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アンコール

第2話 俺らの物語が始まった、本当の意味でのデビュー曲って感じかなぁ?

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「ジスペリの放課後相談室! 今週も始まりました! ジスペリの如月湊です、こんばんは!」
「同じくヒナトです! こんばんはー!」

 元々持っていた夕方のレギュラーラジオをジストペリドの二人で再編されることになった。深夜の方がもちろん聞いてくれる人が多いのだが、金曜の20時という微妙な時間でも多くのリスナーを抱える番組となっている。

「早速だけど、雑談ね?」
「今日は早い展開?」
「うーん、雑談っていうかお知らせ?」
「お知らせって……もしかして?」
「あぁ……ヒナの想像とは少し違うかなぁ?」

 ワクワクした表情をこちらに向けてくる陽翔だが、想像している『プロローグ』リリースとは違う話だ。
 少し表情を厳しくすれば、陽翔も身構えている。

「事務所のホームページにも出てたと思うんだけど……僕らの学校の文化祭のことだよ!」
「あぁ、文化祭。来週だよね!」
「そうそう。こういうのって発信できるときにしておかないといけなくて。あとでSNSにもあげる予定なんだけど、僕たちの学校の文化祭がもうすぐあります!」
「宣伝?」
「違うよ? 厳しい話」
「ま?」

 驚く陽翔に呆れたという表情を作れば「なんだよ、呆れるなって!」と抗議してくる。

「僕らの学校って文化祭の最終日を開校しているんだよね? たぶん、知っているファンの子たちもいると思うんだけど、どうしても僕らに会いに来てくれるファンが一定数いるんだ」
「あぁ、なるほど」
「その気持ちはとても嬉しいんだけど、僕ら以外の一般の生徒もたくさんいるじゃない?」
「確かに、マンモス校だもんね?」
「そう。僕ら芸能コースの生徒は一般生徒やその関係者、来校者が安全に文化祭を楽しんでもらうために学校行事に出ることはないんだ」
「あぁ、なるほど。わかった、いいたいこと! リスナーのみんな! 湊の言ったことわかるかなぁ? 俺らのファンだけじゃなく、俺らの友人たちや関係者、来校者の安全を守るためにきちんとルールを守ってねって話だよ?」
「……合ってるけど、なんていうか……ヒナに言われると」
「何?」
「うぅん、なんでも。僕らは僕らのファンを信じているので、迷惑が掛かるような行動は慎んでいただけると助かります。その代わり? 僕らのSNSをチェックして」
「要チェック!」

 何かするの? とこちらを見てくるので、ニッコリ笑っておく。その日は1日二人ともオフだ。映画を見るって言ったけど、朝から遊びまわることもできるなとぼんやり考えていた。

「じゃあ、厳しいお話はこれくらいにして……続いては、新曲リリースのお知らせしようか?」
「おっ? ようやっとって感じ?」

「何? その言葉」と笑うと、「じゃあ、満を持してってことで」と言い直している。僕ら二人の本当の意味でデビュー曲となるだろうそのタイトルコールを陽翔にしてもらおうと思った。

「僕ら二人でデビューして5ヶ月とか?」
「春だったからねぇ? 俺ら出会ったの。もうすでにすっごい昔見たいで懐かしい」
「あっという間だったね……今、秋だもん」
「確かに。夏からツアーあって、夏休みはワールドで……ばったばたしてたから、季節が飛んでった」
「ツアーっていえばさ、よくドーム公演なんてできたよね? 会場、どうやって抑えてたの? って、未だに疑問。ドームでのライブは平日だったけど、それにしたってってなるじゃん?」
「ドームって大変なの?」
「ドームだけじゃなくて、コンサートホールをいくつも確保するのは大変だよ。みんな同じ時期にツアー入っているしさ」

 裏方を全て知っているわけではないので、その大変さのほとんどを知らずにいるが、急遽やってのける社長は……化け物だろう。そう僕の中でまとめておく。

「僕らって『シラユキ』でデビューしたじゃん?」
「うん、そうだった。ライヴもほとんどが湊のセルフカバーだし」
「悪かったね? セルフカバーで」
「いや、どれもこれもいい曲ばかりだから、ファンだけじゃなく世界中のみんなに聞いてほしい! 聞いてくれ! って、湊ファンの俺としては思ったね」
「ありがと、嬉しいよ」
「湊の顔があかーい! 照れてる照れてる!」

 からかう陽翔を睨みつけ、コホンと咳ばらいをする。笑っていた陽翔も真剣な表情だ。

 ……こういう表情がずるいよな。アイドルとしてだけでなく、男としてもカッコいい。

 ため息をグッと飲み込んだ。手元にある『プロローグ』のジャケットを見せる。頷いた陽翔は、何を考えているのだろうか?

「俺らの本当の意味でのデビュー曲になるよな」
「そうだね。ライヴに来てくれたみんなには先行で聞いてもらったけど……新しくリリースする曲は、僕の友人、三日月満が作詞作曲してくれているんだよ」
「それってさ、ずっと思ってたんだけど……三日月さんからの湊へのお祝い的なもの?」
「そうなのかなぁ? つっきーにはいつも楽曲提供してって冗談で言ってたんだけど、この曲聞くとそうなのかもしれないな。新しい僕を応援してる、これから始まる物語のページを捲ったんだよって……」
「新しい湊なぁ……俺もいること覚えておいてね?」
「もちろんだよ。この曲は、二人のためにつっきーが用意してくれたもの。縁もゆかりもなかったヒナも新しい道に進み始めたってことでしょ?」

「なるほどな」と納得しているが、今まで何回も歌っているはずなのに、まだ、ストンと陽翔に歌詞が落ちていなかったのだろうか。

「俺、三日月さんから湊への応援だと思っていたから、そうか……俺ら二人のって意味があるんだ。俺らの物語が始まった、本当の意味でのデビュー曲って感じかなぁ? あぁ、三日月さん、ヤバイ。やばすぎる!」

 今更な話をしている陽翔を笑いながら、「曲紹介してくれる?」と聞けば、「もちろん」と返ってきた。

「時間的に、今日はこの曲でお別れかな?」
「そうだね。今日も聞いてくれてありがとう! 僕らのツアーラストは、夢の舞台。来てくれるみんなも、当日来れないよっていうみんなにも新しい曲をたくさん聞いてほしいな」
「じゃんじゃん聞いて! じゃあ、最後に……新しい物語の始まりを予感させてくれる曲です。聞いて下さい、俺らのセカンドシングル『プロローグ』」

 マイクを切れば、同時に『プロローグ』が流れる。それを聞きいていると、「お疲れさま」と部屋に労いの言葉が聞こえてきた。

「お疲れさまでした」
「ジスペリの二人はこれで……。二人とも本当に忙しい中、番組出てくれてありがとう」
「いえ、ラジオの仕事、とても楽しいので。どこか、放課後に湊と教室で話しているみたいな雰囲気で」
「いつもそんな感じ?」
「僕らクラスが違うから、学校で会うことも珍しいよね?」

「へぇ」と声を揃えているスタッフに「ヒナは頭がいいから」と笑っておく。スタジオから出れば、今日はもう帰るだけだ。

「陽翔くんはどこに帰る?」

 小園に帰宅先を聞かれているが、陽翔の家は一つしかないはずだ。小園の質問も陽翔が悩んでいるのもおかしな話ではある。

「湊の家に帰ります。明日は休日だし。小園さんもその方が送りやすいでしょ?」
「どちらでもいいけど、湊はそれでいい?」
「決定権なさそうだけど……」
「ダメだった?」
「いいよ。ヒナのお泊りセットなら置いてあるし、服も困らないから」
「ということで、お願いします!」

 陽翔は浮かれ気分で、小園に行先を告げている。僕は小さくため息をついたあと、明日のことを考えた。
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