意は払わせてもらっています。
 アンナリーゼ様が、屋敷の改革をしてくれたおかげで、皆が仕事をしやすく
 そして、何より『アンバー公爵家で働くもの』としての誇りが持てるように
 なったと、申していますよ!」




 そこまで言うのは……褒めすぎな気がしたが、ディルにそういって言われるのは、とてもとても嬉しかった。



「無理は、しないよう、ゆっくり改革はしていくように……」




 心配してくれるジョージアに、ニッコリ笑って応え、私は屋敷の収支と向き合うのだった。
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