上 下
30 / 1,480

ティアのデザイン画

しおりを挟む
 店の奥からひょっこり顔を出している子がいる。
 私のよく見知った子だった。



「アンナリーゼ様!! ようこそ、ぼろ屋へ!」



 そんなことを言って笑っているのは、私の宝飾品のデザイナーをしたいとずっと熱望していたティアだった。



「ティア! あなたのご実家だったのね!知らなかったのだけど、たまたま寄らせてもらったの!」
「そうなのですか? 
 あっ! じゃあ、せっかく来ていただいたので、できれば、私のデザインしたものも是非
 見ていってくれますか?」
「もちろんよ!」



 この国を出る前には、何か頼もうと思っていたので、早速見せてもらうことにする。


 ティアが奥からうきうきとデザイン帳を持ってくる。
 見せてもらうと、どれも素敵なデザインで、まだ見たことがないようなデザインが描かれている。
 それをめくりながら、1枚1枚丁寧に説明をしてくれるティアは、とても嬉しそうだ。



「ティア、アイデアがあるのだけど、デザインって書いてもらえるかしら?」



 そう尋ねると、もちろん!!と答えてくれる。
 兄がまだ頭を抱えてみていたので一言声をかけて、ティアにデザイン画の草案を伝え描いてもらう。



「それで、どんな感じのがいいのですか?」



 友人となってからは少しくだけた話方も許してあるので、ティアは敬語交じりの変な話方だった。



「そうね……
 まず、ピアスがいいのだけど、右側は、大き目の真珠に蝶がとまっているデザインがいいわ。
 そして、そこからチェーンでつないで水色の滴。左側はダイヤでユリはできるかしら?
 そこから、チェーンを垂らして真ん中に少し小さめの真珠をはさんで一番下のところに同じような蝶。
 左右違うデザインにしてほしいの!」



 私のアイデアをふむふむと聞きながら、さらさらと絵におこしていく。
 真剣そのもののティアに私のイメージしていることを伝えると即座に修正してくれた。
 デザインを見る限りは、とてもいいように思うがこれは、きちんと作り上げることができるのか尋ねるとそこらへんも考えてデザインしてくれたようで大丈夫だとティアは言ってくれる。


 気をよくした私は、さらにイメージを伝えてネックレスを描いてもらう。
 それも真珠を基本にして、蝶とユリのモチーフを入れる。
 ユリにとまった蝶というような形になった。


 さらに、ブレスレットも作る。
 真珠を基本としてしまうと太くなってしまう。
 エリザベスの腕にはめるので華奢な感じにしたかったため、金のチェーンに中くらいの真珠を8つはめ、その間に蝶を2つとユリを入れ、チェーンの間は動くようにしてもらった。



 1時間ほど、二人で頭をくっつけてデザインを考えていたようだ。
 兄は、お店の応接セットで飲み物を飲みながらくつろいでいる。



 そんな姿を見ると誰のために来たのか、はっきりさせたいところだ。



「アンナ、やっと終わったかい? ここには、気に入るものがなかったよ……」



 残念そうにしている兄に向って、たった今、ティアと一緒にデザインしたばかりのデザイン画を見せた。
 兄は、そのデザイン画をめんどくさそうに手に取ったが、見た瞬間、言葉を失ったかのようにじっくり見つめていた。



「あの……サシャ様。いかがでしょうか? 」



 恐る恐る兄にティアが声をかけると、驚いた顔をそのままこちらに向けてくる。



「これは、あなたが描いたのか?」



 兄が急にティアの手を取ったため、ディアはコクコクと頷きながら怯えているいる。
 


「やっと……やっとみつけた!! このデザインで作ってほしい!!」


 デザイン画を見て、目に涙をためる兄。
 握られた手をそのままに、こちらへとティアは助けてくださいと私に視線を送ってくる。



「お兄様、ティアのデザインは素晴らしいでしょ?
 私もエリザベスにはとても似合うと思ってみていましたの。
 これで決まりですね! 」
「あぁ、こんな素晴らしいデザイン見たことがない!
 あとは、このデザインのとおり完成品もお願いしたいが、それはここでお願いしたらいいのかい?」



 まだ手を握られているティアは、そろそろ離してほしそうにしているので、兄に声をかける。
 感動しすぎてなかなかティアの手を離さない兄に呆れる。



「お兄様、そろそろティアの手を離してください。
 ずっと手を握られていたら、ティアも迷惑ですよ!
 それに、エリザベスに見られたら大変ですよ?」



 からかい半分で声をかけると、すまなかったとやっとティアの手を離していた。



「こちらのデザインなら、うちの工房で仕上げることは可能ですよ。
 腕のいい職人もいますので、あとは、最高級の材料を集めさせていただき、最高の品物を
 納品させていただきます」



 後ろから声をかけられ、振り向くとそこには、店主でティアの父がたたずんでいた。
 私たちのやり取りをずっと見ていたのであろう。



「侯爵子息様の婚約のお品となるならば、これは張り切って作らないと!」



 そういうことに疎いティアは驚いていたが、私たちはそのつもりで来ていたのでティアの父の言葉に驚きはしていないが、なかなか鋭い情報網と観察眼だ。



「えぇ、お願いしますね!
 兄の婚約者となる人のものですが、その方は私の大切な友人でもあるのです。
 もちろん、ティアもですよ!」



 ニッコリとティアの方を向いて笑うと、嬉しそうだ。



「アンナリーゼ様には、いつもよくしていただいていると聞いています。
 今回は、勉強させていただきます」



 商人らしく、利益もきちんと計算されているが、今後の取引も含めてと言われているのがわかる。
 そこにはあえて何も言わずにいようと思う。
 兄は、社交が少し上手になったくらいなので、黙っていることにしたのだろう。
 私の後ろで、大人しくしてくれている。



「そう、ありがとう。
 私もアイデアはださせてもらったので、その辺もよろしくね?」



 悪い笑みを浮かべれば、ティアの父も悪い笑みで応えてくれる。



「それじゃあ、デザインも決まったことだから、前金が必要ね。
 お兄様、持ってらっしゃる?」



 そこで兄に話を振るとコクンとうなずいている。
 手付として1000万用意していたようで、かばんが重そうだ。
 その内の半分を店主に手渡す。



「では、これで。残りは完成して、こちらに届けてもらったらでいいかしら?」



 もちろんですとティアの父は言ってくれるので、それに甘んじておく。
 とにもかくにも、兄が気に入るデザインができてよかった。
 物はないが、ティアのことだ、すぐに完成させてくれるだろう。



 その後、もう少しティアのデザイン帳が見たいと私が言ったので、見せてもらうことになった。
 兄は、もう決まったので、大人しく店主と世間話をし始める。



 デザイン帳の中に少し古い紙に描かれた真紅のルビーの薔薇のチェーンピアスが目に入った。
 2つがチェーンピアスで、1つ別にモチーフで3つがセットになったものだ。
 とても、綺麗で心惹かれるものだった。



「あっ!アンナリーゼ様、それ目につきましたか?」
「えぇ、このデザインとても素敵ね。
 これは、ティアのデザインとは少し違うようだけど……」
「そこまで、わかるのですか? 
 これは、私の母がデザインしたものです。
 師匠だったので、参考にいつも持っているのですよ」
「そうなのね……これは商品化されてる?」
「完成はしています。
 ただ、これは、母の技術でしかできないものなので、まだ売るつもりはありません。
 いつか、この薔薇が持ち主を選んでくれるまで寝かせておこうと思っているのです!」
「そう。残念だわ……」



 私はそれ以上は食い下がらず、ティアのデザインの中で気に入った髪飾りを一つ注文しておく。
 お礼として、兄に買ってもらおうと思う。
 それぞれの出来上がりを楽しみに兄と私はティアの実家の宝飾店を後にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

悲恋を気取った侯爵夫人の末路

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。 順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。 悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──? カクヨムにも公開してます。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...