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誓約書
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やっとのことで、着いたと顔色のあまり良くないセバスは思っているだろう。
あれからも走り続けてやっと、ニナの実家近くに着いた。
「セバス、本当に大丈夫?」
「あ……はい……」
真っ青な顔をしているセバスは、空元気のような曖昧な返事をする。
見た目は、空元気どころではない。
「お昼休憩しましょうか?あそこのお店に入る?」
私が指示したレストランの方を三人が見て笑顔が引きつっている。
セバスは、もう笑うことすら諦めたようで無表情に近い顔であった。
「レストランって、高そうじゃない?」
「ウィルって貴族よね?」
「あぁ、そうだけどさ、ちょっとな?」
「アンナ様、私もちょっと……」
店の見た目が、とても高級そうなレストランを指示したから、気が引けているらしい。
みんな手持ちもそこそこ抑えてきたのだろう。
今回の依頼主は私である。
私が良ければ、みんながよくないと言ってもそれでいいのだ。
「はい!決定。書類も書かないといけないから、行くよ!
料金は、気にしないでいいし、依頼主が出すのが当たり前だから!」
馬から下りてスタスタ歩いていく私を三人が慌てて追いかけてきた。
近くをキョロキョロと見回すと、馬を預かってくれるところがあったのでお願いする。
いらっしゃいませとレストランで席に通されると、ゆっくり揺れていない椅子に腰を掛ける。
それだけで、セバスはホッとしている。
ナタリーも口にも表情に出さなかったが、きつかったのだろう。
ふぅっと息を吐いていた。
それぞれ好きなものを頼んで昼からの大仕事に向け英気を養う。
「書類だけ、作成しましょう。まずは、主になるニナの名前は、エレーナ・アン・クロック。
エルドア国侯爵家の養女になり、侯爵の異母弟とのちに結婚する。
両親には、エレーナの執事および侍女として働いてほしいことと、ニナの双子の弟については、
フレイゼン侯爵家にて面倒を見ることへの了承ですね。
ニナの事情のことを他者には、言わないことも含めましょう!」
ちゃんと一休みできたのか、先ほどとは打って変わってセバスの動きがよくなった。
四人で誓約書に目を通し、間違いがないかを確認する。
お会計を済ませ、いざニナの実家へと向かう。
このレストランからは近いので、馬を連れて歩くことにした。
「んじゃ、セバス、うまくやれよ!」
「あぁ、任せておけ!」
不敵に笑いあうウィルとセバス。
それを後ろから見て、私も口角が上がることがわかった。
未来を考えたとき、この二人は私の手元に置いておきたい人物であるため、お手並み拝見である。
「ごめんくださーい!!」
「はいはい、どちら様?」
そういって出てきたのは、ニナの母親だろう。ニナと目元がよく似ている。
「フレイゼン侯爵家よりまいりました、執事のセバスチャンと申します。
本日は、当家のお嬢様よりそちらのお嬢様、ニナ様のことについて、お知らせさせていただきたい
ことと今後についての提案がございます」
「はぁ……この前のお手紙のことかしら……旦那様を呼びますのでこちらにどうぞ……」
ニナの母親に案内された私たち四人は、それぞれの役割に適した位置につく。
客間のソファーに私、サブの椅子にセバス、私の後ろにウィルとナタリー。
そこにニナの母親と父親が、部屋に入ってくる。
「初めまして、侯爵のお嬢様。ニナの父親でございます。こっちは、家内です」
「初めまして、侯爵家アンナリーゼ・トロン・フレイゼンと申します。突然の訪問、すみません」
「とんでもございません……こんなあばら家に侯爵家のお嬢様をお招きするとは……
お恥ずかしいかぎりです」
社交辞令が終わったのを見計らって、セバスがニナの話を切り出す。
「私、アンナリーゼ様の執事をさせていただいております、セバスチャンと申します。
本日、私のほうから、ニナ様の現在について、お話させていただきます」
「はぁ……ニナは、ワイズ伯爵の侍女になっているのではないのですか?」
ニナの父親がセバスの話に疑問を持ったようで、セバスに質問をする。
突然の訪問に加え、現在についてなど言われれば、疑問に思うこともあるだろう。
「いえ、ニナ様は、ワイズ伯爵の紹介によりバクラー侯爵家の令嬢エリザベス様の侍女として
働かれていたことはご存じないですか?」
「いいえ、聞いています。エリザベス様には、とてもよくしていただいていると……
あの……あの子、ニナがエリザベス様や公爵様方に何かしたのでしょうか?」
「はい。ご存じではないかもしれませんが、ワイズ伯爵は、この度不正を働き、バクラー侯爵家を
陥れ、領地への被害を出させるようなことをしました。
そのとき、ワイズ伯爵への情報提供をしていたのが、他ならぬニナ様です」
「なんですと!!そんな……そんなことが……」
事実を伝えられると、信じられないと、ニナの両親は取り乱し始めた。
「続きがございます。内密にフレイゼンが、ニナ様の関与を突き止め罰することになりまして、
公にはなっておりませんが、ニナ様については、貴族を他領地を陥れた罪で死罪になりました。
その際に、お嬢様への願いとしてこちらが提示されております」
そこまで伝えると、母親は嗚咽をこらえられず、泣き崩れる。
それを支えるニナの父は、キッと私を睨んでくる。
「なんてことをしてくれたのだ!!あの子は優しい……優しい子供だったんだ!!」
「そうですか、それでも犯罪は犯罪。我が家を相手にしてしまったことを恨むのね!」
私は、捨て台詞を言うと、後ろからため息が聞こえてくる。
「アンナリーゼ様、少しお控えください。
あなた方には、罪が及ばないよう手を差し伸べたお嬢様に対し、それは、ないのではないですか?
判断は、任せますが、こちらは、誓約書です。
明後日の夕方までに、フレイゼン領地の屋敷まで返事を持ってくるように」
お門違いに私へと怒りをぶつけてきたニナの父親に対してセバスは少し怒りをあらわにした。
泣き崩れた奥さんを抱き寄せ、ニナの父親は誓約書を確認する。
「そうそう、必ず、あなたたちご夫婦と双子の弟たちで来てくださいね。
お願いではなく、上位者としての命令です」
セバスがそう言い放つと、見ていた誓約書を私に向けて投げてくる。
サッとウィルは、それを代わりに受け取った。
「私たちの娘を殺され、こんな見ず知らずのもののために国も爵位も捨て、さらに息子たちまで
手放さないといけないなど、あったものじゃない!!ふざけるにもいい加減にしろ!!」
「おやおや、上位者に対する言葉づかいでは、ございませんね。ニナ様は、最後まで立派でしたよ。
貴族の末端として言葉づかいも何もかも。両親がそれでは、残念です。
こんなダメなところを見ないで済んだニナ様は、幸運ですわね。娘さんを見習いなさい!」
ナタリーにそこまで言われ、父親は黙った。
母親の嗚咽は、部屋中にまだ響いている。
「あなた方が、どんな風に思っていてもかまいません。
その誓約書に名前を書くか、事を公にするかどちらの選択をしようとも必ず、ご家族で明後日、
領地の屋敷まできなさい。待ってるわ。では、行くところがあるから、失礼するわ!」
私は、席を立つと、侍女役のナタリーが先行してドアを開けてくれる。
それに従って、私は歩くだけだ。
閉められたドアの向こうで、父親の悔しそうな声が聞こえてくる。
その気持ちは痛いほどわかる。
ハリーを失う気持ち、娘が毒をあおろうとした瞬間、たくさんの死を夢でみたからだ。
「心が痛いわね……」
「仕方ないさ。それでも、本当にニナは死んだわけではなくて、名前を変えて生きているんだ。
まだ、マシだよ」
ウィルに諭されれば、少し気持ちも楽になる。
ニナは、本当に死んだわけではないのだ。生きているだけ、マシだと私も思う。
どんな答えを示すのかわからないが、あとの判断はニナの家族に任せよう。
エレーナがニナであることは変わりないし、ニナという名前が死んだだけであるのだから、それに気付ければきっと、今回の提案も受けてくれるはずだと淡い期待を胸に、祖父の領地へと向かうのであった。
あれからも走り続けてやっと、ニナの実家近くに着いた。
「セバス、本当に大丈夫?」
「あ……はい……」
真っ青な顔をしているセバスは、空元気のような曖昧な返事をする。
見た目は、空元気どころではない。
「お昼休憩しましょうか?あそこのお店に入る?」
私が指示したレストランの方を三人が見て笑顔が引きつっている。
セバスは、もう笑うことすら諦めたようで無表情に近い顔であった。
「レストランって、高そうじゃない?」
「ウィルって貴族よね?」
「あぁ、そうだけどさ、ちょっとな?」
「アンナ様、私もちょっと……」
店の見た目が、とても高級そうなレストランを指示したから、気が引けているらしい。
みんな手持ちもそこそこ抑えてきたのだろう。
今回の依頼主は私である。
私が良ければ、みんながよくないと言ってもそれでいいのだ。
「はい!決定。書類も書かないといけないから、行くよ!
料金は、気にしないでいいし、依頼主が出すのが当たり前だから!」
馬から下りてスタスタ歩いていく私を三人が慌てて追いかけてきた。
近くをキョロキョロと見回すと、馬を預かってくれるところがあったのでお願いする。
いらっしゃいませとレストランで席に通されると、ゆっくり揺れていない椅子に腰を掛ける。
それだけで、セバスはホッとしている。
ナタリーも口にも表情に出さなかったが、きつかったのだろう。
ふぅっと息を吐いていた。
それぞれ好きなものを頼んで昼からの大仕事に向け英気を養う。
「書類だけ、作成しましょう。まずは、主になるニナの名前は、エレーナ・アン・クロック。
エルドア国侯爵家の養女になり、侯爵の異母弟とのちに結婚する。
両親には、エレーナの執事および侍女として働いてほしいことと、ニナの双子の弟については、
フレイゼン侯爵家にて面倒を見ることへの了承ですね。
ニナの事情のことを他者には、言わないことも含めましょう!」
ちゃんと一休みできたのか、先ほどとは打って変わってセバスの動きがよくなった。
四人で誓約書に目を通し、間違いがないかを確認する。
お会計を済ませ、いざニナの実家へと向かう。
このレストランからは近いので、馬を連れて歩くことにした。
「んじゃ、セバス、うまくやれよ!」
「あぁ、任せておけ!」
不敵に笑いあうウィルとセバス。
それを後ろから見て、私も口角が上がることがわかった。
未来を考えたとき、この二人は私の手元に置いておきたい人物であるため、お手並み拝見である。
「ごめんくださーい!!」
「はいはい、どちら様?」
そういって出てきたのは、ニナの母親だろう。ニナと目元がよく似ている。
「フレイゼン侯爵家よりまいりました、執事のセバスチャンと申します。
本日は、当家のお嬢様よりそちらのお嬢様、ニナ様のことについて、お知らせさせていただきたい
ことと今後についての提案がございます」
「はぁ……この前のお手紙のことかしら……旦那様を呼びますのでこちらにどうぞ……」
ニナの母親に案内された私たち四人は、それぞれの役割に適した位置につく。
客間のソファーに私、サブの椅子にセバス、私の後ろにウィルとナタリー。
そこにニナの母親と父親が、部屋に入ってくる。
「初めまして、侯爵のお嬢様。ニナの父親でございます。こっちは、家内です」
「初めまして、侯爵家アンナリーゼ・トロン・フレイゼンと申します。突然の訪問、すみません」
「とんでもございません……こんなあばら家に侯爵家のお嬢様をお招きするとは……
お恥ずかしいかぎりです」
社交辞令が終わったのを見計らって、セバスがニナの話を切り出す。
「私、アンナリーゼ様の執事をさせていただいております、セバスチャンと申します。
本日、私のほうから、ニナ様の現在について、お話させていただきます」
「はぁ……ニナは、ワイズ伯爵の侍女になっているのではないのですか?」
ニナの父親がセバスの話に疑問を持ったようで、セバスに質問をする。
突然の訪問に加え、現在についてなど言われれば、疑問に思うこともあるだろう。
「いえ、ニナ様は、ワイズ伯爵の紹介によりバクラー侯爵家の令嬢エリザベス様の侍女として
働かれていたことはご存じないですか?」
「いいえ、聞いています。エリザベス様には、とてもよくしていただいていると……
あの……あの子、ニナがエリザベス様や公爵様方に何かしたのでしょうか?」
「はい。ご存じではないかもしれませんが、ワイズ伯爵は、この度不正を働き、バクラー侯爵家を
陥れ、領地への被害を出させるようなことをしました。
そのとき、ワイズ伯爵への情報提供をしていたのが、他ならぬニナ様です」
「なんですと!!そんな……そんなことが……」
事実を伝えられると、信じられないと、ニナの両親は取り乱し始めた。
「続きがございます。内密にフレイゼンが、ニナ様の関与を突き止め罰することになりまして、
公にはなっておりませんが、ニナ様については、貴族を他領地を陥れた罪で死罪になりました。
その際に、お嬢様への願いとしてこちらが提示されております」
そこまで伝えると、母親は嗚咽をこらえられず、泣き崩れる。
それを支えるニナの父は、キッと私を睨んでくる。
「なんてことをしてくれたのだ!!あの子は優しい……優しい子供だったんだ!!」
「そうですか、それでも犯罪は犯罪。我が家を相手にしてしまったことを恨むのね!」
私は、捨て台詞を言うと、後ろからため息が聞こえてくる。
「アンナリーゼ様、少しお控えください。
あなた方には、罪が及ばないよう手を差し伸べたお嬢様に対し、それは、ないのではないですか?
判断は、任せますが、こちらは、誓約書です。
明後日の夕方までに、フレイゼン領地の屋敷まで返事を持ってくるように」
お門違いに私へと怒りをぶつけてきたニナの父親に対してセバスは少し怒りをあらわにした。
泣き崩れた奥さんを抱き寄せ、ニナの父親は誓約書を確認する。
「そうそう、必ず、あなたたちご夫婦と双子の弟たちで来てくださいね。
お願いではなく、上位者としての命令です」
セバスがそう言い放つと、見ていた誓約書を私に向けて投げてくる。
サッとウィルは、それを代わりに受け取った。
「私たちの娘を殺され、こんな見ず知らずのもののために国も爵位も捨て、さらに息子たちまで
手放さないといけないなど、あったものじゃない!!ふざけるにもいい加減にしろ!!」
「おやおや、上位者に対する言葉づかいでは、ございませんね。ニナ様は、最後まで立派でしたよ。
貴族の末端として言葉づかいも何もかも。両親がそれでは、残念です。
こんなダメなところを見ないで済んだニナ様は、幸運ですわね。娘さんを見習いなさい!」
ナタリーにそこまで言われ、父親は黙った。
母親の嗚咽は、部屋中にまだ響いている。
「あなた方が、どんな風に思っていてもかまいません。
その誓約書に名前を書くか、事を公にするかどちらの選択をしようとも必ず、ご家族で明後日、
領地の屋敷まできなさい。待ってるわ。では、行くところがあるから、失礼するわ!」
私は、席を立つと、侍女役のナタリーが先行してドアを開けてくれる。
それに従って、私は歩くだけだ。
閉められたドアの向こうで、父親の悔しそうな声が聞こえてくる。
その気持ちは痛いほどわかる。
ハリーを失う気持ち、娘が毒をあおろうとした瞬間、たくさんの死を夢でみたからだ。
「心が痛いわね……」
「仕方ないさ。それでも、本当にニナは死んだわけではなくて、名前を変えて生きているんだ。
まだ、マシだよ」
ウィルに諭されれば、少し気持ちも楽になる。
ニナは、本当に死んだわけではないのだ。生きているだけ、マシだと私も思う。
どんな答えを示すのかわからないが、あとの判断はニナの家族に任せよう。
エレーナがニナであることは変わりないし、ニナという名前が死んだだけであるのだから、それに気付ければきっと、今回の提案も受けてくれるはずだと淡い期待を胸に、祖父の領地へと向かうのであった。
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