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四章・動き出した心~十三歳編~
21・執事様と一組の生徒たち(1)
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入学式の後、各々のクラスへ分かれることになったアリシア達は大理石でできた床をぞろぞろと歩いていた。例年にも増して新入生が多くなっているらしく、新入生を指す紅色のタイをした生徒が列をなしていた。
「ふわぁ~あ」
そんな中オリバーはいつもの調子で大きな欠伸を噛み殺し、滲んだ瞳の涙を袖でグッと拭う。背の高い彼の動きに何人かの生徒が驚きながら顔を上げ、明らかにオーラの違う四人から少し距離を置いた。
「眠そうですね」
遠巻きに彼女たちを見る生徒を慣れたようにスルーして、配られた校内資料を見ていたアリシアはオリバーへと視線を高く上げた。
「あのオジサン…えっと、魔術師団長?さんの話が長い上に何言ってんのか分かんなくて…。今、めっちゃ眠いっス」
「あぁ、黒髪の。確かにあの人、噛みまくっていましたもんね」
思考の波にふけっていたせいで半分以上は聞いていなかったが、それでも何とか朧げに思い出したアリシアは苦笑気味にオリバーに同調した。
しかし、そんな二人の様子に眼鏡を光らせたカイルが諭すように言う。
「こら、そういうことは言わないものですよ。なにせ、私たち一組の生徒は特別講義で彼から魔術を指南していただくんですから」
丁度カイルが見ていた資料と同じページを開いたアリシアが、その記事を発見して顔を歪めた。
「「げぇ…」」
魔術学校は成績順で組み分けられる。
一組から四組まであり、成績の一位から十人が一組、その後の二十人が二組…というように分かれていく。上のクラスになるほど人数は減り、入ることも居続けることも難しくなる。
成績は語学、数学、歴史学や魔術薬学、魔術式学といった座学と、魔術技能、剣術、体術などの技能のテストで決められる。といっても、全てのテストを受けるのではなく、座学から五つ、技能から五つ、といった具合になるが。
「寝ちゃわないか、今から心配になってきました…」
「俺もっス」
実践ならまだしも座学の授業になったら、眠気との真剣勝負になるであろう未来を想像した二人がズーンとした空気で呟いた。
「はぁ、貴方たちは…。ただでさえ技能テストだけで一組に入ったようなものなんですから、ちゃんとしてください」
「「………」」
カイルの鋭い言葉に墓穴を掘ったとばかりに顔を歪めるアリシアと、似たような顔で冷や汗を流すオリバーが同時に顔を見合わせた。
特待生制度で入学したと言っても、アリシアはほぼ剣術と魔術の技能で受かったようなものだ。それはオリバーも似たような感じで、剣術と体術で一組をつかみ取っている。
「剣術の教師を倒すわ、魔術競技場を氷漬けにするわ。なぜ貴方達は加減というのを学ばないのですか」
お陰で教師が大混乱でしたよ、とジト目で告げるカイルにアリシアは頬を描きながら苦笑した。
たしかにアリシアは魔術競技場を氷漬けにしたし、魔術教師と互角で戦ったりもした。仕舞いには盛り上がったアリシアと教師が二人で教頭先生に怒られたが。
オリバーもまた似たような状況になり、剣術の教師と互角に戦った上、勝ってしまったのだ。
相手は元宮廷棋士副団長だそうだが、オリバーは「いやー、めっちゃ強かったっス!」で終わらせていた。
「あはは…だって、私も主と同じクラスに通いたかったですし」
「そうっス!俺もシリウス様と同じクラスに通いたかっただけッスよ!」
「……アルシアはともかく、オリバーに至ってはどうしても楽しかったから仕方ない、としか感じられないのですけど」
はぁ、と盛大に溜息を吐くカイルに苦笑しながら、アリシアは手元にある学院の地図を見比べて目前に迫った教室の前で立ち止まった。
「ふむ。どうやらココが一組の教室のようです」
「へぇ、結構大きいんだね」
「まぁ、国立ですからねぇ~」
少女はぼやきながら扉に手を翳し、シュインという音と共に扉が開かれるのを半目で眺めていた。
「…いや、自動ドアかい」
アリシアは呆れを滲ませた声でツッコミを入れ、扉の消えた教室内へと視線を上げる。
中には真面目に分厚い本を読んでいる黒髪の少年や、槍の手入れをしている灰色の髪の少年、また仲良く話している少女たちの姿があった。―いや、最後の少女達に関しては少々語弊があっただろう。仲良く話しているというか、蒼髪の少女が茶髪童顔の少女に絡まれているようにも見える。
(なんかキャラ濃そうなんですけど…)
実は教室を間違えていたのでは、と淡い期待を抱きながら絡まれている蒼髪の少女へ向かってアリシアは一歩踏み出した。
「ふわぁ~あ」
そんな中オリバーはいつもの調子で大きな欠伸を噛み殺し、滲んだ瞳の涙を袖でグッと拭う。背の高い彼の動きに何人かの生徒が驚きながら顔を上げ、明らかにオーラの違う四人から少し距離を置いた。
「眠そうですね」
遠巻きに彼女たちを見る生徒を慣れたようにスルーして、配られた校内資料を見ていたアリシアはオリバーへと視線を高く上げた。
「あのオジサン…えっと、魔術師団長?さんの話が長い上に何言ってんのか分かんなくて…。今、めっちゃ眠いっス」
「あぁ、黒髪の。確かにあの人、噛みまくっていましたもんね」
思考の波にふけっていたせいで半分以上は聞いていなかったが、それでも何とか朧げに思い出したアリシアは苦笑気味にオリバーに同調した。
しかし、そんな二人の様子に眼鏡を光らせたカイルが諭すように言う。
「こら、そういうことは言わないものですよ。なにせ、私たち一組の生徒は特別講義で彼から魔術を指南していただくんですから」
丁度カイルが見ていた資料と同じページを開いたアリシアが、その記事を発見して顔を歪めた。
「「げぇ…」」
魔術学校は成績順で組み分けられる。
一組から四組まであり、成績の一位から十人が一組、その後の二十人が二組…というように分かれていく。上のクラスになるほど人数は減り、入ることも居続けることも難しくなる。
成績は語学、数学、歴史学や魔術薬学、魔術式学といった座学と、魔術技能、剣術、体術などの技能のテストで決められる。といっても、全てのテストを受けるのではなく、座学から五つ、技能から五つ、といった具合になるが。
「寝ちゃわないか、今から心配になってきました…」
「俺もっス」
実践ならまだしも座学の授業になったら、眠気との真剣勝負になるであろう未来を想像した二人がズーンとした空気で呟いた。
「はぁ、貴方たちは…。ただでさえ技能テストだけで一組に入ったようなものなんですから、ちゃんとしてください」
「「………」」
カイルの鋭い言葉に墓穴を掘ったとばかりに顔を歪めるアリシアと、似たような顔で冷や汗を流すオリバーが同時に顔を見合わせた。
特待生制度で入学したと言っても、アリシアはほぼ剣術と魔術の技能で受かったようなものだ。それはオリバーも似たような感じで、剣術と体術で一組をつかみ取っている。
「剣術の教師を倒すわ、魔術競技場を氷漬けにするわ。なぜ貴方達は加減というのを学ばないのですか」
お陰で教師が大混乱でしたよ、とジト目で告げるカイルにアリシアは頬を描きながら苦笑した。
たしかにアリシアは魔術競技場を氷漬けにしたし、魔術教師と互角で戦ったりもした。仕舞いには盛り上がったアリシアと教師が二人で教頭先生に怒られたが。
オリバーもまた似たような状況になり、剣術の教師と互角に戦った上、勝ってしまったのだ。
相手は元宮廷棋士副団長だそうだが、オリバーは「いやー、めっちゃ強かったっス!」で終わらせていた。
「あはは…だって、私も主と同じクラスに通いたかったですし」
「そうっス!俺もシリウス様と同じクラスに通いたかっただけッスよ!」
「……アルシアはともかく、オリバーに至ってはどうしても楽しかったから仕方ない、としか感じられないのですけど」
はぁ、と盛大に溜息を吐くカイルに苦笑しながら、アリシアは手元にある学院の地図を見比べて目前に迫った教室の前で立ち止まった。
「ふむ。どうやらココが一組の教室のようです」
「へぇ、結構大きいんだね」
「まぁ、国立ですからねぇ~」
少女はぼやきながら扉に手を翳し、シュインという音と共に扉が開かれるのを半目で眺めていた。
「…いや、自動ドアかい」
アリシアは呆れを滲ませた声でツッコミを入れ、扉の消えた教室内へと視線を上げる。
中には真面目に分厚い本を読んでいる黒髪の少年や、槍の手入れをしている灰色の髪の少年、また仲良く話している少女たちの姿があった。―いや、最後の少女達に関しては少々語弊があっただろう。仲良く話しているというか、蒼髪の少女が茶髪童顔の少女に絡まれているようにも見える。
(なんかキャラ濃そうなんですけど…)
実は教室を間違えていたのでは、と淡い期待を抱きながら絡まれている蒼髪の少女へ向かってアリシアは一歩踏み出した。
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