ビアンカ・レートは、逃げ出したいⅠ ~ 首が飛んだら、聖女になっていました ~

悠月 星花

文字の大きさ
上 下
11 / 55

本棚設置

しおりを挟む
 昼食も終わり、ニーアに頷くと扉を開け、下男たちに声をかけてくれる。
 待ちに待った本棚がやっと手に入る。床に置いていた本にはとても申し訳ない気持ちでいっぱいだったので、正直、こんなに早く動いてくれたセプトには感謝したい。


「お待たせしたわね、ごめんなさいね!」
「とんでもございません。では、聖女様、お部屋に失礼します!」


 本棚は、出来上がったもではなく、ここで作るらしい。飾り切りされていた板が見えた。その材料を見ると、とても大きそうな本棚らしい。
 鳥籠の中に入ってきた下男たちの様子を見てニーアはとても驚いている。荷物と工具を大量に持って部屋に入ってきたのだ。


「ビアンカ様、あの……」
「あぁ、あの人たちは、私に何の悪意もないから入ってこれるの。お役目ご苦労様って感じだよね。それに対して、何かしらの悪い感情を私に対してあると、部屋の守りに弾かれちゃうんだよね……ちょうど、あんな感じで!」


 下男たちが鳥籠へ入って行くのを見て、昼の交代で来るはずだった侍女が下男たちに続いて入ってこようとした。行けると思ったのだろうが、残念なことに扉の前で弾かれ、ペタンと尻餅をついていた。
 ニーアは、その様子を見て驚いていた。自身も何事もなく鳥籠へ入れたので、侍女が言ったことが嘘だと思っていたようだ。目の前でことを見てしまえば、嘘だとはいえまい。


「……ビアンカ様のことをよく思っていないなんて、驚いてしまいました。今、目の前の出来事に、驚きましたが、殿下と話す様子や日常を見ていれば……尊敬こそすれ、そんな悪い感情が湧くだなんて……」
「ありがとう、ニーア。私はとてもいいメイドに出会えたみたいね! きっと、セプトや他の王子たちのお手付きになりたい侍女だったのでしょ? ぽっと出の私が、いろんな令嬢を差し置いて婚約者になんてなったから、よく思っていないのよ」


 そんな……と肩を落とすニーアに私は笑いかけ、「人間なんてそんなものよ」とポツリと呟く。みながみなそうだとは言えないが、私は知っている。私の王子の妃になるために、少々汚い方法で婚約者候補にまで上り詰めた令嬢のことを。


「あの……聖女様、本棚はどこに置かせてもらえば……」


 下男は恐る恐る私に話しかけてくる。普通なら、侍女を通して話すものなのだが、生憎ここには、私かメイドのニーアしかいなかったので、決定権のある私に話しかけてきたのだろう。


「そうね……」


 私は、部屋中を見渡し、ペタペタと歩いて行って、ここがいいと指し示した。日の当たりにくい日陰になる場所があったので、本を傷ませないためにと選んだ。
 下男たちは、板と工具を持って指定されたところへ行き、床いっぱいに材料などを並べた。


「作業を始めます。少しうるさいかもしれませんが……」
「いいのよ! わざわざ、ここで組み立ててくれるのね。嬉しいわ! よろしくね!」


 この部屋の入り口は小さい。組み立てられたものは、運び入れられない。仕方がないので、中で組み立てることにしたのだろう。下男たちの手間をかけることになった。お礼をしたいのだが、私にはあげられるものは何もない。考えついたものがあったので、ニーアに声をかけた。


「ニーア、今日のお茶請けって何かしら?」
「お茶請けですか? それは……クッキーですけど」
「そう、じゃあ、作業が終わったら少ないけど、あの人たちにあげてくれるかしら?」
「ビアンカ様!」
「いいの、別にクッキーなんて、珍しいものでもないでしょ?」
「確かにそうですけど……」
「準備、お願いね!」


 ニーアと話をしていたら、トンカントンカンとみるみるうちに本棚はできあがった。思っていたより、ずっと背の高い本棚が2つと、天板に何か飾るようにと腰までの高さの本棚が1つ完成した。


「あっという間ね! ありがとう! 少ないんだけど、こっそり食べてね!」


 私のお茶請けをニーアに頼んで下男たちへと渡してもらう。おやつとして早変わりしたお茶請けを嬉しそうに手に取る下男たち。
 一人にあげられるものは、少ないのだけど喜んでくれた。


「聖女様、ありがとうございます! おっかぁーが、クッキー大好きだから……」
「おいっ! お前のそんな話なんて、聞かせない……」
「いいのよ! 奥さんが喜ぶといいわね!」


「ありがとうございます、ありがとうございます」と下男たちは頭を下げ、工具や残りの材料を持って鳥籠から出て行く。
 渡したものの量が少なかったが、喜んでくれたのでよかった。


「本当に、よかったのですか?」
「えぇ、構わないわ。本棚を作ってくれたことが、私は嬉しかったし、少ないけどお礼をしたかったの。ニーアもありがとう!」
「いえ、私はたいしたことは……お昼の食器を出してきます。あとは、私が本棚に本を詰めますから、ビアンカ様はごゆっくり本を読んでくださいね!」


 カラカラとカートをひいて外へ出て行くニーア。私はその後ろ姿を見送り、腕まくりをして、本棚の前へと向かう。
 ここに並んだ本を想像すると、なんだか頬が緩んでしまった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...