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雪の降る日
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休日だったので、私は王都の屋敷へ戻ってきていた。
あと3ヶ月もすれば、兄とエリザベスの結婚式が行われるため、エリザベスのきるドレスを確認するために兄からの帰宅要請だった。
「お兄様が、可愛いよって言ってあげればいいだけの問題ですよ!」
「いや、それだけじゃダメだろう……」
「今からそんなんだったら、子供が生まれたら……
お兄様、エリザベスのただのお荷物になってしまいますよ?」
「お荷物って……もう少し……」
「情けない!しっかりしなさい!お兄様、私はもう少ししたらいなくなるのですよ?」
「ゔ……やっぱり、行かないでくれ……」
「殿下ですら、そんなことは言わなかったですよ?」
私は、わざとらしくため息をつくと……涙目で私を見てくる兄のすねを蹴ってやる。
馬車の中にいるので狭いのだ。
「いたっ!何する!?」
「しっかりしていないから、愛のカツ!です」
「そんなのはいらないよ……」
蹴り飛ばしたすねを痛そうにさすっている。
兄のそんな姿がおかしくて笑ってしまった。
「お兄様、これからは、エリザベスと二人でフレイゼンのために頑張ってくださいね。
きっと、お兄様なら私以上にちゃんとできますから!大丈夫です!
このアンナリーゼが太鼓判押すんですから!」
「いや、その方が心配っていうか……」
兄の反対側のすねを蹴ったのはご愛敬だった。
◇◆◇◆◇
屋敷に帰ると、エリザベスが迎えてくれる。
甘い雰囲気のあったエリザベスもすっかりフレイゼン侯爵家の女主人のようになっていた。
「おかえりなさい、アンナ!」
ハグをしてくれるエリザベスに私も素直にハグを返す。
横で羨ましそうにしている兄は見ないし無視だ。
「外は、寒かったでしょ?早くお部屋へいきましょう!」
私の手を引き暖炉のある部屋まで連れて行ってくれる。
ん?なんか、エリザベス怒ってない?と後ろを振り返ると、兄は、寂しそうに玄関に佇んでいた。
「エリー……」
振り返ると兄の姿を見てなんだかこっちが切なくなってきた。
「喧嘩でもしたの?」
「いえ、してませんよ?」
「なら……お兄様が寂しそうですけど……」
「サシャより、アンナに聞かないといけないことがあるのでいいのです!」
部屋に通されると、熱い紅茶が出てくる。香り高いアンバー領のあの紅茶だ。
「それで?アンナ、ローズディアへ嫁ぐの?」
開口1番、エリザベスが前置きなしに私へ尋ねてくる。
「えぇ……そうよ」
「銀髪の君のところに?」
「そうね」
「幸せになれないわよ?」
「そうかしら?」
「サシャから聞いたの。ソフィアとの婚約が決まりそうだと連絡がきたと」
「そうね」
「驚かないのね?知っているの?」
「知っているわ」
「知らないのは、私だけ?サシャもあなたも私に何を隠しているの?」
「隠してはいないわ!」
「嘘よ!そんなことない……サシャに聞いてもはぐらかされた……
ねぇ?私は、アンナにもサシャにも信用されていないのかしら……?」
エリザベスの瞳には涙が浮かんでいる。
口ぶりから兄は、エリザベスに私の『予知夢』のことをまだ話していないようだ。
私は大きくため息をつき、立ち上がり窓へ近づく。
また、雪がちらつき始めた……夜は長い。
「エリザベス、信用していないわけではないの……」
「なら……」
「お兄様がまだエリザベスに話していないのなら、そろそろ、エリザベスも知るべきころかしら?」
ソファに深く座りなおし、『予知夢』のことを考える。
「エリザベス、少し時間を頂戴。そうね……夕飯の後。夜は長いから、準備しておいて!」
それだけ言うと、私は自室へ戻っていく。
自室に戻ると兄が追いかける用に入ってきた。
「アンナ……大丈夫か?」
「何がですか?」
「いや、今、エリーと話してただろ?その……僕がエリーにまだ言えてなかったから……」
「あぁ、その話ですか?大丈夫です。やはり私から伝えた方がいいかなぁ?って思いますし。
気遣ってくれてありがとうございます。もう、後戻りはできませんから……」
ニコッと笑ったつもりだった。兄は、私をぎゅっと抱きしめてくれる。
「お……お兄様?」
「何も言うな……今だけ……」
抱きしめてくれた兄の方が、私より辛そうだ。
「私は、大丈夫です!」
「そうは言っても、もうすぐジョージアのところへ行ってしまうじゃないか。
兄としては、手のかかる妹がいないのは、寂しいものなんだ」
「ふふふ、そんなことお兄様から聞けるなんて思ってもみませんでしたわ!」
ふっと笑う兄が目の前にいた。解放してくれたようだ。
「僕は、いない方がいいかい?それともいた方がいいかい?」
「大丈夫です。話した後、エリザベスが不安になったら、側にいてあげてください。
それが、お兄様の大事な役目です」
「わかった。じゃあ、話が終わるまで、部屋で待っているよ」
部屋が静かになった。
兄が出て行ったので、また、一人、部屋で雪の降る外を眺めている。
窓際は、冷える。
「あれは……?」
そう思った瞬間に、私は玄関へと走った。
「ハリー?」
「アンナ?」
玄関を出て、ランプの方へ歩いていくと、そこにはハリーがいた。
「こんな雪の日に、馬車にも乗らずどうしたの?」
「いや、いてもたっても……」
「それより、早く家に入って……屋敷から歩いてきたの?馬鹿よ!こんな日に」
自分が着ていたガウンをハリーにかけた。
少し寒いけど、ハリーに比べれば少しの距離だから我慢できる。
「ふぅ……溶けそうだ……」
「まだ、ここは寒いわよ?こっち」
そのまま手を引き客間まで連れていく。
執事や侍女、メイドたちは、ハリーと私が雪まるけになった姿をギョッとして見てくる。
そのあとは、バタバタとタオルやお湯など用意してくれるために慌ただしくしていた。
「ハリー、大丈夫?冷えてない?」
膝をついて手を握ると冷たい。雪の中、歩いてきたのだから、体の芯から冷えているようだ。
侍女が持ってきたスープを手渡し、ハリーがゆっくり飲んでいるのを見ていた。
「いったいどうしたの?こんな雪の日に。ハリーらしくもない……」
「君は、暢気なものだね……婚約の話は、その分だとまだ聞いていないというわけか?」
「婚約の話?誰の?」
「アンナのだよ!」
私は、思わず聞き返した。
それに腹をたて、ハリーは私を怒鳴る。
そんなハリーに、私はとても驚いた。
「僕は……、…………俺は、アンナが殿下と婚約するものだと思っていた。
父からも王太子妃の候補だと聞いていたから……なのに、どうして…………
………………ローズディアなんだ?アンバーなんだ?
なぁ、アンナ……なんとか……なんとかいえよ!!」
ハリーの前で毒をあおった日、以来だろうか……?
こんなに怒っているのを見るのは。
それも、そのとき以上に怒っている。
そうじゃない……とても、辛そうだ。
胸が張り裂けそうなくらい、苦しそうにしている。
「ハリー、婚約の話、聞いたのね。私のところには、まだ正式に通知は来ていないのだけど、
宰相様からハリーが聞いたのなら、正式に決まったようね。よかった……」
「よかった……?いいわけがない!
さっきの口ぶりからすると、ローズディアへの政略結婚は知っていたということか……?
なぁ、アンナ!?」
悲しみのあまり怒りにふれてしまったハリーの瞳に、困った顔の私がうつる。
「少し落ち着いて!知っていたわ、もちろん。
自分のことですもの知らないわけがない。それに、これは私が望んだことよ!!」
「アンナ!」
両方の腕を掴まれる。
「ハリー、聞いて!今から、エリザベスにも話をするの。一緒に私の話、聞いてくれる?」
返事はない……
「ハリー?」
「わかった……聞こう」
少し落ち着いたのか、それでも瞳には怒りが籠っている。
「エリザベスを呼んで!」
侍女に呼んできてもらうと、ハリーを見てエリザベスは驚いた。
「ヘンリー様?」
「そう……ハリーも一緒にいいかな?」
「エリザベス様、悪いね……」
「いえ、大丈夫ですよ。ヘンリー様も私と同じようですね……」
ため息をつくエリザベスと寒さが和らいできたハリーを前に、私は語り始める。
ハニーローズのことを。
自分の気持ちは語らずに……選択した未来を。
あと3ヶ月もすれば、兄とエリザベスの結婚式が行われるため、エリザベスのきるドレスを確認するために兄からの帰宅要請だった。
「お兄様が、可愛いよって言ってあげればいいだけの問題ですよ!」
「いや、それだけじゃダメだろう……」
「今からそんなんだったら、子供が生まれたら……
お兄様、エリザベスのただのお荷物になってしまいますよ?」
「お荷物って……もう少し……」
「情けない!しっかりしなさい!お兄様、私はもう少ししたらいなくなるのですよ?」
「ゔ……やっぱり、行かないでくれ……」
「殿下ですら、そんなことは言わなかったですよ?」
私は、わざとらしくため息をつくと……涙目で私を見てくる兄のすねを蹴ってやる。
馬車の中にいるので狭いのだ。
「いたっ!何する!?」
「しっかりしていないから、愛のカツ!です」
「そんなのはいらないよ……」
蹴り飛ばしたすねを痛そうにさすっている。
兄のそんな姿がおかしくて笑ってしまった。
「お兄様、これからは、エリザベスと二人でフレイゼンのために頑張ってくださいね。
きっと、お兄様なら私以上にちゃんとできますから!大丈夫です!
このアンナリーゼが太鼓判押すんですから!」
「いや、その方が心配っていうか……」
兄の反対側のすねを蹴ったのはご愛敬だった。
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屋敷に帰ると、エリザベスが迎えてくれる。
甘い雰囲気のあったエリザベスもすっかりフレイゼン侯爵家の女主人のようになっていた。
「おかえりなさい、アンナ!」
ハグをしてくれるエリザベスに私も素直にハグを返す。
横で羨ましそうにしている兄は見ないし無視だ。
「外は、寒かったでしょ?早くお部屋へいきましょう!」
私の手を引き暖炉のある部屋まで連れて行ってくれる。
ん?なんか、エリザベス怒ってない?と後ろを振り返ると、兄は、寂しそうに玄関に佇んでいた。
「エリー……」
振り返ると兄の姿を見てなんだかこっちが切なくなってきた。
「喧嘩でもしたの?」
「いえ、してませんよ?」
「なら……お兄様が寂しそうですけど……」
「サシャより、アンナに聞かないといけないことがあるのでいいのです!」
部屋に通されると、熱い紅茶が出てくる。香り高いアンバー領のあの紅茶だ。
「それで?アンナ、ローズディアへ嫁ぐの?」
開口1番、エリザベスが前置きなしに私へ尋ねてくる。
「えぇ……そうよ」
「銀髪の君のところに?」
「そうね」
「幸せになれないわよ?」
「そうかしら?」
「サシャから聞いたの。ソフィアとの婚約が決まりそうだと連絡がきたと」
「そうね」
「驚かないのね?知っているの?」
「知っているわ」
「知らないのは、私だけ?サシャもあなたも私に何を隠しているの?」
「隠してはいないわ!」
「嘘よ!そんなことない……サシャに聞いてもはぐらかされた……
ねぇ?私は、アンナにもサシャにも信用されていないのかしら……?」
エリザベスの瞳には涙が浮かんでいる。
口ぶりから兄は、エリザベスに私の『予知夢』のことをまだ話していないようだ。
私は大きくため息をつき、立ち上がり窓へ近づく。
また、雪がちらつき始めた……夜は長い。
「エリザベス、信用していないわけではないの……」
「なら……」
「お兄様がまだエリザベスに話していないのなら、そろそろ、エリザベスも知るべきころかしら?」
ソファに深く座りなおし、『予知夢』のことを考える。
「エリザベス、少し時間を頂戴。そうね……夕飯の後。夜は長いから、準備しておいて!」
それだけ言うと、私は自室へ戻っていく。
自室に戻ると兄が追いかける用に入ってきた。
「アンナ……大丈夫か?」
「何がですか?」
「いや、今、エリーと話してただろ?その……僕がエリーにまだ言えてなかったから……」
「あぁ、その話ですか?大丈夫です。やはり私から伝えた方がいいかなぁ?って思いますし。
気遣ってくれてありがとうございます。もう、後戻りはできませんから……」
ニコッと笑ったつもりだった。兄は、私をぎゅっと抱きしめてくれる。
「お……お兄様?」
「何も言うな……今だけ……」
抱きしめてくれた兄の方が、私より辛そうだ。
「私は、大丈夫です!」
「そうは言っても、もうすぐジョージアのところへ行ってしまうじゃないか。
兄としては、手のかかる妹がいないのは、寂しいものなんだ」
「ふふふ、そんなことお兄様から聞けるなんて思ってもみませんでしたわ!」
ふっと笑う兄が目の前にいた。解放してくれたようだ。
「僕は、いない方がいいかい?それともいた方がいいかい?」
「大丈夫です。話した後、エリザベスが不安になったら、側にいてあげてください。
それが、お兄様の大事な役目です」
「わかった。じゃあ、話が終わるまで、部屋で待っているよ」
部屋が静かになった。
兄が出て行ったので、また、一人、部屋で雪の降る外を眺めている。
窓際は、冷える。
「あれは……?」
そう思った瞬間に、私は玄関へと走った。
「ハリー?」
「アンナ?」
玄関を出て、ランプの方へ歩いていくと、そこにはハリーがいた。
「こんな雪の日に、馬車にも乗らずどうしたの?」
「いや、いてもたっても……」
「それより、早く家に入って……屋敷から歩いてきたの?馬鹿よ!こんな日に」
自分が着ていたガウンをハリーにかけた。
少し寒いけど、ハリーに比べれば少しの距離だから我慢できる。
「ふぅ……溶けそうだ……」
「まだ、ここは寒いわよ?こっち」
そのまま手を引き客間まで連れていく。
執事や侍女、メイドたちは、ハリーと私が雪まるけになった姿をギョッとして見てくる。
そのあとは、バタバタとタオルやお湯など用意してくれるために慌ただしくしていた。
「ハリー、大丈夫?冷えてない?」
膝をついて手を握ると冷たい。雪の中、歩いてきたのだから、体の芯から冷えているようだ。
侍女が持ってきたスープを手渡し、ハリーがゆっくり飲んでいるのを見ていた。
「いったいどうしたの?こんな雪の日に。ハリーらしくもない……」
「君は、暢気なものだね……婚約の話は、その分だとまだ聞いていないというわけか?」
「婚約の話?誰の?」
「アンナのだよ!」
私は、思わず聞き返した。
それに腹をたて、ハリーは私を怒鳴る。
そんなハリーに、私はとても驚いた。
「僕は……、…………俺は、アンナが殿下と婚約するものだと思っていた。
父からも王太子妃の候補だと聞いていたから……なのに、どうして…………
………………ローズディアなんだ?アンバーなんだ?
なぁ、アンナ……なんとか……なんとかいえよ!!」
ハリーの前で毒をあおった日、以来だろうか……?
こんなに怒っているのを見るのは。
それも、そのとき以上に怒っている。
そうじゃない……とても、辛そうだ。
胸が張り裂けそうなくらい、苦しそうにしている。
「ハリー、婚約の話、聞いたのね。私のところには、まだ正式に通知は来ていないのだけど、
宰相様からハリーが聞いたのなら、正式に決まったようね。よかった……」
「よかった……?いいわけがない!
さっきの口ぶりからすると、ローズディアへの政略結婚は知っていたということか……?
なぁ、アンナ!?」
悲しみのあまり怒りにふれてしまったハリーの瞳に、困った顔の私がうつる。
「少し落ち着いて!知っていたわ、もちろん。
自分のことですもの知らないわけがない。それに、これは私が望んだことよ!!」
「アンナ!」
両方の腕を掴まれる。
「ハリー、聞いて!今から、エリザベスにも話をするの。一緒に私の話、聞いてくれる?」
返事はない……
「ハリー?」
「わかった……聞こう」
少し落ち着いたのか、それでも瞳には怒りが籠っている。
「エリザベスを呼んで!」
侍女に呼んできてもらうと、ハリーを見てエリザベスは驚いた。
「ヘンリー様?」
「そう……ハリーも一緒にいいかな?」
「エリザベス様、悪いね……」
「いえ、大丈夫ですよ。ヘンリー様も私と同じようですね……」
ため息をつくエリザベスと寒さが和らいできたハリーを前に、私は語り始める。
ハニーローズのことを。
自分の気持ちは語らずに……選択した未来を。
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