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ローズディアでは……

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「公よ……先ほどのお話は、いったいどういう……」
「アンバーよ……我が息子の妃として、トワイス国のアンナリーゼを所望したわけだ。
 もともと、ずっと婚約を断られていたのだがな……今回の集団政略結婚のリストを見て驚いたぞ!!
 で、さっそく再申し込みをしたのだ。
 したらな、らちが明かないからって、本人が一人で断りにきた。
 全くのはねっかえりものであるな……?
 しかし、あのはねっかえりさえもいいと思わずにはいられない、あの佇まい。
 我が目を疑ったぞ……
 まだ、17,8の小娘などと侮っていたが、存外ワイズ伯爵没落事件もあの者の仕業という噂も真実かも
 しれんな……」


 はぁ……と、ため息をついているのは、ローズディア公国の公である。
 公は、王と同義語である。


「しかし、単身でローズディアの城まで来るとは、豪胆な娘ですな。
 まさか、そのような娘が、ジョージアを所望とは……
 私は、確かにジョージアの卒業式で彼女を見て、一目惚れしましたがな。
 これは、嬉しい誤算ですわ!」


 はっはっはっ……と笑うのは、アンバー公爵である。


 今日は、折り入って相談があると言って公より連絡をもらったため、公の私室へ通してもらい話を聞いているところだ。


「それで、なにゆえジョージアなのですか?」
「それは、わからぬ。ただ、ジョージアに一目惚れしたので、もし、こちらで縁談をまとめないと
 いけないのであれば、ジョージアがいいと申すのでな……
 こちらの国へ取り込めるのであればと了承したのだ。驚くばかりだ。
 確か、そなたの息子と卒業式で『赤薔薇の称号』を取ったのであったな……」
「さようです。とても素敵でしたね。
 青薔薇のドレスがふわっと舞えば気品に満ちていて……
 よくぞみそめた!とジョージアを誇りに思ったもんです」
「しかし、ジョージアも男爵の娘との婚約でだいぶ頭を悩ませているときいておるぞ?」
「それですよね……男爵が諦めてくれないんですよね。いい加減にしてほしいんですよ。
 アンナリーゼが、嫁いでくれるならなおのこと、必要のない縁談ですわ。
 ジョージアは、私に似て男前ですけど、押しに弱いのか……
 アンナリーゼも活発そうな子でしたからね?
 とても大事にしていたので、てっきりアンナリーゼと婚約するものだと思ってたんですけどね。
 息子に聞いたら、王妃に向いていると……それに、想い人がいると聞いていたんですけどね。
 なんとも、待ってみるかいはありましたな!」


 アンバー公爵は、嬉しくて仕方がなかった。
 あのアンナリーゼが、我が家の嫁になってくれると直訴してくれたのだ。
 これは、天からか何かの思し召しだろう。


「それで、公よ。このことを公にするのはいつになるのですか?」
「トワイス国の王太子と公女の婚約が発表されてからだ。
 それまでに、悟られぬよう……くれぐれも男爵には気をつけよ!」
「かしこまりました。息子にも伏せておきましょう」


 ほくほく顔でアンバー侯爵は、我が家へと帰るのであった。



 ◇◆◇◆◇



「公は、何の用事でしたか?父上」
「あぁ、今度ある集団政略結婚の話を聞かせてくれたのだ。
 ジョージアよ、一つ訪ねるが、そなたトワイス国のアンナリーゼのこと、どう思っておるのだ?」
「どう……と、もうされますと?」
「『赤薔薇の称号』まで取ったお嬢さんだ。憎からずなんだ……その……好いておらんのか?」


 ジョージアの顔が真っ赤である。


「これは、脈ありというやつかな?」
「父上!」
「なんだ?言いたいことがあるなら、言うてみい?アンナリーゼのこと、どう思っておるのだ?」
「アンナのことは、今でも胸の奥にしまってある想い出です。アンナには、想い人もいるでしょう!」


 そういい、ポケットに入っている金の懐中時計を掌にのせる。
 大事そうにしているその懐中時計は、初めてみるものだった。


「見せてくれ、その懐中時計」


 ジョージアは、大事そうになでていた懐中時計を渡してくれる。
 なんとも細かい飾りなのだろうか。
 薔薇の文様は、本当に細かい細工である。
 ブルーダイヤが真ん中にはまっていて、蓋を開いてさらに驚いくことになった。
 我が家の家紋である。


「ジョージア、これは誰からもらったものだ?」
「アンナリーゼです。
 彼女がいうに、アンナがデザインし、トワイス国の宝飾職人が飾りを作り、ローズディアの時計
 職人が時計を作り、アンバー領の商人が、アンナに売ったそうです。
 父上も家紋入りに驚かれましたか?」
「あぁ、驚いた。家紋は、アンバー領の者なら使える許可があるが、あの娘は、それすら把握して
 おるか!」
「そうです。もらったのは、卒業式の日でした。前日にやっと手元に届いたのだと言っていましたよ」


 今回の公からの申し出は、断るつもりはない。
 むしろ、息子の反応を見てもこんなにいい縁談はないといえよう。


「アンナリーゼには、先見の明があるのかの?」
「どうでしょう?サシャは、そのようなこと何も言ってませんでしたが、何かあるのですか?」
「いや、何もないぞ!
 話は変わるが、ダドリーのとこの娘とはどうだ?諦めたか?」
「いえ、それは、できません……」
「そうか。なら、来年の春まで気持ちが続くのであれば、考えなくもない。
 ただな、私たちは、正直なところ賛成はできない。どうも、キナ臭い感じがするのだ。
 そこも考えて、選択してくれ。ジョージア、そなたには、幸せになる未来が待っておるのだ。
 選択は、くれぐれも間違えるなよ!」


 それだけ言うと、話はここまでとジョージアを執務室を追い出した。
 公からの申出、アンナリーゼからの贈られた懐中時計、息子の顔。
 どれを見ても、アンバー公爵家にとって悪い話ではない。
 むしろ、こんなアンバー公爵家へ嫁いできてくれるアンナリーゼを不憫に思う。


 「あの領地をどうにかしないといけないな……」


 アンバー公爵は、領地へ想いを馳せ、自分ができうることで手を打てるよう考え始めたのであった。
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