ビアンカ・レートは、逃げ出したいⅠ ~ 首が飛んだら、聖女になっていました ~

悠月 星花

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鳥籠

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「まず、俺はこの国ブランレートの王子でセプト・ブランレート。で、ここは王宮で、この部屋は、通称鳥籠。王家に連なる女性が何か悪いことをすればここに入れられる場所。いわゆる冷宮だな」
「私、王家の一員でもないし、たぶん、ここでは、まだ何もしていないわよ?」
「そんなに気にすることもない。空から降ってきた天使のようだったから、天に帰らないようにと、急遽、史実にもとづき、この部屋に閉じ込めただけだ。世話をしたのは侍女で……お……俺は見てないぞ!」
「私の裸、見たんだ? ふーん、そっかぁ」


 夜着の胸元をはだけるとわかる。ところどころにある、赤い斑点。絶対、この目の前のセプトがつけたに違いない。
 含んだ感じにニコリと笑うと、急にソワソワし始めた。


「王子としては、その……」


 どう謝っていいのかわからず、モゴモゴと話すセプト。
 可愛げがあればいいんだが、あろうことか実験しただけだとのたうちまわった。
 じとっとした視線を送ると、「あんたさ、どんな格好で寝てたかわかってる?」と、セプトは開き直ったのか逆に聞かれた。


「起きたら裸だったわね? それも、下着も何もつけてないし、布団もかけられてなかった」


 睨むように、どうしてなの?とセプトに視線向ける。私の睨みに臆したのか、目が泳いでいた。


「そ……それには、理由がある!」
「理由って何よ? 人の体に痕つけまくったヤツが言うことじゃないわ!」
「侯爵令嬢の割にかなり口が悪いな!」
「うるさいわね! 起きたときに裸で寝かせられているほうの身にもなって……って、私、トイレに行きたい!」
「はぁ? トイレ? ……あぁ……その端の方だ」
「外、出ててよ!」


「王子?」といい、胡散臭い王子を外に追いやるとトイレへと駆け込み座る。
 用を足せば、思う……眠り続けていた間、トイレってどうしてたのかしら? と。取り乱し始めたころ、終わったかっと軽い調子で、セプトがまた部屋に入ってきた。
 実験だと言われ、思うところがあるこの痕とセプトを見比べ、モヤっとした気持ちをスッキリさせることにする。


「ねぇ、私にキスマークつけたのあんただけ?」
「あぁ、そうだが? もっとつけ……」


 パーンっといい音が、鳥籠の中で響いた。


「さいっていね!」


 私が睨むと、叩いた頬を撫でながら、話を聞けって! とセプトは拗ね説明を始めた。


「いってぇーな! 言っとくけど、あんたが空から来て、抱き留めた瞬間に服が全部破れた。まるで、劣化したみたいに」
「そんなの信じないわ!」
「それでも構わない。一緒に見てたものたちも同じこと言うさ」
「そんなの、王子に命令されたら、口裏ぐらい合わせるわよ!」


 訝しみながら、セプトを睨みつける。私の話を聞いていたら、話が進まないと無視をすることに決めたらしい。どかっと元居た席に座り直した。


「そうかよ! それは、勝手にそう思っておけ! こっからが本題だ。ここに運んだのは、あんたが裸で人目に付きにくい場所へ移動させたかったからっていうのもあるんだけど、その体は、ほんのり発光してた。陛下が聖女だっていうあんたの裸をその他の大勢の人に見せるわけにもいかないから、今は、誰も来ないここに運んだんだ。
 ここに運んでからも、侍女がもちろん下着も服も着せたんだ。布団も着せようとしたらしい。あんたがまとっていたベールのような光が何もかもを拒んだ。侍女の手も俺以外の他の王子の手も。不思議と全て弾き返される。それさえなかったら、あんたは俺でなく第一王子の妃になって、俺はお役ごめんだったんだ……」
「だった?」
「俺だけ、その体に触ることが許された。当てつけに、痕を付けたけど、他はなんもしてないから」
「信じらんないっ!」
「でも、それが真実。俺も困ってるんだ! で、今、夜着が着れてるってことは……他の人でも、あんたの体に触れるようになったってことか?」


 ポケットから出したベルをセプトが鳴らすと、侍女が部屋に入ってきた。


「お呼びでしょうか? 殿下」
「あぁ、聖女様が目を覚ました。夜着を羽織っているから、誰でも触れることができると考えられるから着替えさせてくれ」
「かしこまりました。聖女様、こちらにお着替えをご用意しましたので、お着替えください」


 私を恭しく扱う侍女に従い、夜着を脱ごうと思ったが、チラッとさっきの場所を見ると、こちらに視線を向けにやついている王子がいた。


「出ていかないの?」


「そう言えば……」と言いながらニコッと笑い、「今更だろ?」と返ってきた。

 意識のないうちのことは、100歩譲って、いいとしよう。
 今現在、意識もあり見知らぬ誰か……王子なのだが、私にとっては、初めて見る男性に裸を見られるのは嫌だった。


「出て行って!」
「どうして?」
「どうしても! 着替えられないじゃない!」
「あぁ、そういうこと? なんなら、俺が着替えさせてあげようか?」


 ガタッと座っていた席をたち、ゆっくり余裕を持ってこちらに歩いてくる。侍女に下がるよう命じると何食わぬ顔で背中から抱きしめてきた。


「なんだ、俺が着せないとダメだって?」
「誰もそんなこと言ってないわよ! 話、通じている? 出て行ってといって……ひゃうん……」
「いい声してるんだ」


 首筋を舐められ、思わず声が出てしまう。
 おとなしくしているわけではないのに、一向に振り解けないのが憎たらしい。


「離して!」
「俺、一応、婚約者なんだから、多少の……」


 セプトがクスッと笑うのが背中から伝わる。


「スキンシップくらいいいだろ?」
「やめて!」


 私はうっすら一瞬発光していた。自分が光ったことに驚いたのだが、王子も驚いたのだろう。腕の中からスルッと抜け出すことができた。


「へぇー感情によっても、体が光ったりするんだ?」
「知りません! 今すぐ出てって!」


 ふぅふぅと暴れていたので荒い息を吐き、声を荒げる。
 流石に可哀想と思ってくれたのか、忙しいからなのか、降参降参と合図を送り、「また来るよ」と出て行った。


 私は近くにあったベッドにへなへなと座りこむ。流石に目覚めてから、いろいろと知らされることが多すぎて追いついていない。
 遊び慣れているようなセプトにいいようにされてたまるか!と心の火をつけた。

 ただ、この部屋は、『鳥籠』という冷宮だとセプトが言っていた。
 王宮にある、冷宮。そんなものが、噂では聞いたことがあったが、本当にあるだなんて知らなかった。
 まさか、私がその場所に押し込まれてしまうとも思ってもいない。
 殺風景な最低限の生活用品しかない部屋で、私はこれから監禁されて生活することになるのだろうか?


「一度死んだとは言え、こんなことになるなんて……ちゃんと死ねたら……よかったのに。ここから、いつか逃げ出してやるわ!」


 結局、侍女も戻ってきてくれず、夜着のままだ。怒涛の出来事に、疲れてベッドに崩れるように倒れ込んでしまう。
 聞き慣れない国、見知らぬ男性、何もない冷宮。どこに希望があるのかさえわからず、涙を流す。
 救いは、あるのだろうか……? 冤罪から断罪され、私は、この先どうなるのか不安になりながらも、起きてからの少しの時間でさえ、どっと疲れが出て眠ってしまうのであった。
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