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華は華と噂の的
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控室の扉が開いたとき、私は大きな声を出し、ハリーを見つめていたので、控室にいる今日の主役たちから見られていることに気づかなかった。
視線に気づいたときは、顔を真っ赤にして、穴があったら入りたいと小さくなるところだった。そこは、パートナーがよかったのだろう。
「ほら、アンナ、しっかり前を見て。戦場に来たんだ。おば様のように凛と。戦場に咲く一輪の薔薇のように!」
ハリーが耳元で囁くので、さらに赤面したが、その声に呼応して決して下は向かない。これからの社交界での地位は、限りなく高いところに置いておくべきだと顔を上げる。社交界に出れば、母にも負けてはいられない。
母の教育の中では、社交界に出れば情報こそが武器だと、口酸っぱく言われてきた。正確な情報、新しい情報をつかむことで、それを生かし、生活に仕事にと取り入れていくことで、常に優位にいられると。
旦那様の仕事に優位になるような情報も、社交界では十分存在することも叩き込まれた。
貴族奥様は、噂好き。
旦那からの少ない情報と社交界の噂をつなぎ合わせて情報整理することも戦術であると教えられた。
まさに、ハリーのいうことも決して嘘ではないと身をもって感じている。
挨拶の順番は、下位の者から上位の者へするのが習わしだ。うちの爵位は、本日集まった中では5番目。
ただし、パートナーが上から2番目で、ハリーより上位が王子だけとなり、公爵令嬢とパートナーとなるうえ、控室には現れないので、ここではハリーが最上位である。
そのため、挨拶は下位のものから、される側であった。
「ヘンリー様、アンナリーゼ様、ご挨拶させてください。今宵のよき日に社交界へのデビューおめでとうございます。お二人とも素敵なご衣裳でございますね!」
「ありがとう。今日は、僕たちの社交界での一歩。お互い、よき貴族となれるよう切磋琢磨いたしましょう!」
今日の挨拶は、基本的にハリーに任せておいて、私は隣でほほ笑んでいるだけでいいらしい。あまり話さないようにと、母にも釘を刺されている。
……どういうことなのだろう?
何人もの挨拶をそれから受けた。
「一通り挨拶は、終わったようだね。さすがにこの時点で疲れたよ……」
ハリーは、ずっと対応していたので、緊張も手伝って、少し疲れているようだ。私は、ハリーの隣で、ただほほ笑んでいただけなので、挨拶に来た人物をしっかり人間観察していた。
デビュタントのパートナーは、おじ、おばや兄弟と来ることが多い。大人に値踏みされ続けると、精神的に削られたのだろう。私も精神的には、少し疲れたように感じる。
「飲み物でも、取ってきましょうか? 少し喉を潤すだけでも、いいかもしれませんよ」
私は、余所行き全開で、ハリーを立てる優しいお嬢様を演じているところである。今日は、この役で乗り切るつもりだった。このお嬢様は、付け焼き刃では決してない。
お茶会では、この仕様で参加しているので苦ではないし、私が私のできる部分を前面に押し出しているだけなので、変なところもないはずだ。
ただし、いつもハチャメチャな私を知っているハリーは、そんな私に少し苦笑いしている。
「それじゃあ、頼もうかな? 少し喉を潤したいので、ジンジャーエールがあればお願いしてもいいだろうか?」
「わかりました。取ってまいりますので、こちらで……」
そういって、飲み物が置いてあるところまで一人で行く。たくさんの飲み物が置いてあり、大人もいるのでアルコールもありそうだった。頼まれていたジンジャーエールはすぐに見つけた。
さすがにこれからデビューするのに、ハリーにアルコールを渡しては大変だと思い、一口試し飲みしてみる。間違いなくノンアルコールであることを確認して、ハリーのところへ戻ろうとした。
うん。これは、まずいな。
振り返るとご令嬢たちのパートナーが、あれよあれよと寄ってきていたのだ。
「アンナリーゼ様、先ほどはお話できませんでしたので……」と、軽く数名の男性に囲まれた。
さすがに飲み物も持っているし、ちょっと怖いし、これから! デビューするのに乱れているわけにもいかない。姿勢をきちんと正して、目に力を籠める。
「先に謝らせていただきます。申し訳ございません。これから社交界にデビューするもので、礼儀作法もそれほど備えておりませんの。パートナーが待っていますので、そこ、どいてくださいます?」
目力に押されたのか、小娘ごときの圧力に負けたのか、蜘蛛の子を散らすように集まった男性たちは退散していった。
そして、去ったあとのその奥で、きょとんとハリーが立っていた。私の様子をみたら、複数の男性に囲まれていたので、助けようとしてたらしい。
「助けは必要なかったようだね。さすが、『僕のお姫様』だ」
一応助けには来てくれようとしてはいたが、間に合わなかったよなんて笑われると……脇腹を小突いてやりたい。
その前に手に持ったジンジャーエールを渡す。
「はい、ご所望のものですよー未来の旦那様」
「ありがとう。目が笑ってないよ?」
そんな突っ込み入りませんけど! と、思っていても、とりあえず口には出さないでおく。
「わかったかい? 君と話をしたい、仲良くなりたい男なんて山ほどいるんだ。くれぐれも、変な男に引っかかるなよ?」
「りょーかい。身をもってわかった気がする。今日はハリーがいいというとき以外は、絶対離れないわ……」
そんな話を笑顔で話していると、下位の者から広間へと呼ばれ始めた。
「サンストーン公爵子息ヘンリー様、フレイゼン侯爵令嬢アンナリーゼ様、広間へご案内します」
案内され、大広間の前まで来ると、お互いに目を合わせる。頑張ろうね!と言っているようで、任せておけ!と頼りがいありそうなハリーの目が嬉しい。
「ハリー! アンナ! 」
急に声をかけられ、驚いて声の方へと振り向くと、殿下がイリア嬢と一緒にこちらに歩いてくるところだ。
殿下は、シルバー系の色に青を少し入れた正装をしている。紺色の髪と同色で、とっても似合っている。
一方、イリア嬢は、目立つことを一番に考えられているのか、真っ赤なドレスに大きな華のコサージュをつけて、ゴテゴテとしたケバケバしいドレスであった。
「殿下、ご挨拶させていただきます。このよき日に社交界デビューおめでとうございます。私たちも同じ日にデビューできることを嬉しくそして誇らしく思います」
ハリーの挨拶が終わり、私の番だった。
「殿下、ご挨拶させていただきます。このよき日に社交界デビューおめでとうございます。私も殿下と同じ日にデビューできること、まことに嬉しく誇らしく思います。
イリア様も素敵な衣装ですね。大広間で大輪の花が咲くようです! 」
殿下には定型の挨拶をし、とりあえず、イリアは無難にほめておく。
ほめることは、社交の第一歩。どんなことを言っても、口は減らないのだ。
「ありがとう、アンナリーゼ様。あなたのそのドレスも素敵よ。きっと、壁にとっても映えるでしょうね!」
むっかぁ!! としたけど、ニッコリ笑っておく。目は笑っていないので、向かい合わせになっている殿下が若干おどおどしている。腕に力を入れたのでハリーも気づいているようだ。
「そうですね。私のような貧相な娘では、壁の華も、もったいないでしょう。あっ! ヘンリー様、呼ばれていますわ!」
「アンナ……まっ……」
殿下に呼ばれたので、振り返る。そして、深々と淑女の礼をとった。
完璧な角度とタイミング、そして微笑みは母仕込み。そこにいた殿下を含め、ハリーとイリア、殿下の後ろで控えていた従者たちは息をのんでいた。
「では、先にデビューの挨拶をさせていただきます。御前、失礼いたします」
いつもの私を知っている殿下とハリーは、かなり驚いていた。
私だってやればできる子なんだぞ! と印象付けるには十分であった。
視線に気づいたときは、顔を真っ赤にして、穴があったら入りたいと小さくなるところだった。そこは、パートナーがよかったのだろう。
「ほら、アンナ、しっかり前を見て。戦場に来たんだ。おば様のように凛と。戦場に咲く一輪の薔薇のように!」
ハリーが耳元で囁くので、さらに赤面したが、その声に呼応して決して下は向かない。これからの社交界での地位は、限りなく高いところに置いておくべきだと顔を上げる。社交界に出れば、母にも負けてはいられない。
母の教育の中では、社交界に出れば情報こそが武器だと、口酸っぱく言われてきた。正確な情報、新しい情報をつかむことで、それを生かし、生活に仕事にと取り入れていくことで、常に優位にいられると。
旦那様の仕事に優位になるような情報も、社交界では十分存在することも叩き込まれた。
貴族奥様は、噂好き。
旦那からの少ない情報と社交界の噂をつなぎ合わせて情報整理することも戦術であると教えられた。
まさに、ハリーのいうことも決して嘘ではないと身をもって感じている。
挨拶の順番は、下位の者から上位の者へするのが習わしだ。うちの爵位は、本日集まった中では5番目。
ただし、パートナーが上から2番目で、ハリーより上位が王子だけとなり、公爵令嬢とパートナーとなるうえ、控室には現れないので、ここではハリーが最上位である。
そのため、挨拶は下位のものから、される側であった。
「ヘンリー様、アンナリーゼ様、ご挨拶させてください。今宵のよき日に社交界へのデビューおめでとうございます。お二人とも素敵なご衣裳でございますね!」
「ありがとう。今日は、僕たちの社交界での一歩。お互い、よき貴族となれるよう切磋琢磨いたしましょう!」
今日の挨拶は、基本的にハリーに任せておいて、私は隣でほほ笑んでいるだけでいいらしい。あまり話さないようにと、母にも釘を刺されている。
……どういうことなのだろう?
何人もの挨拶をそれから受けた。
「一通り挨拶は、終わったようだね。さすがにこの時点で疲れたよ……」
ハリーは、ずっと対応していたので、緊張も手伝って、少し疲れているようだ。私は、ハリーの隣で、ただほほ笑んでいただけなので、挨拶に来た人物をしっかり人間観察していた。
デビュタントのパートナーは、おじ、おばや兄弟と来ることが多い。大人に値踏みされ続けると、精神的に削られたのだろう。私も精神的には、少し疲れたように感じる。
「飲み物でも、取ってきましょうか? 少し喉を潤すだけでも、いいかもしれませんよ」
私は、余所行き全開で、ハリーを立てる優しいお嬢様を演じているところである。今日は、この役で乗り切るつもりだった。このお嬢様は、付け焼き刃では決してない。
お茶会では、この仕様で参加しているので苦ではないし、私が私のできる部分を前面に押し出しているだけなので、変なところもないはずだ。
ただし、いつもハチャメチャな私を知っているハリーは、そんな私に少し苦笑いしている。
「それじゃあ、頼もうかな? 少し喉を潤したいので、ジンジャーエールがあればお願いしてもいいだろうか?」
「わかりました。取ってまいりますので、こちらで……」
そういって、飲み物が置いてあるところまで一人で行く。たくさんの飲み物が置いてあり、大人もいるのでアルコールもありそうだった。頼まれていたジンジャーエールはすぐに見つけた。
さすがにこれからデビューするのに、ハリーにアルコールを渡しては大変だと思い、一口試し飲みしてみる。間違いなくノンアルコールであることを確認して、ハリーのところへ戻ろうとした。
うん。これは、まずいな。
振り返るとご令嬢たちのパートナーが、あれよあれよと寄ってきていたのだ。
「アンナリーゼ様、先ほどはお話できませんでしたので……」と、軽く数名の男性に囲まれた。
さすがに飲み物も持っているし、ちょっと怖いし、これから! デビューするのに乱れているわけにもいかない。姿勢をきちんと正して、目に力を籠める。
「先に謝らせていただきます。申し訳ございません。これから社交界にデビューするもので、礼儀作法もそれほど備えておりませんの。パートナーが待っていますので、そこ、どいてくださいます?」
目力に押されたのか、小娘ごときの圧力に負けたのか、蜘蛛の子を散らすように集まった男性たちは退散していった。
そして、去ったあとのその奥で、きょとんとハリーが立っていた。私の様子をみたら、複数の男性に囲まれていたので、助けようとしてたらしい。
「助けは必要なかったようだね。さすが、『僕のお姫様』だ」
一応助けには来てくれようとしてはいたが、間に合わなかったよなんて笑われると……脇腹を小突いてやりたい。
その前に手に持ったジンジャーエールを渡す。
「はい、ご所望のものですよー未来の旦那様」
「ありがとう。目が笑ってないよ?」
そんな突っ込み入りませんけど! と、思っていても、とりあえず口には出さないでおく。
「わかったかい? 君と話をしたい、仲良くなりたい男なんて山ほどいるんだ。くれぐれも、変な男に引っかかるなよ?」
「りょーかい。身をもってわかった気がする。今日はハリーがいいというとき以外は、絶対離れないわ……」
そんな話を笑顔で話していると、下位の者から広間へと呼ばれ始めた。
「サンストーン公爵子息ヘンリー様、フレイゼン侯爵令嬢アンナリーゼ様、広間へご案内します」
案内され、大広間の前まで来ると、お互いに目を合わせる。頑張ろうね!と言っているようで、任せておけ!と頼りがいありそうなハリーの目が嬉しい。
「ハリー! アンナ! 」
急に声をかけられ、驚いて声の方へと振り向くと、殿下がイリア嬢と一緒にこちらに歩いてくるところだ。
殿下は、シルバー系の色に青を少し入れた正装をしている。紺色の髪と同色で、とっても似合っている。
一方、イリア嬢は、目立つことを一番に考えられているのか、真っ赤なドレスに大きな華のコサージュをつけて、ゴテゴテとしたケバケバしいドレスであった。
「殿下、ご挨拶させていただきます。このよき日に社交界デビューおめでとうございます。私たちも同じ日にデビューできることを嬉しくそして誇らしく思います」
ハリーの挨拶が終わり、私の番だった。
「殿下、ご挨拶させていただきます。このよき日に社交界デビューおめでとうございます。私も殿下と同じ日にデビューできること、まことに嬉しく誇らしく思います。
イリア様も素敵な衣装ですね。大広間で大輪の花が咲くようです! 」
殿下には定型の挨拶をし、とりあえず、イリアは無難にほめておく。
ほめることは、社交の第一歩。どんなことを言っても、口は減らないのだ。
「ありがとう、アンナリーゼ様。あなたのそのドレスも素敵よ。きっと、壁にとっても映えるでしょうね!」
むっかぁ!! としたけど、ニッコリ笑っておく。目は笑っていないので、向かい合わせになっている殿下が若干おどおどしている。腕に力を入れたのでハリーも気づいているようだ。
「そうですね。私のような貧相な娘では、壁の華も、もったいないでしょう。あっ! ヘンリー様、呼ばれていますわ!」
「アンナ……まっ……」
殿下に呼ばれたので、振り返る。そして、深々と淑女の礼をとった。
完璧な角度とタイミング、そして微笑みは母仕込み。そこにいた殿下を含め、ハリーとイリア、殿下の後ろで控えていた従者たちは息をのんでいた。
「では、先にデビューの挨拶をさせていただきます。御前、失礼いたします」
いつもの私を知っている殿下とハリーは、かなり驚いていた。
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