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信用に足るもの

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 ニナの実家から退出すると、今回のもうひとつの目的地でもある祖父の領地の屋敷へ移動する。
 今日は、ここで1泊するつもりだ。


「さすがに、しんどかったですね。ニナは、彼らにとって、最愛の娘でしょうからね……」
「明後日、約束通りくるでしょうか……?」
「こればっかりは考えてもわからないわ。信じて待つばかりね!」


 四人で祖父の領地のお屋敷へと帰り、ゆっくり体を休める。
 おいしい夕飯を叔父が用意してくれたおかげで、気持ちも少し余裕ができた。
 明日の予定の確認が必要だから、セバスとナタリーの予定を聞くことにした。


「明日なんだけど、私とウィルは、兵士の訓練に混ざろうと思うの。
 セバスとナタリーはどうする?
 夕方には、また、馬で移動になるから、ゆっくり休んでくれてもかまわないわよ?」
「アンナリーゼ様、その訓練って、僕も見に行ってもいい?」
「もちろんいいわよ!」
「私も見たい!ていうか、アンナリーゼ様をほっておくと無茶しそうだから、気にかけないと
 いけないし……」


 ナタリーの言うことは一理ある。せっかく火傷をした背中が治ってきたのだ。
 無理、無茶は厳禁である。


「姫さんは、明日の訓練、やめておいたら?俺だけ参加するよ!」
「えっ?私ももちろん行くわよ?」
「いや、せっかく姫さんの強さに少しでも追いつける機会なのに、姫さんまで強くなったとか、
 俺、勝ち目が遠のいてシャレになんないじゃん……火傷も治りかけなんだろ?
 明日は、ナタリーと街でも歩いてきたらどうだ?」


 ウィルが、気遣ってくれている。
 多分、ニナの母親に泣かれたことがこたえているように見えるのだろう。


「じゃあ、お言葉に甘えて?ナタリー!遊びに行きましょ!
 ウィルにおじさまを紹介してからだけど……」
「いいんですか?本当は訓練に行きたいのでしょ?処置はちゃんとしますから、行ってきても……」
「ううん。いいの。ウィルの優しさに心打たれたところよ!」
「俺の優しさって……そんなつもりは、もちろんないよ?すべては、俺の強さのため!
 それに、今回の旅は、結構、スケジュールが混んでたからな。病み上がりにはきついだろ?
 明後日もあるんだしさ。休めるときに休むのも主の仕事だ」
「ほんとね。それに、市井に出るのに服も欲しかったんだ。ナタリー、一緒に見てよ!」
「それなら、心行くまでお供します。ここには、アンナリーゼ様の大好きな生クリームたっぷりの
 甘いものは、ないのですかね?」
「どうかしら?それも、一緒に探しましょう!」


 女の子、二人できゃっきゃっ騒いでいると、ウィルとセバスは、遠い目をしている。


「僕は、遠慮しておくよ。ウィルの訓練を見ているよ」
「わかったわ。じゃあ、二手に分かれて行動ね。夕方、暗くなる前に自領へ移動しようと思うの。
 その準備も怠らないでね?」


 明日の打ち合わせをすると、私は自分の部屋へ行く。
 ウィルたちは、個室の客間に通されたようで、それぞれが部屋へと向かった。



 ◇◆◇◆◇



 しばらくすると、部屋の扉がノックされた。


「どうぞ!」


 ひょこっと顔を出したのは、ウィルだった。


「姫さん、ちょっといいか?」
「ええ、もちろん。どうかしたの?」
「いや……なんていうか……俺な、学園に入って、姫さんと出会ってから結構いろいろな体験させて
 もらったなと思って。今日だってそうだ。
 本当は、俺だけを連れていくはずで声をかけてくれたんだろ?
 なぁ、俺は、姫さんにとって信用に足る人間か?」


 ………………


「私、ウィルのこと、信用しているわ。じゃなかったら、学生のウィルに護衛なんて頼まないもの!」
「一人でも本当は、行くつもりだったんだろ?」
「そうね。そのつもりだった。でも、今日は、ウィルたちがいてくれて、心強かったわ!
 一人で来なくて、よかった……」


 ………………


「これを聞きたかったわけじゃないんでしょ?」
「……あぁ……姫さんは、その小さな体で一体何を抱えているんだ?」


「!!!!!!!」


 私の何を持っての質問だったかは、この質問だけではウィルの意図することがわからなかった。
 でも、確実に何かを悟っているのだろう。
 トワイス国の侯爵令嬢である私が、自国ではなくローズディアの友人、それも爵位を継承できないが、
 特技のある人間を集めていることに疑問を持っていたのだろう。


「ウィルは、どう思っているの?」
「俺は、姫さんの役に立てることがあるなら、立ちたいと思っている。
 トワイスの王子や宰相の息子とは違う。
 恋慕ではなく、純粋に『アンナリーゼ』ただ一人の人間に焦がれているんだ」
「ありがとう……そんな風に言ってもらえると、嬉しいわ。でも、今は言えることが何もないの。
 ただ、友人として、仲良くしてほしい。
 それに、私、ローズディアで近衛になったウィルも見てみたいもの!!」


 ニコッと笑いかけると、ウィルは曖昧に笑うだけである。


「じゃあさ、いつか、抱えているもの、教えてくれるか?」
「うーん。そうね、いつか言うわ!私たちが、もっと大人になったときに。
 でも、そのときは、もう、ウィルは私の側にいてくれないのかもしれないわね」
「いつだって、俺の名前を呼んでくれたら、姫さんのところに飛んでいくさ。
 姫さんが必要だといえば、いつだってな……」


 少し考えるそぶりを見せるウィル。
 何か、自分の中で納得をしたのか、うんうんと頷いている。


「ありがとう……もう、今日は遅いから、ゆっくり休んで。
 明日は訓練もあるから……ここの兵は強いから、決して油断はしないでね?」
「あぁ、わかった。なるべく勝てるように頑張るよ。おやすみ……」


 ソファに座る私に近づき頭のてっぺんにキスをしていくウィル。
 その行動にはとても驚いた。


 でも、それを咎めようとは思わなかった。



 ◆◇◆◇◆



 次の日、ウィルは、私兵の訓練で大層目立っていたらしい。
 職業兵士にも、負けていなかったということで、それを聞いた私はとても嬉しかった。
 そして、おじと対戦もしたらしい。
 母より強い相手というのが、この領地の私兵をまとめているおじである。
 いい試合ができるほどの腕前を見せたと領地を出発する前におじに聞いた。
 友人の活躍は、私はとても誇らしく思う。


 セバスも作戦立案の講義に混ざっていたらしく、こちらもかなり噂になっている。
 やはり、こっちの方面を任せられるのは、セバスだなと思う。
 あとは、交渉術を学べば、セバスは鬼に金棒だ。これからが楽しみである。


 そして、私とナタリーは、街を歩き回った。
 買い物袋を両手にいっぱい持って、貴族令嬢に有るまじき姿である。
 途中で、宝石店を見つけたのでふらっと寄ってみた。
 小さなアメジストのピアス、ネックレス、指輪が売っていた。
 とても、気に入ってしまった……
 思わず、買ってしまったのである。


 さて、どうしようか。



 ◇◆◇◆◇



 自領へ戻る途中、広い道の脇で休憩をはさんだ。
 もう、地べたに座るのも慣れっこになった四人は、飲み物と軽食を出して各々休憩をする。


「ねぇ?みんな、手だして!」


 三人に呼び掛けるとそれぞれ手を出してくれる。
 ウィルにはピアス、セバスにはネックレス、ナタリーには指輪を手の上に置いていく。
 あのアメジストの宝飾品だ。


「今回、来てくれたお礼。私、みんなに何にもできないけど……これで、許して!」
「アメジストか。いんじゃね?」


 そういって、ウィルはピアスをつけてくれた。
 セバスもネックレスをつけようとしてくれる。
 うまくつけられないようで、ナタリーに手伝ってもらっていた。
 ナタリーも指輪をつけてくれた。
 なぜか、左の薬指だった。ピッタリなんだけど、ん?来年、結婚するんだよね?
 まぁ、いっかと私は心の中で疑問をポイする。


「いい、お礼ですね!」
「ほんとね、ぴったりだわ!」
「だな。誠実だってよ。姫さんにはそうありたいな!」
「「はい」」
「あの……盛り上がっているところ申し訳ないんだけど……深い意味は、何もないよ?」
「あぁ、かまわないよ。それで」


 三人が、それぞれアメジストの宝飾をどういう気持ちで受け取ってくれたのかはわからない。
 私としては、今回のお礼の代わりなのだが……何か、勘違いされていそうだ。


 もうそろそろ、自領につくので、そこでニナの紹介でもしようと違う思いにふける私であった。
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