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ラストダンス
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「殿下、次は私にそのお転婆娘と踊る権利を!」
「……なんか、私に対して失礼じゃない?」
「よいぞ。もう、じゃじゃ馬の相手は疲れたから、ハリーに譲ろう!ほれ、行くがよい!」
殿下は、私をクルっと回しハリーの方へ向かせる。
すると、優しく微笑んでいるハリーが目の前にいた。
私は、こみ上げそうなものをグッと押し込め、微笑んだ。
殿下に背中をポンと押し出される。
「僕と踊ってくれませんか?アンナリーゼ」
ハリーに名前なんて何年振りに呼ばれたんだろうか?
そんな優しい声で名前を呼ばないでくれと苦笑いする。
「喜んでお受けします、ヘンリー様!」
私は、完ぺきな淑女の礼をもってハリーのお誘いに応えた。
殿下は、私の姿をみて、ダンスホールにいたすべての者を脇へと追い出し、音楽も私が好きなものにするよう殿下自ら指揮者に伝えに行く。
そして、始まるヘンリーとのラストダンス。
このホールには、私とハリーの二人しかいない。
ゆっくり息をして、ハリーへ視線を向けると微笑むハリーと目が合った。
ハリーもわかっているのだ。これが、私たちに許された最後のダンスなんだと……
「アンナ、殿下は粋なはからいをしてくれたものだね?」
「そうだね!」
あの雪の日以降、ろくに話もしていないので、私はハリーに対してぎこちない返事しかできない。
ただ、差し出されたハリーの手を握れば、自然とハリーとの距離に落ち着いている。
そのことに、私は驚いた。
あぁ、殿下のいう半身ってこういうことなのかしら?
殿下や兄ですら、ダンスをするときには距離に戸惑う。
ジョージアは、私にうまく合わせてくれるのですでに0距離だが、ハリーは自然にぴたりと落ち着くのだ。
「じゃあ、いこうか。僕のお姫様」
えっ?っとハリーを見ると少し切なそうにしているが、ほかの人にこの微妙な違いがわかるだろうか……?
「はい、私の王子様」
大事に一歩目を進めた。あとは、流れるような動きになる。
音楽が鳴り始めた。
あぁ、これ、ハリーと初めて踊った曲だ。
曲を聴くだけで、懐かしく、胸の内を暖かくしていく。
「これ、アンナと初めてダンスの練習で踊った曲だね。
懐かしいな……この曲、アンナはいたく気に入っていたよね?」
「そうね。この曲は、今でも大好きよ。すっと体に馴染むもの!」
クスクス笑うハリー。
「どうしたの?」
「いや、アンナもかと思って。俺もね、この曲が一番、体に馴染む。
どんな曲も踊れるんだけどね、やっぱりこれかな?」
二人の共通点を探せば、きりがない。
違うところを探す方が難しいのではないかというほど、私たちは同調しているようだ。
「さっきね、殿下にハリーと私は半身だって言われた。今頃、それを感じたわ!」
「半身?」
「そう。もう夫婦ではなくて、半身。双子みたいなものだって」
「なるほどね。そういうものなのかな?俺らって」
「そうみたいね……」
微笑むハリーから漏れてきたのは、驚きだった。
「じゃあ、お互いへの愛情深いのも納得だなぁ……」
「えっ?」
「殿下から、聞いたんだ……婚約打診のときのこと。何時間も泣いたんだって?」
王宮の東屋でのことを思い出す。恥ずかしくて、顔から火が噴きそうだ……
「殿下には、秘密って言ったのに!!」
「そう、殿下を責めるな。聞き出したのは、俺だから……
アンナに命令もせず、王太子妃にしなかったことを不審に思ったんだ。
あの日、聞いたことを殿下もアンナに聞いたのかって思って」
「殿下には話してない……」
「そうだってね。俺も殿下には話していないよ」
「ありがとう……話さないでくれて……」
「うーん。話さないでいたというか、話せなかったかな?
アンナがいなくなることなんて、やっぱり俺には許容できなかったからね」
一層寂しそうな悲しそうな表情をするハリー。
ダンスの途中で、ふとイリアが目に入った。
イリアは、私達を見て泣いていた。ハリーのこの微妙な表情に気づいたのだろう。
「今日まで、ずっと考えていたよ……アンナをこのまま手放していいのかどうか。
でも、答えは出たよ!」
ハリーへ視線を向けると、苦笑いだ。
「俺は、アンナを手放すよ。
アンナのあんな幸せそうな顔を見れば、それも仕方ないのかな……と思った。
それにね、アンナがローズディアへ行ったとしても、俺は、何も変わらない。
アンナの幼馴染で、1番の理解者であることに。だから、いつでも頼ってくれていい。
来る日に向けて、陰ながら応援もする。もちろん、生まれくるアンナの子供も大事にしよう!
だから、ジョージア様のところへ飛んでおいき!『僕のお姫様』は、いつまでも、俺だけのものだ!」
そういって笑ってくれる。
さっきまでの苦笑いでもなく……ハリーの本当の笑顔だ。
「婚約、おめでとう!」
ラストダンスの音楽は、もう聞こえてこない。
終わったのだ……私たちの恋は。
ハリーに淑女の礼をとり、ハリーは私に最敬礼をしてくれる。
涙が、溢れてきた。
「ハリー!!ありがとう!!」
そういって飛びつく私をハリーがしっかり支えてくれる。
「泣いたら、せっかくのお姫様が台無しだな……」
「そんなのいい……!」
「はいはい……」
優しく頭を撫でてくれる。
「婚約祝い、贈らないとな……」
「とびっきりのお祝い頂戴ね!!もう、この国にはなかなか帰ってこれなくなるから……
たまに、皆のこと思い出したいわ!」
「わかった。アンナにとびっきりを渡そう。いつでもトワイスを思い出せるように」
そういって、私は、ハリーから離れる。
名残惜しい……とは、もう、言わない。
私の隣にやってきたジョージアに顔をのぞかれる。
「アンナ。ひどい顔になってるぞ?」
「ジョージア様まで……なんだか、今日は、みんな私に失礼ですよ!!」
側にやってきたジョージアに涙を拭われ、よしよしと頭を撫でられる。
小さな子供にでもなったかのようだ……いや、そうなのだろう。
ハリーと手を繋いで、王都を駆け回っていた頃のような、新たな冒険へ飛び出すような少し不安な気持ちである。
「ハリー、イリアのところへ」
「言われなくても向かうよ。
ジョージア様、こんなじゃじゃ馬ですが、どうかよろしくお願いします」
ジョージアに向けて、私を頼むとハリーが頭を下げている。
ジョージアは、そんなハリーに驚いているようだ。
「ヘンリー殿……あぁ、わかっている!」
ハリーは、そのまま私たちをダンスホールの真ん中に残し、イリアの側に駆けて行き慰めていた。
「心が痛むか?」
ジョージアからこぼれた言葉に素直に頷く。
「そうか。では、アンナの心が痛まなくて済むよう、俺の心で君の心の穴を埋められるよう、
最大限の努力をしよう!」
「ふふふ、期待しています!」
涙を拭い、私はジョージアの腕にそっと自分の腕を絡めるのであった。
「……なんか、私に対して失礼じゃない?」
「よいぞ。もう、じゃじゃ馬の相手は疲れたから、ハリーに譲ろう!ほれ、行くがよい!」
殿下は、私をクルっと回しハリーの方へ向かせる。
すると、優しく微笑んでいるハリーが目の前にいた。
私は、こみ上げそうなものをグッと押し込め、微笑んだ。
殿下に背中をポンと押し出される。
「僕と踊ってくれませんか?アンナリーゼ」
ハリーに名前なんて何年振りに呼ばれたんだろうか?
そんな優しい声で名前を呼ばないでくれと苦笑いする。
「喜んでお受けします、ヘンリー様!」
私は、完ぺきな淑女の礼をもってハリーのお誘いに応えた。
殿下は、私の姿をみて、ダンスホールにいたすべての者を脇へと追い出し、音楽も私が好きなものにするよう殿下自ら指揮者に伝えに行く。
そして、始まるヘンリーとのラストダンス。
このホールには、私とハリーの二人しかいない。
ゆっくり息をして、ハリーへ視線を向けると微笑むハリーと目が合った。
ハリーもわかっているのだ。これが、私たちに許された最後のダンスなんだと……
「アンナ、殿下は粋なはからいをしてくれたものだね?」
「そうだね!」
あの雪の日以降、ろくに話もしていないので、私はハリーに対してぎこちない返事しかできない。
ただ、差し出されたハリーの手を握れば、自然とハリーとの距離に落ち着いている。
そのことに、私は驚いた。
あぁ、殿下のいう半身ってこういうことなのかしら?
殿下や兄ですら、ダンスをするときには距離に戸惑う。
ジョージアは、私にうまく合わせてくれるのですでに0距離だが、ハリーは自然にぴたりと落ち着くのだ。
「じゃあ、いこうか。僕のお姫様」
えっ?っとハリーを見ると少し切なそうにしているが、ほかの人にこの微妙な違いがわかるだろうか……?
「はい、私の王子様」
大事に一歩目を進めた。あとは、流れるような動きになる。
音楽が鳴り始めた。
あぁ、これ、ハリーと初めて踊った曲だ。
曲を聴くだけで、懐かしく、胸の内を暖かくしていく。
「これ、アンナと初めてダンスの練習で踊った曲だね。
懐かしいな……この曲、アンナはいたく気に入っていたよね?」
「そうね。この曲は、今でも大好きよ。すっと体に馴染むもの!」
クスクス笑うハリー。
「どうしたの?」
「いや、アンナもかと思って。俺もね、この曲が一番、体に馴染む。
どんな曲も踊れるんだけどね、やっぱりこれかな?」
二人の共通点を探せば、きりがない。
違うところを探す方が難しいのではないかというほど、私たちは同調しているようだ。
「さっきね、殿下にハリーと私は半身だって言われた。今頃、それを感じたわ!」
「半身?」
「そう。もう夫婦ではなくて、半身。双子みたいなものだって」
「なるほどね。そういうものなのかな?俺らって」
「そうみたいね……」
微笑むハリーから漏れてきたのは、驚きだった。
「じゃあ、お互いへの愛情深いのも納得だなぁ……」
「えっ?」
「殿下から、聞いたんだ……婚約打診のときのこと。何時間も泣いたんだって?」
王宮の東屋でのことを思い出す。恥ずかしくて、顔から火が噴きそうだ……
「殿下には、秘密って言ったのに!!」
「そう、殿下を責めるな。聞き出したのは、俺だから……
アンナに命令もせず、王太子妃にしなかったことを不審に思ったんだ。
あの日、聞いたことを殿下もアンナに聞いたのかって思って」
「殿下には話してない……」
「そうだってね。俺も殿下には話していないよ」
「ありがとう……話さないでくれて……」
「うーん。話さないでいたというか、話せなかったかな?
アンナがいなくなることなんて、やっぱり俺には許容できなかったからね」
一層寂しそうな悲しそうな表情をするハリー。
ダンスの途中で、ふとイリアが目に入った。
イリアは、私達を見て泣いていた。ハリーのこの微妙な表情に気づいたのだろう。
「今日まで、ずっと考えていたよ……アンナをこのまま手放していいのかどうか。
でも、答えは出たよ!」
ハリーへ視線を向けると、苦笑いだ。
「俺は、アンナを手放すよ。
アンナのあんな幸せそうな顔を見れば、それも仕方ないのかな……と思った。
それにね、アンナがローズディアへ行ったとしても、俺は、何も変わらない。
アンナの幼馴染で、1番の理解者であることに。だから、いつでも頼ってくれていい。
来る日に向けて、陰ながら応援もする。もちろん、生まれくるアンナの子供も大事にしよう!
だから、ジョージア様のところへ飛んでおいき!『僕のお姫様』は、いつまでも、俺だけのものだ!」
そういって笑ってくれる。
さっきまでの苦笑いでもなく……ハリーの本当の笑顔だ。
「婚約、おめでとう!」
ラストダンスの音楽は、もう聞こえてこない。
終わったのだ……私たちの恋は。
ハリーに淑女の礼をとり、ハリーは私に最敬礼をしてくれる。
涙が、溢れてきた。
「ハリー!!ありがとう!!」
そういって飛びつく私をハリーがしっかり支えてくれる。
「泣いたら、せっかくのお姫様が台無しだな……」
「そんなのいい……!」
「はいはい……」
優しく頭を撫でてくれる。
「婚約祝い、贈らないとな……」
「とびっきりのお祝い頂戴ね!!もう、この国にはなかなか帰ってこれなくなるから……
たまに、皆のこと思い出したいわ!」
「わかった。アンナにとびっきりを渡そう。いつでもトワイスを思い出せるように」
そういって、私は、ハリーから離れる。
名残惜しい……とは、もう、言わない。
私の隣にやってきたジョージアに顔をのぞかれる。
「アンナ。ひどい顔になってるぞ?」
「ジョージア様まで……なんだか、今日は、みんな私に失礼ですよ!!」
側にやってきたジョージアに涙を拭われ、よしよしと頭を撫でられる。
小さな子供にでもなったかのようだ……いや、そうなのだろう。
ハリーと手を繋いで、王都を駆け回っていた頃のような、新たな冒険へ飛び出すような少し不安な気持ちである。
「ハリー、イリアのところへ」
「言われなくても向かうよ。
ジョージア様、こんなじゃじゃ馬ですが、どうかよろしくお願いします」
ジョージアに向けて、私を頼むとハリーが頭を下げている。
ジョージアは、そんなハリーに驚いているようだ。
「ヘンリー殿……あぁ、わかっている!」
ハリーは、そのまま私たちをダンスホールの真ん中に残し、イリアの側に駆けて行き慰めていた。
「心が痛むか?」
ジョージアからこぼれた言葉に素直に頷く。
「そうか。では、アンナの心が痛まなくて済むよう、俺の心で君の心の穴を埋められるよう、
最大限の努力をしよう!」
「ふふふ、期待しています!」
涙を拭い、私はジョージアの腕にそっと自分の腕を絡めるのであった。
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