ビアンカ・レートは、逃げ出したいⅠ ~ 首が飛んだら、聖女になっていました ~

悠月 星花

文字の大きさ
上 下
23 / 55

散策の許可

しおりを挟む
「毎日毎日、飽きもせずに通うわね?」
「あぁ、もぅ、日課だな。向こうで朝と夕が出なくなった」

 そう言いながら、テーブルに置かれた朝食を食べるセプト。
 治験薬のおかげでしばらくは忙しく動き回っていたようだが……どうやら落ち着いたらしい。
 大きなテーブルではないため、おかずの品数が減ったが、それでもじゅうぶんな量の朝食であった。

「残さず食べるようになったんだ?」
「ビアンカに言われてから、料理長とも話し合ったんだ。元々、侍従たちは別に用意されてるんだったら、食べ切れる分だけでいいって。貴族としては、食べ物がテーブルの上に沢山並ぶことが1つの愉悦みたいなところはあるんだけど、どっかの誰かさんがもったいないっていうから?」
「別にいいのよ? セプト1人の食事内容が変わったからって、大した節約でもないだろうし……でも、せっかく作ってくれた食べ物を粗末にするような人が、一次産業を担う人の上に立って、あぁでもないこうでもないとか言ったら、腹が立つでしょ?」

「まぁ、確かに」と苦笑いするセプト。食後のお茶を入れ直してくれたニーアに「ありがとう」と伝え、口にする。

「そういえば、まだ、言ってなかった」
「何のこと?」
「カインのことだ。ありがとう」
「いいのよ。私にできたことが、たまたま、カインやその周りの助けになっただけだから」
「それでも、助かった。他にも同じような兵士に、あの傷薬で試しみたら、同じような効果があった。それで、傷薬は何種類かあるのか? 効果が効きにくいのもあって……」
「ミントの実験ね! 私が作ったもの、ミントが作って私が手を加えたもの、ミントが作ったものの3種類を用意してあるの」
「ミントが作った傷薬?」
「そう。セプトがミントに贈ったナイフにちょっと魔法を流し込んだの!そしたら、効果はハッキリしにくいんだけど、通常作る傷薬よりかは、治りが早くなったのよ。常備薬としてミントがそれを作るようになったの。あとは、ミントが作ってた大量の傷薬に手を加えたものをそこそこの負傷したものに、私が作ったものを死の手前くらい負傷したものに使うことと分類したらしいわね! 他の人が作ったものでは、効果が得られないから、ミントとは特別な縁があるのかしらね?」

「それは?」と話を促されたので、「魔法と人の相性のようなものよ」と答えた。
 全てのものに魔法が効くわけでなく、相性によっては、逆効果の場合もあった。
 幸い、カインもミントも私との相性がいいのか、剣に魔法付加をしたあと、調子がいいと言っている。
「様子は見てね!」とは言ってあるので、何か変なことになったら、声をかけてくれるだろう。ミントなんて、乗り込んでくるに違いない。

「それと、カインが私の専属になったって話があったんだけど、何かの間違い?」
「いや、間違いじゃない。そろそろ、陛下への謁見を予定している。儀式も含めて。それで、カインを伴うなら、外に出られる許可が出たんだ。まぁ、外と言っても中庭くらいなんだけどな」
「それで、私の護衛……あんなにできるのに、私の専属護衛だなんて……もったいないよ!」
「そうは言うな。カインからの申し出だ。その気持ちも含めて、了承してくれ」

 うーんと私は唸ったが、私の意見だけでは覆すことは難しい。
 この前、カインにも話をしたのだが、取り合ってもらえなかったのだ。本人の意志が固いのだとも思うけど、護衛を必要としない私より、セプトを守ったほうがいいのではないかとチラッと見た。

「何か?」
「うぅん、護衛については、また、カインと話し合うことにするわ。必要としないのに、優秀な人を張り付かせておくのは勿体無いもの!」
「はくがつくくらいに思ってればいいんじゃない?」
「そうは言っても……カインはこの国の人々を守る人でいてほしいわ!」
「まぁ、また、魔獣が出たりしたら、借り出されるだろうからさ、ゆっくり、休養も兼ねてということでいいんじゃないか?」
「そう……カインって、剣以外に何かできるのかしら?」
「その辺も本人に聞いたらどうだ? これから、四六時中一緒にいるんだから」

 私は頷くと、セプトは立ち上がり執務へと向かうため、ドアへと歩く。ふと振り返る。

「そういえば……儀式は、明後日だから、準備を頼む。ドレスやらは、今日あたりに届くと思うから!」

 その言葉だけ残して、部屋から出ていった。

「えっ、儀式? ビアンカ様、儀式とは……」
「王子と婚約するのに、身体中を調べられるの。妃に求められるのは、次代を産むことだけど……私にそれは、求めないでしょ? 何百年も前の人間なんだし……せいぜい、お飾りの妃だと思っているんだけど……」
「殿下の婚約については、ビアンカ様以外いらっしゃりませんよ?」
「えっ? 公爵家あたりが、率先してお膳立てするんじゃないの?」
「そうなのですが、あぁ見えて、殿下は器用じゃ無いとかで、余程のことがない限り、一人と決めていらっしゃると伺ったことがあります」
「あんなに遊び回ってそうなのに?」
「実際には……少々、遊び回って……」
「じゃないと、あれはないわよね……」
「……あれですか?」

 私とニーア以外いない部屋でも、口にするのは憚れたので手招きして耳元で囁いた。
 私が起きたとき、どういう状態であったかを。

「殿下っ! 最低ですね! 次、来たら部屋へは入れさせません!」

 私の代わりに怒っているニーアに、クスっと笑ってしまった。
 そんなふうに言ってくれるのは、少しだけ距離が近くなった……そう思ってもいいのだろうか? セプトのことより、そちらの方が嬉しい。

「そう、怒らないで。過ぎたことだし……特に被害はないから」
「それでも、未婚の女性にベタベタと触るだけでも腹立たしいのに、き……キスマークだなんて!」

 顔を真っ赤にしたニーアが可愛らしい。
 侍女教育の中には、主人の情事について勉強させられるはずだった。仮にもセプトは王位継承権のある王子なのだから、何事かあってはいけない。
 何事かあった場合は、その場にいた女性の方が処罰の対象となると聞いているだろう。
 私は眠っていたから、何かするのは、セプトの方なのだが、それにしたって、何故セプトだけが触れることができたのか、未だにわかっていない。

「失礼します!」

 扉をノックして入ってきたのはカインだった。
「少し、外を歩きませんか?」というお誘いのようだ。

「カインが、案内してくれるの?」
「ご要望とあらば……」
「えぇ、お願いするわ! 私、この鳥籠から出たことがないから!」
「わかりました。僭越ながら、私が案内いたします。この城で、是非見ていただきたい場所がありますから!」
「楽しみね! では、着替えるので、少しの間、外で待機してもらえるかしら? 終われば、呼ぶわ! そこの椅子、持って行ってもいいわよ!」

 そういうと、「では……」と、持って外へと向かうカイン。
 ニーアにお願いをして、初めてドレスらしいドレスを身に纏う。

 春のような温かみのある、薄い桃色の服を着れば、いつもより、可愛らしいお嬢さんになった気分だった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】どうやら時戻りをしました。

まるねこ
恋愛
ウルダード伯爵家は借金地獄に陥り、借金返済のため泣く泣く嫁いだ先は王家の闇を担う家。 辛い日々に耐えきれずモアは自らの命を断つ。 時戻りをした彼女は同じ轍を踏まないと心に誓う。 ※前半激重です。ご注意下さい Copyright©︎2023-まるねこ

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...