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第4章 命賭す者
110 隆之介
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「菊乃さんは……ご存じだったんですか? 先生が養子だってこと」
「ああ。ただし、最初からじゃない。多分、親父との間で同居するしないの話が出た後だろうな。親父はもちろん隠し通すつもりだったろうが、言わざるを得なくなるような勢いで迫られたんじゃないか? さんざん世話にはなってるわけだからそう邪険にはできんし、菊さんが簡単に引き下がるとも思えんからな」
唯一実子ではない新藤を、菊乃は五人の中で一番かわいがったという。その心中はもはや誰も知りようがない。
「お父様には……愛する方がいらしたんですね」
新藤の呼吸に束の間の逡巡が感じられた。探るように一希を見る。どこまで察しているのかと問いたげな目だ。
「菊さんとのゴタゴタの当時はどうだったか知らんが……」
「最期にご一緒だった方は、長いお付き合いだったんですよね?」
「……ああ。死ぬまでの十一年、かな。もしかしてお前……誰かから何か聞いてんのか?」
そう思われても仕方がない。
「いえ、私の勝手な想像です。そう考えればいろいろ説明がつくなあと思っただけです」
この三日間、ものを考える時間だけはたっぷりあった。新藤も「なるほど」という顔で頷く。
「結婚どころか同棲すら叶わなかったが、あの人は親父のことを今でも伴侶だと言い張って譲らん」
「気持ちの上では、夫婦と同じなんでしょうね」
「そうみたいだな。だが親父は、それを認めないまま……自分を恥じたまま死んだ」
一希の胸がきゅっと痛む。
「まったく、どこまでも対照的だな、あの二人は。片やクソ真面目の頑固親父、片や愛想のいい楽天家。それでうまくいくんだから、わからんもんだ」
お似合い、というのは、案外そんなものなのかもしれない。
「ああ。ただし、最初からじゃない。多分、親父との間で同居するしないの話が出た後だろうな。親父はもちろん隠し通すつもりだったろうが、言わざるを得なくなるような勢いで迫られたんじゃないか? さんざん世話にはなってるわけだからそう邪険にはできんし、菊さんが簡単に引き下がるとも思えんからな」
唯一実子ではない新藤を、菊乃は五人の中で一番かわいがったという。その心中はもはや誰も知りようがない。
「お父様には……愛する方がいらしたんですね」
新藤の呼吸に束の間の逡巡が感じられた。探るように一希を見る。どこまで察しているのかと問いたげな目だ。
「菊さんとのゴタゴタの当時はどうだったか知らんが……」
「最期にご一緒だった方は、長いお付き合いだったんですよね?」
「……ああ。死ぬまでの十一年、かな。もしかしてお前……誰かから何か聞いてんのか?」
そう思われても仕方がない。
「いえ、私の勝手な想像です。そう考えればいろいろ説明がつくなあと思っただけです」
この三日間、ものを考える時間だけはたっぷりあった。新藤も「なるほど」という顔で頷く。
「結婚どころか同棲すら叶わなかったが、あの人は親父のことを今でも伴侶だと言い張って譲らん」
「気持ちの上では、夫婦と同じなんでしょうね」
「そうみたいだな。だが親父は、それを認めないまま……自分を恥じたまま死んだ」
一希の胸がきゅっと痛む。
「まったく、どこまでも対照的だな、あの二人は。片やクソ真面目の頑固親父、片や愛想のいい楽天家。それでうまくいくんだから、わからんもんだ」
お似合い、というのは、案外そんなものなのかもしれない。
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