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久しぶりのお茶会

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「いらっしゃい!セバスにニコライ!」


 客間に招き入れたのは、私のビジネス頭脳となる予定の友人たちだ。


「アンナリーゼ様、お招きありがとう!
 これ、お土産だけど……」
「ありがとう!何かしら?」


 箱を開くと、生クリームのたくさんついたケーキだった。
 早速、デリアにお茶の用意をしてもらう。
 私は、紅茶ダメ……って言われたのでホットミルクだ。


 それぞれの前に飲み物とケーキが置かれたことを確認して、まずは、パルマの話を始めることにした。


「こちら、パルマ。
 エレーナの実の弟なのよ!」


 そこで、悟ったのかセバスは、あぁという顔で、ニコライは頷くだけだった。


「パルマと申します。
 夏の間、アンナリーゼ様の執務を勉強させていただきに来ております。
 どうぞ、よろしくお願いします!」
「セバスチャン・トライドだ。
 アンナリーゼ様には、学園のころからよくしてもらっている」
「同じく、ニコライ・マーラです。
 アンバー領でマーラ商会の一員として今、働いています」


 それぞれ、初めましての自己紹介をしている。
 私は、それを横目にホットミルクを飲んでいる。
 暑い夏に熱いものって……って気はするが、体が冷えないようにとみんなが気遣ってくれてのことなので、何も言わずにいただいているところだ。


「それでね、今日集まってもらったのには、お願いと知恵を貸してほしいの……」


 私からのお願いは、なかなかないことだったので、それぞれ身構えたような嬉しいような複雑な表情をしている。


「パルマがね、卒業後、私の配下に入りたいと申し出てくれたの。
 ただ、トワイス国の貴族だし、爵位は持っていた方が今後もいいと思っていて、
 こちらの国にきて、爵位ってもらえるのかしら?」
「それなら、一代限りの爵位っていうのならありますよ!
 僕もそれを目指しているところです」


 男爵位の子息ではあるが、五男であるセバスは、爵位を継ぐことができない。
 今は、文官として王宮で働いているのだ。


「それって、ウィルが目指しているようなもの?
 たしか、ウィルって今、子爵よね?」
「それの文官版って考えてもらえればいいですよ。
 文官にもその制度が適用されます。
 ただ、それは、かなり狭き門なのです。
 武官であれば、武功をたてればいいのですが、文官はなかなか、表立った評価は
 されにくいのですよ……」


 なるほど。
 文官の道もまた茨ということか……
 せめて、男爵位にはつきたいとセバスは頑張っているそうだが、なかなか認めてもらえず困っているようだ。



「どんな手柄でもいいの?
 例えば、事務報告書の体裁をすべて揃えさせるとか、報告書の保管方法を
 定めるとか……
 それだと、地味か……」
「そうですね、それが公の目に届けばいいですけど……」
「うーん……いっそ、今、ウィルが行っている小競り合いを口で言いくるめてくるとか?
 それなら、功績も目に見えてると思うけど……
 命の危険は、伴うわね……」
「それって、僕のような下っ端でもできるのですか?」
「いけるのじゃない?
 むしろ、命を懸ける仕事なんて誰もしたがらないもの。
 だからって、セバスに危ないところへ行ってほしいわけじゃないのよ……」


 それだけいうと、セバスの目が空を向く。
 きっと、小競り合いの地へ行くことを考えているのだろう。
 もちろん、止めようと思えば、止められる。
 ただ、危険を伴っても、自分を底上げしたいと願うセバスをとめることは、きっとプライドも傷つくだろうし、成長にもつながらない。
 したいと思って、できるなら、すればいい。
 私も、セバスに精一杯の貸せる力は貸そうと思う。


「道は、開けたけど……
 貴族階級になってと考えるとかなりいばらの道ね……
 それでもって言ってくれるなら、後押しはするけど、どうする?」
「ローズディアの登用試験、受けたいと思います。
 セバスチャン様にせっかくいただいた答えをなかったことにはしたくないですし、
 それもまた経験と自分に言い聞かせて、頑張りたいと思いました」


 パルマは、まっすぐ私を見つめ返す。
 その視線は、ウィルやセバス、ナタリーやニコライに通づるものがあった。
 私は、その視線をしかと受け止めようと思う。


「わかったわ。
 最大限の支援と後ろ押しはしてあげる。
 でも、頑張るのは、パルマ、あなた次第なのよ!」
「ありがとうございます!
 必ずや、アンナリーゼ様の役に立てるよう努力して見せます!」


 ふふっと笑うと、3人ともが気持ち新たに考えを巡らせているようだ。



「そうだ、アンナリーゼ様、この前頼まれていたアンバー領舗装工事の件だけど、
 今、話しても大丈夫かな?」
「あっ!試算でたの?」


 お願いしていたアンバー領の舗装工事についての試算がでたようで、私はパッと笑顔になる。


「概算だけどね……
 40億くらいかかりそう……
 まだ、概算だからもう少しいると考えて50億ってところかなぁ?」
「50億か……
 ちょっと高いわね」


 しかし、概算額が思ったよりかかることに、残念な気持ちになり項垂れる。


「何かいい方法ないかしらね……
 みんな生活がかかってるから、値切るわけにもいかないし、
 そこから税金もらっているのよね……
 5年工期と考えてもなかなかの数字ね」
「アンバー領には砕石場とかないのかなぁ?
 僕、今ある砕石場からの輸送コストも入れてるからね……
 もし、自前であるなら、もう少し安くなるはずだよ?」


 その話に1番興味が惹かれたのは、きっとニコライだろう。


「街道整備をなさるのですか?」
「そのつもり……
 まだ、その準備途中というか、資金集めを考えているところよ!」
「もし、アンバー領の街道が整備されるとだいぶ商人にとっては助かる話です」
「そう、それで、経済を回せば、おもしろいと思うのだけど……
 そこはね……お金がいるのよ」


 はぁ……とため息をつく私。


「あと、エレーナが、輸送業に力を入れるって話も聞いていてね……
 こちらも商人へアプローチしたいと思っているところなのだけど……
 やりたいことは山ほどあっても、それを動かせる人もお金も物もないのが
 現状なのよ……」


 はぁ……と私は、再度ため息をつく。


「アンナリーゼ様、それって僕はお手伝いすることは可能かな?
 例えば、今聞いた運輸業なんだけど……
 使ってみたいと思う!
 どういうメリットがあるのかリスクは何か、参考になるものってある?」
「うーん、私はまた聞きなのよ……
 直接、エレーナに聞ければいいけど、エルドアに行かないといけないし……」
「エルドアか……確か、店主が次の買い付けがエルドアになっていたから、
 同行してみるよ!
 あの、それで……」
「わかったわ、紹介状ね!
 すぐ書くから、ちょっとだけ待って!」



 ニコライのフットワークは、とても軽い。
 なので、いつでも行けるように招待状は、持たせておくべきだ。
 これで、運輸業が発展すれば、街道整備をするにも意味がでる。
 商人だけでなく、通行人も歩きやすくなれば、きっと……アンバー領へ来てくれる人も多くなるはずだ……
 何か、珍しいものは、必要だが、それはおいおい考えていけばいいだろう。


 あとは、そうだな……
 やっぱり、金勘定の出来る人や、事務方がどうしてもほしいなと思ってしまう。


 フレイゼンのような学都としても発展させたい……

 やりたいことは、本当に山のようにあるのだ。




 よしっと、私にも気合が入るのであった。
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