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散策の許可

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「毎日毎日、飽きもせずに通うわね?」
「あぁ、もぅ、日課だな。向こうで朝と夕が出なくなった」

 そう言いながら、テーブルに置かれた朝食を食べるセプト。
 治験薬のおかげでしばらくは忙しく動き回っていたようだが……どうやら落ち着いたらしい。
 大きなテーブルではないため、おかずの品数が減ったが、それでもじゅうぶんな量の朝食であった。

「残さず食べるようになったんだ?」
「ビアンカに言われてから、料理長とも話し合ったんだ。元々、侍従たちは別に用意されてるんだったら、食べ切れる分だけでいいって。貴族としては、食べ物がテーブルの上に沢山並ぶことが1つの愉悦みたいなところはあるんだけど、どっかの誰かさんがもったいないっていうから?」
「別にいいのよ? セプト1人の食事内容が変わったからって、大した節約でもないだろうし……でも、せっかく作ってくれた食べ物を粗末にするような人が、一次産業を担う人の上に立って、あぁでもないこうでもないとか言ったら、腹が立つでしょ?」

「まぁ、確かに」と苦笑いするセプト。食後のお茶を入れ直してくれたニーアに「ありがとう」と伝え、口にする。

「そういえば、まだ、言ってなかった」
「何のこと?」
「カインのことだ。ありがとう」
「いいのよ。私にできたことが、たまたま、カインやその周りの助けになっただけだから」
「それでも、助かった。他にも同じような兵士に、あの傷薬で試しみたら、同じような効果があった。それで、傷薬は何種類かあるのか? 効果が効きにくいのもあって……」
「ミントの実験ね! 私が作ったもの、ミントが作って私が手を加えたもの、ミントが作ったものの3種類を用意してあるの」
「ミントが作った傷薬?」
「そう。セプトがミントに贈ったナイフにちょっと魔法を流し込んだの!そしたら、効果はハッキリしにくいんだけど、通常作る傷薬よりかは、治りが早くなったのよ。常備薬としてミントがそれを作るようになったの。あとは、ミントが作ってた大量の傷薬に手を加えたものをそこそこの負傷したものに、私が作ったものを死の手前くらい負傷したものに使うことと分類したらしいわね! 他の人が作ったものでは、効果が得られないから、ミントとは特別な縁があるのかしらね?」

「それは?」と話を促されたので、「魔法と人の相性のようなものよ」と答えた。
 全てのものに魔法が効くわけでなく、相性によっては、逆効果の場合もあった。
 幸い、カインもミントも私との相性がいいのか、剣に魔法付加をしたあと、調子がいいと言っている。
「様子は見てね!」とは言ってあるので、何か変なことになったら、声をかけてくれるだろう。ミントなんて、乗り込んでくるに違いない。

「それと、カインが私の専属になったって話があったんだけど、何かの間違い?」
「いや、間違いじゃない。そろそろ、陛下への謁見を予定している。儀式も含めて。それで、カインを伴うなら、外に出られる許可が出たんだ。まぁ、外と言っても中庭くらいなんだけどな」
「それで、私の護衛……あんなにできるのに、私の専属護衛だなんて……もったいないよ!」
「そうは言うな。カインからの申し出だ。その気持ちも含めて、了承してくれ」

 うーんと私は唸ったが、私の意見だけでは覆すことは難しい。
 この前、カインにも話をしたのだが、取り合ってもらえなかったのだ。本人の意志が固いのだとも思うけど、護衛を必要としない私より、セプトを守ったほうがいいのではないかとチラッと見た。

「何か?」
「うぅん、護衛については、また、カインと話し合うことにするわ。必要としないのに、優秀な人を張り付かせておくのは勿体無いもの!」
「はくがつくくらいに思ってればいいんじゃない?」
「そうは言っても……カインはこの国の人々を守る人でいてほしいわ!」
「まぁ、また、魔獣が出たりしたら、借り出されるだろうからさ、ゆっくり、休養も兼ねてということでいいんじゃないか?」
「そう……カインって、剣以外に何かできるのかしら?」
「その辺も本人に聞いたらどうだ? これから、四六時中一緒にいるんだから」

 私は頷くと、セプトは立ち上がり執務へと向かうため、ドアへと歩く。ふと振り返る。

「そういえば……儀式は、明後日だから、準備を頼む。ドレスやらは、今日あたりに届くと思うから!」

 その言葉だけ残して、部屋から出ていった。

「えっ、儀式? ビアンカ様、儀式とは……」
「王子と婚約するのに、身体中を調べられるの。妃に求められるのは、次代を産むことだけど……私にそれは、求めないでしょ? 何百年も前の人間なんだし……せいぜい、お飾りの妃だと思っているんだけど……」
「殿下の婚約については、ビアンカ様以外いらっしゃりませんよ?」
「えっ? 公爵家あたりが、率先してお膳立てするんじゃないの?」
「そうなのですが、あぁ見えて、殿下は器用じゃ無いとかで、余程のことがない限り、一人と決めていらっしゃると伺ったことがあります」
「あんなに遊び回ってそうなのに?」
「実際には……少々、遊び回って……」
「じゃないと、あれはないわよね……」
「……あれですか?」

 私とニーア以外いない部屋でも、口にするのは憚れたので手招きして耳元で囁いた。
 私が起きたとき、どういう状態であったかを。

「殿下っ! 最低ですね! 次、来たら部屋へは入れさせません!」

 私の代わりに怒っているニーアに、クスっと笑ってしまった。
 そんなふうに言ってくれるのは、少しだけ距離が近くなった……そう思ってもいいのだろうか? セプトのことより、そちらの方が嬉しい。

「そう、怒らないで。過ぎたことだし……特に被害はないから」
「それでも、未婚の女性にベタベタと触るだけでも腹立たしいのに、き……キスマークだなんて!」

 顔を真っ赤にしたニーアが可愛らしい。
 侍女教育の中には、主人の情事について勉強させられるはずだった。仮にもセプトは王位継承権のある王子なのだから、何事かあってはいけない。
 何事かあった場合は、その場にいた女性の方が処罰の対象となると聞いているだろう。
 私は眠っていたから、何かするのは、セプトの方なのだが、それにしたって、何故セプトだけが触れることができたのか、未だにわかっていない。

「失礼します!」

 扉をノックして入ってきたのはカインだった。
「少し、外を歩きませんか?」というお誘いのようだ。

「カインが、案内してくれるの?」
「ご要望とあらば……」
「えぇ、お願いするわ! 私、この鳥籠から出たことがないから!」
「わかりました。僭越ながら、私が案内いたします。この城で、是非見ていただきたい場所がありますから!」
「楽しみね! では、着替えるので、少しの間、外で待機してもらえるかしら? 終われば、呼ぶわ! そこの椅子、持って行ってもいいわよ!」

 そういうと、「では……」と、持って外へと向かうカイン。
 ニーアにお願いをして、初めてドレスらしいドレスを身に纏う。

 春のような温かみのある、薄い桃色の服を着れば、いつもより、可愛らしいお嬢さんになった気分だった。
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