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本棚設置

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 昼食も終わり、ニーアに頷くと扉を開け、下男たちに声をかけてくれる。
 待ちに待った本棚がやっと手に入る。床に置いていた本にはとても申し訳ない気持ちでいっぱいだったので、正直、こんなに早く動いてくれたセプトには感謝したい。


「お待たせしたわね、ごめんなさいね!」
「とんでもございません。では、聖女様、お部屋に失礼します!」


 本棚は、出来上がったもではなく、ここで作るらしい。飾り切りされていた板が見えた。その材料を見ると、とても大きそうな本棚らしい。
 鳥籠の中に入ってきた下男たちの様子を見てニーアはとても驚いている。荷物と工具を大量に持って部屋に入ってきたのだ。


「ビアンカ様、あの……」
「あぁ、あの人たちは、私に何の悪意もないから入ってこれるの。お役目ご苦労様って感じだよね。それに対して、何かしらの悪い感情を私に対してあると、部屋の守りに弾かれちゃうんだよね……ちょうど、あんな感じで!」


 下男たちが鳥籠へ入って行くのを見て、昼の交代で来るはずだった侍女が下男たちに続いて入ってこようとした。行けると思ったのだろうが、残念なことに扉の前で弾かれ、ペタンと尻餅をついていた。
 ニーアは、その様子を見て驚いていた。自身も何事もなく鳥籠へ入れたので、侍女が言ったことが嘘だと思っていたようだ。目の前でことを見てしまえば、嘘だとはいえまい。


「……ビアンカ様のことをよく思っていないなんて、驚いてしまいました。今、目の前の出来事に、驚きましたが、殿下と話す様子や日常を見ていれば……尊敬こそすれ、そんな悪い感情が湧くだなんて……」
「ありがとう、ニーア。私はとてもいいメイドに出会えたみたいね! きっと、セプトや他の王子たちのお手付きになりたい侍女だったのでしょ? ぽっと出の私が、いろんな令嬢を差し置いて婚約者になんてなったから、よく思っていないのよ」


 そんな……と肩を落とすニーアに私は笑いかけ、「人間なんてそんなものよ」とポツリと呟く。みながみなそうだとは言えないが、私は知っている。私の王子の妃になるために、少々汚い方法で婚約者候補にまで上り詰めた令嬢のことを。


「あの……聖女様、本棚はどこに置かせてもらえば……」


 下男は恐る恐る私に話しかけてくる。普通なら、侍女を通して話すものなのだが、生憎ここには、私かメイドのニーアしかいなかったので、決定権のある私に話しかけてきたのだろう。


「そうね……」


 私は、部屋中を見渡し、ペタペタと歩いて行って、ここがいいと指し示した。日の当たりにくい日陰になる場所があったので、本を傷ませないためにと選んだ。
 下男たちは、板と工具を持って指定されたところへ行き、床いっぱいに材料などを並べた。


「作業を始めます。少しうるさいかもしれませんが……」
「いいのよ! わざわざ、ここで組み立ててくれるのね。嬉しいわ! よろしくね!」


 この部屋の入り口は小さい。組み立てられたものは、運び入れられない。仕方がないので、中で組み立てることにしたのだろう。下男たちの手間をかけることになった。お礼をしたいのだが、私にはあげられるものは何もない。考えついたものがあったので、ニーアに声をかけた。


「ニーア、今日のお茶請けって何かしら?」
「お茶請けですか? それは……クッキーですけど」
「そう、じゃあ、作業が終わったら少ないけど、あの人たちにあげてくれるかしら?」
「ビアンカ様!」
「いいの、別にクッキーなんて、珍しいものでもないでしょ?」
「確かにそうですけど……」
「準備、お願いね!」


 ニーアと話をしていたら、トンカントンカンとみるみるうちに本棚はできあがった。思っていたより、ずっと背の高い本棚が2つと、天板に何か飾るようにと腰までの高さの本棚が1つ完成した。


「あっという間ね! ありがとう! 少ないんだけど、こっそり食べてね!」


 私のお茶請けをニーアに頼んで下男たちへと渡してもらう。おやつとして早変わりしたお茶請けを嬉しそうに手に取る下男たち。
 一人にあげられるものは、少ないのだけど喜んでくれた。


「聖女様、ありがとうございます! おっかぁーが、クッキー大好きだから……」
「おいっ! お前のそんな話なんて、聞かせない……」
「いいのよ! 奥さんが喜ぶといいわね!」


「ありがとうございます、ありがとうございます」と下男たちは頭を下げ、工具や残りの材料を持って鳥籠から出て行く。
 渡したものの量が少なかったが、喜んでくれたのでよかった。


「本当に、よかったのですか?」
「えぇ、構わないわ。本棚を作ってくれたことが、私は嬉しかったし、少ないけどお礼をしたかったの。ニーアもありがとう!」
「いえ、私はたいしたことは……お昼の食器を出してきます。あとは、私が本棚に本を詰めますから、ビアンカ様はごゆっくり本を読んでくださいね!」


 カラカラとカートをひいて外へ出て行くニーア。私はその後ろ姿を見送り、腕まくりをして、本棚の前へと向かう。
 ここに並んだ本を想像すると、なんだか頬が緩んでしまった。
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