悪役令嬢に転生したので男装して推し専属執事になります〜攻略対象が私の周りに集まるのは何故!?〜

べりーベア

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一章・出会い~七歳編~

4・目指せ!シリウス様専属執事!!

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考えた。アリシアは、考えた。
どうしたらティアラ×シリウスの最推しカップリングを近くで見られるか。

そして彼女はついに一つの答えにたどり着いたのだ。

「シリウス様付きの従者になればいいんじゃない⁉」

シリウス様―それは成績優秀、文武両道、眉目秀麗、勇猛果敢、気宇壮大…そんな完璧を詰め合わせたようなヴェルラキア王国の王太子殿下のことである。
その優秀さ故に五歳の時に立太子を終えたほどの超人なのだ。ちょっと腹黒な一面もあるけれど、基本誰に対しても優しいから人望もある。

(そう。それが私の最推し、シリウス様なのだ――ッ!)

煌めく金髪に飲み込まれそうな赤い瞳の持ち主。しかも、それはただの紅眼ではなく、星宝という魔眼なのだ。

〈星宝〉は〈星神精霊に愛された子〉に宿る魔眼で、全て宝石の方な美しさを持つ。しかも、それを持っているのは英雄や聖女と言った人だけで、それぞれの星宝にあった特別な力が手に入る。

シリウスが持ってるのは十の星宝の内の一つ、〈星宝・ルビー〉。炎や熱系統の魔術において力を発揮するものだ。とはいっても、星宝による魔術は魔術式を展開せずに使えるという利点があるだけえ、基本魔力消費や疲労は普通の魔術と変わらない。そんなに連続して使える神業でもないのだ。

(それでも、シリウス様は攻撃に上手く星宝魔術を取り入れて、あっという間に敵を倒しちゃうんだから!)

何度もプレーしたシリウススートのワンシーンを思い出しながら、アリシアは心の中で延々と語り出す。

(ヒロインがピンチになった瞬間に助けに来てくれるって、なんなの?格好良すぎるんだけど。本当に素敵。まさしく理想の王子様。そこにいるだけで神的存在なのにどうして行動まで素敵なの?私を燃え殺したいの。そうなんでしょ。でもね、シリウス様の魅力はそれだけじゃなくて、最後のプロポーズイベントも……(以下略))

誰に聞かせるでもなくただ心の中でシリウスの良さを語っていたアリシアは、三十分ほどして漸く目下の問題に意識を戻した。

「うーん…やるならメイド、だよねぇ…?でもメイドよりは執事の方が近くにいられるし……」

執事…執事……、と呟きながらアリシアは再びゲームの内容を思い出す。

(そう言えばゲーム内でもいたなぁ。常に側にいて"王太子の右腕"って呼ばれている人)

確か…赤い髪にエメラルドの瞳を持っていた結構な美少年だった。どこかアリシアに似た雰囲気も持っていた―。
逆ハーレムエンドのスチルをぼんやりと思い返して、アリシアはハッと閃いた。

(そう!星宝〈エメラルド〉の隠れ攻略対象!名前は……エドワード、だっけ?)

「……………………え?赤髪に緑眼のエドワード?」
「どうしたの。アリィ」

唐突に聞こえた声に、ギギギギギ…と壊れたブリキの玩具のように背後を振り返る。
そこに呆れたように立っているのは―赤髪に緑眼のエドワード。

「おっ……」
「お?」
「お前かぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!」
「はぁぁ?!?!」




▽▽▽▽


少し時間は経ち夕食後―。アリシアはルーカスの書斎机を思い切り叩いていた。

「と、言うわけで!私、シリウス王太子様専属執事になりたいんですけど、いいですか!?」
「ちょっと落ち着こうか、アリィ。何が『と、言うわけで!』なのか全く分からない上、君は女の子じゃないか」
「いいえ、父上!メイドよりも執事の方が私の剣技も役に立ちますし、メイドなんて柄じゃありません」

ふんっ、と威張りながらアリシアは言い放つ。
確かにびらびらレースのドレスを身にまとい、扇子をもって『オホホ』とはアリシアに似合いそうにない。尤も、ゲーム内のアリシアは今よりも三周り程大きな体形でそれをやってのけていたわけだが。

(優雅にお茶?みんなで悪口大会?権力自慢?―――くそくらえだっ!)

「……いや、それは全くその通りなんだけど………っていうか、女の子らしくないってわかっているなら、この一か月の奇行を止めようか」

疲れたように遠目をするルーカスからは、何故かとてつもない疲労を感じさえた。しかし、当のアリシアは彼のツッコミを総スルーして要件を叩きつける。

「それで、執事になる許可はいただけますか?」
「いや、君は公爵令嬢だよ?従者なんて無理だと思うけど…」

ルーカスの意見は尤もだ。
前世を思い出す前のアリシアは酷く高慢で我儘だったし、公爵令嬢は嫁いで両家を繋げるのが一番の役割である。爵位の低い貧乏な家ならばまだしも、スピネル公爵家とつながりを持ちたい家など吐いて捨てるほどいる。

しかし、それでもアリシアは苛立ちを覚えた。

(あぁぁぁ…もうっ!ネチネチ煩いなぁ…っ!?)

「従者も宰相も騎士団長も国王に従っている者に相違ありません!!」
「いや、まぁ…確かにその通り、か?」
「私が騎士団に入団するのと専属執事になるのの二択でお考え下さい!」

もし執事に成れないのであればセオドールもエドワードも抜いてアリシアが騎士団総隊長になってやる、とアリシアは意気込む。

「え!?騎士団に入団するのかい!?あそこはダメだ!男ばかりで可愛いアリィはひとたまりも…」
「それで、二択の答えは?」

アリシア『これ以上話すことはない!』とばかりに机越しのルーカスを睨みつける。

「……はぁ、誰に似たんだか。君は一度言い出したら本当に止まらないね……いいよ。"執事になる条件"を満たしたらシリウス様専属執事についての件を考えようじゃないか」

ついに根負けしたルーカスが、呆れを感じさせる苦笑を浮かべて頷く。
一瞬理解の追い付かなかったアリシアだが、直ぐに執務室に響き渡るほどの声で叫んでいた。

「よっしゃぁぁあああああああ!!!」

かくして、アリシアは執事見習いになった。
エドワードやセオドール、ティアラに色々と言われたけど「こんなに可愛い姉様がいるならスピネル家も大丈夫よ!」と言って黙らせた。

全てはイベントスチルをVIP席で見るため、ルーカスとの契約書にサインをしたアリシアは独り言ちた。

「ふっふっふ~!誰も私の邪魔はさせないんだから!」

その時不敵に笑うアリシアは気づいていなかった。ティアラがどんな瞳でアリシアのことを見ていたのか…。




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