上 下
60 / 68
第4章 トール・ド・ルート

第6話 光の精霊の行方と敵襲

しおりを挟む
なんと、この星でこんなことが」
 同じ頃、ソウマたちも真実を知っていた。
「ふむ、混沌こそが敵だったのか」
 光と闇の集合体である混沌。
 その混沌は、光と闇以外のものを取り込むことが目的らしい。


「あの地獄には、闇の軍勢しかいなかったが、どこかに光の軍勢が捕らえられた地獄もあるのか?」
 ソウマたちが潜った地獄に捕らえられていたのは闇の軍勢がほとんどで、光の軍勢は足止め程度だった。


「ふむ。地獄といえば、私たちの故郷ではありますが……」
 ナターシャが唸る。
「あの地獄には、闇の精霊がいた……。ならば光の精霊もいるはずです」
 デーモンロードが話す。


「たしかに。光の精霊はまた別の所に捕らえられているのか?」
「一度、エグゼたちと合流した方がいいかもしれないな」


「ナターシャ、お前はソウマ殿と一緒に行くのだ。我はここを動くことができん」
「わかりました」
 




 ラーズの街にて、一度集合したエグゼとソウマ一行。
「やはり、光の精霊の場所も探し出さないといけないか……」


 二人の意見が一致したが、その答えはどこにも無い。
 そもそも、地獄はどことつながるのかも判らないのだ。
 先ほどの闇の軍勢たちの地獄すら、この瞬間にも別のところに転移してしまうこともある。


 もしからしたら、この大陸には無いかもしれない。
 しかし。
「霊峰メイルストローム。最も天に近いといわれる霊峰だが、その出自がよくわかっていない」 


 不意にミクが話し始めた。
「ここはエンシェントドラゴンが住まう山だからこそ、『霊峰』と呼ばれているのじゃ。ならば、同じ霊峰とよばれるメイルストロームにも、なにかあってもおかしくはないぞ」


 なるほど、確かに一理ある。
「麓のツクヨミには、今はビスタが待機しているはずだ。連絡を取ってみよう」
  




 エグゼが連絡を受けたビスタは、武具作りがひと段落した、たたらを伴ってなぜ『メイルストローム山脈が霊峰と呼ばれるようになったのか』を調べていた。


「私はただ、ミスリルなどのレアメタルが採れるからだと思っていだが……」
 とたたらが言う。
 ミスリル、ダマスカス、玉鋼。
 さまざまな素材が採れる。しかし。


「どれもこれも、『霊峰エクレアのラルファリオン』や『武器不能地帯の魔水晶』には勝てない。いまいち霊峰の由来と位置付けるには弱いかもな」


 かく言うビスタも、なぜここが霊峰なのか、疑問に思ったこともなかったのだが。
 しかし、どの歴史の本を見ても、その理由しては。
 レアメタルが豊富にある。
 連峰のその雄大さ。
 などの話ばかりで、光の軍勢や精霊が関係してくる書物がない。


「この図書館ではだめか……」
 しかし、ほかにそういった書物を扱うところはこの街にはない。
 そうなると古老を探し、話を聴きこむのが次なる手か。


「エグゼ様から伝言っす!」
 その時、伝令役でハピナが飛んできた。
「月の大精霊ツクヨミ様の精霊の寝所に、それらしき本があるかも知れないみたいっす!今回は特別に入ってもいいそうっす!」


 たしかに、ツクヨミの部屋には大きな書架があった。
 そこに求める本はあるのだろうか。
「とりあえず行ってみるしかないな」




 月の大精霊ツクヨミの部屋。
 そこにはかなり大型の書架、と言うよりは小さな図書館だ。


 今エグゼと契約している大精霊たちも、光の精霊や、闇の精霊のことは知らなかった。
 かろうじてツクヨミのみが、この書架でそのような本を見た気がする、と言う程度。


 しかし、何も手がかりがないまま動き回るよりは、可能性の高い方から潰していく方がいいだろう。
 ハピナを加えた一行は歴史書物を中心に調べていく。
「しかし、恋愛小説が多いっすね~」


 飽きてきたのか、ハピナが本を探す目的を失い始めた。
「ツクヨミ様の趣味だろう、あまり見てやるな」
 とビスタ。
 でも、興味はあるようだ。


「可愛らしいっすね!」
 と、恋愛小説が並ぶ本棚に、5冊からなる恋愛小説があった。
 しかし、作られた年代が明らかに古い。
 この本だけ異質だった。


「おい、ハピナ。その欄には用はないだろう?こっちを手伝え!」
 たたらがハピナに声をかけたが、ハピナはその本をパラパラとめくっている。
 そして、逆にビスタとたたらを呼ぶ。
 タイトルは。


『光と闇に包まれて~精霊の声~』
「もしかしたら、もしかするっすよ」
『光と闇は本来一つであった』
 このあたりは今まで調べたことと同じことがかいてある。


 内容的には光と闇は交わることができない悲恋を描いた小説だった。
『光の精霊は天に一番近い山脈に。闇の精霊は地獄に最も近い洞窟に』
「これは……」


「この大陸で一番高いのは、このメイルストローム連峰の霊峰メイルストローム」
「ビンゴ、っすかね?」
 3人はその小説を読み進めていく。


 すると、この小説は純粋な創作ではなく誰かの実体験を元に作られた小説であることがわかった。
 その作者とは。
『光を統べる精霊』


 そう、光の精霊の著書であった。
 最後には。
『光と闇を解き放たんとするもの、山頂に来れ。さすれば光の塔現れ、汝らを導くだろう』
 と。


「早速エグゼたちに報告だ、ハピナ」
「了解っす!」
「たたら、私たちは登山の準備だ。最悪、エグゼとソウマたちなしでも行くぞ」
「ああ!」





「エグゼ様、朗報っす!」
 早速ハピナはエグゼとソウマにことの仔細を話す。


「じゃあ、メイルストロームの山頂に行けば、光の精霊に会えるかも知れないんだね?」
「そうっす!この街のこともあるので、エグゼ様かソウマ様、どちらかに来ていただけると……」
 その時、執務室に飛び込んでくる者が

いた。
「た、大変です!」
 周囲を哨戒していた、ハーピーの一人だ。
「これを……」


 彼女が手にしていたのは、一通の手紙。
 それは。
「トール・ドライゼン」
 エグゼが呟く。


「トール・ドライゼン?たしかそいつは、トール・ド・ルートの……」
 トール・ド・ルートを仕切るボスの名だった。
 その内容は。


「トール・ド・ルートが、攻めてくる」
 エグゼはその手紙を握りつぶした。
「……」
 ソウマは何やら思案している様子だ。


「ど、どうするっすか?」
 今現在のトップはソウマだ。
 彼の采配次第で、この戦の勝敗は決まる。
「エグゼとミクは、ツクヨミの街に行き部隊を編成してくれ。ナターシャ、軍事戦略の経験は?」


「ち、知識はありますが、実戦は初めてですわ」
「十分だ」
「まて、ソウマ!お前の考えてることくらいわかるが、その身体では無茶だ!」
 エグゼが叫ぶ。


 ソウマは一言。
「大丈夫だ」
 と言った後に命令を下す。
「メイルストロームの攻略は、ビスタ、たたら、ハピナに任せる。ハピナ、大変だとは思うが、ツクヨミに戻り、二人と合流して光の精霊の捜索を3人で行ってくれ」


「わかったっす!ちょっぱやで行くっす!」
「続いてエグゼ。お前もミクと一緒にツクヨミの街にいき、トール・ド・ルートに対抗する部隊を編成してくれ」


「ソウマ、僕は反対だ!僕が残るぞ!」
 エグゼがここまで声を荒げるのも珍しい。


「ダメだ。これは命令だ」
 そして、ここまで頑なに命令と言い切るソウマも見たことがなかった。


「しかし!」
 その言葉を遮るようにソウマは次の命令を下す。
「ナターシャはこの街に残っている戦力で部隊を編成。のちにツクヨミの部隊よりも先行して出発だ」


「は、はい!あの…….ソウマ様は……」
 おずおずと、ナターシャがソウマの役割を訪ねる。


「俺は一人、これから全速力でトール・ド・ルートと交戦場まで行き、戦を開始する」


今のタイミングでソウマが動けば、軍の侵攻の速度で3日はかかる場所で、トールと戦うことができる。
そしてエグゼとミクが早駆けでツクヨミのまちまで2日。


軍隊を率いてラーズに戻るのに4日。
計6日を、ソウマとこのラーズにいる部隊で食い止めればいいのだ。


「ま、俺が一人で全滅させちまうかも知れんがな!」
「だめだ、ソウマ!お前の傷は……っ!!」
「だめですソウマ様!そのお身体ではっ!」


エグゼとナターシャの声が重なる。
「エグゼ、ナターシャ。そこまでじゃ」
ミクが止める。
幼いとは言えミクもエンシェントドラゴンである。


ソウマの怪我がどういう状態なのかもわかっているだろう。
「これは戦争なのじゃ。そして、今ソウマが提案した戦術が一番被害が少ない」
「僕とソウマの役割は変わってもいいはずだ!」


「もし、トール・ドライゼンが出てきた時、お前は精霊の力を使わずに倒すことができるか?」
ソウマの問い。
エグゼは答えに詰まる。


「お前が精霊と融合して戦い、失ったものはなんだ?目は色覚をなくし、左腕を失なった。たしかに左腕がなかろうと、戦力としては申し分ない。しかし、次に失うのはなんだ?」


「それは……」
それは、エグゼにもわからない。
「視力を失うか。声を失うか。片足を失うか。
……命を失うか。わからないんだぞ」


「しかし、それを言ったら、ソウマ、君だってそうだ!
その身体で戦って、生きて帰れるのか!?」


「当たり前だ。俺を誰だと思ってやがる。
『メリクリウス』の『深淵のソウマ』だ。負けるはずがないだろう」


そこまで言い切り、ソウマは執務室を出て行く。
エグゼは悔しそうに机を叩くと、ミクと一緒にツクヨミの街に向かうのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

完結【R―18】様々な情事 短編集

秋刀魚妹子
恋愛
 本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。  タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。  好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。  基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。  同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。  ※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。  ※ 更新は不定期です。  それでは、楽しんで頂けたら幸いです。

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?

あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」 結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。 それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。 不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました) ※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。 ※小説家になろうにも掲載しております

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

処理中です...