上 下
34 / 1,480

商人ニコライの勘

しおりを挟む
 1時間くらい話をしていただろうか。
 ふと、視線を感じてそちらに視線を送るとそこにはティアがいた。
 ティアも友人を紹介したいのか、一人の男の子が一緒に待ってくれている。


「お話し中、すみません。少し席をはずしますね?」


 そう言って、あとは兄に任せて席を立つ。


「ティア、ごきげんよう」


 声をかけるのを待ってくれていたようで、まだかまだかとした顔をしていたのだ。


「アンナリーゼ様、やっとお話できました……
 あの……あちらの席は、もうよかったのですか?」


 ティアは、私の後ろのテーブルで歓談している人達をちらっとみている。


「えぇ、もう大丈夫。
 私がいなくても会話がはずんでいるし、聞きたい話もきけたから……」


 申訳なさそうにしているので、肩に手を置いて、少し場所を変えるようにティアを促す。


「それで? そちらの男性は、ティアのボーイフレンドかしら?」


 意地悪くティアに質問すると、顔を真っ赤にして違います!と、はっきり言われてしまった。


「こちらの方は、ローズディア公国の大店の方です。
 アンナリーゼ様を紹介してほしいと言われたので、紹介させてください!」
「えぇ、ティアの紹介なら、喜んで!」


 そう言って、一緒についてきていた男性に目くばせをする。


「お初にお目にかかります、アンナリーゼ様。
 私は、ニコライ・マーラと申します。
 ローズディア公国アンバー領でマーラという商会名で商いを父が生業にしております」
「アンバー領でですか? では、ジョージア様の領地の方ってことですか?」
「作用でございます。このたびは、ジョージア様と……」


 言いかけたことが何なのか大体察しがついたので、私は両手でニコライの口を塞ぐ。


「それ以上は、言わないで。当日まで内緒なの!」


 悪いことをしているようないたずらっ子のような笑みを浮かべて、私は注意する。
 ニコライは、了承したとコクコクと頷いてくれる。


「これは大変失礼しました。内密にされていたのですね。
 私としたことが、その情報を見逃していました……承認としては、まだまだのようです……」


 そんな風に評価しているニコライだが、その情報収集はすごい。
 ジョージアのことは、家族しか知らないのだから……


「別室で話しましょうか……人目もありますしね!」


 私とティア、そしてニコライが連れ立って間借りしている部屋へ移動する。

 部屋の扉を閉じて、やっと一息。
 それぞれの庭から自分用に飲み物やお菓子を持ってきて机に並べ席に着く。


「ニコライ、その情報はどこから仕入れたの?」


 私に聞かれるであろうことは、ニコライはわかっていたようだ。


「そうですね。夏季休暇中にうちにジョージア様より青薔薇の宝飾品が注文されました。
 それは、ソフィア様には似つかわしくなかったので、きっと別の方だろうと考えたのです」
「そこで、なぜ私なのかしら?」


 ティアも不思議そうに話を聞いている。


「見ていれば、わかります。
 ジョージア様の御心がどこにあるのかなんて。
 私は、直接ジョージア様とお話したことなどありませんが、アンナリーゼ様ならわかるのでは
 ないですか?」


 逆に問われてしまった……うん。分かってる。
 でも、それは今は誰にも言わない。そう決めている。


「そうなの? あなたには、そのように見えているのね。
 私は兄の友人として、ジョージア様を慕っておりますよ。
 恋慕ではありませんし、ジョージア様もそうでしょう?」


 少し圧力をかけておく。
 このニコライ、かなり勘がいいように思う。


「そうだわ!
 いつもお世話になっているジョージア様に私から卒業の記念に贈り物をしたいと思っていたの。
 請け負ってくれるかしら?」


 挑戦状ではないが、ニコライがどんな反応をみせるか見てみたくなった。
 この判断で、商人として大成するかどうかわかるだろう。


「承りましたと言いたいところですが、私は、ただの子供。
 店主に相談の後の回答でもよろしいでしょうか?」


 さすが、大店の子供だ。
 貴族からの注文は、無理難題が多いこともある。
 なので、きちんと対応できる店主が交渉を行うのが普通である。
 まずまずの及第点ね。


「それでいいわ。今日はあなたとお友達になれたことが私の収穫かしらね?」
「アンアンリーゼ様、悪い顔してますよ!」
「ティア、いい友人を紹介してくれてありがとう。気に入ったわ!」
「もったいなきお言葉。早速、店主へ連絡を取らせていただきます」


 ニコライは商人らしく、抜け目のない感じがする。
 ティアも商家の娘ではあるが、どちらかと言えば、職人に近いので駆け引きは苦手そうだ。


「では、よい返事を待っているわね!」


 そろそろ夕方になってきたので、お開きにする時間だった。
 私たちは、そのままこの部屋で解散することにした。
 ニコライとティアを見送って、私は少しだけ部屋で今日の出来事を回想する。
 ニコライを紹介してもらったことは、今後私にとって強みになるだろう。
 少しずつ距離を縮めていこうと思う。何せ油断ならない感じがするからだ。


「この出会いを吉とするよう、私の努力もまだまだ必要ね……」


 夕暮れになっているので、窓から入る光量も減り部屋も少しずつ暗くなってくる。
 そこで、一人ごちたのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

悲恋を気取った侯爵夫人の末路

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。 順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。 悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──? カクヨムにも公開してます。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...