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第3章 女たちの恋模様
46 ミカ
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すっかりお馴染みになった定例会。今日は手前のテーブルに珍しく女性が目立った。アンナとアキコ、もう一人は悦子の知らない女性だ。悦子はアンナに手招きされてそこに加わる。
「こんにちは、悦子と申します」
「ミカです。よろしく。一年ぐらい前まで来てたんですけど、大阪に引っ越しちゃって」
「なんかちょっと女子会になってるし、ここ」
とアキコが言うと、「黒一点」と化していた山ちゃんが、
「あ、何、邪魔ってことね」
と、グラスを手に隣のテーブルへと退散した。女の園ができ上がると、ミカが呟く。
「大輝来てたね。さっき下で見かけた」
そう言ってちらりと悦子を見やった視線には、何か意味があったのだろうか。
「相変わらずモテモテみたいね」
とため息をつくミカに、アキコが言う。
「まさか未練あるわけじゃないよね? ナンパ現場とか見たら別れて正解って思わない?」
「未練」に「別れ」ときて悦子は事情を察した。女性陣だけの秘密という印象を受ける。
「ないって言ったら嘘になるかな」
「えー? 信じらんない。相手は遊びなんだよ。こっちもどうでもいいと思ってるならいいけど、自分は好きなのにそんな関係に甘んじるなんて、あり得る?」
と、アキコは悦子の方を向く。悦子はただ首をひねった。そこへ、アンナが助け船を出す。
「まあ、たまたま好きになった相手がそういう人だったらさ、どっちかに転ぶしかないわけじゃない。普通なら振られて終わりのところに、遊ぶっていうもう一つの選択肢があるってことだと思えばさ。そっちに転ぼうって人がいても不思議じゃないかも」
悦子はその言葉に感銘を受けた。この中で一番若そうなアンナが、非常に的確なことを言っている。
「じゃあさ、もしタクローが実は遊んでるってなったらどうする? 別れる?」
アキコの発言に悦子はぎょっとしたが、アンナは真面目に考えていた。
「うーん……まずは更生を試みるかな。私は本気ですけど、あんたどうすんのって」
「ただ、お互い遊びとして始まった場合は、本気が発覚した時点で切られる可能性もあるけどね」
とミカが言う。
「ミカがまさにそのパターンだもんね」
とアキコ。ミカはカクテルを掻き混ぜながら、まるで独り言のように言った。
「そう、いつの間にか本気になっちゃって。大輝すぐ気付くから、そういうの。対等に遊べないんならこれ以上はダメだって」
悦子は密かに凍りついた。本気になれば気付かれる。気付かれれば関係を切られる。それは悦子にとって全く無関係の話ではない。「そういう奴にはもうバレてる」とセイジにも言われたことを思い出す。
「更生はまずないしね。私だって自分だけを見てほしいと思って頑張ったけど、難攻不落」
「だから無理なんだって。もう病気みたいなもんよ。一生治んない」
とアキコはすげない。
「こういう割り切ったシステム自体はね、他の女のことさえ無視してればありだとは思ったけど。ほら、芸能人だと思えば、大勢で共有するって感覚も許せるような気がして」
「そこが理解できないんだよね。私はやっぱ共有に耐えれる気がしないもん」
「ただしファンサービスは決して平等じゃない。それはうちらにとっては痛いことでもあるけど、努力次第で分け前増やせるっていう良さはあったかな。お陰でだいぶ女磨いたわ」
「ラッキーガイだなあ、彼氏」
とアンナが冷やかすように言う。なるほど、今のミカには固定の彼氏がいるのだ。
「彼、どんな人?」
と、アキコが聞く。
「うん。ダメなところもいっぱいあるけど、一緒に生きていくっていう感覚になれそうな気がする相手、かな。大輝の場合はさ、絶対弱いとこ見せないっていうか、どんなに仲良くしてるつもりでも私は常にバリアの外って感じで……それも寂しかったから」
と言ってグラスを傾けたミカをアンナがつつき、
「来たよ」
と耳打ちする。悦子が振り返ると、大輝が階段を上がってきたところだった。ミカが大きく一つ深呼吸する。悦子はそれを、他人事ではないという思いで見つめた。大輝の目がミカを捉えた。
「あれ? あれあれあれ? なんか珍しい人来てる」
「お邪魔してまーす」
「何、いつ来たの?」
「おととい。で、来週末までこっち」
「ちょっとちょっと、なんか、きれいになっちゃったなあ」
「何、昔汚かったみたいに言わないでよ」
「そんなこと言ってないっしょ。ますます、ってこと」
「彼氏できたんだってよ」
となぜかアキコが得意げに告げる。
「マジで? やったじゃん。どんな人? 写真ないの?」
「あらあ? ヤキモチか?」
とミカがからかう。
「バカ、妬いてねーっつの。仕事は?」
「うん。実は、来月から係長」
「へえー! おめでとう」
ミカの仕事の話から皆の近況へと話が広がり、隣のテーブルからも続々とメンバーが加わる。悦子はミカと大輝を交互に眺めた。大輝ときたら、こんなに素敵な女性と情事を重ねたばかりかこれほど親しげに会話しながら一対一で付き合うことを選ばないなんて……。アキコがこれを病気と呼ぶのも頷けてしまう。
(それこそ、ほんとにどっかおかしいんじゃないの?)
と、悦子は心の中で悪態をついた。
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「こんにちは、悦子と申します」
「ミカです。よろしく。一年ぐらい前まで来てたんですけど、大阪に引っ越しちゃって」
「なんかちょっと女子会になってるし、ここ」
とアキコが言うと、「黒一点」と化していた山ちゃんが、
「あ、何、邪魔ってことね」
と、グラスを手に隣のテーブルへと退散した。女の園ができ上がると、ミカが呟く。
「大輝来てたね。さっき下で見かけた」
そう言ってちらりと悦子を見やった視線には、何か意味があったのだろうか。
「相変わらずモテモテみたいね」
とため息をつくミカに、アキコが言う。
「まさか未練あるわけじゃないよね? ナンパ現場とか見たら別れて正解って思わない?」
「未練」に「別れ」ときて悦子は事情を察した。女性陣だけの秘密という印象を受ける。
「ないって言ったら嘘になるかな」
「えー? 信じらんない。相手は遊びなんだよ。こっちもどうでもいいと思ってるならいいけど、自分は好きなのにそんな関係に甘んじるなんて、あり得る?」
と、アキコは悦子の方を向く。悦子はただ首をひねった。そこへ、アンナが助け船を出す。
「まあ、たまたま好きになった相手がそういう人だったらさ、どっちかに転ぶしかないわけじゃない。普通なら振られて終わりのところに、遊ぶっていうもう一つの選択肢があるってことだと思えばさ。そっちに転ぼうって人がいても不思議じゃないかも」
悦子はその言葉に感銘を受けた。この中で一番若そうなアンナが、非常に的確なことを言っている。
「じゃあさ、もしタクローが実は遊んでるってなったらどうする? 別れる?」
アキコの発言に悦子はぎょっとしたが、アンナは真面目に考えていた。
「うーん……まずは更生を試みるかな。私は本気ですけど、あんたどうすんのって」
「ただ、お互い遊びとして始まった場合は、本気が発覚した時点で切られる可能性もあるけどね」
とミカが言う。
「ミカがまさにそのパターンだもんね」
とアキコ。ミカはカクテルを掻き混ぜながら、まるで独り言のように言った。
「そう、いつの間にか本気になっちゃって。大輝すぐ気付くから、そういうの。対等に遊べないんならこれ以上はダメだって」
悦子は密かに凍りついた。本気になれば気付かれる。気付かれれば関係を切られる。それは悦子にとって全く無関係の話ではない。「そういう奴にはもうバレてる」とセイジにも言われたことを思い出す。
「更生はまずないしね。私だって自分だけを見てほしいと思って頑張ったけど、難攻不落」
「だから無理なんだって。もう病気みたいなもんよ。一生治んない」
とアキコはすげない。
「こういう割り切ったシステム自体はね、他の女のことさえ無視してればありだとは思ったけど。ほら、芸能人だと思えば、大勢で共有するって感覚も許せるような気がして」
「そこが理解できないんだよね。私はやっぱ共有に耐えれる気がしないもん」
「ただしファンサービスは決して平等じゃない。それはうちらにとっては痛いことでもあるけど、努力次第で分け前増やせるっていう良さはあったかな。お陰でだいぶ女磨いたわ」
「ラッキーガイだなあ、彼氏」
とアンナが冷やかすように言う。なるほど、今のミカには固定の彼氏がいるのだ。
「彼、どんな人?」
と、アキコが聞く。
「うん。ダメなところもいっぱいあるけど、一緒に生きていくっていう感覚になれそうな気がする相手、かな。大輝の場合はさ、絶対弱いとこ見せないっていうか、どんなに仲良くしてるつもりでも私は常にバリアの外って感じで……それも寂しかったから」
と言ってグラスを傾けたミカをアンナがつつき、
「来たよ」
と耳打ちする。悦子が振り返ると、大輝が階段を上がってきたところだった。ミカが大きく一つ深呼吸する。悦子はそれを、他人事ではないという思いで見つめた。大輝の目がミカを捉えた。
「あれ? あれあれあれ? なんか珍しい人来てる」
「お邪魔してまーす」
「何、いつ来たの?」
「おととい。で、来週末までこっち」
「ちょっとちょっと、なんか、きれいになっちゃったなあ」
「何、昔汚かったみたいに言わないでよ」
「そんなこと言ってないっしょ。ますます、ってこと」
「彼氏できたんだってよ」
となぜかアキコが得意げに告げる。
「マジで? やったじゃん。どんな人? 写真ないの?」
「あらあ? ヤキモチか?」
とミカがからかう。
「バカ、妬いてねーっつの。仕事は?」
「うん。実は、来月から係長」
「へえー! おめでとう」
ミカの仕事の話から皆の近況へと話が広がり、隣のテーブルからも続々とメンバーが加わる。悦子はミカと大輝を交互に眺めた。大輝ときたら、こんなに素敵な女性と情事を重ねたばかりかこれほど親しげに会話しながら一対一で付き合うことを選ばないなんて……。アキコがこれを病気と呼ぶのも頷けてしまう。
(それこそ、ほんとにどっかおかしいんじゃないの?)
と、悦子は心の中で悪態をついた。
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