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背中

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 廊下を自室へと歩いていると、後ろから声をかけられた。


「アンナリーゼ様!その背中、どうされましたか!!」


 慌てて駆け寄ってきたのは、ローズディア公国子爵令嬢のナタリーである。
 背中の紅茶染みを見て驚いている。


「うーん。イリア嬢にティーカップ投げられちゃったの。背中が少し痛いわ……」


 ごちると、ナタリーは自室までついてきてくれ、着替えを手伝ってくれる。
 ドレスを脱ぐと熱々の紅茶だったためか、やけどになっていたらしい。

 侍女に氷水と綺麗なタオルを三枚、薬を取ってくるよう指示をし、ナタリーは新しいタオルでそっとやけどになっていないところを拭いてくれている。


「しばらく痛むかもしれませんね……後に残らなければいいのですが……」


 心配そうに声をかけてくれるナタリーは優しい。
 状況を説明してくれないということは、結構なやけどになっているのだろう。

 しばらくすると侍女が、氷水とタオルを持ってきてくれたようだ。
 ベッドに裸でうつ伏せに寝かされ、やけどにそっと冷やしたタオルを置いてくれる。
 それが、ものすごくしみる……
 ジクジクという痛みに耐えながら、やけどの部分の熱を吸うタオルの交換を何度もして冷やしてくれた。


 バン!といきなり私の部屋のドアが開いた。


 声からして男の人が入ってきたようで、ナタリーと侍女は追い出そうとしているが、なかなか力が強いのかうまくいっていないようだ。


 声をよくよく聞くと兄が入ってきたようだ。


「アンナ!イリア嬢をお茶会で投げ飛ばしたって、ど……」


 兄は、ナタリーに冷やしてもらっている私の背中を見て青ざめている。
 熱い紅茶を被ったのだ。背中はミミズ腫れしていて痛々しい。
 それをナタリーが何度も何度も冷えたタオルで必死で冷やしてくれている最中だ。


「な……な……」


 言葉にならない兄と違いナタリーは冷静だ。
 氷水を新しいもの返るよう侍女に指示している。


 少し冷静さを取り戻した兄がナタリーの横に来たようだ。


「手際がいいな……」


 私はうつ伏せなのではっきりわからないが、ナタリーが大きなため息をついたのがわかった。


「アンナリーゼ様とサシャ様がいくらご兄妹とはいえ、さすがに年頃の女性の裸を見るのはいかがな
 ものかと思いますよ?それより、お医者様の手配をなさってください。
 私は、あくまで応急処置ですから……」


 ナタリーに睨まれたのであろうか?兄がタジタジになっているような気がする。
 見えないので、雰囲気と伝わる空気だけで感じ取るしかない。


「あ……あぁ、そうだね。
 それじゃあ、アンナ、自宅に帰る許可と休学の手続きをしてくるよ。
 医者は自宅に帰るまでに呼んでもらっておく。じゃあ、行ってくる!」


 そう言って兄は出ていったが、入れ替わりに今度は二人の人物が部屋に入ってきた。
 チラッと見たが、殿下とハリーだ。
 二人とも私の姿をみて、赤面したり青くなったりしている。


 そして、ナタリーに叱られ、部屋から追い出されてしまった。


「アンナリーゼ様の周りの男性は、どうしてこんなに気の利かない人ばかりなのかしら!!
 配慮が足りなさすぎます!!」


 まるで、悪くないはずの私が叱られているようだ……私もナタリー程、配慮があるようには、とても思えないので、謝ってしまう。


「ごめんなさいね……兄や殿下、ハリーが迷惑かけて……
 一番迷惑をかけているのは私なのだけど……」
「何をいってらっしゃるのですか?
 アンナリーゼ様に傷が残るようなことになる方が大変です!!」


 そう言って、冷やしてくれているタオルを侍女が入れ替えてきてくれた氷水でさらに冷やしてくれる。
 先ほどまでジクジクと痛かったが、少し収まったような気がしたけど、タオルを外され、熱を持つとまた痛くなる。

 1時間ほどだろうか……3分ごとに冷やしたタオルを置いてくれたおかげで、だいぶ楽になってきた。

 ちょうど、手続きを終えた兄が部屋に入ってくる。
 さすがに今度は、扉の前で止まって、中へ入らず話しかけてくる。


「今、手続きが終わったから、屋敷へ一緒に帰ろう。3週間程休学だ」


 背中に軟膏を塗ってもらい、包帯で服がこすれないようにしっかり巻いてもらう。
 ナタリーの応急処置は完璧だった。


 あぁ、ほしい……ナタリーが……ほしい……


 私の中ではナタリーを手元に引き抜く算段をするが、さすがに家同士の政略結婚に割って入るのは難しいと、ため息をついた。



◆◇◆◇◆



 自宅に帰ると、母が医者を手配してくれていたようで、自室で診断してもらう。
 応急処置がよかったということで、軟膏を塗りなおしてもらい、しばらく服を着ないで熱をとることになった。


 我が家のベッドは快適だ。

 家ではさすがに公爵令嬢を投げ飛ばした私に何かしらの処分があるようだと思っていたので、家族会議が行われたが、その夜は、それどころではなかった。

 王家より侍医が夜遅くに我が家にやってきて、やけどに効く飲み薬や軟膏などたくさんの支援があった。

 サンストーン家よりこれまた、美肌にいい食べ物や飲み物、やけどにきくとされている薬が大量に送られてきた。


 これは、家族が思いもよらなかったことで、驚いたものだ。


 さらに、翌日、驚く出来事があった。
 公爵令嬢を投げ飛ばした私に処分が下るのではなく、私に紅茶を投げてきたイリアに処分が下ったのだ。

 これは、王家とサンストーン家による抗議によるものだそうで正直、驚いた。

 そして、イリアの両親も事の重大さを知ることになり、我が家へ見舞にきたそうだ。
 こんな状態なので、私は対応できるはずもなく、両親が対応してくれた。


 私は、今日もエリザベスにより背中を軟膏やらなんやらで冷やしているところだった。


 気遣いくれる友人のおかげで、私の背中のやけどは2週間程ですっかり綺麗に直りそうである。
 ただ、無理をするなとは、みんなに釘を刺されている。
 無理って……どんなことだろうと、時間を持て余す私は、ずっと考えていた。


 心配をかけた皆にあやまらないといけないな……と思いベッドに転がる。

 そう言えば、ウィルとのデートの約束もすっかり忘れていた……

 早々に日にちを決めないといけないなと思いながら、最近の自堕落な生活を送っていたせいか、また、眠ってしまったのである。
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