ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

文字の大きさ
上 下
108 / 1,516

指輪

しおりを挟む
 ジョージアに連れられきたのは、高台にあるレストランだった。
 景色もよく、夕方になってきたので街の明かりもチラチラ見える。


「素敵ですね!」


 兄が言っていた『意外とロマンチストなんだ』というのは事実のようだ。

 そこでふと思う。
 兄もこんな風にエリザベスをエスコートできているんだろうか?
 少し不安に思ったが、仲良さそうにしていたのを思い出すと、兄なりにがんばっているんだろう。
 まぁ、結婚式や自宅でのやりとりを見る限りでは、カカア天下になるだろうと予想はつく。
 その方が、平和的でいいだろう。兄に任せておいていいことなんて何もないのだから……

 馬車から降りてお店に入って行くと2階の窓際の席に案内される。
 先ほども見たが、ここからの景色もすばらしい。

 今日はコース料理と決まっているので、待っていれば次から次へとくる。
 おしゃべりしながら、食べて行くともうお腹いっぱいである。
 紅茶をもらい、食べ過ぎたお腹をさする私。


「食べ過ぎたな……」
「はい。もうお腹いっぱいで、何も入りません!」


 そう言って私たちは笑い合う。


「デザートでございます!」


 目の前に現れたのは、生クリームたっぷりの……ケーキ!!
 ジョージアは、その生クリームの多さにひいていたが、私のお腹はその生クリームを見た瞬間、急激に処理能力を上げたようだ。


「おいしそうですね!!」
「え?今、お腹いっぱいって……」
「生クリームは別腹です!」


 そういって、フォークを持つ私。それをみて、あんぐりしているジョージア。


「女性の甘味に対する熱意は、すごいね……よかったら……」


 そういって、ジョージアは、目の前に置かれたケーキを私に差し出してくれる。


「じゃあ、一口だけ……どうですか?」
「いただこう。アンナがくれるって分だけ食べさせて!」


 そういって、ジョージアは、私にケーキの一口を委ねてくる。
 私は、困り果てながら、ケーキの端っこを切り分け、お皿を差し出す。


「どうぞ!」
「食べさせて?」


 えぇー私が……ですか?と心の中は、パニックだ。


「じゃ……じゃあ……あ……あーん」
「あーん」


 これ、かなり恥ずかしい……階下の皆さん、見ないで……従業員の皆さん、見ないで……
 どんどん私のほっぺの色は赤くなっていく。

 絶対楽しんでいるな……ジョージア様め!!

 満足そうにしているジョージアを見ると、何も言えなくなりフォークを引き抜く。


「甘いね……」
「そうですね…………」


 私にとって、ここしばらくで一番の至福の時間であった。
 恥ずかしさを誤魔化すように、そそくさとケーキを私の口に運ぶ。
 ペロッと二人分のケーキを食べ、満足しきっている私をあたたかく見ているジョージア。


「大丈夫?」
「さすがに、食べすぎです。明日は、また、ウィルに相手してもらいに行ってきます!」
「そう……」


 少し寂しそうにするジョージアをじっと見つめる。
 1階からは、私たちが見えているだろう。
 アンバー公爵家の子息と言えば、ローズディアではやはり人気のようだ。
 婚約発表から半年ほどたつが、やはり、婚約者候補としてダドリー男爵家のソフィアのイメージが強いせいか私を見ても『かわいらしいお嬢さん』とか『妹』と言われることがまだある。
 今日も、聞こえてくるのは、そんな声ばかりだ……

 そして、ジョージアと対面でディナーをできることをうらやむ声も聞こえてくる。


「私、とっても素敵な方と婚約できたのですね?みんなが羨むでしょう」


 階下を見下ろしながら、ジョージアに告げる。


「そうかい?俺の方が、素敵なお嬢様と婚約できたと思っているけどね。
 なんたって、名だたる候補の中では、霞むくらいの順位だったはずだよ?」
「そんなことないです。茶化さないでください」


 そういうと、テーブルの上で持て余してた手を握られ、驚いた。


「ジョージア様!」


 いたずらでもしようかというちょっと悪い笑みを浮かべている。


「いいじゃない。俺は念願叶った婚約だったんだ……アンナの手をもう離すつもりはないよ!」


 ジョージアのニッコリ笑顔は、反則だ。


「ふふふ……離さないでくださいね!」


 二人で笑いあっている、そんな優しい時間はとても好きだ。
 ジョージアの優しい雰囲気が私をホッとさせる。そして、ドキドキもさせる。


「そうだ、今日は、渡すものがあるんだ。ちょっと、離すよ!」


 そんな冗談めかして手を離すジョージアに、どうぞと答える。
 コトっと机の上に置かれた小箱。


「開けてみて」


 ジョージアに言われ、小箱をひらくとそこには一粒ダイヤの指輪がおさまっていた。


「これは?」
「エンゲージリング。遅くなって、ごめん」


 まじまじとそのリングを見る。3カラットはあるだろうか?
 ろうそくの光を浴びてキラキラと輝いている。


「ありがとう……ジョージア……さ……ま……」


 涙が、溢れてくる。私、なんで泣いているんだろう……?

 すっと立ち上がって、私を寄っかからせてくれる。
 そのまま、ぎゅーっとジョージアに抱きついてしまった。

 あぁ、ジョージア様の服が汚れる……そう思っても離れられそうにない。
 頭を優しく撫でてもらうとほわほわとあたたかい気持ちになってくる。


「ありがとうございます……」
「ちょっと、驚いたよ」

 ふふふ、ごめんなさいとジョージアから離れ、泣き笑いしていると、おでこにちゅっとキスをしてくれる。
 下から、ザワザワと聞こえてくるが、今は、ジョージアに甘えておこう。
 存分に階下にいる令嬢たちに羨ましがられたい、ジョージアの特別なんだって感じていたい。

 ジョージアが私を自分の方へと向きを変えられる。
 すると、その場で、ジョージアが跪く。私は、微笑んでジョージアをみつめていた。

 私の手をとり、もう一度、あの言葉を言ってくれる。


「アンナリーゼ、僕と結婚してください!」
「もちろんです!ジョージア様」


 私の手を取り、婚約指輪を左薬指にさしてくれる。
 ジョージアのとろっとした蜂蜜色の瞳を見つめて、私は微笑んだ。


「嬉しいですね!2度もプロポーズしてもらえるなんて!」
「もう一回いうと、なんだか、恥ずかしいし、わざとらしい感じになるな……」
「そんなことありません。何度、言われても嬉しいです!」


 ジョージアの顔にそっと両手を添わせ、私からキスをする。
 初めてにしては、うまくいったんじゃないだろうか?
 うっすら瞼を開けると、ジョージアは、驚いているようだ。

 ジョージアからはなれ、いたずらっ子はニコッと笑うと、やられたな……とジョージアは苦笑いをしている。

 一部始終をみていたその場にいたウエイターにウエイトレス、耳を澄ませていたであろう階下のお客からは拍手が鳴り響いたのである。

 その鳴りやまない拍手に、私たち二人は、恥ずかしく恐縮するばかりであった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

白い結婚はそちらが言い出したことですわ

来住野つかさ
恋愛
サリーは怒っていた。今日は幼馴染で喧嘩ばかりのスコットとの結婚式だったが、あろうことかバーティでスコットの友人たちが「白い結婚にするって言ってたよな?」「奥さんのこと色気ないとかさ」と騒ぎながら話している。スコットがその気なら喧嘩買うわよ! 白い結婚上等よ! 許せん! これから舌戦だ!!

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

処理中です...