ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

文字の大きさ
上 下
44 / 1,517

サプライズと懐中時計

しおりを挟む
 我が家は、昨晩から忙しい。
 今日は、兄の学園卒業式なのだ。
 保護者や親戚など家族参列するので、あちらもこちらも侍女がメイドに指示を飛ばしている。

 さながら、戦場だ……

 まだ、剣戟が織りなされていないだけ平和だろうが、家中でバタバタと慌てた侍女やメイド達の足音で溢れかえっているのか耳を澄ませなくても聞こえてくる。
 かく言う私も卒業生のパートナーとして参加するので、その慌ただしい最中にいるのだが、お迎えまでに時間があるので、ゆっくり支度をしているところだ。


 まず、最初に準備を終わらせないといけないのが兄であった。
 街外れにひっそりと立っているバクラー侯爵家まで、本日のパートナーであるエリザベスを迎えに行かないといけない。
 学園から、真逆の位置にあるためバクラーのお屋敷まで早々と出かけて行った。
 馬車の中で寝るつもりだろう……窓から馬車に乗り込む兄が見えたが、マクラが見えた気がする。
 直前まで眠っていないことを願うばかりだ。
 多少だらしない兄でも、エリザベスは許してくれるだろうが、さすがに妹として恥ずかしい。

 そのあとは両親だ。
 父は普段と変わりない黒を基調とした礼服を着ている。
 母は、ワインレッドのドレスにしたらしくそれに似合う装いを整えていく侍女たちが働き蜂のようにブンブンと飛び回る。
 貫禄と威厳、凛とした立ち姿は、さながら女王蜂のようだ。
 ここの侍女・メイドは確かに母を主人と仰ぐ人が多い……
 一応、父が侯爵なのだから、気を使ってあげてほしいものだが、それほど母が魅力的だということだろう。


 余談だが、社交界に出るようになってから聞こえてくるのは、父がよく母を射止められたなという話題だ。
 父は、金勘定好きな面白みのない人間だと評価されている。
 母はいわずもがな社交界の華。
 そんな母にも未婚時には、ものすごい数の縁談があったそうだ。
 だが、単純に母が、父に一目惚れをして、他の婿候補と結婚させらるくらいなら派遣戦場へでますと祖父に言ったそうだ……
 慌てて、縁談をまとめたという祖父は、軍人にしては柔軟な人間なのだろう。
 おかげで、両親は、今でも子供が目のやり場に困るほど、とっても仲がいい。

 見た目は、女王様と執事のようだが……


 最後に私の順番だった。
 夏に仕上げたドレスに袖を通す。
 青を基調にされていて、青薔薇の刺繍で見た目も凛としたイメージもあるが胸元のピンクの薔薇のおかげでかわいらしい一面ももつ。
 いつ見ても、ジョージアとデザイナーの合作デザインは素晴らしい。
 卒業式ということで、少し大人に見えるよう髪を編み込んでもらいハーフアップにしてもらうことになった。
 ふわふわしたストロベリーピンクの髪がより一層品位が上がるような仕上がりを目指しているとセットアップしているメイドの気合の入りようにくすっと笑ってしまう。


 ジョージアからいただいた宝飾品を順番につけていく。
 青のサファイアで作られた青薔薇の宝飾品たちだ。
 どれを見ても一級品である。


 まず、髪を結っていたメイドが仕上げにと髪飾りを髪にさしてくれる。
 次に、化粧を施していた侍女がピアスをつけてくれた。
 私のピアスホールに合わせて3つもあるのだ……
 そして、ドレスを整えてくれている侍女がブレスレットをつけてくれる。


 そのとき、下で来訪者を告げる執事の声がかすかに聞こえてきた。
 ジョージアが来たようで取次がされ、どうするか聞かれたので、ジョージアさえ良ければ、私の部屋に通すよう指示をする。
 メイド達は、即座に部屋を整え始め、ジョージアが案内されたころには部屋は綺麗に片付いている。


「試着は見たが、これは……とても綺麗だ!!」


 ジョージアが、部屋に入るなり、ほほ笑んで私を手放しで褒めてくれる。
 とても嬉しい。


「ようこそ、いらっしゃいませ。
 すみません、見てのとおりまだ、準備していて……」


 あとはネックレスを付けるだけで終わるのだが、申し訳なさそうに伝える。


「構わないさ。
 アンナがどんな風になっているのか楽しみで、俺が少し早く来てしまったのだから……」


 ジョージアは楽しみと言っているが、これは社交辞令ではないのだろう。
 本心で言っているのがわかった。
 だからこそ、お願いをしてみることにする。


「ジョージア様、私、まだ、準備が終わってませんの。少しお手伝いしてもらえますか?」


 ジョージアから見れば、もう準備は終わっているのだと思っていたらしく、不思議そうにしている。


「あぁ、構わないよ。俺は何をしたらいい?」


 それでも、協力してくれると言ってくれるので、私のドレッサーの横にある机を指さす。
 そこには、ジョージアがくれた宝飾品を入れる宝石箱が置いてあった。


「最後にいただいたネックレスを付けないといけないの。つけてくださる?」
「そんなことならお安い御用だ」


 そう言って座っていたソファから立ち、こちらに近づいてくる。
 鏡越しにジョージアを見ていた。
 ジョージアも私を見ていたのだろう。
 鏡越しに目があうので、ほほ笑んでおく。

 後ろに立って、宝石箱からネックレスを取り出す。
 それだけでジョージアは絵になりそうだ……王子と言われれば、誰も疑わないだろう。


「じゃあ、つけるね」


 腕を回し、私の首へネックレスをつけてくれる。

 両肩に手を置いた。


「できた……本当に綺麗だ……」


 耳元でささやかれ、ジョージアのしぐさを鏡で見ていた私は、鎖骨のあたりまで真っ赤だった。

 ネックレスはつけ終わったので、元いたところに帰るのかと思うと、そのままの体制で鏡越しに見られている。
 この蜂蜜色の瞳、何か魔法でもあるのだろうか、吸い寄せられるように見つめてしまう。


「今日だけは、俺の特権だね……」


 再度囁かれたときは何を言われたのかわからなかったが、鏡を見ていた私はさらに赤くなる。
 首筋に触れるか触れないかのキスを落とされる。
 ただ、私は一部始終見ているだけだった……


 部屋の扉がノックされる。


「お嬢様、そろそろお時間です」


 そのノックの音にハッとして、鏡越しにジョージアを睨む。


「ジョージア様、戯れはほどほどにしないといけませんよ?」
「あぁ、そうだな。でも、今のは謝るつもりはないよ?」


 鏡越しのジョージアは、挑発的に笑う。


「そうですか……そういうのは、他所ではされないように。
 綺麗な顔に手形がつくことだってあるんですからね?」
「アンナは、ずいぶん余裕なんだね。こういうのも慣れてるとか?」
「慣れては、いませんよ?今でも手形をご所望ならつけて差し上げます!」


 蜂蜜色の瞳を見てふふふと笑うと、参ったなと返ってくる。


「君は肝が据わっているようだ。やっぱり、王妃にふさわしいんじゃないかな……?」

 にっこり笑っておく。
 前もジョージアには言ったが、王妃になんてなるつもりがないのだから。


「そろそろ行きましょうか?本当に卒業式に間に合いませんよ?」
「そうだな。一応主役が遅れるのはかっこ悪い。手を……」


 自室からエスコートしてくれるらしい。
 差し出された手を取り学園へ出発だ。
 すでに両親も出かけたようだ。
 侍女たちにせかされ、ジョージアが乗ってきた馬車へ私たちは押し込まれるのあった。



 ◇◆◇◆◇



「ジョージア様。本当は、もっと早く渡せばよかったのですけど……」


 馬車に乗ってから、私はこそっと宝飾された箱を取り出した。


「これは、何だい?」
「ジョージア様に贈り物です。気に入ってくれるといいな?」


 箱を渡すと、開けている。
 中身をみて、驚いているようだ。
 箱の中身は、精緻に装飾された金の懐中時計。

 ローズディア公国の象徴である薔薇をあしらい、真ん中にブルーダイヤが埋め込まれている。
 懐中時計の中を開ければ、蓋の裏側には、結局、交渉してアンバー公爵家の家紋を入れてもらった。
 文字盤は金にしてもらい薔薇の彫刻をあしらった。
 12にブルーダイヤ、6にピンクダイヤをはめてもらってある。
 さらに時計の針にも工夫がされている。
 ホワイトゴールドを長針にピンクゴールドを短針にしてあるのだ。
 デザインはもちろん私が描いたもの。
 作ってくれたのは、ビルが手配してくれたティアと時計職人。
 アンバー領のマーラ商会からニコライを通じて購入したものだ。


「……どうかしら?気に入ってくれた?」


 箱から出すと、シャランとチェーンが垂れる。
 チェーンもこだわってもらったので、素晴らしいものになっていた。


「これは、すごいね。うちの家紋まで入っている。
 ということは、うちの領地から取り寄せたことになるはずだけど……?」
「正確にいうと、デザインしたのは私、装飾したのはトワイス国の職人、時計職人はローズディアの
 職人ね。
 私への販売先が、アンバー公爵領の商会ってとこかしら? 
 それ、ジョージア様の一点ものなの!」


 ジョージアへの贈り物は大層気に入ってくれたようだった。


「こんな素晴らしいもの、もらってもいいのかい?」
「もちろんですよ。むしろもらってくれないと……困ります」
「では、ありがたく受け取らせてもらうよ」


 すると、贈ったばかりの懐中時計を身に着けてくれた。


 それを見て、私は笑む。
 嬉しいな。ただ、それだけだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

騎士志望のご令息は暗躍がお得意

月野槐樹
ファンタジー
王弟で辺境伯である父を保つマーカスは、辺境の田舎育ちのマイペースな次男坊。 剣の腕は、かつて「魔王」とまで言われた父や父似の兄に比べれば平凡と自認していて、剣より魔法が大好き。戦う時は武力より、どちらというと裏工作? だけど、ちょっとした気まぐれで騎士を目指してみました。 典型的な「騎士」とは違うかもしれないけど、護る時は全力です。 従者のジョセフィンと駆け抜ける青春学園騎士物語。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

巻き戻ったから切れてみた

こもろう
恋愛
昔からの恋人を隠していた婚約者に断罪された私。気がついたら巻き戻っていたからブチ切れた! 軽~く読み飛ばし推奨です。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

邪魔しないので、ほっておいてください。

りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。 お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。 義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。 実の娘よりもかわいがっているぐらいです。 幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。 でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。 階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。 悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。 それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

処理中です...