婚約者を溺愛する講師と鈍すぎる完璧侯爵令嬢

べりーベア

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きっと、気のせいだから…

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嗚呼、まただ。
モヤッとした黒い感情が胸を支配する。鼻がツンとなって、視界が一瞬揺れた。

「先生~♡今度我が家の別荘へいらっしゃいませんかぁ~」
「え~先生~、私の家へいらっしゃって下さいませ~♡」

日常的な光景。いつも見る景色。
私のに群がる麗しの女子生徒たち。公爵家の次男という地位にある彼に家柄目当てで群がる女子は少ない。
彼女たちの目当ては、彼の美貌。新緑の知的な瞳。耳下で結んだ暖かな真紅の髪。いかにも講師全とした好青年なのに、時折見せる色気全開の笑み。…あれで落ちない女子は恐らくいない。しかも彼自身、国最高峰の大学を最年少の首席で卒業した天才。そんな彼に群がっていないとしたら、その者は婚約者がいるか、恋人がいるか、だ。

「………っ!」

一人の生徒が谷間を彼の腕へ押し付けた。ワケあって公にされていない彼と私の婚約が、彼女たちの知れるところになったら大変なことになるだろう。
婚約者を目の前で口説かれる、という状況に耐えきれず私はその場を立ち去った。

(分かっている…私は彼に似合う女性じゃない。侯爵家筆頭の令嬢だから、家格が彼と釣り合いが取れるから、政治的にも悪影響が無いから。……だから婚約しただけの関係)

ーそう。それが幼い頃からずっと“兄”と慕っていた彼だとしても。
私の方が彼女たちよりも彼のことを知っている。私は彼に見合う女性になるように七年間も努力した。私の方が彼を――…。

「…っ、何を馬鹿なことを…っ!」

“政略的な婚姻”…でも、その中に確かに存在する”熱”に蓋をするように生徒会室へと急ぐ。
ー大丈夫。彼が誰を愛そうが私には関係のないことで、私には影響のないこと。だから……この張り裂けそうなほど痛む胸は、視界を歪ませて落ちていく雫は何かの勘違い。

「……兄離れ…しないと、ね……」

ポツリと呟いた言葉は夕焼け空へ溶けていった。

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