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第1章 亡国の魔法騎士
大いなる精霊王の剣と大軍
しおりを挟む「なにかあったのか?」
真剣な顔でたたずむソウマとティアラを目にし、精霊石を抱えたエグゼが、尋ねる。
ソウマの足元には、4匹の造魔が横たわっていた。
「魔物?いや、造魔か…!」
嫌な記憶が蘇る。
倒れ行く仲間。
囚われた姫。
目の前で首を落とされた、敬愛すべき王。
蹂躙される民衆。
その中にある、醜悪なる魔物の
「こいつらが…っ!」
胸に去来する、憎悪、絶望、怒り、悲しみ。地獄に囚われたかのような業火が、一瞬にして、蘇った。
「落ち着け、エグゼっ!」
いつにない口調で、ソウマが叫ぶ。
「こいつらを殺したところで、過去が変わるわけじゃない。
それより、こいつらから、情報を聞き出すなり、どうやって造られたかを、知るなりする方が、先だ」
「ソウマ…。しかし!」
「国を救うんだろう!?」
その言葉に、エグゼがピタリと止まる。
「倒すべきは、ミハエルだ。こんな雑魚は、倒しても、あいつにとっては痛くも痒くもない」
そう言って、ソウマは気を失っている敵に歩み寄る。
しかし。
「さすが、名高き反乱軍のリーダーだ。見事だよ。
私の造った傑作が、こうも容易く倒されるとは」
不意に、1人の造魔が話し始めた。
「その声は…!」
聞き覚えのある声に、エグゼが叫ぶ。
「初めまして、ソウマ君。お久しぶりです、エグゼ君、妖精さん」
造魔の口を通して、ミハエルが話す。
これも、魔法なのだろうか。
「まさか、私の可愛い造魔が、こうも簡単に敗れるとは…。大したものです。そして、精霊石を手に入れてくれて、ありがとう。エグゼ君。次に送る刺客は、この程度ではありませんので覚悟していて下さい。では、これで…」
にやり、と笑みを浮かべると、その造魔は、なんと、砂のように崩れ、消えてしまった。
「とりあえず、一度町に戻ろう。剣を作ってもらっている間、作戦を練るぞ」
いつになく、真剣な表情で、ソウマは二人を連れて、歩き出した。
「よくやったな、エグゼ。ティアラも来たのか」
ものの見事に、ソウマを無視して、たたらが出迎えてくれた。
「ミハエルの手下は、引き上げて行ったぞ」
喜びを露わにするたたらに、三人は暗い面持ちで、話をする。
『日を司る精霊』サニーと会話できたこと。
造魔と交戦したこと。
精霊と精霊石を求めて、ミハエルが強力な造魔の軍団を、このシスカの町に送り込もうとしていること。
話を聞いていた、たたらは険しい表情に、一変した。
「馬鹿者!状況は悪化しているではないか!私は兵を追い払え、と言ったんだ。さらに増やしてどうする!」
「しかし、収穫はあった。精霊と交信できたこと。純度の高い精霊石を手に入れられたこと、だ」
ソウマが初めて意見を挟んだ。
というか、今まで発した言葉は、ものの見事にたたらによって無視されたのだった…。
「そんなことは、貴様にいわれなくても、わかっている。こうなってしまっては、仕方がない。早く剣を仕上げるぞ。今回は、エグゼ。お前のチカラも借りるぞ」
そう言って、たたらは側に置いてあった、巨大な鉄槌を手に取る。
「え?僕、鍛冶なんてやったことないけど…」
「それでもお前がいないとダメなんだ。特に今回は、魔法に頼ることが出来ん。その代わりに、お前自身の念が必要なんだ」
まじめに話すたたらの顔は、心なしか、赤いような気がした。
「ソウマ」
気をとりなおして、ソウマに向かう。
「もしこの戦で、造魔以外、誰一人死者を出さなかったら、貴様からの話し。考えてやらないでもないぞ」
たたらは、誰一人、というところを、強調して言った。
「それは、敵味方問わず、ということだな?」
村の人間はおろか、敵の兵すらも造魔以外は殺さない。
命のやり取りの場で、そのようなことが果たしてできるのか?
「いいだろう。その代わり、一つ条件がある」
「ものによっては、聞いてやろう」
「戦場に立つのは、俺一人。もしくは、
『大いなる精霊王の剣』を手にしたエグゼと二人。それ以外の助っ人や、戦力は出さないでほしい」
「ほう…。面白い。相手がどれだけの戦力を揃えてくるかも、わからないのに、か?」
「そうだ」
「なっ…!」
エグゼは、激昂したように、声を荒げる。
「馬鹿かお前はっ!確かに4匹程度なら、負けないかもしれない。しかし、今回よりも強力な造魔がどれだけいるかもわからないんだぞっ!?それをたった一人でだと!?無理に決まってる!!」
エグゼの脳裏に思い出されるのは、かつて敗れた時の屈辱だった。
魔法が使えなかったとはいえ、歯が立たなかった。
無様に跪き、目の前で国が蹂躙されゆく様を、まざまざと見せつけられたのだ。
「一人で、十分。他は足手まといだ」
きっぱりと、こともなげに、言い切って見せるソウマ。
「いいだろう。私は、そういうの、好きだよ」
「たたらまで…っ!」
「しかし、この町が滅ぼされたり、『精霊の寝所』を荒らされるのは、かなわん。貴様がやられた時の対策も、こっちで取らせてもらうぞ」
「もちろんだ。依存はない」
「楽しみにしているぞ。救世主殿」
「ソウマ、無茶だ!取り消せ!」
なおも食い下がるエグゼに、ソウマは頑として、その意志を曲げようとはしない。
「戦士が一度口にした約束だ。絶対に曲げん。折れん。そして、必ずやり遂げる」
その強い決意に、エグゼはなにも言えなくなる。ソウマの瞳には、それだけのチカラが宿っていた。
「ふん。話は終わりだ、エグゼ。行くぞ」
意味ありげに笑い、たたらは、エグゼを連れて、奥の鍛冶場へと消えていった。
ソウマはなにを思うのか、腕組みをしたまま、その場で、思案顔で立ち尽くしていた。
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