ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

文字の大きさ
上 下
36 / 1,513

生クリームはたっぷりで!!

しおりを挟む
 次の休日は、予定通りにみんな集まった。
 ただし、一人追加になっている……トワイス国の第一王子その人だ。


「ハリー何故、殿下がいらっしゃるのかしら?」


 ちょっと離れたところでハリーに詰め寄ると、仕方ないだろう……とため息交じりに諦めてくれと言われた。
 ハリーが諦めろと言うもの、追い返すわけにもいかない。
 もうこうなったら、私、殿下にメアリー推しまくりますけどね! と心で拳を握る。
 実をいうと、私の強制婚約が決まるまでは、殿下と距離を置きたいと思っていた。
 なのにだ、なかなか離れられずにいるので、ここはメアリーに殿下のお守を頑張ってもらおう。


「今日はなんてお呼びしたらいいですか?」


 いつも殿下がお忍びで歩き回るときは偽名を使う。
 そして、何故かうちの兄の名前なのだ。


「サシャでよいではないか!」


 予想通りの答が返ってきたので、そのように呼んでくださいとみんなに伝える。

 まず、やるべきことは、護衛のいない殿下を殿下とわからないように普通の学生さんにしなくてはならないので、言葉遣いに気を付けるようにしないといけない。


「サシャのおも……お付き添いは、ハリーとメアリーでお願いしますね!!」


 そう、今日は、公爵家の子息令嬢がいるのだ。
 殿下のお守は、丸投げしてもいいだろう。


 私は、早々に離れ、ウィルたちに囲まれていた。


「ほっといていいのかよ?自国の王子だろ?」


 ウィルに小声で言われたが、私はどこ吹く風である。


「今日くらい、いいでしょ?知ってると思ってるけど、 私、あの二人から少し離れたいの。
 そのための割り振りだから下手に手心加えないでね?」


 周りにいたセバスにもナタリーにも聞こえたようで頷いてくれる。


「それより、楽しみね! 
 生クリームたっぷりのケーキだなんて……想像しただけで、うっとりしちゃうよ!」


 言葉がだんだん町娘風に砕けてくる。


「アンナは、生クリーム大好きだからな……俺には理解できないけど……」
「それにはウィルに同意」
「私もよ。さすがにアンナのあれは……引くわ!」

 3人に言われ、私はむっとする。
 だって、この世の中にあんなにおいしいものがあるだなんて、最近まで知らなかった。
 そう、生クリームがたっぷり縫ってあるケーキに、さらにオン・ザ・クリームができるのだ。
 もうそれを考えただけで、私は小躍りしそうなくらい幸せだった。


「もうすぐ、店につくぜ」


 そう言われれば、さらに心は逸る。


「あぁあ……楽しみ!!」


 ふと、後ろを向く。
 殿下を真ん中にハリーとメアリーが両脇をはさんで談笑しているのが見えた。
 うん、よかった、うまくいっているみたい。
 それだけ確認すれば、あとは私の楽しみだけだ。


 予約をしてくれていたウィルに感謝する。
 向かった先は人気のお店なので、いつものように人であふれかえっていた。
 店先で、予約したことを伝えると店員が確認に向かう。
 その間、ふと店内を覗くと、そこには見知った人がいた。

 そう、兄とエリザベスだ。
 そして、兄の前に置かれているのが、私の求めるケーキであり、エリザベスは若干引き気味にコーヒーとかいう苦い飲み物を飲んでいるようだ。

 私が覗いているのにセバスがそれに気づいたのだろう。


「アンナ、あれって……」
「何も言わないで、そっとしておきましょう。
 その方がいいというものよ。セバス」


 話をすり替えたつもりはなかったが、セバスが言いたかったのは兄を見つけたこと。
 そして、その兄が食べているケーキが、私の求めるものだったことを見て兄妹だなと言いたかったらしい。
 私の勘違いだ。

 ちなみに、エリザベスとのことは、学園内で今では知らない人はいないほど有名な話だそうだ。


「予約確認できたから、入れって」


 待っていたら、ウィルが呼びに来てくれる。
 お店の中へぞろぞろと入っていくとさすがに目立つ。
 そこで、兄と目があったが今日は他人、知らぬふりだ。
 それを察してくれたのか、兄も知らん顔している。


 部屋に案内され、メニューをみる。
 私はもちろん、生クリームたっぷりのケーキだ。
 他もそれぞれ好きなものを選んで注文している。
 勝手のわからないのは、城下にあまり来ない殿下だけだ。


「あの子と同じものを」


 おぉーチャレンジャーだ! と私は歓喜した。
 殿下が選んだのは私と同じものだったのだからだ!!
 さすがにまずいと思ったのか、ハリーがこっちのほうがおすすめですよなんて言っている。
 ちょっと、ハリー!と思ったが、残ってしまうともったいないので、その判断でいい。

 ハリー、ナイスフォローだ!

 ケーキがくるまでのしばらく、私の成績向上の話をしてみんなが喜んでくれる。
 ウィルとセバスは、学年2位と3位の実力者。
 ナタリーも成績上位者なのだ。
 今回の実力テストでは、1桁順位になれたものの、この中では、私が一番バカな子なので、みんなが一塩に喜んでくれた。

 そうこうしていると扉がノックされ、ワゴンに乗ったケーキや飲み物を給仕がそれぞれの前に置いてくれる。


 私は、ただただ目の前に置かれたケーキと生クリームにうっとりだ。
 はぁ……たっぷりの甘い甘い生クリーム……生クリームはたっぷりで!!


 熱い視線をケーキと生クリームに送る私。
 それを今日一緒に来ていたみんなが、ひきつった笑顔で見守っていたことは私が知る由もないことであった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

処理中です...