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四章・動き出した心~十三歳編~

20・執事様と入学式

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「…以上を持って、代表挨拶とさせていただきます」

シリウスがそう締めくくるのと同時に、大きな拍手が会場に響いた。
そこまでか、とアリシアは呆れる反面、彼女自身他の生徒に負けないほど大きく掌を打ち合わせていた。

「流石シル。完璧な挨拶でしたね」

隣の席に座るカイルが感心したように零す。大きな拍手の音で何とか聞き取れた程度の声だったが、アリシアも心から同意した。
今は空席になっているシリウスの席の向こうに、居眠りをしていたはずのオリバーが見える。未だ眠そうな瞳を白黒させているあたり、拍手の音で起きたらしい。
いくつになっても変わらない野良猫のような仕草に頬が緩むのを感じながら、アリシアはふと思った。

(本編開始まであと二年、かぁ…)

転生を自覚したばかりの時はまだ十三年もあったというのに、もうこんなに月日が流れている。
どうにも不思議な気分になりながら、彼女は壇上でお辞儀をしているシリウスを眺めた。

―遠い

分かっている。
彼は文武両道の王太子で、アリシアはちょっと変わった公爵令嬢。
ただそれだけ。そこに五年という信頼の繋がりは会っても、彼が国王になって仕舞えばもう会えることも無くなってしまう。
アリシアだってわかっているのだ。
いつまでもこんな風に過ごすことは出来ない、と。

王太子は十八歳で婚約者を決定しなくてはならない。まだ婚約を結んでいない国中の令嬢の中で、一番王妃に相応しい者を選定するのだ。そして、彼に婚約者が出来たらアリシアは今までのように彼の傍にはいられない。年頃の令嬢が婚約者のいる令息の傍にいるなんてご法度にも程がある。
それに、アリシアも地位や年のあった令息と婚約を結ばなくてはいけない。これは執事になるときにルーカスと決めたことでもあり、公爵令嬢としての義務でもあるのだ。
カイルもオリバーもどんどん自分の道を切り開いて行くだろう。
それなのに未だみんなに縋ってしまっているアリシアは、自分ばかりが取り残されてしまっているような気がしてならない。

彼女はこれからもずっとシリウス達と共にありたかった。
彼らと離れてしまうなんて考えたくもない。
ただいつものようにくだらないことをして笑って、時にトラブルに巻き込まれながらなんとか乗り越えていきたい。
…そんな日々をこれからも送っていきたい。

それは心から信頼できる人のいなかった前世の影響なのか、彼女の寂しがり屋の性格故なのかは分からない。もしかしたら両方が原因になっていることだって考えられる。
それでもアリシアはただ、人生で初めて与えられた温もりを手放す勇気が持てなかったのだ。

「……」

いつの間にか少女の主は壇上から消え、式は来賓の挨拶へと移っていた。思わず毛髪が心配になってしまう様なおじさんが祝辞を述べている。魔術師団長であると聞いて思考を中断させたアリシアは、ポケーっと男性の黒髪を眺める。
しかし、一文につき三回噛む彼の言葉は大変聞き取りにくく、アリシアは早々に思考を戻すことに決めた。

どうしたらこれからもみんなと共にあれるか。
これから自分は、何を目指し、何を求めて、どう生きていくのだろうか。

アリシアは式が終わるまでずっと、考え続けていた。





::::

久しぶりです。
これからは週に一二回更新していきますので、よろしくお願いします<(_ _)>

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