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デートのお誘い

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「ウィル、そこにいるかしら!?」


 立ち上がっても人だかりになっていているのかどうかさっぱりわからない。
 かき分けて出ていくのも辛いので、ウィルを呼ぶことにした。
 呼ばれたウィルは、ごめんねごめんよーなんて軽い感じで、輪の中に割り込んで私のところまで入ってきてくれた。


「姫さん、呼んだか?」
「呼んだ!今度の休み何してる?」
「別になんも。あっ!そろそろ糖分きれてきた感じ?」
「失礼ね!糖分は、十分足りてます!」
「なんだ。じゃあ、何?デートのお誘いかしら?」


 いつものようにウィルは私を茶化してくる。
 周りは、ウィルが茶化してデートなんて言ったもんだから、私の返事を聞こうとじっと待っている。
 ウィルのアイスブルーの瞳を見つめながら、行き先を考えている私。


「そぅ、デートのお誘い!私のお誘い受けてくれる?」


 ちょっと可愛らしく小首傾げて頬に手を当てる。
 ウィルからすれば、そんな仕草はなくていいんだけど、周りにいる人たちに向けてのサービスだ。
 私も悪ふざけしたい気分だから、仕方ない。


「あぁ、もちろん! 姫さんからのお誘いなんて断るわけないだろ?」


 ウィルは、チラッとハリーを見て大仰に言っている。
 こちらも悪ふざけしたいのだろう。
 ハリーなら、少々の悪ふざけは許してくれる。
 だから、ハリーは、何も言わなかった。
 デートと言っても、どうせ、模擬剣もって訓練場に行くのだろうくらいに思っていることだろう。


 が、その隣にいた殿下が椅子を倒す勢いで立ち上がり、ウィルを睨む。


「な……何を言っている!アンナ、デートなんてダメだ!ダメに決まっている!」


 私とウィルの話に慌てて割り込んできた殿下。
 絶賛悪ふざけしている最中なので、割り込んできたら、餌食になるのがわからないのだろうか?
 ハリーは、そういうこともわかっていただろう。


「何故ダメなのですか? 休日は完全にプライベート。どこで何をしていてもいいと思いますが?
 それとも、私とウィルの逢瀬を無粋にも殿下は邪魔をするつもりですか?」
「ダメなものはダメだ。
 そ……そうだ!二人で行かずともみなで行けばいいではないか。この前のように、なぁ?」


 周りにいる子たちに同意を求める。
 そこそこ殿下の意見は支持を集めたようだ。


「いいですよ?ついてきても。ついてこれたらって話ですけど……」


 さすがに殿下は次の言葉が出てこない様子だった。
 私は、最近鬱々していることもあって、この悪ふざけを堪能している。
 自分でも口角が上がって、意地の悪い顔をしていることが鏡を見なくてもわかる。


「アンナ、あんまり殿下をいじってやるな!」


 ハリーがヒートアップしていく教室をなだめるかのように私を嗜める。
 私の気の抜けた、はぁーいとハリーに答え、周りも少し落ち着いたようだ。
 それでも、私は、デートに行く約束は取り付けておきたいので話は続けることにした。


「で、ウィル、行き先なんだけど……
 私、行先を考えておくから朝早くに実家にきてくれる?お忍び用の服着てきてね!」
「あぁ、わかった。楽しみしてるよ。じゃ、用済んだから行くよ?」


 輪の中から、ひょいひょいとウィルは出ていった。


 私は、一気に上機嫌だ。
 反対に殿下は不機嫌極まりない。


「殿下は、なんでそんなに機嫌が悪いの?」


 火に油を注いでいく私。それも大量の油を注いでいこうとする。
 今の私、ものすごく機嫌がいいから、そんな子どもっぽいことを平気でしてしまう。
 ハリーはそんな私に頭を抱えている。
 ごめんね、ハリー。
 私、やりたいことがあるのよ。


「アンナ……ウィルのどこがいいのだ……銀髪の君もどこがよかったのだ……わたーー」


 それ以上、殿下に何かを言われたくない。
 人差し指で、殿下の口を塞ぐ。


「ウィルですか?ウィルは、私の友達ですよ?所謂、悪友です。
 ジョージア様は、誰よりも早く卒業式のパートナーにと申出があったのでお受けしました。
 兄の友人ですしね、公爵家なので、蔑ろにはできません。ただ、それだけですよ!
 まだ、ご不満ですか?」


 塞いでいた指をとると、殿下は、おとなしく何も言わなかった。


「殿下、もし、早くにパートナーの申込していただけたなら、私は、殿下のパートナーとして
 もちろん参加しましたよ?殿下は確か、申し込みいただいたのって卒業式の前日でしたよね?
 ジョージア様は、新学期が始まった時点で打診されました。
 自分の噂も含めて親とよく話すようにと。そういう、気配りまでしてくれて。
 そういうちょっとした気配りが必要なのです。私もできているとは、決して思いません。
 でも、相手のことを思い一歩引いた思いやりは持ちたいと思っていますよ」


 私は、どの口が言うのかと自分に言ってやりたいが、殿下にもちゃんと社交界のあれこれとか
 闇の部分とかをしっかり覚えてもらわないといけないわけだ。
 命令したら、なんでも思い通りなるなんて思ってほしくはない。
 そんな人が、君臨する国に誰が住みたいと思うのかって話である。

 そうすると周りにいた人が、興味本位で付きまとっていたのであろう少し減った気がする。


「ハリーは、何故止めなかったのだ?」
「殿下は、何故とめたかったのですか?ウィルは、アンナの遊び相手ですよ。
 仮に婚約って話なったとしても、アンナにはサシャがいますからね。
 後継にはなれないのとウィルも嫡男ではないので、結婚となるとかなり難しいと思いますよ?」
「さすがね。私とウィルなら、爵位的に駆け落ちするしかないのよね。
 ふふふ。近衛に入れるようだから、一代限りの爵位はつくからウィルが近衛団長になったあかつき
 には堂々と結婚できるよ!」
「姫さんなら、俺、願い下げっすわ……」


 聞いていたのか、ウィルの声がどこからともなく聞こえてくる。


「どういうことよ!私、これでも侯爵家の人間なんですけど!!」
「じゃじゃ馬は、ちょっと……おしとやかな可愛らしい人がいいかなぁ?」


 ずばり、言われる。
 確かに私なら、エリザベスのような可愛らしい人がいい。
 母のような華のありずぎる奥さんは、誰かに取られるのではないかと気が気でなくなる。
 私のようなのは、確かに嫌だな。

 でも、女主人として切り盛りしていくなら、大人しい人では成り立たないのだ。


「夢、持ちすぎじゃない?後継ぎでないウィルならそれもありかもしれないね。
 後継ぎの嫁は、多少難ありとかしっかりしたかわいらしげのない人じゃないと務まらないわよ?」
「それは、わかる気がする。
 うちの母親もめちゃくちゃしっかりしてるわ。やっぱ、違うんだな……」


 納得されたが、後継ぎの嫁となるとそういうことだ。
 大人しい女性ならいいわけではない。
 下手したら第二夫人や城下で愛人を囲われることもあるのだ……それに対抗できる術も磨かないといけない。

 まだまだ、この世の中は男性優位なのだから……生きるために強かでないと女性は生きていけないのだ。

 いざとなったら、私は、なんとでもなるのだけど……ね。
 ウィルと一緒で、剣で食べていくことだってできるのだから。



◆◇◆◇◆



 教室で、ウィルへのデートのお誘いが完了したことだし、周りに人も減り、授業も終わったので帰る準備をして寮へと向かうことにした。


「ハリーは、今度うちの領地を見に来るってお父様から聞いているけど、いつくるの?」
「あぁ、おじ様から聞いていたんだね。
 こちらも、いろいろとあるからね、1ヶ月後の休日にしようと思っているよ!」


 ハリーは、うちの学都が気になっているようで、見学に行きたいと父に話したそうだ。
 喜んでと許可がでたらしいが、今、ハリーは殿下の今後のことで手いっぱいらしい。
 学生ではあるが、ハリーはすでに殿下の事務官として働いていたりする。
 頭がいいからこそ、両方していても、学業にしわ寄せがいくわけでも、殿下のあれこれにしわ寄せがいくわけでもない。
 兄も秘書となったことで負担は減ったらしいので、もう少し兄が秘書として慣れた頃にと思っているとこのことだった。


「領地のお屋敷でお茶会を開こうと思っているの。あっ!殿下には内緒ね!」
「それって、秘密のお茶会かい?」


 そう、秘密のお茶会だ。
 ハリーもそろそろ気づいているようだったので、誘ってみることにしたのだ。


「そう。参加してくれるかな?と思って。結構前から気づいていたんでしょ?」
「そんなに前ではないよ。きっかけはウィルかな。
 やたら親しいし、姫さんなんてたまに呼ばれているだろ?だから、何かあるのかな?くらい」
「そっか。ウィルから洩れたのね。秘密と言っても、別に口外しないでとはなってないの。
 自分が気に入っている人を集めてお茶会しているだけだから……
 メンバーからは紹介もされることもあって、今30人くらいきているわ!」
「へぇーすごいな。結構な規模だと思うよ?その中に加えてくれるわけ?」


 コクンと頷くと、ハリーはちょっと嬉しそうだ。


「父から許可が取れたら、また招待状を送るわ!それまで待っていて!」


 わかったと返事をくれる。
 女子寮まで送ってくれたハリーに感謝を述べて自室へと帰ってきた。


 今日は、兄が帰り際に寄ってくれると言っていたので、それまでに手紙を書くことにする。
 宛先は、父と祖父宛だ。
 父には、秘密のお茶会の主要メンバーを領地の屋敷へ招待したいこととウィルとニナの実家へ行く許可をもらう内容だ。
 祖父には、ウィルを祖父の領地の練習に参加させてくれないかお願いの内容である。


「やぁ、アンナ!今日も何か大変だったようだね……」


 そんなことを言いながら、ノックもなしにのんきそうに中に入ってくるのは兄だった。


「お兄様、何か聞いたのですか?今日は特に何も起こってませんよ?」
「そうか、それならいいんだけど……エリザベスの待つ屋敷に早く帰るよ!」


 踵をかえそうとしたので、とりあえず止める。


「お兄様、これ、お父様とおじい様に渡してくださらない?至急」
「至急!?それは……」


 兄は、ごにょごにょ言い始めた。
 城に寄らないと祖父には会えないのである。直帰しようとしていたのが、まるわかりだ。


「誰のおかげで、屋敷にエリザベスがいるのですかねぇ?」


 言った瞬間、私の手にあった2通の手紙は、あっという間に消える。
 そのまま、他に何か言伝を言われたらたまらないと、そそくさと兄は部屋を出て行った。

 許可が下りた内容の手紙が手元に届いたのは翌日であった。
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