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エレーナ・アン・クロックの誕生
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祖父の領地からフレイゼン領の見慣れた屋敷に戻ってきて、私はなんだかホッとした。
遠乗りの際、よく立ち寄るここは、私にとって静かで居心地のいいところでもあった。
「アンナリーゼ様、おかえりなさいませ」
出迎えてくれたのは、すっかり『ご令嬢』になったニナである。
ドレスを着こなし、この屋敷の女主人だったと言われても何の見劣りもしなかった。
「ただいま、ニナ。
こちらの方たちは、明日のお茶会の招待客の方たちよ。おもてなしをお願いできる?
そのあと、ニナに話があるから部屋に来てちょうだい」
スタスタと自室に篭って休もうとしたら、ナタリーが私の手首を掴んだ。
「アンナリーゼ様、どこに行かれますか?まずは、お体を清めて、背中に薬を塗りましょう!」
有無を言わせぬ笑顔って怖いねと思いながら、黙ってナタリーに従うことにする。
「ニナ、ごめんなさいね。お風呂の用意……」
「アンナリーゼ様が入られると思って、すでに用意してあります。どうぞ、こちらに」
「では、参りましょう!あなた達も夕飯までには、清めておいて下さいね!」
ナタリーの一睨みで、ウィルとセバスも客間に荷物を置いてから夕飯までにお風呂に入ることになった。
お風呂には、もちろん、ナタリーとニナが当然のようについてくる。
ニナは侍女をしてたのでわかるのだが、ナタリーって、子爵令嬢よね?と疑いたくなるほど手際よく、また、ニナと協力して私を磨きあげていく。
あと少し残っているやけどを二人が優しく扱ってくれるのは嬉しい。
「あとは私にお任せいただき、ナタリー様もお疲れでしょうから、ゆっくり湯船に浸かって
くださいませ」
磨き上がって湯船でゆっくりした私はお風呂から出たら、今度は、ニナによって着飾られていく。
と言っても、自宅にいるので簡素にだ。
私の準備も出来上がったため、ニナは私に向き直っている。
「それじゃ、先ほどのお話でもしましょうか?」
「はい、お願いします」
私たちは、私室へ向かいそのソファで話をすることになった。
ニナの方が何を言われるのか緊張をしているだろうが、私もそれなりに緊張してきた。
昨日のことを思えば、胸がきゅっとするからだ。
意を決し、膝の上で私は拳を握る。
「では、ニナの希望通りの嫁ぎ先が決まりました。エルドア国のクロック侯爵家です。
まず、あなたを侯爵様の養女とします。その後、侯爵様の腹違いの弟との結婚となりました。
ちなみになんだけど、ニナより10は年上ですし、引篭らしいです。
それでも、エルドアへ私のために行ってくれますか?」
私の瞳を見つめ、ニコリと笑ったかと思えば頷くニナ。
「はい。もちろんでございます。旦那様となる方と力合わせて、エルドアで頑張ります」
「そう、わかったわ。話をつづけるけど、いいかしら?」
はいと返事をくれ、自身が進む道が決まったことで先ほどよりいい顔になったニナに話の続きをする。
「それでね、侯爵様がね、異母弟さんに爵位を譲ってくれるらしいの。
侯爵様には、もう子どもが望めないからだそうなんだけど、あなたには後継を産むようお願いされて
います。
今の顔を見ていると侯爵様の異母弟と頑張ってくれそうだけど……人質として、あなたの弟たちを
私の兄の元で育てることにしました」
「わかりました。それは、貴族の末席として、アンナリーゼ様の申し出は受け入れます」
「ありがとう。双子には、もちろん学園に行ってもらうつもりだから、悪いようにはしないわ」
「こちらこそ、二人も世間知らずを受け入れていただきお手数をおかけします」
私の人質宣言にも何も言わず、ニナは私に対して洗練されて綺麗なお辞儀でお礼を返してくれる。
「あと、あなたの両親のことなんだけどね。昨日、あなたの実家に行ってきたわ。
そして、あなたはワイズ伯爵の悪巧みに利用されたからうちが処罰を与えて死んだと伝えてきたの」
「えっ?私……」
ニナ本人も驚いている。
両親や弟たちには、自分が死んだと思われているのだから戸惑うのも仕方がない。
「そう、ニナは今日を持って死ぬのよ。明日からは、違う人生を送ってもらわないといけないの。
それでね、エルドアに行くあなたへの餞別に、両親を従者として付けてあげたいと思っているの。
ただ、昨日、死んだと行った手前、私の命令に従ってくれるかわからないのだけど、誓約書を
持って明日、この屋敷に家族でくるように言っててあるわ。そこで、あなたたちを引き合わせます。
ただし、午前0時を回れば、あなたはニナではないの。それだけは、決して明かさないでちょうだい。
家族が悟るのは勝手だけどね!」
「かしこまりました。アンナリーゼ様のはからい、痛み入ります」
私は、ニナの返事に頷くとニナも納得したという頷き返してくれる。
「あなたの名前は、エレーナ・アン・クロック。明日からはそのように名乗りなさい。
エレーナはエリザベスから、ミドルのアンは私からとったのよ。
私からのささやかな贈り物だと思って」
「エリザベス様とアンナリーゼ様からできているのですか?嬉しいです。二人の主からだと思うと……」
喜んでいるところ悪いんだけど……大層なものではない。
「あっ!エレーナは、私が勝手にエリザベスから連想したから……ごめんね。
エリザベスは知らないわ」
「滅相もないです。お気遣いありがとうございます」
「これで、話は終わり!
今日来てるお客たちはもう知ってるから、明日からエレーナと呼ぶように言っておくわ!」
「はい、よろしくお願いします」
夕食の時間だと私の部屋へメイドが呼びに来てくれたので、二人で食堂に向かった。
すでに三人は来ていたので、私とニナも混ざって楽しい夕食をとったのである。
◆◇◆◇◆
「おはよう!エレーナ」
「おはようございます、アンナリーゼ様」
「アンナでいいわ!」
そう言うとエレーナは、嬉しそうにニッコリ笑っていた。
「今日のお茶会の準備は、エリザベスがすべて仕切ることになってるの。
とても、不安がっていたから、しっかり手伝ってあげて!
私は、もうすぐ屋敷に来るハリーとフレイゼンの学都へお出かけするから。
あと、三人も強行の旅で疲れているだろうから、ゆっくりさせてあげて!お願いね!」
私は、町娘風に着慣れた服を着て、ストロベリーピンクのゆるっとした髪をポーニーテールに結ぶ。
そこは、もちろんエレーナが手伝ってくれたので、一切の乱れはなかった。
出かける準備万端と思っていると、ハリーが屋敷に着いたようだ。
玄関で馬車の止まる音がしたので、私は玄関へと飛び出していく。
久しぶりに会うハリーを迎えに玄関へ急いだのだった。
遠乗りの際、よく立ち寄るここは、私にとって静かで居心地のいいところでもあった。
「アンナリーゼ様、おかえりなさいませ」
出迎えてくれたのは、すっかり『ご令嬢』になったニナである。
ドレスを着こなし、この屋敷の女主人だったと言われても何の見劣りもしなかった。
「ただいま、ニナ。
こちらの方たちは、明日のお茶会の招待客の方たちよ。おもてなしをお願いできる?
そのあと、ニナに話があるから部屋に来てちょうだい」
スタスタと自室に篭って休もうとしたら、ナタリーが私の手首を掴んだ。
「アンナリーゼ様、どこに行かれますか?まずは、お体を清めて、背中に薬を塗りましょう!」
有無を言わせぬ笑顔って怖いねと思いながら、黙ってナタリーに従うことにする。
「ニナ、ごめんなさいね。お風呂の用意……」
「アンナリーゼ様が入られると思って、すでに用意してあります。どうぞ、こちらに」
「では、参りましょう!あなた達も夕飯までには、清めておいて下さいね!」
ナタリーの一睨みで、ウィルとセバスも客間に荷物を置いてから夕飯までにお風呂に入ることになった。
お風呂には、もちろん、ナタリーとニナが当然のようについてくる。
ニナは侍女をしてたのでわかるのだが、ナタリーって、子爵令嬢よね?と疑いたくなるほど手際よく、また、ニナと協力して私を磨きあげていく。
あと少し残っているやけどを二人が優しく扱ってくれるのは嬉しい。
「あとは私にお任せいただき、ナタリー様もお疲れでしょうから、ゆっくり湯船に浸かって
くださいませ」
磨き上がって湯船でゆっくりした私はお風呂から出たら、今度は、ニナによって着飾られていく。
と言っても、自宅にいるので簡素にだ。
私の準備も出来上がったため、ニナは私に向き直っている。
「それじゃ、先ほどのお話でもしましょうか?」
「はい、お願いします」
私たちは、私室へ向かいそのソファで話をすることになった。
ニナの方が何を言われるのか緊張をしているだろうが、私もそれなりに緊張してきた。
昨日のことを思えば、胸がきゅっとするからだ。
意を決し、膝の上で私は拳を握る。
「では、ニナの希望通りの嫁ぎ先が決まりました。エルドア国のクロック侯爵家です。
まず、あなたを侯爵様の養女とします。その後、侯爵様の腹違いの弟との結婚となりました。
ちなみになんだけど、ニナより10は年上ですし、引篭らしいです。
それでも、エルドアへ私のために行ってくれますか?」
私の瞳を見つめ、ニコリと笑ったかと思えば頷くニナ。
「はい。もちろんでございます。旦那様となる方と力合わせて、エルドアで頑張ります」
「そう、わかったわ。話をつづけるけど、いいかしら?」
はいと返事をくれ、自身が進む道が決まったことで先ほどよりいい顔になったニナに話の続きをする。
「それでね、侯爵様がね、異母弟さんに爵位を譲ってくれるらしいの。
侯爵様には、もう子どもが望めないからだそうなんだけど、あなたには後継を産むようお願いされて
います。
今の顔を見ていると侯爵様の異母弟と頑張ってくれそうだけど……人質として、あなたの弟たちを
私の兄の元で育てることにしました」
「わかりました。それは、貴族の末席として、アンナリーゼ様の申し出は受け入れます」
「ありがとう。双子には、もちろん学園に行ってもらうつもりだから、悪いようにはしないわ」
「こちらこそ、二人も世間知らずを受け入れていただきお手数をおかけします」
私の人質宣言にも何も言わず、ニナは私に対して洗練されて綺麗なお辞儀でお礼を返してくれる。
「あと、あなたの両親のことなんだけどね。昨日、あなたの実家に行ってきたわ。
そして、あなたはワイズ伯爵の悪巧みに利用されたからうちが処罰を与えて死んだと伝えてきたの」
「えっ?私……」
ニナ本人も驚いている。
両親や弟たちには、自分が死んだと思われているのだから戸惑うのも仕方がない。
「そう、ニナは今日を持って死ぬのよ。明日からは、違う人生を送ってもらわないといけないの。
それでね、エルドアに行くあなたへの餞別に、両親を従者として付けてあげたいと思っているの。
ただ、昨日、死んだと行った手前、私の命令に従ってくれるかわからないのだけど、誓約書を
持って明日、この屋敷に家族でくるように言っててあるわ。そこで、あなたたちを引き合わせます。
ただし、午前0時を回れば、あなたはニナではないの。それだけは、決して明かさないでちょうだい。
家族が悟るのは勝手だけどね!」
「かしこまりました。アンナリーゼ様のはからい、痛み入ります」
私は、ニナの返事に頷くとニナも納得したという頷き返してくれる。
「あなたの名前は、エレーナ・アン・クロック。明日からはそのように名乗りなさい。
エレーナはエリザベスから、ミドルのアンは私からとったのよ。
私からのささやかな贈り物だと思って」
「エリザベス様とアンナリーゼ様からできているのですか?嬉しいです。二人の主からだと思うと……」
喜んでいるところ悪いんだけど……大層なものではない。
「あっ!エレーナは、私が勝手にエリザベスから連想したから……ごめんね。
エリザベスは知らないわ」
「滅相もないです。お気遣いありがとうございます」
「これで、話は終わり!
今日来てるお客たちはもう知ってるから、明日からエレーナと呼ぶように言っておくわ!」
「はい、よろしくお願いします」
夕食の時間だと私の部屋へメイドが呼びに来てくれたので、二人で食堂に向かった。
すでに三人は来ていたので、私とニナも混ざって楽しい夕食をとったのである。
◆◇◆◇◆
「おはよう!エレーナ」
「おはようございます、アンナリーゼ様」
「アンナでいいわ!」
そう言うとエレーナは、嬉しそうにニッコリ笑っていた。
「今日のお茶会の準備は、エリザベスがすべて仕切ることになってるの。
とても、不安がっていたから、しっかり手伝ってあげて!
私は、もうすぐ屋敷に来るハリーとフレイゼンの学都へお出かけするから。
あと、三人も強行の旅で疲れているだろうから、ゆっくりさせてあげて!お願いね!」
私は、町娘風に着慣れた服を着て、ストロベリーピンクのゆるっとした髪をポーニーテールに結ぶ。
そこは、もちろんエレーナが手伝ってくれたので、一切の乱れはなかった。
出かける準備万端と思っていると、ハリーが屋敷に着いたようだ。
玄関で馬車の止まる音がしたので、私は玄関へと飛び出していく。
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