上 下
46 / 80
第3章 女たちの恋模様

46 ミカ

しおりを挟む
 すっかりお馴染みになった定例会。今日は手前のテーブルに珍しく女性が目立った。アンナとアキコ、もう一人は悦子の知らない女性だ。悦子はアンナに手招きされてそこに加わる。

「こんにちは、悦子と申します」

「ミカです。よろしく。一年ぐらい前まで来てたんですけど、大阪に引っ越しちゃって」

「なんかちょっと女子会になってるし、ここ」

とアキコが言うと、「黒一点」と化していた山ちゃんが、

「あ、何、邪魔ってことね」

と、グラスを手に隣のテーブルへと退散した。女の園ができ上がると、ミカが呟く。

「大輝来てたね。さっき下で見かけた」

 そう言ってちらりと悦子を見やった視線には、何か意味があったのだろうか。

「相変わらずモテモテみたいね」

とため息をつくミカに、アキコが言う。

「まさか未練あるわけじゃないよね? ナンパ現場とか見たら別れて正解って思わない?」

「未練」に「別れ」ときて悦子は事情を察した。女性陣だけの秘密という印象を受ける。

「ないって言ったら嘘になるかな」

「えー? 信じらんない。相手は遊びなんだよ。こっちもどうでもいいと思ってるならいいけど、自分は好きなのにそんな関係に甘んじるなんて、あり得る?」

と、アキコは悦子の方を向く。悦子はただ首をひねった。そこへ、アンナが助け船を出す。

「まあ、たまたま好きになった相手がそういう人だったらさ、どっちかに転ぶしかないわけじゃない。普通なら振られて終わりのところに、遊ぶっていうもう一つの選択肢があるってことだと思えばさ。そっちに転ぼうって人がいても不思議じゃないかも」

 悦子はその言葉に感銘を受けた。この中で一番若そうなアンナが、非常に的確なことを言っている。

「じゃあさ、もしタクローが実は遊んでるってなったらどうする? 別れる?」

 アキコの発言に悦子はぎょっとしたが、アンナは真面目に考えていた。

「うーん……まずは更生を試みるかな。私は本気ですけど、あんたどうすんのって」

「ただ、お互い遊びとして始まった場合は、本気が発覚した時点で切られる可能性もあるけどね」

とミカが言う。

「ミカがまさにそのパターンだもんね」

とアキコ。ミカはカクテルを掻き混ぜながら、まるで独り言のように言った。

「そう、いつの間にか本気になっちゃって。大輝すぐ気付くから、そういうの。対等に遊べないんならこれ以上はダメだって」

 悦子は密かに凍りついた。本気になれば気付かれる。気付かれれば関係を切られる。それは悦子にとって全く無関係の話ではない。「そういう奴にはもうバレてる」とセイジにも言われたことを思い出す。

「更生はまずないしね。私だって自分だけを見てほしいと思って頑張ったけど、難攻不落」

「だから無理なんだって。もう病気みたいなもんよ。一生治んない」

とアキコはすげない。

「こういう割り切ったシステム自体はね、他の女のことさえ無視してればありだとは思ったけど。ほら、芸能人だと思えば、大勢で共有するって感覚も許せるような気がして」

「そこが理解できないんだよね。私はやっぱ共有に耐えれる気がしないもん」

「ただしファンサービスは決して平等じゃない。それはうちらにとっては痛いことでもあるけど、努力次第で分け前増やせるっていう良さはあったかな。お陰でだいぶ女磨いたわ」

「ラッキーガイだなあ、彼氏」

とアンナが冷やかすように言う。なるほど、今のミカには固定の彼氏がいるのだ。

「彼、どんな人?」

と、アキコが聞く。

「うん。ダメなところもいっぱいあるけど、一緒に生きていくっていう感覚になれそうな気がする相手、かな。大輝の場合はさ、絶対弱いとこ見せないっていうか、どんなに仲良くしてるつもりでも私は常にバリアの外って感じで……それも寂しかったから」

と言ってグラスを傾けたミカをアンナがつつき、

「来たよ」

と耳打ちする。悦子が振り返ると、大輝が階段を上がってきたところだった。ミカが大きく一つ深呼吸する。悦子はそれを、他人事ではないという思いで見つめた。大輝の目がミカを捉えた。

「あれ? あれあれあれ? なんか珍しい人来てる」

「お邪魔してまーす」

「何、いつ来たの?」

「おととい。で、来週末までこっち」

「ちょっとちょっと、なんか、きれいになっちゃったなあ」

「何、昔汚かったみたいに言わないでよ」

「そんなこと言ってないっしょ。ますます、ってこと」

「彼氏できたんだってよ」

となぜかアキコが得意げに告げる。

「マジで? やったじゃん。どんな人? 写真ないの?」

「あらあ? ヤキモチか?」

とミカがからかう。

「バカ、いてねーっつの。仕事は?」

「うん。実は、来月から係長」

「へえー! おめでとう」

 ミカの仕事の話から皆の近況へと話が広がり、隣のテーブルからも続々とメンバーが加わる。悦子はミカと大輝を交互に眺めた。大輝ときたら、こんなに素敵な女性と情事を重ねたばかりかこれほど親しげに会話しながら一対一で付き合うことを選ばないなんて……。アキコがこれを病気と呼ぶのもうなずけてしまう。

(それこそ、ほんとにどっかおかしいんじゃないの?)

と、悦子は心の中で悪態をついた。


~~~
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】Mにされた女はドS上司セックスに翻弄される

Lynx🐈‍⬛
恋愛
OLの小山内羽美は26歳の平凡な女だった。恋愛も多くはないが人並に経験を重ね、そろそろ落ち着きたいと思い始めた頃、支社から異動して来た森本律也と出会った。 律也は、支社での営業成績が良く、本社勤務に抜擢され係長として赴任して来た期待された逸材だった。そんな将来性のある律也を狙うOLは後を絶たない。羽美もその律也へ思いを寄せていたのだが………。 ✱♡はHシーンです。 ✱続編とは違いますが(主人公変わるので)、次回作にこの話のキャラ達を出す予定です。 ✱これはシリーズ化してますが、他を読んでなくても分かる様には書いてあると思います。

[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。

ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい えーー!! 転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!! ここって、もしかしたら??? 18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界 私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの??? カトリーヌって•••、あの、淫乱の••• マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!! 私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い•••• 異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず! だって[ラノベ]ではそれがお約束! 彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる! カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。 果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか? ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか? そして、彼氏の行方は••• 攻略対象別 オムニバスエロです。 完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。 (攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)   

性欲の強すぎるヤクザに捕まった話

古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。 どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。 「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」 「たまには惣菜パンも悪くねぇ」 ……嘘でしょ。 2019/11/4 33話+2話で本編完結 2021/1/15 書籍出版されました 2021/1/22 続き頑張ります 半分くらいR18な話なので予告はしません。 強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。 誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。 当然の事ながら、この話はフィクションです。

性欲のない義父は、愛娘にだけ欲情する

如月あこ
恋愛
「新しい家族が増えるの」と母は言った。  八歳の有希は、母が再婚するものだと思い込んだ――けれど。  内縁の夫として一緒に暮らすことになった片瀬慎一郎は、母を二人目の「偽装結婚」の相手に選んだだけだった。  慎一郎を怒らせないように、母や兄弟は慎一郎にほとんど関わらない。有希だけが唯一、慎一郎の炊事や洗濯などの世話を妬き続けた。  そしてそれから十年以上が過ぎて、兄弟たちは就職を機に家を出て行ってしまった。  物語は、有希が二十歳の誕生日を迎えた日から始まる――。  有希は『いつ頃から、恋をしていたのだろう』と淡い恋心を胸に秘める。慎一郎は『有希は大人の女性になった。彼女はいずれ嫁いで、自分の傍からいなくなってしまうのだ』と知る。  二十五歳の歳の差、養父娘ラブストーリー。

男友達の家で寝ていたら、初めてをぐちゃぐちゃに奪われました。

抹茶
恋愛
現代設定 ノーマルな処女喪失SEX

とりあえず、後ろから

ZigZag
恋愛
ほぼ、アレの描写しかないアダルト小説です。お察しください。

優しい先輩に溺愛されるはずがめちゃくちゃにされた話

片茹で卵
恋愛
R18台詞習作。 片想いしている先輩に溺愛されるおまじないを使ったところなぜか押し倒される話。淡々S攻。短編です。

【R18】隣のデスクの歳下後輩君にオカズに使われているらしいので、望み通りにシてあげました。

雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向け33位、人気ランキング146位達成※隣のデスクに座る陰キャの歳下後輩君から、ある日私の卑猥なアイコラ画像を誤送信されてしまい!?彼にオカズに使われていると知り満更でもない私は彼を部屋に招き入れてお望み通りの行為をする事に…。強気な先輩ちゃん×弱気な後輩くん。でもエッチな下着を身に付けて恥ずかしくなった私は、彼に攻められてすっかり形成逆転されてしまう。 ——全話ほぼ濡れ場で小難しいストーリーの設定などが無いのでストレス無く集中できます(はしがき・あとがきは含まない) ※完結直後のものです。

処理中です...