3 / 1,513
デビュタントのパートナーは?
しおりを挟む
「お兄様、私のデビュタントのお相手は、もうお聞きになりましたか? 私はまだ、聞かされていないのですけど、お兄様がエスコートしてくださいますか?」
兄に何気なく尋ねると、とんでもないという雰囲気を出され、首を横にぶんぶんふられてしまう。
今は、兄とのダンス練習の休憩中だ。もう少ししたら、社交界デビューの日がやってくるので、私は気になって聞いてみた。
「うーん。そう言ってくれるのは、兄冥利だけどね。相手は、きっと僕ではないよ。アンナのデビューなんだから……僕となんて出たら、恥さらしだよ。サンストーン家の息子じゃないか? ほら、幼馴染だろ?」
私は何も聞かされていなかったので、兄からハリーの名前が出てきたことに驚いた。
「ハリーが、私のエスコートですか? そんなのありえません! イリア嬢に私が詰め寄られてしまうじゃないですか!!」
はぁ……と物憂げにため息をつくと、兄はそんな私を見て苦笑いしている。
ヘンリー・クリス・サンストーンは、トワイス国の宰相でサンストーン公爵の一人息子だ。私は、幼馴染なので、昔からハリーと呼んでいる。父の大親友の息子でもあった。
そして、トワイス国第一王子とハリーとイリア嬢は、私の幼馴染である。
ただし、ハリーは、筆頭公爵家の息子なので、同じ公爵家の娘であるイリア嬢が好き好んでべったりくっついているのだ。その隙を狙って、殿下とハリーと私の三人が連れ立ってよく宮中で遊んでいた。いわゆる、悪友である。
「それもそうだね。家格からすれば、あちらのほうが上だからね。まぁ、今年のデビュタントは、第一王子もだからね? 公爵家の娘としては、王子の方が……って、こともあるかもしれないじゃないか?」
そんな淡い期待を込めても、たぶん私の相手はお兄様ですよ! と、心の中で呟いておく。
「それより、お兄様も来年には、学園に行かれるのでしょ? ダンス、もっと上手になったほうがいいですよ! 私の足、真っ赤です!!」
兄も努力していて、足を踏まれなくなった方なのだが、ドレスの裾を上げると、足を踏まれて真っ赤になった両足の甲が痛々しく見える。
「いつもごめん。僕が、アンナの練習相手なのに、アンナが僕の練習相手になってしまっているね。これでも、気を付けているんだけど……兄としては、情けないよ……」
そのまま俯いてしまったので、兄の後ろに回って背中をバチンと叩く。
兄は、父に似て、とても運動音痴なのだ。体を動かすダンスなんて、リズムも取れないし、足はもつれるし、エスコートなんて最悪だった。
「背中、曲がってましてよ?お兄様」
ダンス練習用の大きな鏡にむかって、後ろからニッコリ微笑むと、兄は怖いものでもみたかのように口元がひくついている。 その瞬間に、兄の背中を再度バチンっと叩く。
「さぁ、もうひと練習しましょうか? 私、ダンスってなんだか苦手なのです。お母様のように、蝶が舞うがごとく優雅に踊れるよう、協力ください!!」
「アンナは、十分踊れているよ……いてて……」
そのまま手をとり、二人でカウントしまた踊り始めた。
そのあとは、私のドレスの裾を踏んでこけたり、足を踏まれ続け、言うまでもなく、さんざんな練習となったのである。
◆◇◆◇◆
デビュタントの前日、父に呼び出され書斎を訪れた。そこには、母もいたので、二人に夜の挨拶をする。
「あぁ、私のアンナリーゼも、貴族の挨拶もきちんとできる年に……」
よよよ……と父は目に涙を溜めているのだが、母にハイヒールの踵で足を踏まれたのか3粒ほど、本物の涙を流していた。あぁ、痛そう……ご愁傷さまです、お父様と、私からは見えない両親のやり取りを見て父を憐れむ。
「呼んだのは他でもありません。明日のデビュタントのエスコートの件よ」
母が話を始めたことから、明日のことだとわかり、お兄様の逆エスコートでもという話かしら? と思って続きを待っていた。
「当初、サシャにしてもらおうと思っていたのだけど。それが、困ったことに陛下と宰相様から、それぞれのお子さんにアンナへのエスコートをと打診がありました。
一応、陛下には、王子の相手は公爵令嬢のイリア嬢をと言ってあるのだけれど、宰相様の方はね……イリア嬢が王子ととなると同年代の子をあてがうとなると家格が 釣り合うのはうちだけだから頼むと言われたのよ……」
母は、とても困ったという顔をしている。
なぜか、兄が言った通り、ハリーがエスコート役になりそうな雰囲気になってきた。
「お父様、お母様、それは、ハリーが私の……」
「そうだ。決まった。今日までもめたのだ……全く、うちのかわいい娘を親同士で取り合いするな! と言ってきてやったぞ!!」
いやいや、お父様? 言ってきたって……これって、エスコートされた人は、将来の婚約者として見られるんだよね? 嬉しいけど……なぜ受けたの……? もう、やだな……私がハリーのパートナー?
『予知夢』で見た結婚式の光景がチラッと頭によぎった。
両親が了承してしまったのだからしかたない。
それに、ハリーとなら楽しいデビューになりそうな予感がする。
「わかりました、お受けします。ハリーなら、私に粗相があっても笑って許してくれそうだから。
ただし、婚約の話は断ってくださいね?」
きっちり、誰とも婚約はまだしないよと父に伝える。
「……無理に受けてくれと言っているわけではないよ? 嫌なら断ったっていいんだよ!」
そんなことを父は言ってくれていても、母の目はやっぱり厳しかったし、安心できる人にエスコートしてもらいダンスを踊れることは、私も嬉しい。
「大丈夫です。お兄様より、ハリー……ヘンリー様となら、楽しくきっちり踊れます! とても、明日が、楽しみですね!!」
その言葉は、両親とも安心したが、兄のことを思うと複雑な気持ちもあったようだ。
兄に何気なく尋ねると、とんでもないという雰囲気を出され、首を横にぶんぶんふられてしまう。
今は、兄とのダンス練習の休憩中だ。もう少ししたら、社交界デビューの日がやってくるので、私は気になって聞いてみた。
「うーん。そう言ってくれるのは、兄冥利だけどね。相手は、きっと僕ではないよ。アンナのデビューなんだから……僕となんて出たら、恥さらしだよ。サンストーン家の息子じゃないか? ほら、幼馴染だろ?」
私は何も聞かされていなかったので、兄からハリーの名前が出てきたことに驚いた。
「ハリーが、私のエスコートですか? そんなのありえません! イリア嬢に私が詰め寄られてしまうじゃないですか!!」
はぁ……と物憂げにため息をつくと、兄はそんな私を見て苦笑いしている。
ヘンリー・クリス・サンストーンは、トワイス国の宰相でサンストーン公爵の一人息子だ。私は、幼馴染なので、昔からハリーと呼んでいる。父の大親友の息子でもあった。
そして、トワイス国第一王子とハリーとイリア嬢は、私の幼馴染である。
ただし、ハリーは、筆頭公爵家の息子なので、同じ公爵家の娘であるイリア嬢が好き好んでべったりくっついているのだ。その隙を狙って、殿下とハリーと私の三人が連れ立ってよく宮中で遊んでいた。いわゆる、悪友である。
「それもそうだね。家格からすれば、あちらのほうが上だからね。まぁ、今年のデビュタントは、第一王子もだからね? 公爵家の娘としては、王子の方が……って、こともあるかもしれないじゃないか?」
そんな淡い期待を込めても、たぶん私の相手はお兄様ですよ! と、心の中で呟いておく。
「それより、お兄様も来年には、学園に行かれるのでしょ? ダンス、もっと上手になったほうがいいですよ! 私の足、真っ赤です!!」
兄も努力していて、足を踏まれなくなった方なのだが、ドレスの裾を上げると、足を踏まれて真っ赤になった両足の甲が痛々しく見える。
「いつもごめん。僕が、アンナの練習相手なのに、アンナが僕の練習相手になってしまっているね。これでも、気を付けているんだけど……兄としては、情けないよ……」
そのまま俯いてしまったので、兄の後ろに回って背中をバチンと叩く。
兄は、父に似て、とても運動音痴なのだ。体を動かすダンスなんて、リズムも取れないし、足はもつれるし、エスコートなんて最悪だった。
「背中、曲がってましてよ?お兄様」
ダンス練習用の大きな鏡にむかって、後ろからニッコリ微笑むと、兄は怖いものでもみたかのように口元がひくついている。 その瞬間に、兄の背中を再度バチンっと叩く。
「さぁ、もうひと練習しましょうか? 私、ダンスってなんだか苦手なのです。お母様のように、蝶が舞うがごとく優雅に踊れるよう、協力ください!!」
「アンナは、十分踊れているよ……いてて……」
そのまま手をとり、二人でカウントしまた踊り始めた。
そのあとは、私のドレスの裾を踏んでこけたり、足を踏まれ続け、言うまでもなく、さんざんな練習となったのである。
◆◇◆◇◆
デビュタントの前日、父に呼び出され書斎を訪れた。そこには、母もいたので、二人に夜の挨拶をする。
「あぁ、私のアンナリーゼも、貴族の挨拶もきちんとできる年に……」
よよよ……と父は目に涙を溜めているのだが、母にハイヒールの踵で足を踏まれたのか3粒ほど、本物の涙を流していた。あぁ、痛そう……ご愁傷さまです、お父様と、私からは見えない両親のやり取りを見て父を憐れむ。
「呼んだのは他でもありません。明日のデビュタントのエスコートの件よ」
母が話を始めたことから、明日のことだとわかり、お兄様の逆エスコートでもという話かしら? と思って続きを待っていた。
「当初、サシャにしてもらおうと思っていたのだけど。それが、困ったことに陛下と宰相様から、それぞれのお子さんにアンナへのエスコートをと打診がありました。
一応、陛下には、王子の相手は公爵令嬢のイリア嬢をと言ってあるのだけれど、宰相様の方はね……イリア嬢が王子ととなると同年代の子をあてがうとなると家格が 釣り合うのはうちだけだから頼むと言われたのよ……」
母は、とても困ったという顔をしている。
なぜか、兄が言った通り、ハリーがエスコート役になりそうな雰囲気になってきた。
「お父様、お母様、それは、ハリーが私の……」
「そうだ。決まった。今日までもめたのだ……全く、うちのかわいい娘を親同士で取り合いするな! と言ってきてやったぞ!!」
いやいや、お父様? 言ってきたって……これって、エスコートされた人は、将来の婚約者として見られるんだよね? 嬉しいけど……なぜ受けたの……? もう、やだな……私がハリーのパートナー?
『予知夢』で見た結婚式の光景がチラッと頭によぎった。
両親が了承してしまったのだからしかたない。
それに、ハリーとなら楽しいデビューになりそうな予感がする。
「わかりました、お受けします。ハリーなら、私に粗相があっても笑って許してくれそうだから。
ただし、婚約の話は断ってくださいね?」
きっちり、誰とも婚約はまだしないよと父に伝える。
「……無理に受けてくれと言っているわけではないよ? 嫌なら断ったっていいんだよ!」
そんなことを父は言ってくれていても、母の目はやっぱり厳しかったし、安心できる人にエスコートしてもらいダンスを踊れることは、私も嬉しい。
「大丈夫です。お兄様より、ハリー……ヘンリー様となら、楽しくきっちり踊れます! とても、明日が、楽しみですね!!」
その言葉は、両親とも安心したが、兄のことを思うと複雑な気持ちもあったようだ。
0
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説

『伯爵令嬢 爆死する』
三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。
その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。
カクヨムでも公開しています。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました
toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。
残酷シーンが多く含まれます。
誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。
両親に
「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」
と宣言した彼女は有言実行をするのだった。
一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。
4/5 21時完結予定。

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。
彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。
目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

婚約破棄されて追放された私、今は隣国で充実な生活送っていますわよ? それがなにか?
鶯埜 餡
恋愛
バドス王国の侯爵令嬢アメリアは無実の罪で王太子との婚約破棄、そして国外追放された。
今ですか?
めちゃくちゃ充実してますけど、なにか?
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる