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プロローグ~氷漬けの夢~
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「戦姫様!戦姫様ッ!」
遠くで私を呼ぶ声が聞こえる。
嗚呼、最後までその名で呼ばれるのね。
一度でいいから名前で呼ばれたかったな。
お母様にもお父様にも呼ばれたことない、私の名前――
朧な思考の中で今に至るまでを思い返す。
この世界は今、世界中で戦が巻き起こっている。
”言論”なんてものは無意味で、”理屈”や”正義”なんてものは元より存在しない世界。
そんな中、私が二つ目の生を受けたのは〈エルガルト王国の剣〉と呼ばれる”カナストル公爵家”だった。
代々軍の総司令官を務めている由緒ある家で、食事と睡眠以外は剣を振る日々だ。
―そして女である私も、剣を習った。
戦場を生きるために。国を救うために。
―家族に名前で呼んでもらうために。
ずっと夢中で駆けてきた。
無尽蔵の魔力容量、前世で好きだったロボット兵器の改造、【剣聖】に教えて貰った剣技。
全てを駆使して、全てを利用して…ただ、ただ夢中で駆けてきた。
―そして、何時からかみんなから【戦姫】と呼ばれるようになった。
でも、気が付いたときにはもう、私の前にも隣にも誰もいなくて。
家族も、戦友も、ずっと後ろから私を軽蔑した目で眺めていた。
「バケモノ」
誰かが呟いた。
「殺人鬼」
誰かが叫んだ。
「人でなし」
誰かが喚いた。
「―悪魔」
兄さまが恐怖に塗れた声で、そう零した。
バカみたいだった。
ずっと家族を守りたくて剣を振ったのに、果てに言われたのは軽蔑の言葉ばかり。
―ねぇ、私は何がいけなかったのかな?
―ねぇ、前世でも今世でも私はまた誰にも愛されないまま死ぬの?
思わず問うた言葉で、私はストンと現状を理解した。
(あ、私。死ぬのか)
暗闇をグラグラと揺れる意識で考える。
氷の戦姫って呼ばれるけど、まさか死ぬときの魔法も氷とは…。
くすっ、と笑みがこぼれる。
いや氷漬けになっているのだから、ちゃんと顔に出ているのかは分からないけど。
まさか異世界に転生しても十八年しか生きられない、だなんて。
本当に、生まれてから死ぬまでずっと戦場にいた気がする。
ここ、世界設定は前世でやっていた乙女ゲームそのままなんだけどなぁ。
そもそも、ゲームの中じゃ世界大戦なんて起きてなかったし。
メインヒーローの王子すら生まれていないし―
折角乙女ゲームの世界に来たなら悪役令嬢でも、モブ令嬢でも何でも良い。
恋に落ちて青春したかったなぁ……
(軍姫とか、戦姫とかじゃなくて。アミスって、呼びかけて、欲しかった、な、ぁ―)
僅かな光が消え去って、体が何処かへ落ちていく感覚がした。
―そんな中、頬に〈何か〉が伝う。
ねぇ、神様。いるのなら。
血に染まった私を、救ってくれるのなら。
もう少しだけ―
「ぃ、き…た……い」
舌がうまく回らなかったから、きっと誰も聞き取れないだろう。
そもそも声になったかも分からない。
戦場でたくさんの人を殺めた戦姫にかける情も、ないだろうし。
あぁ
前世で憧れた魔法とロボット。
それを両方を、血で穢してしまったな……
殺戮兵器だの、SSS級軍魔法だの。
連発して、戦場駆けて。
ただ敵を滅していって。
得たかったものって何だったっけ?
あれ、私なんでこんな暗いところにいるんだろう。
ん?私の名前ってなんだっけ?
うー、分かんない……
………本当に、分からない。
「主ノ生命危機ヲ確認。回避シマス」
でも、意識を手放す直前に聞こえた機械音は
何を得たのかも分からぬまま
まるで、神様の存在だけを肯定するかのように
私の願いを聞き届けたんだ―――
To be continued………
遠くで私を呼ぶ声が聞こえる。
嗚呼、最後までその名で呼ばれるのね。
一度でいいから名前で呼ばれたかったな。
お母様にもお父様にも呼ばれたことない、私の名前――
朧な思考の中で今に至るまでを思い返す。
この世界は今、世界中で戦が巻き起こっている。
”言論”なんてものは無意味で、”理屈”や”正義”なんてものは元より存在しない世界。
そんな中、私が二つ目の生を受けたのは〈エルガルト王国の剣〉と呼ばれる”カナストル公爵家”だった。
代々軍の総司令官を務めている由緒ある家で、食事と睡眠以外は剣を振る日々だ。
―そして女である私も、剣を習った。
戦場を生きるために。国を救うために。
―家族に名前で呼んでもらうために。
ずっと夢中で駆けてきた。
無尽蔵の魔力容量、前世で好きだったロボット兵器の改造、【剣聖】に教えて貰った剣技。
全てを駆使して、全てを利用して…ただ、ただ夢中で駆けてきた。
―そして、何時からかみんなから【戦姫】と呼ばれるようになった。
でも、気が付いたときにはもう、私の前にも隣にも誰もいなくて。
家族も、戦友も、ずっと後ろから私を軽蔑した目で眺めていた。
「バケモノ」
誰かが呟いた。
「殺人鬼」
誰かが叫んだ。
「人でなし」
誰かが喚いた。
「―悪魔」
兄さまが恐怖に塗れた声で、そう零した。
バカみたいだった。
ずっと家族を守りたくて剣を振ったのに、果てに言われたのは軽蔑の言葉ばかり。
―ねぇ、私は何がいけなかったのかな?
―ねぇ、前世でも今世でも私はまた誰にも愛されないまま死ぬの?
思わず問うた言葉で、私はストンと現状を理解した。
(あ、私。死ぬのか)
暗闇をグラグラと揺れる意識で考える。
氷の戦姫って呼ばれるけど、まさか死ぬときの魔法も氷とは…。
くすっ、と笑みがこぼれる。
いや氷漬けになっているのだから、ちゃんと顔に出ているのかは分からないけど。
まさか異世界に転生しても十八年しか生きられない、だなんて。
本当に、生まれてから死ぬまでずっと戦場にいた気がする。
ここ、世界設定は前世でやっていた乙女ゲームそのままなんだけどなぁ。
そもそも、ゲームの中じゃ世界大戦なんて起きてなかったし。
メインヒーローの王子すら生まれていないし―
折角乙女ゲームの世界に来たなら悪役令嬢でも、モブ令嬢でも何でも良い。
恋に落ちて青春したかったなぁ……
(軍姫とか、戦姫とかじゃなくて。アミスって、呼びかけて、欲しかった、な、ぁ―)
僅かな光が消え去って、体が何処かへ落ちていく感覚がした。
―そんな中、頬に〈何か〉が伝う。
ねぇ、神様。いるのなら。
血に染まった私を、救ってくれるのなら。
もう少しだけ―
「ぃ、き…た……い」
舌がうまく回らなかったから、きっと誰も聞き取れないだろう。
そもそも声になったかも分からない。
戦場でたくさんの人を殺めた戦姫にかける情も、ないだろうし。
あぁ
前世で憧れた魔法とロボット。
それを両方を、血で穢してしまったな……
殺戮兵器だの、SSS級軍魔法だの。
連発して、戦場駆けて。
ただ敵を滅していって。
得たかったものって何だったっけ?
あれ、私なんでこんな暗いところにいるんだろう。
ん?私の名前ってなんだっけ?
うー、分かんない……
………本当に、分からない。
「主ノ生命危機ヲ確認。回避シマス」
でも、意識を手放す直前に聞こえた機械音は
何を得たのかも分からぬまま
まるで、神様の存在だけを肯定するかのように
私の願いを聞き届けたんだ―――
To be continued………
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