上 下
45 / 80
第3章 女たちの恋模様

45 お土産

しおりを挟む
 悦子はもう一つ気になっていたことを尋ねた。

「デモランジュの常連メンバーの中にも……結構いるの?」

「やった相手の名前を挙げろって? それも守秘義務だな」

「アキコさんとか……」

 とりあえず憶えている名を恐る恐る出した。しかし大輝はそっけなく、

「さあ? 彼女に聞いてみたら?」

で済ませる。他に何人か記憶にある名前を挙げたが、大輝は全てノーコメントで通した。

「じゃあ、アンナさんとは?」

「アンナって、あのアンナ? ないないない」

 守秘義務はどうしたのだろうと頭の片隅で思いながら、悦子は内心ほっとしていた。

「そう? かわいいのに」

「いや、勘弁してよ。ほら、ルール。第ゼロ条」

「え? あ、彼氏……いるんだ」

「あれ? 聞いてない? あいつはタクローの彼女ね」

「えっ? そうなの?」

「そうなのよ。それがなけりゃもちろん、とっくにいただいてるよ」

「何それ。友達の彼女のこと、そういう目で見てるってこと?」

「まあ異性なんて大なり小なり、そんなもんじゃん? あ、言わないでね、タクローには」

 そんなことを平然と言ってつゆをすする。

「じゃあ、うちの先輩なんかは? ほら、私が初めてデモランジュ行った時に一緒だった……」

「高杉さん?」

(ひぇ~、憶えてるんだ……しかも、名前まで)

「それも彼女に聞いてよ」

「何年か前にちょっとだけ話はしたけど、何もなかったって……」

 大輝は当時を懐かしむように手を止めた。もちろんそれが事実だろう。悦子の前で堂々と男に持ち帰られたぐらいだから、大輝との仲が雑談以上ならそれを隠すような高杉ではない。

「非常にそそられたんだけどねえ。ルール第七条に引っかかった」

「七条? たしかゼロから六までじゃ……」

「俺専用の隠れルールがあってね。でも彼女には感謝してる。お陰で君と出会えたから」

 大輝は悦子の頬を撫でると、牛丼の残りを平らげにかかった。



 翌朝、朝食を食べ終えると、大輝が言った。

「昨日のタク代は俺持ちでいいよ。無断で呼んじゃったから」

「それはどうも、ごちそうさま」

「そうそう、これね」

と、大輝はかたわらの手提げ袋を悦子に渡す。

「柿村家の皆さんにお土産」

「えっ?」

 びっくりしながら中身を取り出す。

「あ、アロハシャツ」

 ヒロ君には赤、母には山吹やまぶき色、そして悦子には水色をチョイスしたという。

「すごーい、きれい。しかも母と兄にまで……ありがとう」

「サイズがちょっとギャンブルだったけど、写真からの推測で。大きくは外れてないはず」

 写真……。そういえば悦子のベッドサイドテーブルには、家族四人での写真が飾ってある。風邪のお見舞いに来た時に大輝はそれをチェックしていたのだろう。そして、父がもういないことも憶えていてくれたのだ。

「お母さんあの頃からだいぶせたけど、太ったんじゃなくてよかった」

「あ、マジで? まあ、いずれにしてもこれが最小なんだよね」

「あ、ほんとだ。あっちのサイズだとXSになっちゃうんだ」

 がらはハワイアンだが、普段着てもおかしくないデザインだった。悦子は土産袋を大事に抱え、大輝の部屋を後にした。


~~~
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寡黙な彼は欲望を我慢している

山吹花月
恋愛
近頃態度がそっけない彼。 夜の触れ合いも淡白になった。 彼の態度の変化に浮気を疑うが、原因は真逆だったことを打ち明けられる。 「お前が可愛すぎて、抑えられないんだ」 すれ違い破局危機からの仲直りいちゃ甘らぶえっち。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

王女の朝の身支度

sleepingangel02
恋愛
政略結婚で愛のない夫婦。夫の国王は,何人もの側室がいて,王女はないがしろ。それどころか,王女担当まで用意する始末。さて,その行方は?

元男爵令嬢ですが、物凄く性欲があってエッチ好きな私は現在、最愛の夫によって毎日可愛がられています

一ノ瀬 彩音
恋愛
元々は男爵家のご令嬢であった私が、幼い頃に父親に連れられて訪れた屋敷で出会ったのは当時まだ8歳だった、 現在の彼であるヴァルディール・フォルティスだった。 当時の私は彼のことを歳の離れた幼馴染のように思っていたのだけれど、 彼が10歳になった時、正式に婚約を結ぶこととなり、 それ以来、ずっと一緒に育ってきた私達はいつしか惹かれ合うようになり、 数年後には誰もが羨むほど仲睦まじい関係となっていた。 そして、やがて大人になった私と彼は結婚することになったのだが、式を挙げた日の夜、 初夜を迎えることになった私は緊張しつつも愛する人と結ばれる喜びに浸っていた。 ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

性欲のない義父は、愛娘にだけ欲情する

如月あこ
恋愛
「新しい家族が増えるの」と母は言った。  八歳の有希は、母が再婚するものだと思い込んだ――けれど。  内縁の夫として一緒に暮らすことになった片瀬慎一郎は、母を二人目の「偽装結婚」の相手に選んだだけだった。  慎一郎を怒らせないように、母や兄弟は慎一郎にほとんど関わらない。有希だけが唯一、慎一郎の炊事や洗濯などの世話を妬き続けた。  そしてそれから十年以上が過ぎて、兄弟たちは就職を機に家を出て行ってしまった。  物語は、有希が二十歳の誕生日を迎えた日から始まる――。  有希は『いつ頃から、恋をしていたのだろう』と淡い恋心を胸に秘める。慎一郎は『有希は大人の女性になった。彼女はいずれ嫁いで、自分の傍からいなくなってしまうのだ』と知る。  二十五歳の歳の差、養父娘ラブストーリー。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

【R18】隣のデスクの歳下後輩君にオカズに使われているらしいので、望み通りにシてあげました。

雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向け33位、人気ランキング146位達成※隣のデスクに座る陰キャの歳下後輩君から、ある日私の卑猥なアイコラ画像を誤送信されてしまい!?彼にオカズに使われていると知り満更でもない私は彼を部屋に招き入れてお望み通りの行為をする事に…。強気な先輩ちゃん×弱気な後輩くん。でもエッチな下着を身に付けて恥ずかしくなった私は、彼に攻められてすっかり形成逆転されてしまう。 ——全話ほぼ濡れ場で小難しいストーリーの設定などが無いのでストレス無く集中できます(はしがき・あとがきは含まない) ※完結直後のものです。

色々と疲れた乙女は最強の騎士様の甘い攻撃に陥落しました

灰兎
恋愛
「ルイーズ、もう少し脚を開けますか?」優しく聞いてくれるマチアスは、多分、もう待ちきれないのを必死に我慢してくれている。 恋愛経験も無いままに婚約破棄まで経験して、色々と疲れているお年頃の女の子、ルイーズ。優秀で容姿端麗なのに恋愛初心者のルイーズ相手には四苦八苦、でもやっぱり最後には絶対無敵の最強だった騎士、マチアス。二人の両片思いは色んな意味でもう我慢出来なくなった騎士様によってぶち壊されました。めでたしめでたし。

処理中です...