111 / 118
第4章 命賭す者
107 秘密
しおりを挟む
「それにしても、お前はつくづく運がいいな。奴があんだけ傾いてなければ……」
助からなかったかもしれない。爆弾が地震のせいで斜めになっていたお陰で爆発の影響範囲も傾いており、わずかに角度を調整するだけで一希を安全圏内に納めることができたのだ。
一歩間違えればどうなっていたか。それを思い、二人はしばし口をつぐんだ。
「先生」
「ああ」
「こんな時にあれなんですけど……」
「ん?」
「ちょっとお聞きしたいことがあって」
「何だ?」
「お父様のことです」
一瞬揺れた視線に、新藤の動揺が見て取れた。
「お父様は……隆之介さんは、先生の本当のお父様ですか? その、生物学的なといいますか……」
新藤は軽く息をつき、観念したようにこぼした。
「驚いたな、先回りされるとは」
新藤はきっと思い至らないだろう。一希がなぜ先回りできたのか。
「実は、近々その話をと思ってたところでな」
そう言って、スリッパを履いた両足をもぞもぞと擦り合わせる。一希は手を伸ばし、新藤の膝をそっと押さえた。動きが止まる。
「何となく気にはなってたんです。先生、夏でも靴下を脱がない人だなあって」
一つ屋根の下に二年半。しかし、半裸は目撃しても、裸足は見たことがない。
新藤はただ、壁を見つめていた。
「でも、先生は混血だって話を聞いたので……」
新藤流のえくぼができる。もう二度と見られないかと思っていた。
「奴らの話は鵜呑みにするなと言ったろ」
「はい。あくまで、綾乃さんたちご兄弟がそう信じてらっしゃるだけだったんですね」
「俺だって信じてたんだ」
「えっ?」
「親父は本当の親父で、俺は混血なんだと思ってた」
「でも……」
つい、新藤のスリッパに目をやる。
「三日月があるんなら間違いようがない。そう思ってんだろ?」
「……ないんですか?」
「ないんだ」
新藤は長い長いため息を漏らした。
「でも、隠してたのは確かだ。年越し目がけて押しかけるって言ったろ。その時にお前に見せるつもりだった。俺の足をな」
新藤が靴下で隠していた、三日月以外の何か。それは一体……。
助からなかったかもしれない。爆弾が地震のせいで斜めになっていたお陰で爆発の影響範囲も傾いており、わずかに角度を調整するだけで一希を安全圏内に納めることができたのだ。
一歩間違えればどうなっていたか。それを思い、二人はしばし口をつぐんだ。
「先生」
「ああ」
「こんな時にあれなんですけど……」
「ん?」
「ちょっとお聞きしたいことがあって」
「何だ?」
「お父様のことです」
一瞬揺れた視線に、新藤の動揺が見て取れた。
「お父様は……隆之介さんは、先生の本当のお父様ですか? その、生物学的なといいますか……」
新藤は軽く息をつき、観念したようにこぼした。
「驚いたな、先回りされるとは」
新藤はきっと思い至らないだろう。一希がなぜ先回りできたのか。
「実は、近々その話をと思ってたところでな」
そう言って、スリッパを履いた両足をもぞもぞと擦り合わせる。一希は手を伸ばし、新藤の膝をそっと押さえた。動きが止まる。
「何となく気にはなってたんです。先生、夏でも靴下を脱がない人だなあって」
一つ屋根の下に二年半。しかし、半裸は目撃しても、裸足は見たことがない。
新藤はただ、壁を見つめていた。
「でも、先生は混血だって話を聞いたので……」
新藤流のえくぼができる。もう二度と見られないかと思っていた。
「奴らの話は鵜呑みにするなと言ったろ」
「はい。あくまで、綾乃さんたちご兄弟がそう信じてらっしゃるだけだったんですね」
「俺だって信じてたんだ」
「えっ?」
「親父は本当の親父で、俺は混血なんだと思ってた」
「でも……」
つい、新藤のスリッパに目をやる。
「三日月があるんなら間違いようがない。そう思ってんだろ?」
「……ないんですか?」
「ないんだ」
新藤は長い長いため息を漏らした。
「でも、隠してたのは確かだ。年越し目がけて押しかけるって言ったろ。その時にお前に見せるつもりだった。俺の足をな」
新藤が靴下で隠していた、三日月以外の何か。それは一体……。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
王妃の手習い
桃井すもも
恋愛
オフィーリアは王太子の婚約者候補である。しかしそれは、国内貴族の勢力バランスを鑑みて、解消が前提の予定調和のものであった。
真の婚約者は既に内定している。
近い将来、オフィーリアは候補から外される。
❇妄想の産物につき史実と100%異なります。
❇知らない事は書けないをモットーに完結まで頑張ります。
❇妄想スイマーと共に遠泳下さる方にお楽しみ頂けますと泳ぎ甲斐があります。
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。
天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」
目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。
「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」
そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――?
そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た!
っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!!
っていうか、ここどこ?!
※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました
※他サイトにも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる