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殿下と公女の婚約とそれぞれの道

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 秋も深まったころ、トワイス国はお祝いで湧き上がる。


「殿下、シルキー様、ご婚約おめでとうございます!」


 そう、殿下とシルキーの婚約が発表されたのだ。


「アンナ、ありがとうなのじゃ!」


 幼さの残るシルキーは、頬を染め照れていて可愛らしい。
 殿下は、そのシルキーの仕草をみて微笑んでいる。

 あの東屋以降は、積極的にシルキーと交流を取り始めた殿下。
 少し寂しい気もしたが、私も自身の準備をしないといけないと思うようになり、少しずつトワイスでの行動を控えているところだ。
 そして、何より変わったことがある。


「イリア!シルキー様と今度お茶会を開くのだけど、一緒にどう?」
「ええ、うかがわせてもらうわ!アンナにも聞いてほしいことがあるのよ……」
「私に?私に協力できることなら、任せて!!」


 そう、あのお茶会の事件以降、イリアと私は仲直りした。
 と、いうか、ちゃんと友達に戻った。


 これは、殿下のおかげなのだが……
 イリアが私に嫉妬していたように、私もイリアにそういう感情を抱いていたのが距離を開けていた原因だったのだろう。
 気持ちがスッキリして以降は、なるべくイリアにもお茶会の誘いをして一緒にいることも増えた。
 周りから見れば、牽制しあっていた二人が一緒に行動を共にしていることは、変な組み合わせではあるが、幼馴染の私たちは、それなりに肩の力を抜いて付き合うことができるようになったのだ。


「あっ!ハリー!!」


 なるべく殿下が、私の側を遠慮するようになってから、なかなかハリーとも話をする機会も減ってきている。


「あいかわらずだな……アンナは、元気が一番か……」


 そういって、ハリーはため息をつく。


「なんか、失礼なこと言われているような気がするのですけど……気のせいですかね?」
「気のせいだ」
「それにしても珍しい組み合わせだな?」


 私とシルキーとイリアという組み合わせを見て、殿下は驚いている。


「殿下、それほど珍しい組み合わせでもないですよ。
 最近は、三人でよくお茶会をしているとイリアから聞いています」


 そう、ハリーとイリアの仲も改善され、よくなったのだ。
 ハリーの今の言葉を聞けば、関係は決して悪くない。よかった。


「そうですよ?殿下の情報は古いですわ!」


 ふふふとみんなで笑うと殿下は、苦笑いだ。
 私たちの関係も微妙に変わりつつあるようで、寂しい気もする。
 このあたたかな輪から出ていくことは、もうしばらく私からは言えそうになっかた。



 ◇◆◇◆◇



 殿下の婚約発表されてしばらくした頃、王宮では、集団政略結婚に向け、それぞれの意向を聞きカップルを決めていた。
 そろそろ、そのカップリングも終わりをつげ、発表の時期に来ている。

 王の前には、上位のものから決裁が回ってきたところだ。

 決裁を見ると、アンナリーゼの名前がある。
 そこには、アンバー公爵の了承が書かれており、王としてはやはり苦々しい思いがある。
 息子と話をした日、従者からは、何時間もアンナリーゼが泣き叫んでいたという報告を受けた。
 何があったのか……息子は、一切その時の話は、私達へはしなかった。
 ただ、アンナリーゼの意向を最大限に叶えたいというのみだ。
 そして、息子は、一人すっきりしたようにシルキーとの婚約を承諾したのだ。

 とても納得のいく結果ではなかったが、息子が決めたことだ。
 親が介入できるものではなくなった以上、見守るしかない。

 ただ、シルキーと婚約はしたが、アンナへの気持ちは残っているように思う。
 学園では、アンナリーゼを避けているようだ……それは、仕方ないことだろう。

 幼馴染ゆえ、たくさんの時間を共有してきたはずなのだ。
 宰相の息子もうちの息子以上にアンナリーゼとは、長い時間を共に過ごしてきたのだ。
 この決定を聞けば、さぞ、苦しむのではないか。
 うちの息子には、叶わなかったとはいえ区切りを与えてあげることができた。
 親としては、宰相の息子を思うと心が痛む。


 ボン!と、決裁の書類に王印を押す。


「これを学園の卒業式にて発表する!それぞれに準備するように!」


 そう伝えると、余は席を立つ。
 窓の外を見れば、雪が降るのか、黒っぽい雲が広がり始めていた。
 

「今晩は、積もるかの……」


 王は自身の腕を抱き、ぶるっと震えた。



 ◇◆◇◆◇



 集団政略結婚に向けての発表の準備が行われる。
 宰相である私のものとにも王が決裁を済ませた書類が回ってきた。

 目をとめたのは、アンナリーゼの書類だった。


「アンバー公爵は了承した……か。これをヘンリーに伝えないといけないのか……気が重いな……」


 息子のヘンリーは、この事実を知れば、さぞ落胆するだろう。
 アンナリーゼとは、いつも一緒にいた。
 今年に入っては、領地の学都見学にもアンナリーゼが、案内をかってくれたと言っていたし、それ以降も二人でお茶会をしている様子も報告を受けている。
 最近、イリアとも仲が改善されているとも報告は受けているが、アンナリーゼ程の仲ではないだろう。


 ヘンリーには、聞いたことはないが、小さい頃からアンナリーゼの後をついて回っていたくらいだ……
 殿下の正妃候補として扱うように言っていた手前、気持ちを抑えていたのだろうが、それで抑えられるものではないだろう。


 どのように、ヘンリーへ伝えるのがいいのか……悩んでしまう。
 我が子の恋愛など、自分でなんとかするだろうと思ってはいたが、こんな結末になるなら……
 少しくらいは、手伝ってやってもよかっただろうか。


「すまないな……ヘンリー」


 宰相は、決裁書類を見て、ため息をついたのであった。
 息子のために、覆せるものなら、そうしてやりたいが、本人が政略結婚を受け入れたと聞いている上に、アンバー公爵が了承しているのだ。
 卒業式のときを考えても、二人はもう……


 屋敷に帰り、ヘンリーを執務室へ呼ぶ。
 事実を告げると、息子は怒って部屋を出て行ってしまった。

 窓の外を見ると、雪が降り、それも王宮を出た頃より大きくなっていた。
 この雪のように積もったヘンリーの気持ちが、誰にも知られずに溶けてしまわないよう願うばかりだ。
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